ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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ゲルダのアジトから剣士像の洞窟攻略までです。
久々のボス戦闘です。長い戦闘描写ができないのでこの呪文唱えてない、などありますがご容赦ください。


ビーナスの涙

 南西方向にある小島はすぐに見つかった。

 

「あそこでがす」

「よし、行こうか」

 

 ヤンガスが間違いないというので、レイフェリオが先頭にたち掛けられた橋を渡る。

 そこには家が建てられており、隣には納屋があった。

 

「……あそこに姫がいる。間違いないね」

「流石、兄貴でげす」

「おいっ! 貴様らなにをしていやがる」

 

 怒号が届き、レイフェリオたちは振り替えると厳つい兜をした男が近づいてきていた。

 一行の中にヤンガスの姿を認めると指を指した。

 

「あ、てめぇはヤンガスっ!」

「アンタの知り合いなわけ?」

 

 呆れたようにゼシカが言う。名前を知っているのだから、知り合いには違いないだろう。

 

「……昔のことでがすよ。おい、ゲルダがいるんだろ? 用がある」

「何!? ゲルダさまがてめえなんかに会うもんか!! 帰れ帰れっ!」

「ガキの使いじゃねぇんだ! 帰れって言われて素直に帰れるかよ! いいから三下は引っ込んでな」

「だ、誰が三下だとぉ……!?」

 

 お互いににらみ合い下がる様子はない。どうなることかと状況を見守っていると、建物の中から声がした。

 

「さっきから騒々しいね。部屋の中まで丸聞こえだよ」

「す、すいませんゲルダさま。礼儀知らずの客が押し掛けてきまして……」

 

 男は部屋の入り口に行くと、部屋の前で相手に話しかける。女の声だった。それが女盗賊のゲルダなのだろう。

 追い返すという男の言葉をそのゲルダが止める。

 

「ヤンガスの奴なんだろう? もういいから通しちまいな。あたしが直接話してやるよ」

「へ、へい……」

 

 しぶしぶといった風に男は扉の前をあける。通っていいということだ。

 

「ゲルダさまがそういうんじゃ仕方ねぇ……通りな」

 

 ヤンガスが扉を開き中にはいると、部屋の奥の暖炉の前にその人物はいた。

 ヤンガスがゲルダへと近づいていく。レイフェリオたちは様子を見守っているだけだ。

 

「あんたがあたしのところに来るなんて珍しいこともあるもんだ。……で、話ってのはなんだい?」

「ゲルダ……お前さんが闇商人の店で買ったって馬のことさ。あの馬を譲ってくれねぇか? あれは元々オレの旅の仲間の持ち物だったのが盗まれて闇商人の店に並んでいたんだよ」

「……」

「金額についてはお前の言い値で構わないぜ。正直キツいが何とか用意してみせる」

「相変わらず率直な物言いだね。あんたのそういうところ嫌いじゃないよ。でも……」

「でも、なんだ?」

「あの馬は売らないよ。毛並みといい従順そうな性格といい、じつにいい馬じゃないか。あたしは本当に良いものは手元に置いときたくなる性分なのさ。いくら積まれても譲れないよ」

 

 確かに馬となってもミーティアが持つ気品は失われてはいない。美しい馬だと思う人は多いだろう。それを手放したくないのは、普通の考えなのかもしれない。

 だが、あれは馬ではないのだ。ここで引くわけにはいかない。

 それはヤンガスも同じだった。

 

「ぐっ……どうしてもだめか? 仲間のためなんだ。オレにできることなら何だってするぜ」

「へぇ……アンタの口からそんな言葉が聞けるなんてね。よっぽど大切なお仲間らしいね」

 

 ゲルダとヤンガスはどうやら親しい間柄のようだ。そうと感じさせるほどの何かが二人の間にはあった。

 ゲルダは立ち上がるとヤンガスの正面に立つ。

 

