ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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お待たせしました!続きです。

番外編ではありませんが、アイシアとレイフェリオの話です。
大聖堂へ向かうのは次に(;^ω^)

ここ、やっぱりケリとつけておかないとと思いまして。。。


意外な行動

 

 自室に戻ったレイフェリオは、アイシアを伴っていた。明日以降の動きについてすり合わせをするためだ。テーブルに向かい合う形で座る。

 

「大聖堂がどうなっているかが気がかりではありますね」

「大聖堂の法皇の間は、恐らく立ち入りが許されていないだろうな。代々の法皇は、聖地ゴルドにて洗礼を行うらしいが、法皇の間に入れないのならばそちらにマルチェロがいる可能性もある」

 

 法皇の間に立ち入れるのは法皇のみ。洗礼の儀を終えれば叶うと思っているのならば、それはとんだ勘違いだ。本来、次期法皇というのは指名制である。不慮の事故等で亡くなった場合を除けば、だ。今回はそういった類になる。悪意ある者たちに法皇の力の一つである法力が渡る可能性も考慮し、時として法皇が遺言を残すことがあった。それが今回レイフェリオが預かった力だ。

 

「お爺様のお部屋には、これまでの歴史や代々の巫女姫たちが視た夢見の結果も残されています。もしかすると、レレイ様にお役に立てることもあるかもしれません。そういったものは法皇自身のみに閲覧が許されておりますので、私は知り得ませんでしたが」

「歴史、過去の出来事か……確かにそこならラプソーンの情報もある可能性があるな」

「……その御名の存在が、レイ様が闘っている相手なのですか?」

 

 アイシアの言葉に、レイフェリオは目を瞬いた。それもそのはずだ。アイシアはククールたちではない。ラプソーンの情報も、これまでの戦いで起きたことも何も知らない。そもそもレイフェリオたちが何と戦っているのかを知らないのも当然だ。

 

「そうだ」

「お聞かせ願えますか?」

「……あぁ、知っておいてもらわないといけないだろう。この先についても、法皇猊下が何をなさっていたのかも」

 

 法皇は賢者の子孫だった。だが、それ以上にアイシアにとっては大切な肉親の一人。その存在がどういう理由で狙われていたのかを知る権利がアイシアにはある。

 暗黒神ラプソーンと七賢者。各地にいるその子孫たちが封印の礎となっており、その封印の基礎となった杖。恐らく杖の封印は、賢者たちの命を以て解除されるようになっていた。彼らの命が続くことは封印を解く可能性もあったが、それと同時にラプソーンの存在を忘れないためでもあったのだろう。その最後の砦が法皇という存在だった。目の前まで来て、レイフェリオは何も出来なかった。法皇を救うことも、止めることも出来なかった。

 

「こうなることを猊下は……全て承知の上だったのだろうな」

「レイ様……」

 

 レイフェリオは両手を見下ろした。どこまでが猊下が覚悟していたことなのかはわからない。だが、レイフェリオが伝えに言った時の法皇は、本当に驚いていたように見える。まさか、と言っていた。それはラプソーンが復活することを指していたのか、それともこの時代にという意味だったのか。予期していたことが当たっていた、という可能性もゼロではない。結果として、レイフェリオとアイシアを逃がすことを法皇は優先した。

 

「お爺様は託したのだと思います。レイ様にこの世界の命運を。それが法皇としての、お爺様の御意思なのでしょう」

「アイシア?」

 

 顔を上げて正面に座るアイシアを見る。彼女はどこか寂しそうに微笑んでいた。

 

「少しだけ寂しく思いますが、それでも最期まで法皇であったお爺様を誇りにも思います」

 

 家族としての言葉ではなく、法皇としての言葉が最期だった。アイシアも祖父と孫というよりは、法皇と巫女姫という関係性が先に出ていたらしい。実際に家族として過ごした日々は、数えるほどしかないのだろう。それも想像することしか出来ない。

 公としての立場と私としての立場。最後の最期でも公という立場でしかいることが出来なかった。仕方がないと分かっていても、それでもどこかで望んでいたのだろう。

 レイフェリオは立ち上がると、アイシアの前へ行き膝を突いてその手を握りしめた。

 

「レイ様?」

「猊下は常に君のことを心配していた。それは本当だ。俺が聞いた言葉も、君を一人にすることの不安を口にされていたからな」

「お爺様が?」

「両親から引き離したという負い目を、猊下はずっと思っていたのだろう。身内として近くにいても、家族として接することが出来ない。それでも猊下はアイシアを大切にしていた。それだけは間違いなく、法皇としてではない祖父としての心だったと思う」

「レイ様……っ」

 

 アイシアの瞳が震える。と同時に、アイシアがレイフェリオの胸元へ飛び込んできた。慌ててレイフェリオはアイシアを抱きとめる。

 

「うっ……」

「……ここには俺しかいない。今は巫女の仮面を被らなくていい……アイシア」

「レイさまっ……っ」

 

