DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~   作:トンヌラ

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時たま迷ってるんですけど、道具名や装備名はひらがなにすべきなんでしょうか?


Episode3:旅立つ息子と親と王子

「我らの友マリアよ。これからは その美しきたましいがけがされることのないよう正しき道を学ぶのですよ。ではこれで儀式を終わります。さあ皆さん 今日のお仕事に戻りましょう」

 

 パパスとリュカは教会で新たなシスター、マリアが誕生した儀式を見守っていた。互いの再会を泣きながら喜び合った後に、ヘンリー王子に来るように言われたのだ。出来るだけ水を差さないようにギリギリになって声をかけてくれたのだがそれが仇をなしたのか、来たときにはもう終わりかけていた。

 

「せっかくの儀式に遅れてしまって申し訳ない、マリア殿」

 

 儀式が終わった後にパパスはマリアに謝罪した。しかしマリアは頭を振り、にこやかに笑う。

 

「お気になさらないでください。リュカさんとパパスさんは久々に再会したのです。私の儀式などよりもよほど大切です。それに、リュカさんが目覚めて安心しました。もう五日も寝ていらしてたのですから」

 

「そうか……五日も寝てたのか……。あのとき全然寝られなかった分を全部取り返した気がするよ。でも残念だ、君の儀式を最初からみたかったよ」

 

「ふふ、ありがとうございます。さて、そろそろ食事の時間ですので頂きましょうか」

 

「おっ、やったぜ! 飯が楽しみになったのも幸せだなあ」

 

 ヘンリー王子の言葉に皆笑顔を浮かべながら、一同はそろって食堂へと向かった。

 席を取って教会の料理人から料理の盛られた皿を受け取り、パパスは料理を見る。

 

(随分と質素だな)

 

 主食は少な目のご飯、主菜は川魚のムニエル、副菜は茹で野菜のサラダ、汁物は香草スープと豪華絢爛とはほど遠いメニューだった。しかも量も少なく、一般的な男ではきっと物足りないと感じるだろう。ただここは教会、質素倹約が当たり前なのだから仕方がない。

 席について頂きますと静かに手を合わせてゆっくりと行儀よく食べる。

 が、リュカは食事に手をつけた途端、夢中になってがっついた。胃に掻き込むように次々に食べていく。

 

(仮にも王族、仮にも王子であるんだぞ……行儀の悪い食べ方をするのはどうなのだ?)

 

「おい、行儀が悪いぞリュカ」

 

 パパスはそんなリュカに注意をする。しかしリュカの手は止まらない。幼少期、きちんと指導したはずなのだがもはや忘れてしまったのだろうかと不安に思った。

 ふとヘンリーは対面に座るパパスの肩に手を置いて宥めた。

 

「まあしょうがねぇよ。ここ10年間ずっとろくなもの食べてないんだからよ。俺もマリアも最初にここの飯食べたときはこんなんだったぜ」

 

 そうだったのかとパパスは驚く。やはり、あまり良いものは食べていなかったのか。

 パパスはリュカに詫びようとした。しかし、その刹那マリアが顔を赤らめてヘンリーに嚙みついた。

 

「わ、私は違いますよヘンリーさん! 静かに食べていましたよ!」

 

「嘘つくなよ。マリアお前ずっと泣きながらガツガツ食ってたよ。他のシスターに聞けばわかるぜ」

 

「そ、そんなはしたない真似は私はしてませんよ!」

 

 ヘンリーとマリアの言い合いを聞いていてパパスはほほえましくなる。もしかしたらこの二人は案外お似合いかもしれない。

 続いてパパスはリュカを見つめる。リュカは目に涙をためていた。よほど美味しいのだろう。よほど辛かったのだろう。パパスは儀式に向かう最中にリュカから三人の境遇を聞いていたが、毎日毎日粗悪な環境で岩を運んで、それを10年間もやったのだ。辛くないわけがない。行儀悪いなんていうことで怒るなど、できるはずがない。今日は見逃すべきだろう。それ以上の事を、リュカはやってのけたのだから。

 パパスは心の中でリュカによくやったと労いつつ、魚をリュカに分け与えた。

 

 

 

***

 

 

 

「……父さん、話があるんだ」

 

「ん、どうしたリュカ?」

 

 食事を終え、それぞれが自室に戻ったあと、リュカはパパスのもとへと来た。ちょうどパパスは自室で筋トレをしていたが、それを中断し、リュカのそばへと歩み寄る。

 

