随分と期間が空いてしまいました。すみません。
願いの丘攻略からイシュマウリ登場までです。
オリジナル展開あります。
翌朝、レイフェリオたちはカーラの家の裏にある道から、川岸へと降りた。
海へと向かって続いている道を歩いていると、魔物の姿が見受けられる。だが、魔物たちはレイフェリオたちを見ると必死に逃げていった。
「……何だ?」
「さぁな。魔物の行動なんて知るかよ。それよりも戦闘の手間が省けるんだ。さっさと先に進もうぜ」
ククールはどうでもいい風に言い放つと、先へと歩いていく。
確かにククールの言う通りだ。戦闘せずに済むならその方がいいのだから。
しばらくそうして進んでいくと、洞窟のような入り口へとぶつかった。
「洞窟なの?」
「……光は見えなくもないけれど、道はここしか行けないみたいだし、願いの丘に続いているのはここで間違いないと思うけど」
「行ってみるでがすよ。夜までに丘の上に行かなければダメなんでがすから」
「だな」
レイフェリオも頷いて、先陣を切る。
中に入ると薄暗いながらも微かに光が差し込み、暗いというほどではなかった。それはまだ日が高いからということもあるのだろう。
中には魔物が徘徊している。
「行くでがすか?」
「先手必勝だな」
「あぁ、ゼシカは援護を」
「わかったわ」
レイフェリオが先陣を切ると、ククールとヤンガスがそれに続いた。
コウモリのような羽が生えたモンスターのジャイアントバット。大きな体躯ではあるが羽をばたつかせて、その体を浮かせている。それが4体だ。
飛んでいるとはいえ大きい体躯のためか、さほど高く上がることは出来ないようだ。
レイフェリオが一閃で凪ぎ払う。怯んだ2体にククールとヤンガスが追い討ちをかけた。
残りの2体へゼシカの呪文が向かっていく。
「イオラ!」
「グワァ!!!」
「今だ、はぁ!」
爆発呪文でぶっ飛んだ1体をまずは斬りつけると、すかさずもう1体へと攻撃する。
「ギャシャアアァ……」
霧散して消えていくのを見ていると、ククールとヤンガスも側に来ていた。どうやらそちらも戦闘が終わったようだ。
「問題なし、だな。お疲れさん」
「あぁ、ククールも」
「それじゃ、先を急ぎましょ」
それから何度か戦闘をこなしながら進むと、洞窟の外に出た。どうやら中を進むのではなく、外苑を上っていくような感じになるようだ。
「ここが頂上っぽいな」
「でがすね。なんにもないでげすよ」
「そう、ね……」
見渡すとどこか小屋の跡のような残り香はあるが、それ以外には何もない。
丘の上ではあるようなので、場所はあっているはずだが。
レイフェリオが空を見上げると月が見える。
「……もうすぐ夜になる。それまで待ってみよう」
「だな」
只のおとぎ話なら何も起きないだろうが、本当にそんなことが起こるなら夜だ。
「ねぇ、レイフェリオ、あの影おかしくない?」
「影?」
「そう。あそこの窓の影が伸びてる気がするの」
ゼシカが示したのは枠のみが残っている窓。
じっと見ていると確かに影が伸びている。伸びた影はそのまま反対側の壁までたどり着き、壁に映し出されていた。
「……魔力を感じるな」
「まさか、これが入り口だって言うのかよ」
「ともかく行ってみるでがすよ」
「どうするの、レイフェリオ?」
躊躇していれば消えてしまうかもしれない。レイフェリオは意を決して壁の扉に触れてみる。
「あ、兄貴!?」
「「レイフェリオ!?」」
壁が目映いほどの光を放つ。思わず目をとじるレイフェリオだが、その光に包まれるかのように飲み込まれていった。
「くっ」
光が止んだところで目を開くと、そこには不思議な空間が広がっていた。
「ここ、は……?」
星の光が照らし出して道を作っているかのような光景に、レイフェリオは目を奪われた。
振り返ってもヤンガス達の姿はない。どうやらここにいるのは一人だけのようだ。
道の先は建物へと続いている。
恐る恐る建物に近づき、扉を開けた。
「……ようこそ、お客人」
「!?」
そこにいたのは不思議な雰囲気を持つ人物。
竪琴を奏でているそれはまるで別世界のものだ。
「私はイシュマウリ。月の光の元に生きる者。ここは月の世界。人間が来るのは随分と久しぶりだ」
「月の世界。ここが……」
レイフェリオはイシュマウリへと近づき、礼を取った。
「……初めまして、私は」
「知っているよ。貴方はレイフェリオ・クランザス殿下。サザンビークの王太子様」
「!!?」
あっさりと名を当てられ、レイフェリオも驚きを隠せなかった。それと同時に警戒心を抱く。だが、イシュマウリは首を横に振り微笑む。
「私は全ての存在するものの声が聞こえる。だから、貴方の服からそれを教えてもらっただけなのだよ」
「ものの声が聞こえる?」
「記憶というものは人だけではない。全ての存在するものにあるものだ。大地も空も、皆過ぎていく日々を覚えている」
「……」
「物言わぬ彼等は、じっと抱えた思い出を夢見ながらまどろんでいるのだ。月の光はその記憶を形にすることができる」
イシュマウリは頷くと、ポロンと手に持っているハープを鳴らす。
「見た方がはやい。では貴方のいかなる願いが月影の窓を開いたのか、その靴に聞いてみるとしよう」
「えっ?」
ハープが奏でられると同時に虹色の光がレイフェリオの靴を包み込む。
「これは……」
「ふむ。……アスカンタ王が生きながらにして死者に会いたいと」
「……はい」
「……流石に死者を蘇らせることは出来ない」
当然の答えだ。その理を曲げてしまうことは人としての道を外れているだろう。
「そう気を落とすな。確かに蘇らせることは出来ないが、チカラにはなれるだろう」
「どういうことですか?」
「まずは私を城へ。嘆く王の元へ連れていっておくれ」
「……わかりました。お願いします」
そのままレイフェリオは入ってきた窓の扉へとイシュマウリと共に向かうのだった。