ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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随分とお久しぶりです。
待っていてくださった方(がいたら)お待たせいたしました!
気が付いたら一年以上振りに(泣)

ごめんなさい;;;



見送り

 身体を癒し終えて数日後、いよいよレイフェリオが戻る日となった。本当ならば、直ぐにでも城へと戻りたかったのだが、せめて完治するまでは大人しくしているようにと諭されたのだ。戦いの日々は終わっていない。中途半端な状態で向かうより、万全に整えておくことも必要なことだと。

 レイフェリオがサザンビークへと戻ると聞いて、竜神族の民らが見送りに来てくれた。中には涙ぐむ者もいた。しかし、レイフェリオ自身にはここでの記憶がないので、どう反応してよいのかわからず戸惑うばかりだ。

 

「本当に戻るのだな」

「バダッグさん、皆さん……」

 

 皆の前に一歩出てきたのは、長老たちだった。レイフェリオは頷く。

 

「はい。俺にはやらなければいけないことがありますから」

 

 ラプソーンが復活するのも時間の問題だろう。それに抗うためには、レイフェリオだけの力ではどうにもならない。ククールたちを救出しなければならないのだ。そのための種は撒いてきた。城に帰って、それを実行に移す必要がある。

 ギュッと拳を握り体内に魔力を巡らせれば、十分に満ちていることがわかる。本来の力が戻ったことを感じる。ハーフではあるが竜神族の血が流れているレイフェリオ。この場所はレイフェリオの身体にとっても魔力の巡りを良くしてくれる優しい場所だった。

 

「待て、レイフェリオよ」

 

 民たちが集まっている場所に、一際大きな魔力を持った人物が近づいてくる。その登場に、周囲が騒めいた。それもそのはず。彼は、祭壇にいるはずなのだから。

 

「竜神王様……」

「これを、其方に託そう」

「え?」

 

 彼が手に持っていたのは、柄の部分に龍の装飾が施された剣だった。今のレイフェリオが持っている剣よりも数段上の代物。見ただけで魔力が宿っていることが理解できる。

 

「これは……」

「我ら竜神族に伝わる宝剣。他にも渡したいものはあるのだが……其方は人の世界で生きていくことを決めた。ゆえに、渡すのならばこれが一番だと考えたのだが」

「……そのような大切な品をいただくわけには──」

 

 暗に断ろうとしたレイフェリオに、竜神王は半ば強引にレイフェリオへと剣を渡してきた。反射的に受け取った剣は、見た目以上に軽い。戸惑いつつ竜神王を見返せば、彼は真剣なまなざしでレイフェリオを見ていた。

 

「我ら竜神族は人の世界に手出しをすることは出来ん。だが、このまま世界が滅びるのを黙ってみていることも、最早出来んだろう」

 

 あくまで竜神族とは世界を見守る存在。世界がどういった道を辿ろうとも、ただ見ているだけ。手を出せば、その道を変えてしまうことも可能だ。それだけの大きな力を竜神族は要している。しかし、それはもう出来ないと彼は言う。

 

「始まりは我が息子だった。あの時は、人がどうなろうと構わない。我も、皆もそう考えていた。それが竜神族としてあるべき姿だと」

 

 暗黒神が現れても、それは人の業によるもの。滅びるならば致し方ない。レイフェリオはどこか冷たいその言葉をじっと聞いていた。

 

「……だが、それも間違いだったのだろう。見守る。そういえば聞こえはいいが、それはつまり世界を見放したと言うことに等しい。いや、以前はそれでも良かったのだが」

「以前は、ですか?」

「そうだ。我は知ってしまった……人の力というものを。この姿にも意味はあった。竜と人。それはどちらもなければならないものだと。だからこそ、世界を終わらせるわけにはいかぬ」

 

 

 人の姿を捨てようとした竜神王。何事にも意味がないということはあり得ない。存在している以上、意味がある。だから、竜神王は全てを受け入れることにした。

 

「其方がここに来てくれて良かった。我は心からそう思っている」

「っ……」

「ゆえに其方に託そう。この世界の行く末を。人の世界で生きると決めた、我らの希望の子よ」

 

 どれだけ望もうとも、直接世界へ何かをすることは出来ない。それでも竜神王はレイフェリオが生きる世界を守りたいと望んだ。そのための力だ。

 

「其方に負担を掛けるようですまぬ。だが、これがこれまで世界を見守ってきた竜神族の答え。それを引き受けてもらいたい」

 

 この言葉を受け入れないという選択肢はない。既にレイフェリオは腹を括っている。サザンビークの王太子として。世界を守ることは、レイフェリオにとって当たり前のことだ。だから、レイフェリオは強く頷いた。

 

「無論です。それが、俺の……いえ、サザンビークの王太子である私のすべきことですから」

「うむ」

 

 受け取った剣を腰に差す。二つの剣。父の形見と、竜神王から授けられたもの。まるで二つの種族が一緒に戦うかのようだ。レイフェリオは胸に手を当てて、頭を下げる。

 

「では、行ってまいります」

「……くれぐれも用心するのだ。ラプソーンは甘い敵ではない」

「承知しております」

 

 竜神王と視線を交わすと、レイフェリオは背を向ける。

 

「リオ」

『レイ!』

「帰るよ。サザンビークへ。ルーラ!」

 

 呪文を唱える瞬間、グルーノがネズミになってレイフェリオの方に登った。その様子に苦笑しながら、アルヴィスは再び竜神族の民たちへと振り返る。彼らが手を振って見送ってくれるのを見ながら、レイフェリオの身体は呪文の光に包まれていった。

 

 

 

 到着したのは、サザンビーク城。レイフェリオが城門へと近づくと、兵たちが慌てて駆け寄ってくる。

 

 

「レイフェリオ殿下!」

「王太子殿下!」

「今帰った」

「レイ様……?」

 

 ちょうど教会から出てきたらしいアイシアがレイフェリオの姿を見て、茫然としたように立ち尽くしている。アイシアへと身体を向け、レイフェリオは階段の上にいるアイシアを見上げた。

 

「アイシア」

「っ⁉」

 

 アイシアは駆け足で階段を駆け下り、レイフェリオへと勢いよく抱き着いた。

 

「おかえり、なさいませ。よくご無事で……レイ様」

「……心配させて悪かった」

「いえ、いえ。ご無事で戻られたなら私はそれで」

 

 涙声でレイフェリオへと縋るアイシア。レイフェリオは黙って彼女を抱きしめた。

 

 

 

 

 




今後も不定期投稿となる予定です。
なので、気長にお待ちいただけると……

本業の方が忙しいので、そちらを優先してまして;
でも完結までは頑張りたいと思っています。
どうかよろしくお願いします。


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