「父さん、いっていたよね? ゲマにやられる前に。母さんはまだ、生きてるかもしれないって」

 

「……ああ、そのことか」

 

 10年前、パパスは言った。

 母さんは生きている、だからわしに代わって探してくれと。あのときはもう死ぬと思って叫んだ台詞だからパパスは改めて奇跡的な生還を遂げたことを実感し、思わず笑いが溢れる。

 

「お前には全てを話さなくてはならないだろうな……わしのことも、母さんのことも」

 

 パパスはベッドに座って、リュカを手で招く。リュカは指示通りにパパスの横に座る。

 

「よかろう、すべて話そう」

 

「……ありがとう」

 

 パパスはリュカの感謝の言葉に笑顔で返すとポツリポツリと話し始めた。

 

 

 パパスの話をまとめるとこうなる。

 まずパパスはここから遠いところにあるグランバニアの王であること。

 パパスの妻、マーサは不思議な力を持っていること。

 それが恐らく魔物に狙われて魔界にさらわれたということ。

 魔界にいくには天空の装備と呼ばれるものを身に付けた天空の勇者が必要だということ。

 パパスはそれをうまくまとめてきちんとリュカに伝えきった。

 

「――というわけだ。なんとしてもわしは、その使命を果たさなくてはならないのだ」

 

 パパスの話を聞き終えたリュカはよく理解したようでなるほどと呟いていた。

 

「……それでリュカよ、ひとつ聞きたい。お前はわしと共に来るつもりはあるか?」

 

 パパスはリュカに静かに問う。

 パパスは不安だった。再びリュカを危険な目に遭わせてしまうのではと。リュカがあんな目に遭った原因はヘンリー王子ではない、自分なのだ。自分がリュカを連れ回さなければこんなことにはならなかった。

 もうリュカを巻き込むべきじゃない。そうパパスは感じた。これから何年かかるかもわからない、あての無い旅。それに付き合わせて人生を無駄にさせるのは違うのではないのか。リュカにはリュカの人生がある。妻探しは、独りだけでやればいいのだ。

 パパスはちらりとリュカの顔色を伺う。リュカはどうやら神妙な表情をして悩んでいるようだ。

 パパスはふうと息を吐いてリュカに言葉を投げ掛ける。

 

「リュカ、悩むようなら行くべきじゃない。お前の人生を、あての無い旅で無駄にする必要はないのだ。わしに気を使わなくていいんだぞ」

 

 パパスなりのフォローをいれて、リュカに断らせようとする。きっとリュカはパパスに遠慮して断れないのだろう。だが、パパスは仮に断られても怒るなんてことはしない。選択を否定する権利はパパスにはないのだから。

 

「……父さん。僕は最初から答えを決めているよ」 

 

 リュカが口を開いた。パパスはリュカを見つめる。なんと答えるのだろうか。やはり断るのだろうか。

 リュカがどんな答えを変えそうと、受け入れるように言い聞かせながら、パパスは何だと応じる。

 

 

「……僕、いくよ。父さんといっしょに、どこまでも……」

 

 

「なっ――」

 

 断るつもりでいたのではないのか? 最初から行く気だったのか? 共に歩みたいのか?

 パパスは驚きで開いた口が塞がらなかった。そして胸に何か込み上げてきた。またリュカと旅が出来る。その嬉しさでパパスは崩れそうになる。

 が、懸命にこらえ、パパスは意思に反するような警告を告げた。

 

「だ、だがいいのか? この先何年もかかるかもわからないような旅だ。もしかしたらお前の一生がそれで終わってしまうのかもしれないのだぞ! それでもいいのか……?」

 

 ここで引き下がるような息子ではないと、パパスは頭で解っていた。奴隷生活に耐え抜いた強い意志を持っているのだ、こんな弱弱しい警告でぶれるなどあり得ない。

 果たして、この勇敢で親思いな息子はこくりと首を縦にはっきりと降った。パパスはまたもぐらっと視界がぶれた。パパスは顔を伏せて必死に抑え込む。少しでも気を抜けば、泣き倒れそうだ。

 だが、そんな情けない姿は晒せない。パパスは目を強く瞑り、表情を戻した。

 

「……わかった! また一緒に旅をしよう! 早速明日には立つぞ! いいな!?」

 

「うん、分かった!」

 

