ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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トラペッタ到着から追放までです。


トラペッタ地方
トラペッタ到着


 トラペッタの街へと入ると、レイフェリオたちの馬車へ人々の視線がぶつけられた。

 隣を伺うとヤンガスは大して気にしていないようだ。

 恐らくトロデ王も気に留めていないだろう。

 

 だが、多くの人々の視線の中で育っていたレイフェリオにとっては無視できるものではなかった。

 視線の先にあるのは、魔物の姿をしたトロデ王。

 

 視線だけならば当人が気に留めていないので良いのかもしれないが……。

 

 

「ん? あれは……火事か?」

「どうしたのじゃ? レイフェリオ」

「……いいえ」

「そうか?」

 

 火事かどうかは後で調べてみればわかることだ。今はトロデ王に報告するようなことではない。

 ただでさえ、レイフェリオは成り行きでここにいるのだから。

 

 広場までくるとトロデ王は馬車を止めた。御史台を降りると辺りを見回す。

 

 

「ふむ、わしの記憶に間違いがなければ、確かこの街のはずじゃ。この街のどこかにマスター・ライラスと呼ばれる人物が住んでいるはずじゃ」

「ん? ちょっと待ってくれよ、おっさん! アッシらが追っていたのはドルマゲスってやつじゃなかったでがすか!?」

 

 

 ヤンガスの言葉にトロデ王は一気にまくし立てる。

 

 

「そうじゃ! 憎きはドルマゲス! わしらをこのような姿に変えたとんでもない性悪魔法使いじゃ! 一体あやつめはどこに姿をくらませてしまったのか!? 一刻も早くあやつめを探し出し、この忌々しい呪いを解かねばならん。でなければあまりにもミーティア姫が不憫じゃ」

「ト、トロデ王……?」

「せっかくサザンビーク国の王子との婚儀も決まったというのに……ドルマゲスのやつめ」

「あははは……」

 

 レイフェリオは苦笑いしか出てこなかった。

 サザンビーク王子との婚儀。それにレイフェリオは無関係ではなかったのだから。

 だが、そんなレイフェリオの様子にも気が付かないままトロデ王は唸っていた。

 

「はぁ、というわけでレイフェリオ。ライラスなる人物を探してきてはもらえぬか? 本来なら旅人であるお主に頼るのは申し訳ないのだが……」

「まぁ乗りかかった舟ですから」

「わしはここで休んでおる。頼んだぞ」

 

 

 トロデ王に動かれては逆に目立つのでここで待ってもらった方がレイフェリオにとっても都合がよい。

 ヤンガスを引き連れて、レイフェリオは情報を集めに繰り出した。

 

 

 教会、武器屋、宿屋などのお店を廻ったが、わかったことは先日の火事があったということと。

 不思議な口癖をいう道化師がいたということだった。

 

「……道化師、か」

「どうかしたんでがすか?」

「いや、話に聞く道化師が、一体何をしにこの街に来たのかと思ったんだ」

「……商売でがすかね?」

「……あの火事があった後は姿を見ていないというのも気になるな」

「兄貴?」

「俺の考えすぎ、か……」

 

 独り言のようにレイフェリオは首を振った。

 怪訝そうなヤンガスを置き去りにしたまま、次の場所酒場へと顔を出す。

 

 

「ちょっ、兄貴! 待ってくだせえでがす」

 

 

 すぐに追いかけてくるヤンガスを従えて、酒場のカウンターで飲んでいる一人の客に視線を向けた。マスターと何かを話しているようだが、その口から「ライラス」という単語が飛び出してきたのをレイフェリオは見逃さなかった。

 読唇術で読み取れるのにも限界がある。できる限り彼らに近づき、会話を盗み聞く。

 

 

「わしが占いで先日の火事を予見し、止めたとして何になる。そのことが次の災いの種になるかもしれんのだ」

「ルイネロさん、言っている意味がよくわからないよ。もし火事がわかっていたら、少なくともマスター・ライラスを救えたんじゃないかい?」

「……ライラスか。あの老人とはよくケンカをしたものだ……よもや死ぬとは」

 

 

 どうやらルイネロという占い師は、マスター・ライラスと知り合いらしい。

 街の入り口の方で見かけた火事の跡。あれがライラスの屋敷だったのかもしれない。

 レイフェリオはルイネロに話しかけるべく近づくと、ルイネロがふとこちらに視線を移動させ目が合った。

 

 

「なんだ? わしに何か用……っ!!! むむむ」

「えっ!?」

「お前さん、ちょっと顔をみせてみ!」

「はぁ……」

 

 突然立ち上がったかと思うと、レイフェリオに顔を近づけてくる。その勢いに押されるまま顔をのけぞる形で避けようとするが、ルイネロはじっと顔を見てくる。

 

 

「あ、あの……」

「むむむ、これは──―」

 

 

 とルイネロが言いかけたところで、酒場の扉が勢いよく開けられた。

 酒場にいた全員の視線がそちらに映る。

 

 

「大変だ! 怪物が! 町の中に怪物が入り込んで!」

「なんだとっ!」

「とにかく来てくれないか! もう大騒ぎで!」

 

 

 興奮した様子の青年が叫ぶと、客が次々に店を出ていく。

 

 

「兄貴っ、怪物でがすよ! アッシも見てきます!」

「ヤンガスっ!」

 

 

 レイフェリオが止める間もなく、ヤンガスも客たちと共に出ていってしまった。

 はぁ、とため息をつきつつ、レイフェリオはルイネロに声を掛けた。

 

 

「……先ほどの話ですけど」

「ん? 何の話だったかの?」

「俺の顔をみて、何か言いかけてましたけど?」

「おぉそうだった。……しかしさっきの騒ぎでやる気がうせてしまったわい」

「はぁ……」

「わからないのか? 商売だよ、商売! ああいうふうに言えば占ってもらいたくなるだろう? そういうわけじゃよ」

 

 そう話すルイネロだが、あの時の迫り方は迫真過ぎて、毎回商売としてやっている風には見えなかった。

 正直、レイフェリオは何かを知られたのかと動揺したくらいだ。

 

 

「……広場に行くか」

 

 

 腑に落ちない気がするが、今は騒ぎを確認するのが先だろう。

 レイフェリオも酒場を後にした。

 


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