ついに来ました。主人公回です。捏造いっぱいです。
ギャリングの死は、町の人へは知らせることはなかった。それがギャリングの子どもたちの意志だったからだ。
暗い雰囲気に包まれた屋敷で、レイフェリオたちは朝を迎えた。
「よお」
「ククール?」
「何て言うかその……あいつはお前の知り合いだったんだよな?」
言われて彼らに何も説明していなかったことに気づく。ゼシカも何も言っていないのだろう。もしくは、レイフェリオが言うのを待っているとも言える。
「あぁ、ギャリングさんには昔から世話になっていた。最もその最たる理由は俺の身内だが……」
「お前の身内って──―」
「あ、兄貴~おはようごぜえます! なんでぃ、ククールもいたのか」
「……はぁ」
予期しない割り込みに、ククールも眉を寄せた。タイミングが良いというかなんというか。
しかし、そろそろ潮時なのかもしれない。
「あら? みんな起きてたのね」
「おはよう、ゼシカ」
「おはようございます、皆様」
そこへまさにタイミング良く現れたのはギャリングの執事だった。レイフェリオへ頭を垂れると、1枚の紙が差し出される。
「俺に、か?」
「はい。ギャリング様に何かあったとき、殿下へお渡しするようにと」
「……」
そっと紙を開く。
紙は豪快な字で書かれており、いかにもギャリングらしさが出ていた。
『レイ、お前がこれを読んでいるってことは俺はその道化師に敗れたってことだな。
そして、お前はアレを追うつもりなんだろうな。全く頑固なところは親父譲りだぜ。
なぁ、レイ。世界は平和に見えても実際はそうじゃねぇ。旅をしてきたお前なら感じているだろう。
魔物の狂暴化がこの辺りでも問題になっている。
俺やオディロが狙われたのも、きっとそれを知らせるためだったのかもしれねぇな。
さっきも言ったがよ、お前は自分の立場をよく考えろ。その上で行動を決めるんだ。
一時の感情や状況に流されるのではなく、お前自身が決めて、ちゃんと周りを納得させてから向かえ。
たぶん、お前はあの人とエルトリオの息子だからな、そういう運命なのかもしれねぇ。
王を納得させるのは骨がおれるぜ。精々頑張ることだな。
あとは、頼むぜ……
』
一通り読むと、レイフェリオは紙を握りつぶした。昨日のあれは、ここからレイフェリオを遠ざける為だったようだ。
既にわかっていたのだろうか。ドルマゲスがここに来ることを。だからこそ、この屋敷から遠ざけた。
何故、ギャリング自身が狙われたのか、理由については語られていない。それでも、奴を追うのなら覚悟を決めろと言われたのだ。
ドルマゲスを追うのは、成り行き。乗り掛かった船、そう発言してきたことを指摘された気がした。
直接的に関わりのある人物が犠牲になったのは、これで二人目だ。
「……覚悟、か」
「レイフェリオ……で、どうすんだよ。これから。またドルマゲスが何処に行ったのか調べなきゃなんないだろ?」
「それならば検討はついております」
ククールの問いに答えたのは、執事だった。
「どういうことなの?」
「……あの道化師は、闇の遺跡と呼ばれるところに向かったようです。この屋敷の護衛隊が追って行きましたので間違いありません」
「闇の遺跡、でがすか……何処にあるんでげす?」
「……ここより北にある小島です」
「ってことは、船が必要、か……ここの船を貸してなんて──―」
「出来ません。貴方方に貸すことは、殿下を遺跡へ向かわせることと同義です。ギャリング様の命令に背くようなことは出来ません」
「背くってどういうことでがす?」
「道化師の元へお連れするわけにはいかないと言うことですよ。貴方方が行くのであれば、殿下も行かれる。そういうことになりますでしょう?」
「殿下、ね……」
ククールは、レイフェリオに向き直る。いつも穏やかな表情でいるレイフェリオの顔は硬い。それが何よりも真実を物語っていた。
「……兄貴?」
