ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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大聖堂へ向かいます。
ゴルドは次……次こそ(汗




聖地ゴルド
大聖堂へ


 

 翌日、レイフェリオはアイシアとリリーナ、そしてシェルトの一個小隊を連れて船に乗っていた。サザンビーク国の対応という形をとるため、船は国所属のモノを使う。元々使っていた船は、トロデたちが乗っていたがそれがどこにあるのかはわかっていない。トロデたちだけでも無事であるならばいいのだが。

 

「殿下、大聖堂へ到着します」

「わかった」

 

 何度も通ってきた海路。魔物は多いが、今のレイフェリオの相手ではない。そもそもアイシアの巫女の祈りによって、魔物たちは船に近づくことさえできなかった。レイフェリオにも法皇から受け継いだ法力があるので、似たようなことはできるのだが、アイシアが譲らなかったのだ。

 

「無理はしないでもらいたいな」

「そのままレイ様にお返しします」

「……全く」

 

 意を決めたアイシアの心は強い。それに巫女姫としての存在価値を誰よりもわかっている。この大聖堂においては。

 上陸し、レイフェリオは法皇の館へと続く道へ向かった。案の定というか、そこには聖堂騎士団員が立っている。レイフェリオとアイシア、そしてサザンビークの騎士たちの姿を見て、聖堂騎士団員は怯んでいる。

 

「お前、誰の指示でここに立っている?」

「じ、次期法皇となられるマルチェロ様のご指示でございます」

「次期法皇か……おかしいな、猊下に一任されていた私には初耳だが。どうだアイシア?」

「私も初耳でございます。亡き法皇猊下の意志を継ぐのは、レイフェリオ殿下だけでございますもの。法皇猊下の法力を受け継いだものが、その権利を得る。大聖堂に置いては常識です」

「いや、そのしかし……」

 

 目を泳がせながら聖堂騎士団員は焦りを見せている。ここを任されたのは間違いないだろう。だがその指示を出す人間が間違っている。ここを管理するのは法皇であり、自称次期法皇などではない。そしてその権利をいま有するのは、法力と意志を受け継いだレイフェリオだけなのだ。

 

「私に意見を異議を唱えるか? それともお前が忠誠を誓うのは神ではなく、一個人だというのか?」

「聖堂騎士団員として騎士団長の、マルチェロ様の指示に従っているだけです。ですが、マルチェロ様は法皇になられますから、ここも既に――」

「法皇にそいつはなれない。よってその指示は無効だ。この大聖堂の頂上、法皇の間は亡き猊下の意志により私が継ぐことになっている」

「は?」

 

 法皇になる予定の人間だから、その指示に従うと言いたかったのだろうがそれは無効だ。レイフェリオは、法力を受け継いだ証として、その場で左手を差し出す。そして法力を乗せて聖十字の証を見せた。これは法皇だけが有する法力の一つ。簡単に法皇の証を持つと明示するのに便利だというだけで、それ以外の効力など持たないらしいが。

 

「これこそ法皇であることの証です。ここを通しなさい」

「え、あ、その……」

「巫女姫たる私の言葉を信じませんか? であるならば、我々の大聖堂には不要な者でしょう。法皇猊下の御意思に従わないというならば、大聖堂も不要ということ。即刻立ち去りなさい!」

 

 混乱しながらも退く様子はない。マルチェロは信仰心ではなく、力と欲によって忠誠を集めているらしい。ここで引けば、傍に居た恩恵も得られなくなりここの門番という地位も失う。大聖堂の騎士団員というのは、修道院出身者からすれば、大層な地位に見えるだろう。この期に及んで、そういう考えを巡らせること自体、聖堂騎士団員としての心構えに欠ける。

 

「シェルト、拘束しろ」

「承知しました」

「なっ⁉」

 

 彼を拘束する。そして他の騎士に管理を任せて、レイフェリオたちは法皇の館へと向かった。そこにも聖堂騎士団員がいる。見知った顏がいないということは、あの場にいた騎士たちはおそらくもうここにはいないのだろうか。拘束されているだけならばいい。目を凝らせながらレイフェリオは、法皇の館の前に立った。そしてその場で胸に手を当てて祈る。

 

「猊下……」

「レイ様」

 

 この館で法皇は亡くなった。近くにいたのに救えなかった。その責がなくなったわけではない。これは決意だ。この先、この力を利用する。利用してマルチェロを追い落とす。今、レイフェリオが持つ地位も力も全て利用する。その為にここまできたのだ。

 館の内部へ入れば、聖堂騎士団員がレイフェリオたちを取り囲む。アイシアを守るようにレイフェリオは背後に庇った。

 

「……巫女姫様、それにサザンビークの王太子殿下、この地へ何用でございますか?」

「そういうお前は誰だ? なんの権利があって私たちを止める?」

「私たちは次期法皇であるマルチェロ様よりこの警護を任されております。いかなる人間であってもここを通さぬように、きつく言い含められております。それが巫女姫様であっても」

 

 ここでも同じだ。マルチェロは自らを次期法皇と言っているらしい。本当に馬鹿にしている。レイフェリオは肩を竦めた。

 