「よし、いいだろう。ただし、条件をださせてもらうよ」

「条件?」

「そうさ。ここから北にある洞窟のこと、まさか忘れていないだろう? あそこに眠るというビーナスの涙って宝石を取ってきてもらおうじゃないか」

「げげっお前未だにあれを!? あの洞窟はオレが昔……」

 

 思わず後ずさるヤンガス。その言葉を聞いてゲルダは逆にヤンガスに近づいた。

 

「アンタ、今なんでもやるって言ったばかりじゃないか。男が一度言ったことをひるがえすのかい?」

「そ、それは」

「とにかくビーナスの涙を持ってきな。そしたらあの馬のことも考えてやろうじゃないか」

 

 話は終わりだというようにゲルダは再び揺り椅子へと腰を掛けた。意気消沈したようにヤンガスはレイフェリオたちのもとへと戻ってくる。

 

「ねぇ、ビーナスの涙って?」

「確か世界の三大宝石の一つに数えられていた石だったはずだよ」

「そんなのを取ってこいってか。流石は盗賊だな」

 

 そう簡単ではないことはヤンガスの態度から明らかだ。

 

「昔ヤンガスは取りに行ったの?」

「あぁ、けど取れなかったでがす……あの頃はアッシも良いところを見せたくて、若かったんでげすよ」

「若気の至りってやつか?」

「ぐっ……」

「まずは行ってみよう。ヤンガス、洞窟まで案内頼むよ」

「合点でがす」

 

 ゲルダのアジトを出てから然程遠くない場所にその洞窟はあった。地下へと下りて内部へと入る。

 

「予想通りだけど」

「魔物だらけ、ね」

「宝石があるなんて場所はそんなもんだ」

 

 セオリー通りと言えばそうだが、内部には死霊系の魔物が多いようだ。

 

「人魂でがすよ!!」

「構えろ、くるぞ」

 

 こちらへ近づいてきたのは、青い炎を纏わせている魂だ。

 先陣を斬るようにヤンガスが斧で攻撃する。だが、あまり手応えが感じられなかった。

 

「なっ!?」

「……魂だからか、物理攻撃はあまり効かないようだな。ゼシカ頼む!」

「任せなさい! メラミっ!」

 

 炎の力を溜め込み、ゼシカが放つ。それにレイフェリオが追撃を加える。

 

「火炎斬り! まずは1体だ」

 

 敵は全部で3体。ゼシカとククールが呪文で攻撃をし、ヤンガスとレイフェリオが物理攻撃で止めを指す。

 レイフェリオと違って、属性がある攻撃手段を持たないヤンガスにはキツイ戦闘となった。

 

「アッシにも攻撃手段がありやしたら……」

「適材適所じゃない。アンタはしぶとさが取り柄なんだから、欲張ったら良いことないわよ」

「……全ての敵に対抗する手段があるのは確かに有利かもしれない。けどヤンガス、俺たちはいまパーティーを組んでいるんだ。一人じゃないことを忘れるな」

「兄貴……」

「しおらしいってのはヤンガスには似合わないぜ。ほら、先へ行くぞ」

「一言余計だ!」

 

 ククールの一言にヤンガスは即反応する。よくも悪くもヤンガスが落ち込んでいるのは、パーティー内の空気が変わるものだ。賑やか担当をトロデと二分しているように、ゼシカもククールも感じているだろう。むろん、レイフェリオもだ。

 

 一人旅をしてきたレイフェリオには、ヤンガスの思いはよくわかる。しかし、無い物ねだりをしても仕方がない。仲間の力を借りることができるなら、万能である必要などないはずだ。

 

 その後もミイラや宝石の魔物などを蹴散らしながら、内部の攻略を進めていると、騎士の像が置いてある場所へとたどり着いた。

 

「ん? あそこ道がねぇ」

「……橋がおりてないみたいだな」

 

 そう、この場所から先へ進むための橋があがったままになっているのだ。どうしたものかと辺りを調べてみる。

 

「おい、ちょっとこいよ」

「どうした、ククール?」

 

 ククールは騎士の像を軽く叩きながらレイフェリオを呼ぶ。そして力を加えて押し出すと、像が動いた。

 

