勢いで書いたのでおかしなところがあるかもしれません。
ギャリングの性格などは想像して作ってます。
本日は昼に二話投稿していますので、まずはそちらをご覧ください。
ギャリングという男
朝、ポルタリンクの町の外でトロデと合流し、全員が揃ったのを確認してレイフェリオはルーラを唱えた。
一気に移動してきた一行の目の前には、階段と賑やかな音楽だった。
「……ここがベルガラックなの?」
「通称カジノの町。大富豪のギャリングがオーナーで、規模は世界一って言われているらしい」
「一度来てみたかったんだがな。こんな形で来ることになるとは……」
「噂くらいはわしも聞いたことはあるが……ククールは知っておったのか?」
「まぁな」
ククール以外は特にカジノには興味がないようだ。ヤンガスが興味ないというのは意外だと思うが、敢えて言うことはしなかった。
階段を上ると、大きな町が見えてくる。
いつものようにトロデは外で待機だ。町に入ると各々別れて情報収集をすることにした。
「……別行動って話じゃなかったのか?」
「私が一緒だと問題でもあるの?」
なぜか、レイフェリオの後ろにはゼシカがいた。
よくよくみれば、ヤンガスとククールが共に行動しているようだ。一緒に行動をするのならそういえばいいと思う。それにククールならゼシカと組みたがるはずだ。
「ククールは納得したのか?」
「何よ。ククールが良かったってわけ?」
「そうじゃなくて、二人行動にするならククールと組まなかったのかってことだ。あいつはゼシカを気に入っているだろ?」
「……何で私があのケーハク男と一緒に行動しないといけないのよ。まだヤンガスのがマシだわ」
出会った当初の軽い男という印象は、まだ続いているようだ。最も照れ隠しのようでもあるらしいが。
「それに……昨日の夜、貴方外に出ていったでしょう? みんな知っているのよ」
「……そっか」
「気を利かせたってわけ。だから、二人行動するなら素性を知っている私の方が楽でしょう?」
「どうやって言いくるめたんだ?」
「……単純よ。あの男は論外、ヤンガスよりは貴方の方がいいって言っただけ」
「率直すぎないか……?」
「そう? それにヤンガスよりは例の大富豪に会いに行くなら、見た目的には私の方がいいでしょ」
レイフェリオは納得した。要するにゼシカは、レイフェリオがギャリングに会いに行くと考えて行動をとったらしい。我儘を通したように見えるが、確かにゼシカの言う通りだ。
「ラグサットも苦労するな……」
「? 何か言った?」
「何も……」
今もリーザス村にいるのかわからないが、ゼシカの婚約者である友人には同情できる、と本気で思ったレイフェリオだった。
「でも、それならちょっとこれを羽織ってくれ。その恰好ではさすがにまずいだろうから」
「これって……」
ゼシカに渡されたのはケープだった。見てわかる通り女性物だ。それをなぜレイフェリオが持っているのか。
「……以前旅の途中で手に入れたんだ。売ろうかとも思ったが……まぁ持っていてよかった」
「なるほどね。それならありがたくいただいておくわ」
ゼシカはケープを羽織る。サイズもちょうどいいようだった。不要な道具でも、持っていればどこで役に立つかわからない。今は、錬金釜もあるので、錬金の材料にするという手もあるし、ゼシカが要らなくなれば釜にいれてみるかと密かに思案していた。
二人で並んで町を歩いていると、奥の方に大きな屋敷が見えてきた。
如何にもという建物だ。ここが大富豪ギャリングの屋敷だった。
門番が二人の姿を認めると、驚きを露わにする。
「レ、レイフェリオ殿下!!?」
「……久しぶりだな。ギャリングさんはいるか?」
「は、はい。少々お待ち下さい!!!」
門番の一人が走って屋敷内へと入っていく。残されたもう一人は、改めてレイフェリオに敬礼した。
