ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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追放から水晶の依頼受諾までです。


ユリマの依頼

 広場へ行くと、ミーティア姫とトロデ王が人々に囲まれていた。

 トロデ王が何事かとあたりを見回すと、その視線を受けた人々は怯える。

 

「うわっ、こっちを見たぞ」

「きゃー、何ておぞましい顔なの」

「出ていけ! 化け物はこの街から出ていけ!」

 

 ワーワーとトロデ王を非難する声。遂には石を投げつけられている。

 近くまで来ていたヤンガスは、何とか止めようと人混みを掻き分けていた。レイフェリオもその場へと急ぐ。

 

 その時、トロデ王の前をまるで守るようにミーティア姫が立ちふさがった。普段の穏和な瞳からはかけ離れた、鋭い目付きで人々を威嚇している。

 この隙に、レイフェリオは馬車の手綱を引き、彼らを街の入り口へと誘導した。

 

 

 街の外まで出ると、ようやくミーティア姫の緊張が解れたようだ。レイフェリオは宥めるようにその背を撫でると、嬉しそうな声をあげる。

 だが、その隣でトロデ王はご立腹だった。

 

「まったく、酷い目に遭ったわい。一体わしを誰だと思っておるのじゃ。人を見た目だけで判断するとは情けないの。人は外見ではないというのに」

「全くその通りだ」

 

 いつもは意見が合わない二人がお互いに頷き合う。

 普通に今のトロデ王が街中に姿を見せれば、先程の人々の反応は当然と言えるだろう。

 魔物に対抗する術を持たない人にとっては、恐怖なのだから。

 レイフェリオは戦う術を持っているし、トロデ王の真実の姿を知っているから特に何も思わないが……。

 知らなかったら……。

 そこまで考えてレイフェリオは思考を止めた。考えても意味のないことだ。考え込むのは悪い癖だと、叔父からも良く言われたものだが、こうして旅をしていても一向に治らないのだから、もはや改善しようとしても無駄だろう。

 

 レイフェリオの思考が止まったところで、トロデ王の愚痴も終わったのか、マスター・ライラスのことを確認してきた。

 

 

「あぁ、そうでしたね。ですが、先日に火事が起こって、亡くなってしまったそうです」

「何と! 既に亡くなっていたと! むむむ……」

「どうしますか?」

「ふむ、亡くなってしまったものは仕方がないの。元々わしらが追っているのは、わしと姫をこのような姿に変えた憎きドルマゲスじゃ。マスター・ライラスに聴けばヤツのことが何かわかるやも知れぬと、そう思ったのじゃが……やはり、ドルマゲスの行方はわしらが自力で探すしかないようじゃな。レイフェリオよ、お主はこれからどうするのじゃ?」

 

 

 どうやら、この街にはもう用はないと次の場所へ行くとのことだ。

 元々、レイフェリオはたまたまトロデーン国を訪れていた旅人という立場だった。トロデ王たちのドルマゲス探しに協力する義理はない。

 だが、ここでトロデ王たちと別れても、その後が気になるのは間違いなかった。

 そして、レイフェリオ自身もドルマゲスに対して気になることがある。

 

「乗り掛かった舟ですし、付き合いますよ」

「良いのか?」

「まぁ、故郷までなら取りあえずは協力出来ると思います」

「お主の故郷というと、サザンビークだったな……」

「ええ、まぁ」

「……それまでには何とか姫を元に戻したいものだが……もしや王子に会うことでもあれば」

「あー……王、今は気にしても仕方ないですし、先を急ぎませんか?」

「ふむ。それもそうじゃな、さて行くとするか」

 

 そうして街を背に移動しようしとした時だった。

 

「お待ち下さい!」

「?」

 

 レイフェリオ、ヤンガス、トロデ王が一斉に振り返る。

 そこにいたのは、おさげが良く似合う少女だった。

 

「お待ち下さい……実はあなた方にお願いがあって、こうして駆けつけて来ました」

 

 不安そうに告げる彼女は、街の人々とは違っていた。

 そう、トロデ王の姿を見ても反応を示さなかったのだ。

 流石にトロデ王も不思議に思ったのか単刀直入に尋ねる。

 

 

「お嬢さん、あんたこのわしの姿を見ても怖くないのかね?」

「……夢を見ました」

「夢?」

 

 レイフェリオが怪訝そうに聞き返すと、少女は頷いた。

 

「人でも魔物でもない者がやがてこの街を訪れる……」

「!?」

 

 

 レイフェリオはその言葉に目を見開く。だが、少女はそれに気付かずに続けた。

 

 

「その者がそなたの願いを叶えるだろう、と」

「人でも魔物でもない? それはわしのことか?」

 

 

 トロデ王が反応を示す。ヤンガスは隣で声をあげて笑っている。

 逆にレイフェリオは黙ったまま少女を見ていた。

 トロデ王は人間で、今は魔物の姿をしている。云わば人間でもあり、魔物でもある者と言える。敢えて言及はしなかったが。

 もしくはもっと別の意味をもつのか……。

 

「あっ、ごめんなさいっ」

 

 

 素直に謝られてはトロデ王も何も言えないようで、何とも言えない顔をしていた。ヤンガスもからかうのを止めどこ吹く風だ。

 

 

「ま、まぁよいわ。見れば我が娘ミーティア姫と同じような年頃。そなた、わしらのことを夢に見たと申すか? 良くわからぬ話じゃが……」

「……占い師。もしかして貴方は?」

 

 

 夢見をするということは、もしかすると占い師なのでは、という可能性がレイフェリオをよぎった。酒場で会ったルイネロも占い師だったはずだ。

 占い師と言われてはっとしたのか、少女は改めて自己紹介をしてくれた。

 