「あそこに窪みがある。どうやら像を嵌め込むみたいだぜ」

「試してみるか」

「だな」

 

 窪みへと向けて像を押し出す。ピタッと窪みに嵌まると、キィーと音をたてながら橋がゆっくりとおりてきた。

 

「正解、みたいだな」

「他にも似たような仕掛けがあるかもしれない」

「まっその時はまた試してみようぜ」

「ああ」

 

 とにかく先へと進めるようになったのだ。橋を渡り、その先にある階段を下りた。

 道なりに沿って進んでいき、途中にあった扉を開くと再び像がある。今度は2体だ。

 

「道がないわね」

「……像も動かない、か」

 

 どうやら先程の仕掛けとは違うようだ。辺りを調べてみると、仕掛けのヒントがのこされていた。

 

「天をあおげ! されば道は示されん! か…………」

「どういうことでがす?」

「天ってことは上ってことか」

 

 言葉の通りに天井を見上げてみる。すると、そこには穴が一つ空いていた。

 

「……なるほど、あそこから移動できるのか」

「どうする? その場所に立ってみるか?」

「……他に道はないみたいだし、行くしかないだろうね」

 

 レイフェリオがまずは穴が空いている天井の真下に行く。だが、なにも起こらなかった。

 

「おかしいでがすっ!!?」

 

 レイフェリオへ寄ろうとヤンガスが歩いていると、突然床がヤンガスを押し上げた。

 ドスンッ。

 見事にヤンガスが尻餅をつく。

 

「いてぇ……」

「……そういうことか」

「なるほどな」

 

 ククールとレイフェリオは顔を見合わせ頷く。2体ある像を穴が空いている位置で交差するように押し配置を変えた。

 

「これで行けるか」

「……まずはヤンガスに試させるか?」

「……オレはお試しかよ……」

 

 ヤンガスがポツリと呟く。

 といっても今回は正解だろう。再びレイフェリオが位置につく。すると、床が押し上げて、上の階へとたどり着いた。

 ククール、ゼシカ、そしてヤンガスと続く。

 

「っと、どうやら目的のものはあそこらしいな」

「……宝箱。普通より大きいし、間違いないと思う」

「嫌な予感しかしないけど……」

 

 階段の一番上にある宝箱。恐らくはビーナスの涙が入っているものだ。

 だが、トラップの類いが仕掛けられている可能性は否定できない。

 

「とにかく行ってみるでげすよ」

 

 先にヤンガスが階段をかけ上がる。どのみち行くしかないのだ。三人もヤンガスに続いた。

 そうして宝箱の前に立つと、その蓋に手をかける。

 

「!? 待て、ヤンガス!」

「うぇ?」

 

 レイフェリオの声に反射的に手を引っ込め、ヤンガスは勢い余って後ろに転ぶ。

 宝箱の蓋は、間一髪のところでヤンガスをつかみ損なった。

 

「宝箱が……」

「気を付けろ、来るぞ」

「ヤンガス、戻れ。ゼシカは援護を!」

「わ、わかったでがす」

 

 ヤンガスは立ち上がり、レイフェリオたちのところに戻る。ゼシカは頷くと、呪文の詠唱を始めた。

 宝箱の姿をしていたものが魔物と融合して、襲ってきた。宝箱の罠、トラップボックスだ。

 

「ククール、俺とヤンガスが前衛をする。ククールも支援を頼むよ」

「任せとけ。……スクルト」

 

 ククールの呪文で、全員の守備力が上昇する。光が全身を包み込むのを感じながら、レイフェリオはトラップボックスへと向かっていった。

 

「はぁっ!!!」

「おりゃ!! がっ!?」

 

 ヤンガスも続いて斧を振り下ろす。だが、その斧は宝箱から見えている手によって防がれた。

 

「そのまま抑えててっ!! ヒャダルコっ!!!」

 

 ゼシカの呪文が放たれる。届く直前にレイフェリオがヤンガスを押し出した。

 

