〜〜オフィシャルショップ〜〜
「おっ!来たな!おーい!」
「陽介!」
「うっす!」
「鳴上様、おはようございます」
「ハヤテも久しぶりだな」
翌日、約束通りショップを訪れた悠とニャル子。
先に待ち合わせ場所で待っていた陽介の肩には、火器型ゼルノグラードのハヤテが乗っている。
「神姫もちゃんと連れてきたな。なんて名前にしたんだ?」
「ああ、ニャル子、自己紹介を」
「はい!私は天使型アーンヴァルmk.2のニャル子と言います!これからよろしくお願いしますね!」
悠の肩から手の平に飛び移り、自己紹介をするニャル子。
昨日、悠にしたような分かりにくいボケは無しのようだ。
「さすがアーンヴァル型、礼儀正しいな!
俺は花村陽介。で、こっちが俺の神姫の…」
「火器型ゼルノグラード、ハヤテと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「うっし!じゃあ裏の筐体に案内すっからついてきてくれ。許可ならとってあるから心配しなくていいぜ?」
〜〜ショップ・バックヤード〜〜
「じゃじゃーん!これが神姫ライドの筐体だぜ!まあテスト用のちっちゃいやつでバトルは出来ないけどな」
陽介の案内でバックヤードに通された悠。
商品が積まれている通路を進み、ある一室に入ると、そこには神姫ライドの筐体が置いてあった。部屋の傍にはテスト用と思われる武装がダンボールに無造作に入れられている。
「なあ陽介、なんでわざわざこんなとこで練習するんだ?表の筐体や神姫センターでやればよかったんじゃないのか?」
悠の疑問ももっともだ。ただ練習するだけならこんな所まで来る必要はない。
「ん?まあそうなんだけどさ、ここの方がいい理由がいくつかあってな。
まず金が掛からない。練習用の筐体でも一回10分100円取られっからな。
そんで順番待ちだ。今日は日曜だろ?ビギナーからFバトルランカーまで色んなやつが使ってるはずだ。まあ開店直後ならいいが、後ろに順番待ちの人がいたら1プレイで交代だからな。じっくり練習なんか出来ねーだろ?」
「なるほど。店の裏の筐体なら時間を気にせず使えるな」
「あとひとつ理由があんだけど…それは追々な。じゃっ、早速始めっか!」
「ああ、よろしく頼む」
備え付けのヘッドセットを取り付け、筐体についている二本の操縦桿風のグリップ(これのボタンで武装の使用や切り替えをするらしい)をにぎり、準備を整える。
「ニャル子、準備はいいか?」
「ばっちこいですよ!」
「いくぞ!」
「「Ride On!」」
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〜〜バーチャルフィールド・神姫実験場〜〜
「あっ!いらっしゃいましたね!
本日は僭越ながら私、ハヤテが講師を務めさせていただきます」
陽介にライドの方法を教えてもらい、実際にライドしてみると、目の前にバーチャルリアリティにより作られた空間が広がっていた。
『これは?まるでニャル子の中に入り込んだみたいだ』
「はっ⁉︎頭の中で悠さんの声が!」
『ニャル子⁉︎まさか本当に⁉︎』
視界を共有し、なおかつニャル子の頭にに直接声が届いていることに驚く2人。
「落ち着いてください。もし、気分が悪いなどの症状が出てる場合は、一旦ヘッドセットを外していただいて構いませんよ?
大丈夫なら、ヘッドセットに付いているマイクのチャンネルをプライベートからオープンに変えて下さい」
『ヘッドセット…ああ、これでニャル子と視界を共有してるのか』
『それだけじゃないぜ!』
『陽介⁉︎』
「その通りです。ではまず、ニャル子様?ちょっと歩いてみてくれませんか?」
「はぁ…」テシテシテシ…
「これが何なんですか?ただ歩いただけですよ?」
ハヤテの言う通りに歩くニャル子。何でもないただ歩いただけ。なんらおかしな所はない。
「では、次は鳴上様。頭の中で『歩け』とニャル子様に指示を出してみて下さい。声に出してはいけませんよ?歩くという明確なイメージを送る感じで…」
次にハヤテは悠に指示を出す。すると…
『……(ニャル子、歩け!)』
「ん?ウオォォ⁉︎」テッシテッシテッシ…
若干ぎこちないながらも、ニャル子の意思に関係なく足が動き始め、歩き始める。
『スゴイな!これが神姫ライドシステムか!』
「ちょっ!止まれっ!」
『うぉっ⁉︎』
「キャア⁉︎」
ステーン!
