ここでもオリジナルあります。
荒くれ者の町
アスカンタ城から海沿いに南へと向かう。
途中、魔物との戦闘をこなしながら進むと、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
「結構歩いたぜ? まだなのかよ」
「もう少しでげすよ。ほら、あの灯りが見えるところでがす!」
ヤンガスが指差した先には、確かに町の光が見える。
山に囲まれた町のようだ。
「夜は魔物も狂暴化する。町へ急ごう」
無駄な戦闘は避け、町を目指す。
そうして着いた頃には既に夜になっていた。
「ここがパルミドでげすよ」
「……荒くれ者の町、か」
「確かに、そういう雰囲気ね」
「まっ、想像以上ではあるか」
レイフェリオ、ゼシカ、ククールが感想を述べる。パルミドという町の噂はレイフェリオも聞いたことはあるが、実際に来たことはなかった。
犯罪者をも受け入れるという町、パルミド。下手をすれば、盗賊の町とも言われてしまうほどの危険な町でもある。盗みは日常茶飯事、自分の身は自分で守るのが当たり前で、モノを盗まれてしまえば自分で捕まえるしか方法はない。見て見ぬふりではなく、そういう町なのだ。
そんな場所だが、町に入ってからというものトロデへ視線を向ける人は一人もいなかった。ヤンガスのいうフトコロが深いというのは本当のことなのだろう。
「ここが酒場でがすよ」
「おぉ、本当にわしの姿を見ても誰も何も言ってこなかったな。よし、ではわしは酒場で待っておる。お前達は情報屋とやらを探し出してから来るがよい。吉報を待っておるぞ」
トロデは興奮しているのか、軽やかに酒場へと入っていった。
「仕方がないおっさんでげすね……」
「あははは。けどヤンガス、ミーティア姫を一人にするのは危ない気がする。情報屋は任せてもいいか?」
「そうでガスね……わかりやした、アッシが情報屋のところに行ってくるでげすよ」
「頼む」
「なら、私は──―」
「馬姫さまは兄貴に任せて、ゼシカとククールは行くでがすよ!」
ゼシカも別行動をしようと提案しようとしたが、それはヤンガスによって遮られた。仕方なしに、二人はヤンガスについていった。
三人を見送ると、レイフェリオは馬車へよしかかる。
「ふぅ……」
「ヒン?」
ミーティア姫がまるでレイフェリオを気づかうように顔をこちらに向けている。苦笑しながらレイフェリオはミーティア姫へと近づき、その鬣を触る。
「すみません、何でもないんですよ。ただ、少し疲れただけです」
「キュー」
レイフェリオのポケットからトーポも顔を出す。
「……国を出てから初めて父の名を聞いたからかな。少し、思い出してしまったんだ。まさか、アスカンタ王と面識があるとは思わなかったよ」
「キュッ」
ミーティア姫の足元に座り込む。それに合わせるかのように、二匹も器用に座り込んだ。
「国の皆はどうしているだろうか……。俺は責任を放棄して、こうして旅をしている。……俺はこのままでいいのかって。このまま、皆と旅をしていて……最近はそんな風に考えるんだ。俺のわがままで旅をしているのにな。矛盾していると自分でも思うよ」
空を仰ぎ見ると星がキラキラとその存在を主張している。その一つ一つが守るべき民ならば、ここにいることは裏切りになるのかもしれない。
「キュッキュッ」
「トーポ……ありがとう」
その小さな手でレイフェリオの頭を撫でるトーポに、励まされた気がした。
「時間があれば、一度帰らないといけないかもな……」
「……ヒヒン」
「すみません、ミーティア姫。つまらないことを言いましたね。忘れてください」
今は言葉が話せないが、ミーティアは歴とした王女。しかも従弟の婚約者だ。いまの会話からは恐らくそんなこと想像もしないだろうが……。
ミーティア姫として会った時間は短い。だが、あのシセル王妃と似たような強さを感じる。気品、なのだろうか。または、もって生まれた資質なのかもしれない。
そうこうしているうちに、ヤンガス達の声が聞こえてきた。どうやら戻ってきたようだ。
「兄貴~」
「お待たせ。とんだ無駄足だったわ」
「今は留守だとさ」
「そうか……」
「町中も聞いて回りやしたが、あまり情報はありやしませんでしたよ」
肩を落とすヤンガス。
ここでの情報がないとなれば、また考えなければならないだろう。
「ともかくはトロデ王と合流しようぜ。中にいるんだろ?」
「あぁ、そうだな」
四人は酒場の中に入った。
カウンターの前には見慣れた姿がポツリと、お酒を飲んでいる。
「ブツブツ……これも全てドルマゲスのせいじゃ。あやつがわしらに呪いを掛けたせいじゃっ! 姫もあわれじゃ。せっかく婚約も決まったというのに馬の姿では……」
「なんというか、寂しい背中ね……」
