錬金釜
船が船着き場へ到着した。
町ではないが、宿屋も商店もあり、この先へ進むための準備を整えることができる場所だ。
「レイフェリオ、わしとミーティアは先に外で待っておる」
「ええ、わかりました」
「ではな」
トロデ王は馬車に乗り、外へと向かっていった。
その様を見ていたゼシカは怪訝そうな顔をする。
「……あの人って」
「あー、話せば長くなるんだけど。ドルマゲスの呪いにかかってあんな姿になってるだけで、本当は人間なんだ」
「ちなみにあの馬は姫らしいでがすよ」
「姫? じゃあ、あの魔物みたいなのは?」
「……一応、トロデーン城の王様、だよ」
ゼシカは信じられないという表情をしたが、すぐにうんうんと首を縦に振った。
「……それが貴方たちがドルマゲスを追う理由なのね?」
「そうでがすよ。まぁアッシは兄貴についてくだけですがすから、おっさんは二の次でげすが」
「ふーん。ならレイフェリオはどうなの?」
「……俺の場合は乗り掛かった船だから、かな」
正直に言えば、トロデーン国が呪われたという事態はサザンビークにとっても重要な事態なのだが、レイフェリオは旅人としてトロデ王に協力しているのだ。ならば、そう説明する以外には理由は思い付かない。
「どういうこと?」
「俺は旅をしていてたまたまトロデーンを訪れていたんだ。そこからは成り行きでここまで来てる」
「そう、なんだ」
「……」
レイフェリオ自身にドルマゲスを追う理由がないことに、ゼシカは拍子抜けしたように見えた。
何か言わなければと思ったが、この時のレイフェリオに上手い説明は見つけることが出来なかった。
「とりあえずは、少し情報を集めてみよう」
「そうね、目撃者がいればいいんだけど」
気を取り直して話を聞いて歩くことにした。
だが、色々な人に聞いてもドルマゲスらしき人物の話は聞くことは出来なかった。
話の内容は主にこの先にあるマイエラ修道院についてだ。
聖堂騎士団を有し、マイエラ修道院の院長であるオディロを守護する精鋭部隊。どうやらファンもいるようだ。
「……マイエラ修道院か」
「いってみるでがすか?」
「ここにいるよりはいいんじゃない? 私は賛成よ」
「……」
マイエラ修道院へ行くことにゼシカは異論はないようだ。恐らくヤンガスも同じだろう。
レイフェリオは気が進まなかったが、ここにいても大した情報が得られないという点については同感だった。ならば、人が集まるであろう修道院へ行くのが無難だろう。
「……わかった。じゃあ外に行こうか」
極力何でもないように装い、レイフェリオ外へと向かった。
外では、トロデ王が何やら馬車の中を探っていた。レイフェリオたちが出てきたことにも気が付いていない。
「おっさん、何をしてるんでがすかね?」
「さぁ……トロデ王?」
「!? わっ!」
声を掛けると、ガタンという音と共にトロデ王の短い悲鳴が聞こえた。どうやら転倒したらしい。
頭を抱えながら顔をだしてきた。
「こらっ! 突然声を掛けるでない!」
「……すみません。何をしていたのですか?」
「うぅ、まぁいいじゃろ。ふふん、これを見るのじゃ!」
そういってトロデ王が示したのは馬車の中にある灰色の壺のようなものだった。
期待感の籠った目でトロデ王は視線を送ってはくるが、これが一体何なのかはレイフェリオたちにはわからない。
反応が薄いことにトロデ王の機嫌は降下した。
「なんじゃ! その反応は!!! これこそ我がトロデ―ン国の宝の一つ、錬金釜じゃぞ!」
「錬金釜、って兄貴なんでがすか?」
「あぁ……確か物同士を結合させることで新しい物に変化させることができる魔法の釜、だったんじゃないかな」
城にいた頃に読んだ書物の知識を引っ張ってくる。その回答は合っていたのか、トロデ王は途端に機嫌を変化させる。
「その通りじゃ! レイフェリオはよく知っておるの。その魔法の釜は我がトロデ―ン国にもあったのじゃ。出発前に運び出して、今まで手入れをしてきたのじゃが、それが今使えるようになったというわけじゃな」
「へぇ。それで、どうやって使うの?」
ゼシカも興味を持ったのか釜を覗き込む。見た目は本当にただの釜にしか見えないが、確かに魔力を感じることはできる。
その魔力が物質を変化させているのだろう。
トロデ王の説明はとりあえず物を入れてみろ、ということだったので、手っ取り早く持っていた薬草を二つ入れてみる。
「よっし! 見ておれよ!」
蓋をしめると釜から魔力が発せられた。
「うわっ! なんでがすか?」
「……すごい魔力ね」
「あぁ」
呪文を普段から使うゼシカとレイフェリオには感じられる魔力の力だが、呪文を覚えたばかりのヤンガスと魔力を持たないトロデ王にはわからないらしい。
そうこうしているうちに、魔力の発動が止まった。
「……終わったみたいだ」
「そうね。開けていいんじゃない?」
「よし、開けるぞ」
トロデ王が釜の中から取り出すと、それは先ほど釜に入れたはずの薬草ではなかった。
「これは、なんでがすか?」
「……上薬草。ただの薬草よりも回復量が多い薬草だ」
「おぉ、すごいじゃないでがすか!! もっと何かないんでがすか?」
興奮するヤンガスだが、下手なものをいれても変化することはない。街や村に錬金釜の情報が落ちているかもしれないから、それを見つけてから試すのもいいだろう。
誇らしげなトロデ王だったが、今は錬金をしないということを伝えると意気消沈したようだった。
ゼシカとレイフェリオは思わず顔を見合わせて苦笑する。
「まぁ、時々要らないと思ったものを入れて試すのもいいかもしれないわね」
「!?」
「そうだね。そうするとしようか」
「! おぉ、そうかそうか! そうじゃな! これからもどんどん試してみてくれい!」
再び上昇したトロデ王の元、一行はマイエラ修道院へ向かうのだった。