悠の意思に従って動いていたニャル子の足だが、ニャル子自身が無理矢理止めようとしたため、足がもつれ転んでしまう。
『あははは!やっぱり初めはこうなるよな!』
『陽介…分かってたなら教えてくれよ…』
『いや、それじゃ練習になんねーだろ?
ほら、ガキの頃、自転車乗る練習でめっちゃ転んだりしただろ?それと一緒だって!』
「え〜…コホン。では、何故転んでしまったのか、ご説明をさせていただきます。
今、ニャル子様の身体の操作の権限はニャル子様本人と、ライドをしているマスター…鳴上様のお二人にある状態です。
…例えば、お二人の目の前に左右の分かれ道があります。その道をニャル子様は右に、悠様は左に行きたいと思った場合、それぞれが思った方向へ歩いていきます。まあ当然ですね。
これが今のライド状態ですと、身体は一つしかないところに、2つの矛盾した命令が送られることになります。右にも行きたいけど左にも行きたい、そんな状態になったら…」
『身体がエラーを起こして止まると?』
「その通りです。では、これを踏まえて、行動に矛盾をきたさないようにするには?」
「どちらの意思を優先するか予め決めておく必要があるという訳ですね!
いや〜、知識としては知っていましたが、実際に体験してみると違いますね〜!」
「本当なら2人の意思を1つにするのが1番なんですけどね」
『そうだな。だから神姫バトルは、神姫との絆が勝敗を左右するんだぜ?
神姫バトルをする神姫ってさ、マスターと心がシンクロすればするほど力を発揮するんだ。トップクラスのランカーは文字通りの一心同体だぜ!マジで!』
『そうなのか?見てみたいな』
『だったら神姫ネットにFバトルの試合の録画データが公開されてっから、見てみるといいぜ!まあトップクラスのランカー同士のバトルは動きが速すぎて
『そんなにか⁉︎』
『ああ、そんなにだ』
「はいはい!陽介様に鳴上様、話が脱線してますよ?
では、今の説明を踏まえて歩く練習をしましょう。初めのうちは二人三脚の要領で声に出しながら歩くのがいいですよ?
慣れてきたら段々歩く速度を上げて…最終的には軽く走ってみましょう」
「了解です!さあ!いきましょう悠さん!」
『よし!いくぞ!』
『イッチニ!イッチニ!』
「あんよが上手!」
『イッチニ!イッチニ!』
「あンよが上手ゥ!」
『変な合いの手止めろ!』
10分後…
『「えっほ、えっほ」』
「…うん!ちゃんと走れてますね!じゃあ次は柔軟をしてみて下さい。」
更に10分後…
「ストレッチ・パワー!!」
『す、ストレッチ・パワー!』
『ストレッチマンとか懐いな…』
「あ、あはは…えーと、次はラジオ体操です。動きが複雑ですからね!しっかり息を合わせて下さい!」
更に10分後…
ラジオ体操の最後の深呼吸…
息を吸って〜
「ヒッヒッ!」
吐いて〜
「フー!」
『ラマーズ法かっ⁉︎』
「陽介様」
『…なんだハヤテ?』
「彼らはちょいちょい漫才挟まないと死んでしまう病気かなんかですか?」
『いや、まあ、ニャル子が確信犯なのは間違い無いな…』
こんな感じで基本の練習を行った2人であった。
『どうだ悠?動かせるようになったか?』
『ああ。俺主導なら問題無いかな?』
ハヤテが用意したメニューを一通り終えた悠とニャル子。その甲斐あってか、比較的スムーズに動くようになっている。
「さすがに思考をシンクロさせるのはまだ難しいですね〜」
「シンクロは私たちもまだ出来ませんからね。焦ることはありませんよ」
『そうだぜ?神姫とのシンクロができてんのはFバトルの中でも、最上級クラスのF1ランカーくらいだしな』
「いずれはその境地に達してみたいですね〜!」
『そうなったら間違いなくランカーになれるぜ?道のりは険しいだろうけどな』
『いっしょに頑張ろうなニャル子!』
「はい!お任せ下さい!」
「陽介様」
『ん?ああ、分かった。そろそろ試してみるか…』
「へ?何を試すんですか?」
神姫バトルへの目標も出来て、やる気になった悠とニャル子。
だが、これで練習は終わりかと思っていた2人だったが、陽介とハヤテはまだ何かするらしい。
『先に謝っておくぜ相棒…すまん!』
「お二人ともすみません!1発で済ませますので!」
チャキッ!