「別にお前が何処の誰でも良いけどよ。そろそろ良いんじゃないのか? どこぞの王族でも別にお前はお前だろ?」
「!? ククール……」
思わず目を見開く。そう言われるとは考えても見なかったのか、唖然とした表情だ。
「アッシもでがすよ! 兄貴は兄貴でがす」
「……ありがとう、ヤンガスにククール」
心を落ち着かせるためか、息を吐くと、レイフェリオは話し出した。
「俺の名は、レイフェリオ・クランザス。みんなが想像している通り、サザンビークの第一王子だ。今回の旅は、俺が成人をする前に世界を廻りたいということで、叔父上―陛下から許可をもらっていたんだ」
「……第一王子ってことは、レイフェリオが次の王様ってことか?」
「……一応、10年前に立太子の儀式は済ませている」
要するに王太子ということだ。そんな人物が一人で旅をすることを認める王も王だが、王子もそうだ。
「ま、待ってくだせぇ! ってことは、馬姫さまの婚約者は兄貴ってことですかい?」
「それは違う。姫の相手は俺じゃない」
「じゃあ誰なの?」
「俺の従弟だ……言いにくいんだが、手のかかる我が儘王子、だな……」
「何で兄貴じゃねぇんですかい?」
「普通はお前のが先じゃねぇのか?」
ミーティアとレイフェリオの従弟では、正直なところ釣り合わないとはレイフェリオも思っている。だが、これは国との約束ごとだ。ましてや、決めたのは叔父でレイフェリオは全く関わっていない。
「殿下は既に婚約者がおられるのですよ。ですから、トロデーンの姫君のお相手はチャゴス王子となったのです」
「「はぁぁぁぁ!」」
これはどっちに対する叫びなのか、レイフェリオにはわからなかった。
「お、お前婚約者いるのかよ!」
「……そうだな。昔から決まっていたから別に何も思わないが」
「……そういえば、レイフェリオって今口調違うわよね? もしかして、それが素なの?」
指摘されてレイフェリオ自身も今気がついたのか、ばつが悪そうに頬をかいた。
「……王子と知っている人についてはこっちが普通かもな」
「猫被ってたのね……」
「そういうつもりじゃないが……悪かったよ」
「んで、お前の素性はわかった。何で隠していたのかも理由は今ので納得だ。流石にトロデ王に相手国の王子ですなんていえねぇだろうからな」
「あぁ……トロデ―ン国の扱いがどうなっているかはわからないが、少なくともあの時は知らせない方がいいと思った」
「んで、これからどうする?」
船を貸してもらえない理由は納得いったわけではないが、一国の王子を連れ出して闇の遺跡に向かうことを許可しないというギャリングの意志がある以上、選択肢は一つしかないだろう。
「情報屋のダンナが言っていた船を探しやすか?」
「……船が必要なら、そういうことになるのかしら?」
「……雲をつかむような話だぜ?」
三人は古代の魔法船を手に入れる方針を示す。だが、レイフェリオはそれに同意しなかった。
「すまないが、俺は一度国に戻る」
「兄貴っ?」
ヤンガスの声がその衝撃に上ずった。遺跡に共に行くものだと考えていたのだから、驚くのは当然だろうが。
「戻るって、旅を止めるってこと?」
「……わからない」
「……話をつけに行くのか?」
レイフェリオの意図をククールは理解しているようだった。
「ギャリングさんの言う通り、俺はこれまで成り行きということでドルマゲスを追っていた。トロデ―ンからここまで来たのも。トロデ王にもそう伝えていたし、サザンビークまでは一緒に行動すると伝えていたんだ」
「けど兄貴……」
「……ギャリングさんほどの手練れが敗れてしまうほどの遣い手。そしてオディロ院長たちの殺害。その相手を追いかけるということは、俺の本来の目的とは違ってくる。今までは、旅の仲間ということで皆の側にいられたが、俺が王子とわかっても一緒に追ってほしいと言えるか?」
「も、もちろんでがすよ。何を言っているんでがすか?」
「……ヤンガスは黙ってな」