「言わないでやるのが優しさだ」
ゼシカの言葉に同意しつつも、やんわりと釘を指すククールだった。声に気がついたのか、トロデ王がこちらを向く。
「ん? なんじゃ来とったのか。意外に早かったのう。して、ドルマゲスの行方はつかめたのか?」
「情報屋は留守だった。んで、手掛かりはなしだ──!!?」
その時、馬の鳴き声が届いた。
ククールとレイフェリオは急ぎ外へ出る。
「!!?」
そこにはミーティアの姿がなかった。
「なっ??? た、大変じゃ、姫が……ミーティアの姿がどこにも見当たらんのじゃ」
「まさか……」
「あっ、こいつはいけねぇ。アッシとしたことがうっかりしてたでがす。この町の連中は人の過去や事情には無関心だけど、人の持ち物には関心ありまくりでがすよ」
ということは、いまここにミーティアがいない理由はそういうことだ。酒場の前では警戒していたのに、全員で酒場へと入ってしまったのが間違いだった。
「ヤンガス、馬車が盗まれたとしてどこに運ばれるか検討はつくか?」
「……兄貴。まだそう遠くには行ってないはずでがす。町の外には少なくとも出てないでげすよ」
「そうか。手分けして探そう。その方が早い」
「だな。なら、俺は西の方を探す」
「なら私は逆ね」
「王はここで待っていてください。ヤンガスは裏通りを頼む」
「兄貴はどうするでがす?」
「……姫の気配を探る。人が多いところではやりにくいけど、仕方がない。見晴らしがいいところはどこ?」
「入り口から左手に行ったところに見晴台がありやす」
「わかった。皆、急ごう」
それぞれレイフェリオの言葉に頷くと行動を開始する。
町中を駆け見晴台へと到着すると、レイフェリオは目を閉じた。トロデ―ンから共にいたのだから、この多くの人の中でも気配を探ることはできるはず。
「……いない……?」
だが、ミーティアの気配を感じることはできなかった。試しに町の外へと注意を向けてみると、微かに感じられるものがあった。
「移動中……? ……ん? あれはヤンガスか?」
慌てた様子のヤンガスの姿を見つけ、レイフェリオも急ぎ後を追う。奥にある部屋に入ると、そこにいたのは一人の男と迫っているヤンガスだった。
「ヤンガス?」
「あ、兄貴。こいつでがすよ。こいつが馬を盗んだ犯人でげす」
「……」
すっかり怯えた様子の男からは酒の匂いがする。あきれた様子で見ていると、ドンと大きな音を立てながら誰かが飛び込んできた。
「貴様か!!! わしの姫をかどわかしたのは!!!」
トロデだ。酒場で待っていると言ったはずだったが、ヤンガスの後をつけてきたのだろうか。
いきなり現れたトロデに、男は震えあがって壁まで逃げる。
「ひえぇぇぇ!!! ま、魔物!!!? あ、あの馬は魔物の姫だったのか!!!」
「えぇぇい!! 誰が魔物じゃ! 姫を返せ!!! 今すぐじゃ!! でないとひどい目にあわせるぞっ!」
「あわわわわ……許してくれ!! あの馬が魔物の姫だなんて知らなかったんだ……こ、この通り……馬を売ったお金は返すから……どうか命ばかりは」
「何じゃと!!! 貴様っ! 姫を売ったと申すのか!!! えぇぇい、レイフェリオ!! 構わぬ、こやつを斬り捨ててしまえぇ!!!」
「……そんなことはできませんよ」
勢いで言ったのだとは思うのだが、念のため否定をしておく。ミーティアを第一に思っているトロデならば、本気でそう思っていてもおかしくはない。
「おっさん、落ち着けって。こんなチンピラを切ったって、兄貴の名が汚れるだけってもんだぜ」
「……そういう問題でもないけど」
レイフェリオの言葉はスルーされ、トロデを引き上げて後ろにどかすと、ヤンガスは男に顔を近づけた。
「おい、お前! 馬姫さまを売ったってのは物乞い通りにある闇商人の店か?」
「へ、へぇ……その通りです。よくご存じで……」
「よし、なら売った金をよこしな。言っておくが、ごまかしたりしたらただじゃおかねぇからな!」
「ひいいいっ! ど、どうぞ1000ゴールドです。本当にこの金額で売ったんです」
男から差し出された袋をもぎ取る。ずっしりと重みが感じられる袋だ。どうやら嘘ではないらしい。
ヤンガスはこちらに向き直った。
「どうやらひと安心でがす。今の話に出てきた闇商人てのはアッシの知り合いでしてね。アッシがこの金を返して頼めば、きっと馬姫さまを返してくれるでがすよ」
「それは本当じゃな? そうとわかればこうしてはおれん。早くそこへむかうぞ」
ヤンガスとトロデはさっさと外へ出ていく。早速、その商人のところへ行くのだろう。
だが、ミーティアは既にこの町にはいない。返される可能性は低そうだ。
「問題は、誰が姫を持って外に行ったか……だな」
首尾よくヤンガスが聞けていればいいが……。