「あっぶねぇ……おいゼシカ!!」

「ちゃんとアンタには当たらないようにしてるわよ」

「嘘つけ!!!」

「いいから、次くるぞ」

 

 言い合いを始めようとしている二人に声を掛ける。まだ戦闘は始まったばかりだ。

 ククールが更にスクルトを唱え、ゼシカが攻撃呪文で援護をする。

 

「ギィィ!!! カァー!!」

「なっ!!!」

 

 トラップボックスから氷の塊が放たれる。ヒャダルコだ。

 

「……相手も使えるってわけね。やってくれるじゃない」

「ゼシカ、氷系は避けたほうが良さそうだ」

「そうね……わかったわ。それじゃあ……これでどうよ、メラミ!!」

 

 炎の塊が一直線に向かっていく。その炎に隠れてレイフェリオが剣を構えた。

 

「……火炎斬り!!」

「ギャシャァァァ」

「バギマ!!!」

 

 怯んだ隙をククールが呪文で追撃する。ヤンガスは息を吸って斧を高く振り上げた。

 

「はぁぁぁ!! 蒼天魔斬っ!!!」

「ギィィィ!!!」

 

 トラップボックスの片方の腕が斬り落とされ、霧散していく。だが、残りの腕を大きく振り上げ、ヤンガスに向けて振り落とされた。

 

「ヤンガスっ!!!」

「ぐわっぁぁ……」

 

 痛恨の一撃。まともに食らってしまったヤンガスを庇うように、レイフェリオが前に出た。

 

「ククール、回復を!」

「わかってる!!」

 

 詠唱の準備に入ったのを横目で確認すると、レイフェリオは剣を振るう。

 すかさず、ゼシカの援護が入った。

 

「……ピオリム」

 

 敏捷が上がる呪文だ。スピードに乗って懐に入り込み、素早く斬りつける。

 

「隼斬り!!」

「グォォォン!!!」

「今でがす!!! はぁぁぁぁ!!!!」

 

 いつの間にか回復が完了していたヤンガスが、会心の一撃で斬りかかった。

 その攻撃で見事に腕が霧散し、最期の追撃とばかりにククールが弓で正面を射抜く。

 

「終わりだ」

「グ……ギシャァァァ……」

 

 崩れ落ちる体。地面に落ちて霧散していくと、その後には蒼い色の宝石が残されていた。

 ヤンガスが拾い上げる。

 

「こいつがビーナスの涙……とうとう手に入れてやったぜ!」

「どうやらあの魔物が護っていたみたいだな」

「そうだね。……それにしてもククールはおいしいところを持っていくな」

「本当よね」

 

 魔物を倒したことで、一気に肩の力が抜ける。目的のものも手に入ったのだ。すぐにゲルダの元へと向かおうとした。

 だが、ヤンガス一人だけがビーナスの涙を見つめ動かない。

 

「……? ヤンガス、どうかしたのか? 怪我が痛むとか?」

「あ……いえ大丈夫でがす。その、アッシが昔この洞窟に挑んだのはゲルダのためだったんでがすよ」

「そうなの?」

「いまでこそあいつは商売敵でしかないんですがね……あの頃はアッシも青くてね。ゲルダのやつも今みたいにおっかない感じじゃなくて、正直ちょっと憧れてたんでさぁ」

「なるほどね。それでこの洞窟にきて、あの女が欲しがっているそいつを取りに来たってわけだ」

「あぁ。結局、怪我をして逃げ帰るだけでがしたよ。まさか今になってこんな形で手に入ることになるたあ思いもよらなかったでげすよ」

 

 もしその時に既に涙を手に入れていたら、もっと別な形での関係がゲルダと築かれていたのかもしれない。今となってはもうわからないことだが……。

 

 ヤンガスの苦い青春の一ページ。感慨深かったのだろう。

 

 気を取り直して、一行はゲルダのアジトへと向かうことになった。

 

 

 




ヤンガスの口調・・・わかりません。

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