即座に否定するヤンガスをククールは低い声で止める。非難するような視線をヤンガスから受けても尚、ククールは引かなかった。
「ただのレイフェリオが俺たちと行動することと、王太子であるレイフェリオが行動することは意味が違うんだよ。少しは考えろ……」
「もし、殿下の素性を知らずに仲間として旅をしていたならば、状況は違っていたでしょうね。ですが、今貴方方はそれを知ってしまった。その上で、殿下に同行していただくということは、その命の責任を持つということになります。何より、殿下の目的は道化師ではないというのが、サザンビークの言い分でしょうから」
「そういうことだ。ヤンガス、お前にその責任が持てるのかよ。俺にはできないね」
「ちょっ……それは、そうでがすが……ククールはオレたちが負けると思っているのかよ!!!」
「そういうことじゃない。万が一の話をしているんだ」
「万が一ってなんだよ!!!」
「落ち着け、二人とも」
二人でヒートアップすることに、レイフェリオが止めに入る。ゼシカも重く息を吐いていた。口にこそださないが、ゼシカも状況は理解している。
「……俺の責任は俺が持つ。だが、現時点ではそういうことにはならない。だから、一度国に戻る必要があるんだ」
「……兄貴」
「説得できるのかよ?」
「わからない。叔父上は……何と言うか過保護な部分があるからな」
過保護ならなぜ一人旅を許してもらえているのか。矛盾していないかという突っ込みは誰もしなかった。
「なら、私たちも一緒にサザンビークへ行かない?」
「ゼシカ?」
「貴方一人じゃなくて、私たちも仲間として行動していることがわかってもらえれば、一人で説得するよりも納得してもらえるかもしれないじゃない」
「信用してもらえるかねぇ……」
「あとでかどわかしたとかで罪人扱いされるよりマシでしょ」
「げっ……否定できないでがす……」
人相なら確実に悪く見られるヤンガスが目に見えて落ち込む。
確かにゼシカの提案はありがたいものだ。だが、そうすると問題が一つある。
「王はどうするつもりだ?」
「……説明するしかないでしょうね」
「おっさん発狂するかもしれないでがすよ?」
「それも面白いな」
「あんたは黙ってなさいよ……どうする? レイフェリオ」
最終的に決めるのはお前だ、というように視線がレイフェリオに集まる。
いずれは知られることだ。それが早くなっただけのこと。
「……わかった。王には説明する。ただ、ちょっと時間がほしい」
「構わないわ」
「あぁ、問題ないさ。なら、徒歩で向かうか? 歩きながらの方が、部屋に籠っているより落ち着くかもしれないぜ?」
「……そうだな。そうするよ」
「なら、出発でがすね」
「街道を南に進めば、サザンビークの国境に入る。道なりに進めばいい」
「合点でがすよ」
最後にギャリングの子どもへ挨拶をすると、屋敷を出る。最後まで見送りにきた執事は、レイフェリオに近づく。
「殿下、どうか無茶はなさいませんよう。ギャリング様もそれをお望みではないでしょうから」
「……わかっている」
「皆さま、殿下をよろしくお願いいたします」
「わかった」
「任せなさい」
「もちろんでがす」
「それでは、ご無事をお祈りしております」
屋敷を出ると、町は昨日と同じくにぎわっている。ギャリングのことを知らないのだから無理もない。
ただ、カジノは休業しているようだ。
「にしても、孫を送り出す爺さんみたいだったな」
「そうね」
「……あの人にしてみればそういうもんなんだろうな。俺にはわからないが」
まずは外にでてトロデと合流し、サザンビークへと向かう。ドルマゲスを追うために。
ギャリングはここの主人公にとっては、家族とは違った意味で大切な人という設定です。執事はお爺ちゃんみたいなものですね。ギャリングの子ども、この先でも出てくると思いますが、性格は本編と違っていると思います。お気に召さない方もいるかもしれません・・・。