今後はオリキャラも登場してきます。
マイエラ修道院のオディロ院長の死。
それは修道院だけでなく、多くの人たちに衝撃を与えた。
その日は修道院へと泊まることになったが、レイフェリオは眠ることなど出来なかった。
用意されたベットを脱け出し、聖堂へと向かった。
「オディロ院長……」
拳を握りしめる。
夢であったならどんなに良かっただろう。だが、あれは現実。目の前で喪うことは初めてではない。それでも、無理矢理奪われていくのをただ見ていることしか出来なかったことに、悔しさを感じずにはいられない。
『……悔しい、ですか?』
「その声……」
後ろをゆっくりと振り返る。しかし、そこには誰もいない。
『生きなさい。彼の心に報いるためにも……』
「……わかっている。わかっているんだ。けど、俺は……」
オディロは最期に言った。
レイフェリオの治世が見たいと。
「俺に、俺で良いのかわからないんだ。こんな力を持った俺が王になるべきなのか……」
それこそが、レイフェリオの迷い。
オディロの願いを叶えたいが、果たしてそれが最善なのかがレイフェリオには見えていない。
『人は迷い生きるものです。その迷いこそ、民を想う心の証。……貴方ならきっと道を決めることが出来るはずです』
「……お前は誰なんだ? 俺を知っているんだろう?」
『いずれ、貴方にも知る時が来ます……』
スッと声が遠退いていく。
懐かしい声だと想思う。レイフェリオの想いを吐けるほどに、声の主に警戒心を持っていなかった。
その事実を不思議に思いながら、レイフェリオは聖堂を後にした。
翌朝、オディロの葬儀が行われた。
雨にも関わらず葬儀には近隣の人々も駆けつけるほどで、オディロがどれだけ慕われていたのかがよくわかるほどだった。
「空も泣いているのかもな……」
「兄貴……そうでげすね……」
後ろの方でオディロを見送りながら、レイフェリオは天を仰いだ。
一通りの葬儀が終わった頃、レイフェリオたちはマルチェロに呼び出された。
「……何のようなのかしら?」
口火を切ったのはゼシカだ。
「……先日は疑ってしまい申し訳なかった」
「謝ってすむことじゃないと思うけれど」
「ゼシカ、今はそういうことを言っている場合ではないだろ」
「レイフェリオ……貴方が、そう言うなら」
不満を隠そうともしないゼシカをレイフェリオは軽く諫める。
オディロの事を想ってなのか、ゼシカは簡単に引き下がる。それをみて、レイフェリオは皆よりも前に出た。
「……お話とは何ですか?」
「……貴方は……オディロ院長と既知だと、聞いています」
マルチェロはレイフェリオを前に口調を変える。サーファンから何かを聞いたのかもしれないが、話し方から素性は知らされていないようだ。
「……それが何か?」
ククールに対する態度。ゼシカやヤンガスを一方的に疑ったことも含め、レイフェリオはマルチェロをよく思っていなかった。
謝罪を求めることもしないが、こちらから何かを折れることもしない、強気な態度だ。
「……今までのことを改めて謝罪させてほしいのです。あの道化師……人が敵う相手ではなかった」
「……」
「あそこで貴方を庇わなくとも、オディロ院長はきっと……」
「っ……」
冷静に考えればわかることだった。
確かにあそこで他の誰が殺られようも、オディロを殺さない限りドルマゲスは止まらなかったに違いない。
それでも、オディロがレイフェリオを庇った事実はなくならないのだ。マルチェロの言葉はレイフェリオにとって何の慰めにもならなかった。
「貴方を責めることは我々には出来ません。いや、寧ろ貴方が生きていてくれたからこそ活路が見いだせるのかもしれないのですから」
「何が言いたいのですか?」
「……貴方がたはあの道化師を追っているとか。であるならば、我々はそれに協力をしたいのです。道化師は貴方を見て何かを感じていた。ならば、その理由が分かればあの道化師を葬りさることが出来るかもしれない」
確かに一理あることだ。
ふと思い出せば確かにあの時のドルマゲスの行動は不可解だった。
レイフェリオはただのサザンビーク王家の者と言うことだが、それが理由とは思えない。ということは、他に何か理由があるはず。
「ここにいるククールを同行させてください」
「……勝手に決めるな……」
レイフェリオが思考に耽っている間もマルチェロの話は続いていた。ククールを同行させることで、修道院側からの協力とするようだ。
庇うオディロがいなくなった今、厄介払いをしたかっただけかもしれないが、ククールも文句を言いながら了承した。
「それでは、必ずオディロ院長の仇を……お願いします」
「……言われるまでもない」
吐き捨てるように告げると、レイフェリオはマルチェロの部屋を出ていった。
そのままマイエラ修道院を出ようとした時だった。
「レイフェリオ様、お待ち下さい!」
「……? サーファン、その格好は……」
声をかけてきたのはサーファンだった。だが、その服装は騎士団員の服ではない。普通の旅装束だった。
「私もお連れください」
「…………はぁ!?」
思わず声が上ずった。ククールでさえも困惑を隠せていない。
「サーファンさん? あんた何を言ってるんです!?」
「黙れククール。俺はレイフェリオ様に聞いている」
「……あー、どうしてですか?」
ククールには答えてくれないようなので、仕方なくレイフェリオが聞く。
「……オディロ院長の願いを見届けるためです。貴方様の側にいればそれが叶う。だからです」
「オディロ院長の願いって……」
レイフェリオの王の姿ということか。
確かにレイフェリオの側にいれぱ、というかいなければ見れないものもあるだろう。オブラートに包んでくれたのはありがたいが、旅の間気が抜けなくなるのは少しばかり窮屈だが。
「……お願いします」
サーファンは頑固だ。受け入れるしか道はないかもしれない。だが、レイフェリオはそれを認めなかった。
「だめだ……サーファンを連れていくことはできない」
「レイフェリオ様、理由をお聞きしても?」
「……オディロ院長の願いと言ったが、それにはここマイエラ修道院の未来も含まれているのだと思う。この場所を守っていたオディロ院長だからこそ、その意志を継ぎたいのであれば、ここを守っていくべきじゃないのか?」
「……」
レイフェリオの言葉にサーファンは目を見開く。
騎士団員としてオディロを守っていた彼だから、オディロがいない修道院を守っていくべきだと。
しばしの沈黙のあと、サーファンが僅かに笑みを作った。
「……本当に大きくなられたのですね。わかりました。私はここを、守りながら見届けることにします。道中お気を付けて」
「……ありがとう」
レイフェリオとサーファンのやり取りをどこか呆然とヤンガスたちは見ていた。