「猊下を手に下した本人が次期とは笑わせる。そもそも、法皇の間に入れぬ輩が法皇になることはできない。そんな常識も知らないと見える」

「なっ⁉」

「お爺様が法皇の力を託したのはレイフェリオ殿下です。マルチェロなどという騎士団員ではありません」

「お言葉ですが巫女姫様、王太子殿下。マルチェロ様は騎士団長であり、大司教も不在の今は彼こそが法皇の座に相応しいのです。それに、マルチェロ様が法皇様を手に掛けるなどと……そのようなことありません。彼は侵入者を拘束し、お守りした側なのです」

 

 侵入者というのは間違いなくククールたちのことだ。それを利用したのだろう。

 

「守ったというのならば、何故法皇は御された? 亡くなったのはその後だ」

「以前から体調も良くありませんでしたので、タイミングが重なっただけでしょう」

「それを本心で思っているのであれば愚かだな。話にならん」

 

 周囲の聖堂騎士団員たちも同じ考えなのだろう。あくまでマルチェロに従い、レイフェリオたちを通す気がないようだ。

 

「何と言われようとも、ここを通すわけには参りません」

「ではどうする?」

「多少手荒な真似をさせていただきます」

「私を倒すというのか?」

「……ここで引かないというのでしたら、そういう手を使うしかありません」

 

 

 次々に剣を抜く音が聞こえる。戦ってでも止める。だがこれはこちらも願ってもないことだ。

 

「殿下――」

「お前たちは手を出すな……いいだろう、私一人で相手をしてやる」

 

 動こうとするシェルトを止めて、レイフェリオは剣を鞘から抜く。これまでの戦闘からしても、彼らの戦闘力は足元にも及ばない。そのような手ぬるい考えでレイフェリオを止められると思っているのならば、馬鹿にされているようなものだ。

 

「王太子殿下と言えども、手加減はしません。お怪我をなさる前に引き返した方が宜しいのでは?」

「構わない。全員でかかってこい。手加減はしてやる」

「っ! 構わない、やれ‼」

 

 聖堂騎士団員が一斉に動き出す。その動きさえも遅く感じた。かかれと言われてから動き出すようでは遅い。そのような時間、普通は待ってくれない。それが生死を掛けた戦いというものだ。レイフェリオは迷わず聖堂騎士団員たちを倒していった。当然、殺してはいない。アイシアの前でそのような汚いところを見せるわけにはいかないし、王太子という立場で訪れている以上は、それなりに配慮する必要もある。

 

「……ば、かな」

「こんな腕で聖堂騎士団員、それも法皇の館の警護が務まるとはな」

 

 全員が倒れてもレイフェリオは汗一つ、呼吸一つ乱れていなかった。レイフェリオからすれば遊戯のようなものだ。だがこれで邪魔者はいなくなった。

 

「鍛錬が足りない。そもそも、楽をしてこの場に来たからこそその地位にすがる。聖堂騎士としての誇りが少しでもあるならば、もう少し必死にもなるだろうが……お前たちにはその意志が視えない」

「っ……」

「ただマルチェロに使われる人形であるお前たちに、私が負けるわけがないだろう」

「にん、ぎょう、だと?」

「奴はお前たちのことなんて考えていない。力を権力を手に入れて何をするのかは知らんが、そのために誰かを蹴落とし、その命まで奪う。そんな奴に、法皇の力は渡せない」

 

 剣を鞘に収めると、レイフェリオは上を見上げた。法皇の間はこの上にある。階段を上り、その扉の前へ来る。すると、その扉の前には印が施されていた。法皇が死すと自動的に発動する魔法陣らしい。

 

「これが……」

「はい。もしレイ様が法力を受け継いでいなければ、試練を受けることで力を受け継ぐことも出来ると言われています。ですが、お爺様が遺言を残したため、それすら受けることが出来なくなっているはずです」

「悪用されない仕組みか……本当に七賢者といい、難解なことをやってのける連中ばかりだ」

 

 感心している場合ではない。レイフェリオは魔法陣に手を添えて、力を集中させた。魔法とは違う力。法力を使うのは、今までよりも集中力が必要だ。慣れ親しんだ力ではないからか、違和感を覚えることもある。それでもこれは法皇からの意志。レイフェリオはそれに応える義務がある。左手から聖十字の印が浮かび、魔法陣の封印が解かれる。と同時に、法皇の館を中心に強い光が迸った。

 

「ま、さか……このようなことが」

「どういう、ことだ? マルチェロ様が法皇ではなかったのか?」

 

 気が付いた聖堂騎士団員たちが口々に困惑を口にする。法皇の間にある封された魔法陣。これを解けるのは法皇だけ。その程度の知識はあったらしい。

 

「シェルト」

「はい」

「元々ここを警護していた騎士の居場所を吐かせろ。もしもの時は弔いたい」

「……お任せを」

 

 今ならば口を割るかもしれない。彼らの対応をシェルトに任せて、レイフェリオはアイシアと共に法皇の間の中へと入った。

 

 


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