 レイフェリオがサザンビークの王太子であると同様に、アイシアは大聖堂の巫女姫。法皇との関係がどうであろうと、アイシアは常に巫女として見られてきた。それはどこだって同じだ。ここサザンビークでは巫女姫である以上に、王太子の婚約者として見られる。法皇を亡くしたことで、泣き叫んでも誰も何も言わないだろうが、アイシアはそれを是としなかったのだろう。

 震えながらレイフェリオの服を強く握りしめて、アイシアは嗚咽を堪えるようにして泣いていた。部屋の外にリリーナとシェルトがいるので、厳密にはレイフェリオだけでなく二人にも知られていることだろう。だがそのような事実など、今のアイシアには不要だ。必要なのは、アイシアが本音を言える場所。泣ける場所なのだから。

 アイシアが落ち着くまで、レイフェリオはその身体を優しく抱きしめていた。そうすることしか出来なかった。やがて、嗚咽が落ち着いたところでレイフェリオは口を開く。

 

「すまなかった。俺も……君に寄り添えることが出来なかった」

 

 家族を亡くした時の悲しみは理解できる。だからこそ一人にしておいた方がいいと思ったし、亡くした原因を作ったレイフェリオは傍に居ない方がいいとも思った。だが、アイシアは泣けなかったのだろう。一人になっても、リリーナと共にいても。巫女姫として、王太子の婚約者として立っていなければアイシアは己を保てなかったのかもしれない。

 

「い、いいえ……レイ様ばかりを、辛い目に合わせて……レイ様にだけ重荷を背負わせて、私は……」

「それこそ当然だ。俺はこの国の王太子だからな」

 

 王族として生まれた以上は、その責務を果たさなければならない。更にこの世界のことについては竜神王からも託された。後戻りはできないし、するつもりもない。このままにはしておけないならば、レイフェリオはそのまま進むだけだ。

 

「レイさま」

 

 漸く頭を上げたアイシアは、まだ瞳が赤くなっていた。目元にたまっている涙をそっと拭えば、アイシアは頬を赤く染める。

 

「随分と長い付き合いな気もするが、アイシアの泣き顔は初めて見るな」

「っ」

 

 そのまま腫れないようにと、少しだけ目元に魔力を流す。

 

「ありがとうございます」

「いいや。これからも泣きたいときがあれば泣いていい。ここに居る間は、アイシアは巫女姫じゃなく俺の婚約者だからな」

「はい」

 

 まだ悲しみが抜けてたわけではないだろうアイシアだったが、笑みを浮かべてそう返事をした。すると、そのままレイフェリオの首元に手を伸ばし、顔を近づけて来る。そしてそのまま自分の唇をレイフェリオのそれと重ねた。

 

「っ⁉」

 

 驚き目を見開く。ゆっくりと離れたアイシア。それでもまだその顏はすぐ傍にあった。

 

「アイ、シア?」

「私も力になります。この先の戦いでも。レイ様を巫女の力でお守りしますから」

 

 それだけ言うと、アイシアはパッと立ち上がりそのまま足早に部屋を出ていった。扉が開いた途端に、リリーナのアイシアを呼ぶ声が聞こえたが、足音と共に遠ざかっていく。

 一方、残されたレイフェリオは半ば呆然としていた。

 

「何をしたんです? いえ、そのご様子だと"何かされた"のが正しいんですかね?」

 

 部屋に残されたレイフェリオの様子から何かを察したのだろう。シェルトは溜息を吐き肩を竦めていた。そのことについて申し開きも何も出来ない状態だ。レイフェリオは前髪を描き分けるようにして片手で頭を押さえた。

 

「殿下は、そちらの方は本当に鈍いというか苦手というか。何年婚約者やっているんですか……」

「うるさい……」

 

 アイシアが好意を持ってくれていることは知っていた。だが、レイフェリオは同じ想いを返せていない。その好意というものも、レイフェリオが考え得る範囲でのこと。それが間違っていると言われても、反論のしようもない。

 

「巫女姫が殿下を好きなことなんて、殿下以外全員知っていることです。あのチャゴス王子でさえ知っていることですよ」

「お前……俺を馬鹿にしているのか?」

「鈍感だって言っているだけですよ」

「……同じじゃないか」

「何にせよ、ちゃんと向き合ってくださいよ。それも殿下の役目でしょう?」

 

 そのようなことは言われなくてもわかっている。逃げるような真似をさせてしまったのも、ひとえにレイフェリオの態度が原因だ。それも理解している、つもりではある。そう言っている時点で負けなのだろうけれど。

 

「……明日、大聖堂に向かう。お前も同行しろ」

「話を逸らしましたね。まぁいいですけど……俺だけでいいんですか?」

「いや、小隊を連れていく。正式にサザンビークの王太子として、大聖堂に異議を申し立てにいくからな」

 

 リリーナも連れていくし、アイシアも巫女姫という立場で同行する。まずは大聖堂をこちら側に付ける。そこにマルチェロがいるならば、そこで決着をつけたい。いないにしても大聖堂が先だ。

 

「承知しました、王太子殿下」

 

 


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