「お久しぶりです。またあの王子の件ですか?」
「……まだあいつは来ているのか?」
「あ……はい。その……」
「懲りない奴だ……」
門番は苦笑するしかできない。殿下と呼ぶ割に気安い風の両者の関係に、置いてけぼりのゼシカが視線でレイフェリオに訴える。
「……たまに野暮用でこの町に来ることがあるんだ。それで知り合いになっているだけだよ」
「野暮用?」
「オーナーと話をしにくることがあるだけだ。カジノで遊ぶことはない」
野暮用はカジノではないと伝えたつもりだったが、ゼシカは納得していないようだった。真実を言えば、従弟を連れ戻すためにカジノに入ったことはあるのだが、そこまで言う必要はない。
「殿下? この女性は?」
「あぁ。今は旅をしているんだ。その仲間の一人だよ」
「そ、そうですよね。あはは」
「……勘違いだけはしてくれるな」
「わかっています。アイシア様に知られたら大変ですから」
「アイシア様?」
ゼシカが疑問を口にした時、屋敷へと走っていった門番が息を切らしながら戻ってきた。
「お、お待たせ、しました! どうぞ、な、中へ」
「あぁ。ゼシカ、行こう」
「え、えぇ……」
丁よく避けられた気がするゼシカだったが、レイフェリオの後に続いて屋敷へと入っていった。
勝手知ったる屋敷の中なのか、誰にも案内されずにそのまま一つの部屋へとレイフェリオは入っていく。
「よお、今度は何を背負ってきたんだ?」
「……お久しぶりですね、ギャリングさん」
長いソファに座っている豪傑。これが大富豪ギャリング。
呆気にとられているゼシカを余所に、レイフェリオはそのままギャリングの向かいに座った。と、同時に一人の執事服を来た男性がお茶を置く。隣にもおかれたそれはゼシカの分だろう。
ゼシカもゆっくりとレイフェリオの横に座った。
「で、そっちの嬢ちゃんは誰だ? まさかお前の女か?」
「違いますよ。旅の仲間です」
「何だよ、からかいがいのない奴だな。もう少し動揺しやがれ」
「ギャリング様、お言葉ですが殿下は王太子であられます故、簡単に心を乱されてはいけないと思われますが」
すかさず執事から突っ込みが入った。
「わかっているんだよ。お前も逐一反応するな」
「これは失礼を」
乱暴に言葉を交わしているようだが、そこには信頼関係が見え隠れしている。レイフェリオにとっては恒例のやり取りだ。
ひとしきり笑った後、ギャリングは今までの表情から一転、真面目な顔を作る。
「で、一体何の用だ? 最後の旅に出るって言ったっきりだったが、国に戻ってきたってことは────」
「違います。……俺たちはある男を追っているんです。道化師の恰好をしたドルマゲスという男を」
「ドルマゲス?」
「はい。この町では見かけていませんか?」
「俺はねえな……おい、お前の方はどうだ?」
「私が知る限りにはなりますが、町の中には少なくとも来ていませんね」
このギャリングの執事は優秀だ。侵入者や盗賊の類がカジノに押し入ったとしても、すぐに包囲網を作れるほどの情報力がある。ただし、この町に関してだけだ。
その男が知らないと言っているということは、現時点でドルマゲスは来ていないということを指す。
「この町に来ているのは間違いねぇのか?」
「……いえ、あくまで可能性の一つです。西の大陸の方へ渡っていったという情報しか俺たちにはありません」
「てめぇの国に行ったって可能性は?」
「……わかりません。方角からまずはベルガラックだろうと判断しただけです」
「方角、ね……で、結局そいつが何だってんだ? お前が追うほどの猛者なのか?」
ドルマゲスがどういう存在か。レイフェリオはこれまでドルマゲスに殺された人のことや、ここまでの旅路について語った。マスターライラス、サーベルト、オディロ、その名を聞くとギャリングの表情が一際険しくなっていった。