 

「あっ、申し遅れました。私、占い師ルイネロの娘、ユリマです」

「あの占い師の……」

「どうか私の家に来てくれませんか? 詳しい話はそこで。街の奥の井戸の前が私の家です。待ってますから、きっと来てくださいね」

 

 用件だけ伝え終わると、返事も聞かずユリマは走って街へと戻っていった。

 

「何でげすか? あの娘っ子は。井戸の前が私の家ったって……」

「えらい‼」

「!? ト、トロデ王?」

 

 困惑するヤンガス、レイフェリオとは裏腹にトロデ王はやけに興奮した様子だ。

 

「このわしを見ても怖がらぬとは、さすが我が娘ミーティアと同じ年頃じゃ」

「……それは関係ないと思いますけど」

 

 

 レイフェリオの突っ込みは無視される。

 

「ここは一つ、あの娘のために人肌脱ごうではないか!」

「……いいんですか?」

 

 

 無論、わざわざ街の外まで追いかけてきたくらいだ。何か深刻な悩みがあるのかもしれない。レイフェリオにも異存はなかった。

 だが、それによりドルマゲスを追うのが遅れることを懸念していたのだが、トロデ王自身が彼女の手助けをしようと言い出したのなら好都合だ。

 

 

「わかりました。では、俺とヤンガスで話を聞いてきます。トロデ王たちは、ここで待っていてください」

「……うむ、また騒がれても厄介だしな」

 

 

 そうして再びトラペッタの街中へと入り、入り組んだ道を進んだ先にユリマが示したと思われる井戸があった。

 

「ここでげすかね?」

「あぁ」

 

 ヤンガスと場所を確認すると、レイフェリオは家の扉を開けた。

 中に入ると目の前には大きな水晶玉の台。

 その台の上で、ユリマはうつ伏せになっていた。

 

「ユリマ?」

「……? あっ、本当に来てくれたんですね! なのに私ったらうたた寝なんかしてて、ごめんなさい」

 

 

 レイフェリオに声をかけられ、慌ててユリマは立ち上がった。

 

「夜も遅いし、仕方ないよ。それで、俺たちに頼みがあるということだけど……」

「ありがとうございます。あの……」

「あぁ、俺はレイフェリオ。こっちはヤンガスだ」

「宜しくでがす」

「こちらこそ、宜しくお願いします。それで、頼みというのはこの水晶玉のことなんです」

「水晶玉?」

 

 ユリマは、台の上にある水晶玉を示した。

 しかしレイフェリオたちにはいまいち話が見えていない。

 

 

「あっ、もしかして話が急すぎました? もっと頭から話した方がいいですか?」

「……そうだね。頼むよ」

「そうですよね。……かつて私の父ルイネロはものすごく高名な占い師でした。どんな探し物もたずね人もルイネロにはわからぬことはないと。しかしある日を境に、その占いは全く当たらなくなってしまったのです」

「その理由が水晶玉、ということか……」

「はい。この水晶玉はガラス玉なんです。だから……」

 

 

 バタン。

 家の扉が閉まる音が響いた。思わずユリマは途中で口を閉ざす。そこにいたのは、話題の人物であるルイネロだった。

 

「何を話しているんだ、ユリマ」

「お、お父さん」

「その水晶玉に触るなとあれほど何度も……!?」

 

 

 ルイネロはユリマの横に立っていたレイフェリオに気がつくと、眉間に皺を寄せた。

 

「あんたは確か酒場で会った人だな」

「はい。先ほどはどうも……」

「……」

「ルイネロさん?」

 

 

 再度、レイフェリオを見つめるように視線を合わせたかと思うと、ゴホンとわざとらしく咳をした。

 

「まぁともかくだ。わしは別に困っていない。娘に何を頼まれたのか知らんが、余計なお世話だぞ!」

「お父さん!!」

「わしはもう寝る。ユリマ、お客人には早々にお引き取り願うんだぞ」

 

 

 それだけいい放つと、ルイネロは二階へと上がっていった。随分と酒を飲んでいるようで、その顔は真っ赤になっていた。

 

「レイフェリオさん、ごめんなさい。あんな父で……」

「いや、ユリマが謝ることはないさ」

「そうでがす! 折角の娘の気持ちをなんだと思ってるんでがすかね」

「ヤンガスさん、ありがとうございます。でもあんなこと言っても占いが当たらなくなって一番なやんでいるのは父だと思います」

「ユリマ……」

「だからお願いです。父本来の力が発揮できるほどの大きな水晶玉を見つけてきてくれませんか?」

 

 

 話を聞いてヤンガスは任せておけとばかりに、胸を叩く。

 

 

「任せてくださいでがすよ! ねぇ兄貴っ!」

「そうだな。どこか心当たりでもあれば助かるけど」

「引き受けてくれるんですか! やっぱり夢のお告げの通りだわ」

 

 

 ユリマは嬉しそうに両手を合わせながらはしゃいでいた。

 

 

「お告げ?」

「はい! そのお告げによると街の南、大きな滝の下の洞窟に水晶玉が眠っているそうです。こんなことがわかるなんて、私はやっぱり偉大なルイネロの娘、ですよね」

「すごいでがすよ、嬢ちゃん!」

「ありがとうございます!」

 

 

 ヤンガスの言葉にユリマは笑顔で答える。

 確かに場所がわかっているならそれほど難しい依頼ではないだろう。

 しかし、洞窟となれば魔物との戦闘もあるだろう。レイフェリオの懸念材料はそれだけだった。

 

 

 


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