マイエラ修道院までは道に沿って歩けばいいらしい。
だが、その道中には魔物がうようよと姿をみせていた。
「……目玉?」
「目玉、だね」
「目玉でがす……」
先陣を切ってレイフェリオたちの前に出てきたのは、青色の一つ目の魔物が四体。大きい目をギラギラさせながら一斉にこちらに飛び跳ねてくる。短い手に代わって、その足で重量をかけてくるのが攻撃の手段のようだ。
「効かねぇでがすよっと!」
「ギィィ」
ヤンガスは盾を頭上に掲げ、目玉の攻撃を防ぐ。レイフェリオはその位置を飛んで逃れた。攻撃を防がれた目玉 たちは一度後退するように下がろうと再び飛び上がったが、その隙をゼシカのムチが捉えた。
「甘いわよ。はっ!」
「ギャオっ」
ムチでの攻撃は全体へと衝撃をもたらす。足を打たれ、目玉たちは怯んだ。怯んだ隙にヤンガス、レイフェリオが鎌と剣を向け一気に畳みかける。
「ムシャァァ」
目玉たちはそのまま魔力を霧散させていった。
強敵ではなかったが、妙に集団行動をとる魔物だった。
「……魔物同士が連携するなんてことあり得るの?」
「今まではそういう奴に余りあったことはないな。言語を話す魔物同士ならありえないわけではないけど……」
だが、同じ種族同士であるならばありえない話ではない。
これが別の種族同士でも起こりうるとなれば、更に注意が必要だろうが。
「話をしている暇はなさそうだ。次、来る」
「……みたいね」
先手必勝。待つのではなく、こちらから魔物へと向かっていった。
それから何度か戦闘を繰り広げて道を進んでいくと、建物が見えてきた。尖塔が見える建物、あれがマイエラ修道院だろう。
日が暮れてきたこともあり、灯りが灯っている。
「……ここが修道院ね、初めてきたわ」
「アッシには縁がない場所でげすよ」
各々が感想を述べる。
中に入ると、祈りを捧げている僧侶がいた。何やらぶつぶつと言っているが内容は……騎士団への入団だった。
聖堂騎士団がどれほどよいのかレイフェリオにはわからないが、できれば関わりたくないというのが本音だ。
二人と違ってレイフェリオはこの場所に来たことがある。
幼き頃だったため、知り合いは恐らく一人しかいないとは思うが、それでも変に緊張が宿るのを止めることはできない。
「兄貴、どうかしたでげすか?」
「えっ……いや、なんでもないよ」
「で、どうする? 聞き込みでもしてみる?」
「……そうだな、そうしようか」
全員で行動するよりは効率がいいだろう。
まずは分散して聞き込みをして、後で聖堂前に集合ということにし、散らばることにした。
レイフェリオはまず祈りを捧げている僧侶たちへ声を掛ける。
「すみません、お話を伺いたいのですが?」
「巡礼でしょうか?」
「いえ、旅の者です」
「そうでしたか。ここマイエラ修道院は心に安らぎを与える場所です。身体の疲れをいやすなら近くにあるドニの町で休むのがいいでしょう」
「……ありがとうございます」
「して、何をお聞きになりたいのですか?」
「道化師のような恰好をした人物を探しているのです。何か知りませんか?」
「はて……道化師、ですか。そのような人はお見かけしてませんね」
「そうですが、ありがとうございます」
同じように他の僧侶にも聞いてみるが、誰もドルマゲスの姿は見ていないという。修道院という場所柄、近づきにくいものがあるのかもしれない。近くにあるというドニの町で情報を探すか、と聖堂へ向かおうとすると怒鳴り声が響いて来た。
「……この声は、聖堂の奥からか」
足早に声がした方へと急いだ。
聖堂の奥、そこにはヤンガスとゼシカを前に、青い服装の聖堂騎士二人が立ちはだかっていた。
「怪しい奴め。この奥に何用だ!」
「別に用があるってわけじゃないわ。何があるのか聞いただけじゃない?」
「この奥には許可があるものしか立ち入ることはできない。この騎士団の刃にかかって命を落としたくなければ、即刻去るがいい」
「はぁ!?」
騎士は腰に掛けていた剣に手を掛け二人を威嚇している。
援護に入るべきか迷っていると、上から物音が聞こえてくる。
「何の騒ぎだ? 入れるなとは命じたが、手荒な真似をしろとは言っていない。我が聖堂騎士団の評判を落とすな」
「!? こ、これはマルチェロ様、申し訳ございません」
上から聞こえてくる声の主は立場が上らしく、先ほどまでゼシカたちを威嚇していた騎士二人は膝をついて頭を垂れた。
「私の部下が失礼を働いたようで、すまない。だが、よそ者は問題を起こしがちだ。この修道院を護る我々の立場から見ず知らずの旅人を通すことはできないのだよ」
「はぁ……」
「ただでさえ内部の問題に手を焼いているのでね……」
「内部の?」
「いや、こちらの話だ。この先は修道士の宿舎になっている。君たちには無用な場所だろう。部下たちは血の気が多いのでね、次は止められるかわからない」
それだけいうと、マルチェロは身をひるがえして去っていった。
最後のは嫌味か、忠告か。後者だとは思うが、聖堂騎士団の有様はここの修道院の院長の人柄とは違うようだ。
「大丈夫かい、二人とも」
「あ、兄貴!」
「大丈夫よ。ちょっと声を掛けただけなのに騒ぎ立てるんだから、迷惑かけられたのはこっちよね」
先ほどのやり取りに不満があるようだ。だがここはまだ聖堂騎士団の本拠地、愚痴を言うのもここを出てからの方がいいだろう。
「とりあえずは、ドニの町へいって休まないか?」
「そうね……あらかた聞くことは聞いたわ。そこで突き合わせをしましょう」
「がってんでがす」
これ以上ここにいる必要はない。二人も出ていく足が速くなっていたのは気のせいではないだろう。