『「はいっ⁉︎」』
いきなり銃を構えるハヤテ。銃口はニャル子の額に向けられている。
パァン!
『「痛った〜⁉︎」』
呆気にとられること僅か1秒。額に撃ち込まれたエネルギー弾。
『「アイタタタ…なにするんですか(だ)!」』
『なあ悠、神姫ライドシステムで神姫と共有するものって何か知ってるか?』
陽介はそんな2人の視線を無視し、神妙な声色で、悠に神姫ライドシステムについて質問をする。
『………確か視覚と聴覚と身体と…今撃たれて痛かったし…痛覚もか?』
急に態度を豹変させた陽介に、只事ではないと感じた悠は、すぐに冷静さを取り戻し、陽介の質問に答える。
『やっぱりか…悠、普通神姫と共有されんのは、視覚・聴覚・身体の3つだ。ヘッドセットのVRと脳波感知によって擬似的にな』
『………まさか』
悠は、陽介の出した正解を聞き、ある1つの仮説を思いつく。
『ちなみに、天城・里中・完二の3人にも同じ現象が起きた』
『ッ!…りせと直斗にクマは?』
『あの3人は神姫バトルをしないそうだから分からねぇ』
『そうか…だが、その3人にも同じ現象が起きてるなら…間違いない。この現象は…』
『『ペルソナ使いへのダメージのフィードバック』』
奇しくも、2人の出した答えは全く同じだった。
「…話が読めないんですが〜!置いてけぼりなんですけどぉ!」
悠と陽介が2人で話し込んでしまい、完全に置いてけぼりにされたニャル子。
話している内容も、彼女には分からない事ばかりだ。
「ハヤテさんは何か知ってるんですかぁ〜…?」
自分のマスターについて、まだ何も知らないという現状に気落ちしながらも、状況を理解するため、ハヤテに問いかけると…
「まぁ、一応は」
「なぬっ⁉︎私にも教えて下さい!」
「ちょっ⁉︎分かりましたから!離れて!」
フィードバック現象について知っているというハヤテに詰め寄るニャル子。
いきなり目の色を変えたニャル子に若干引きながらも、ハヤテは話を始める。
「…私たち神姫が開発される少し前に、○○県の八十稲羽市で起きた殺人事件。ご存知ですか?」
「いや、生まれる前の事件なんて知らないですよ。それで?その事件が何なんですか?」
「実は陽介様はその事件に、捜査隊として関わっていたそうで、その時の体験がフィードバック現象の原因だと考えているそうです」
「体験?一体何をしたんですか?」
「それがですね、この件については箝口令を敷かれてしまってまして。
まあ、話の内容があまりにも突拍子がないというか現実味がないというか…誰にも信じてもらえないようなものというのもありますが…
話したとしても、厨二乙と片付けられて終わりですよ」
「御託はいいんですよ御託は。さっさと話してもらえます?」
「いや、箝口令を敷かれてるって、さっき言ったばかりじゃないですか!どうしても知りたいと仰るなら、鳴上様に聞いてみたらどうですか?」
「なんで悠さんが出てくるんですか?」
「鳴上様も関わっていたからですよ。しかも事件の捜査隊のリーダーとして」
「今明かされる衝撃の真実ゥ!」
「いや、そこまで大袈裟にするほどじゃ…」
『ニャル子〜?そろそろ終わりにするけどいいかー?』
「あ!悠さん!」
ニャル子とハヤテが話している間に、悠と陽介の話も終わったようだ。
『じゃあ電源切っから引き上げてくれ』
「了解いたしました」
「やめるときもこのリフトで戻ればいいんですね?」
「はい、ではお先に行きますね?」
「………よし、片付け終わったぜ」
「片付けもやらせてしまって…悪いな陽介」
「いいっていいって!むしろ客にやらせて何かあったらそっちの方がヤバいしな」
練習を終えて、筐体を片付ける陽介。
店員として日頃から触っていることもあり、片付けはスムーズに終わった。
「で、この後は…少し早いが、一旦昼を食べに行くか?」
「そうだな。フィードバックについてお前の意見も聞きてーし」
「ニャル子もそれでいいか?」
「ええ、私も悠さんにたーっぷりと聞きたい事がありますんで!」
どうやら、積もる話もあるので早めに昼食をとるようだ。
「うっし!じゃあ行くか!」
〜〜ワクドナルド神姫センター前店〜〜
「おいコラにいちゃん、やったこと全部吐けオラァッ!どうせお前が全部やったんだろう!吐いて楽になれよ、なぁ?」