「……そうか。よくわかった。だが、ここにそいつはいない。だからさっさとお前は国に帰れ」
「ギャリングさん、しかし────」
「忘れるなよ。お前は、サザンビークの世継ぎだ。単なる殺人事件に首を突っ込んでいい身分じゃねぇんだよ」
「単なるって、サーベルト兄さんは!!?」
「ゼシカさん……ここは黙ってください」
怒号するギャリングに反論しようとするゼシカを執事が止める。意味がわからず、ゼシカは言い合う二人を見た。
「けど、オディロ院長は俺を庇って死んだんです。それを──―」
「オディロが殺されようとしていたら、お前は同じく庇った。違うか?」
「……それは……」
「即答しなかったのは褒めてやる。ここで庇うと即答したら、ぶっ飛ばすところだ」
「ギャリングさん……」
「お前もわかっているはずだ。それが王族の立場ってことを。お前は死ぬことを許されねぇのさ。わかったら、もうこの件に関わるのはやめろ。早く城へ戻れ。それがお前がすべきことだ」
話は終わりだ。というようにギャリングは部屋の階段を上っていった。
「……殿下」
「……わかっている」
レイフェリオは硬い表情のまま立ち上がり、部屋を出ていった。慌ててゼシカもその後ろ姿を追う。
「ちょっ、待ってよ! レイフェリオっ!」
「……」
ゼシカが声をかけると背を向けたまま立ち止まった。だが、顔は前を向いたままだった。
「ギャリングさんが言ったこと……その、気にしてるのよね?」
「……巻き込んでごめん…………ふぅ」
「レイフェリオ?」
「ヤンガスたちと合流しよう。今後について決めるために」
そう紡ぐと振り返ったレイフェリオはいつもの柔和な表情に戻っていた。
その日の夜。
レイフェリオたちは、ククール、ヤンガスと合流し、宿屋で次の目的を考えていた。
結局、ベルガラックでの収穫はなし。ドルマゲスが来ていないということだけがわかった。西の大陸と言っても広いので、次はどこを探すか思案していると、突然部屋の扉を勢いよく叩く音が響いた。
「すみません!!! 殿下!! いらっしゃいますか!!?」
「この声……」
聞いたことのある声はギャリングの門番の声だった。驚くゼシカだが、レイフェリオはその緊迫した声にすぐに扉を開ける。
「どうした?」
「す、すぐに来てください!!! ギャ、ギャリング様が!!!」
「ギャリングさんが!? どうしたって?」
「ギャリング様が、怪しげな男に!!!」
怪しげな男。その場にいた全員が反応し、想像したのはドルマゲス。やはりこの町にきたのだ。そして、その目的はギャリング。
息を切らしている門番を押しのけて、レイフェリオは屋敷へと走る。
既に夜も遅いが、ベルガラックは眠らない町だ。町中も灯りが照らし出してくれていた。
屋敷の前には門番はおらず、そのまま屋敷内へと突入する。昼間にギャリングと話をした部屋へと扉を開けると、そこにいたのは、血まみれになって倒れているギャリングの姿だった。
「ギャリングさんっ!!!!」
「ぐっ……な、なんだ……まだ、いたのか」
「喋らないでください!! 今、回復を」
呪文を唱えようとするレイフェリオの手をギャリングは震える手でつかむ。
「……お、おれも……耄碌した、もんだぜ……たかが、魔術師に……ぐふっ……遅れを、とる……とはな」
「ギャリングさんっ!!」
「な、なぁ……おれが、いった……こと、わす……れるな……よ……立派・お、うに……な、よ……」
パタン。
掴まれた手が力なく落ちる。レイフェリオの後ろには、追いついて来たゼシカたちが来ていた。そして、階段の下にはギャリングの子どもたちが震えている。
皆が見守る中、ギャリングはレイフェリオの腕の中で息を引き取った。
「……レイフェリオ」
「兄貴……」
仲間の気遣う声もレイフェリオには聞こえていない。ただじっと、ギャリングを抱いていた。