「大きな声を出すなニャル子!周りに迷惑だろ⁉︎」
昼食をとるためにワックへやってきた悠たち4人。昼前に入ったので、混雑する前に席を確保できた。
が、それでも日曜ということもあってか、結構な客数が入っており、ニャル子の悪ふざけが周りの注目を集めてしまい、若干居心地が悪い。
「はぁ…陽介、アーンヴァル型の性格って確か真面目で素直だったよな?」
「あ〜…たまにいるんだよ、こういうイレギュラーな性格してる神姫。個性だと思って諦めてくれ」
「そうか…」
ハズレを掴んでしまったのかと肩を落とす悠。
「ほらっ!早く話してください!harry up!」
「分かった分かった!何から話すか…」
そんなマスターの気持ちを露ほども知らず、早く話せと急かすニャル子をなだめつつ、当時の事件について思い出す悠であった。
番長説明中……
「…なんですかそれ?ペルソナ?シャドウ?ハヤテさんの言った通り、こりゃあ誰も信じないですね〜」
ニャル子に事件の説明を粗方終えた悠。ニャル子は半信半疑のようだ。
まあ、こんな現実離れした話を信じろという方が無理があるのだが。
「で、結局俺らペルソナ使いにはなんでフィードバック現象が起きるんだ?ヒントも何もね〜しな…」
「推測や憶測の域を出ない仮説だが、神姫ライドで一体化すると、脳が神姫をペルソナと誤認するとか…」
「あ〜…あ〜⁉︎ちょい待ち!もしそうなら、俺らバトルですげー有利になるんじゃね⁉︎」
「どういうことだ?」
陽介は悠の立てた仮説に、すごい勢いで食いついてくる。どうやらバトルに関わることらしい。
「説明しただろ?マスターと神姫の心がシンクロすればするほど神姫は強くなるって!
もし本当に神姫をペルソナと誤認してんなら、ライド中は神姫はもう1人の自分ってことになるだろ?シンクロも絶対しやすくなるって!」
陽介は、悠が立てた仮説を元にした、神姫とペルソナ使いの優位性について熱弁を振るう。
「確かに…だがこれはあくまでも仮説だ。
実証するにはそれこそ神姫のメインプログラムやCSCを弄る必要が出るだろうから…」
「まあそうなんだろうけどさ、今重要なのはそこじゃねーって!
その仮説がまちがってたとしてもさ、普通の人よりも深く神姫と繋がってるのは間違いないんだ。絶対バトルに有利だって!」
「だが、痛みのフィードバックは看過できないぞ?」
「それなら心配すんなよ。完二に色々試してもらった結果、身体には影響は無いってさ。
俺も自分で色々試したけど、どんな武装でも、静電気でバチッてくるくらいの痛みまでしか感じなかったぜ?」
ちゃっかり完二を生贄にしている陽介。妥当といえばそうだが…
「完二を実験台にするなよ…」
悠もこれにはさすがに苦言を呈する。
「や、だってあいつが俺らん中で1番タフだしさ。とにかく!お前はFバトルに挑戦するべきだって!絶対良い線いけっから!」
「それなら陽介が出ればいいんじゃ…」
「…ほら、俺はバイトで忙しいし…」
「…すまん」
「俺だって出来れば出たいんだぞ!だから俺の分まで頑張れ!」
「あの〜陽介様?」
話がヒートアップする2人の間に、今まで大人しくしていたハヤテが割り込み…
「そろそろ店内も混んできましたし、席を探している方もいらっしゃいますので、そろそろ出ませんか?」
「そうだな。サンキューハヤテ!じゃあバトルしにゲーセン行くか!」
「まあ任せておいてください!私が如何に優秀か見せて差し上げますよ!」
(その根拠の無い自信は一体どこから湧いてくるんだ…)
一抹の不安を抱えている悠だが、自分のために時間を割いてくれている親友の厚意を無駄にするわけにもいかない。
それに今は判断材料が少なすぎるのだ。
答えの出ない問に時間を割くよりも、今の時間を楽しもう。
そう思った悠は、頭を切り替えるために、殆ど氷だけになったカップを手に取り、それを呷って、中の氷を噛み砕く。
氷の冷たさが頭を冷やしてくれる。
「よし!行くか!」
こうして悠は、神姫バトルの世界へと足を踏み入れる。
彼の新たな旅路が、今ここに始まる。
破天荒な天使と共に歩むその旅路に待つものは…
誰にも分からない。
次回は私の神姫CQCをお見せしましょう!byニャル子