「……ありがとう」

 

 パパスはつい表情を崩しながら、リュカに感謝を告げる。ああ、また泣きそうだ。とりあえず早くこの場を離れるべきだ。

 

「それじゃあ、僕はちょっと外で空気を吸ってくるよ。またあとでね」

 

 が、リュカの方から先に部屋を出ていった。正直助かったと、パパスは胸をなでおろす。

 

(再び、息子と旅ができるとは……まったく、わしも幸せ者だな)

 

 パパスは手で顔を覆いながらそっと、目から涙をこぼした。嗚咽を漏らさぬよう、必死に唇を噛む。うれし涙なのだ、恥じることは無い筈なのに、やはり恥ずかしい。息子にはやはり、知られたくはない。

 リュカは、強く、たくましく、そして優しく育ってくれた。あの過酷な環境で荒まずに成長したのだ。それが、何より嬉しく、誇りに感じた。

 パパスは腕で涙をぬぐい、顔をあげる。崩れてしまった顔も元通りの精悍なそれに戻り、一度深呼吸する。そして、ぐっとこぶしを握り締めて、ある決意をする。

 

(今度こそ、わしはリュカを守る。何があっても、必ずリュカを守る。たとえ、命を懸けても……!)

 

 あの時、リュカを守ることが出来なかった。もっと自分が強ければ、あの時リュカを守れたかもしれないのだ。だから、今度こそはリュカを絶対に守る

 パパスはベッドから立ち上がり、傍にある教会の剣を手に取って、外に出た。

 

「さて、素振りを一万回やるとするか」

 

 パパスは戦闘中のような目つきで遥か彼方を睨むと、ぶんと空を裂いた。

 

 

 

 

***

 

 

 一夜が明け、ついにパパスとリュカが旅立つが来た。

 リュカとパパスはヘンリーとマリアに一番に会いに行き、事を伝えた。

 

「えっ? お前旅立つのか?」

 

「ああ」

 

 唐突に旅立つなどと言われてマリアは驚愕していた。ヘンリーはというと、何となくそんな予感はしていたとばかりに、あまり表情は変えない。

 

「まあ、どうしてなのですかリュカさん?」

 

「母さんを探しに行くのさ」

 

「……そういえばあの時パパスさんが言ってたなあ。母さんは生きてるはずだって。二人は一緒なのか?」

 

「ああ。父さんと二人で行くつもりだ」

 

 なるほどねとヘンリーは理解したように頷く。そして、ヘンリーは顎に手を添えて、俯いた。

 

「……どうしたのですか、ヘンリーさん?」

 

 マリアが不思議そうに尋ねてくる。だが、マリアには堪えず、リュカへと迫った。

 

「な、なぁ! その旅、俺も一緒に行っていいか!?」

 

「え? ヘンリーが? どうして?」

 

 リュカは困惑した表情で尋ねた。

 

「どうしてって言われてもな……一緒に行きたいからだよ やっぱりだめか?」

 

「……ふふっ、実にヘンリーらしい理由だね。いいよ、一緒に行こう! 父さんはどう?」

 

 リュカはパパスの方を向いて尋ねた。しかしパパスは眉をひそめた。

 

「わしとしては構わないのだが、ヘンリー王子は戦えるのか?」

 

「戦えるさ。リュカと二人でムチ男をぶっ倒したしな」

 

 ヘンリーは自慢げに自分の武勇伝を語る。実際ヘンリーの体つきも良くなっているし、あの奴隷生活で武術を教わったとリュカからも聞いている。リュカやパパスの足手まといにはならなさそうだ。

 

「ならよかろう。ヘンリー王子、一緒に行きましょう」

 

「よっしゃっっ!! じゃあ早速荷造りしてくるからちょっと待っててくれ! すぐ戻るから!」

 

 ヘンリーはガッツポーズを決めて歓喜を現しながらも、すぐに自室へとダッシュで向かっていった。

 

「旅に出られるようですね。どうぞ、これをお受け取りください」

 

 マリアがリュカの前まで来て懐から袋を渡す。手に伝わった感触で、リュカはこれが何なのかを察した。

 

「ゴールド!? しかも結構な量だ……! いいのかい、こんなに?」

 

「それは兄のヨシュアから渡されたお金です。自由に使ってくれとのことですので、どうぞお持ちください」

 

「ヨシュアさん……ありがとう、大切に使うよ」

 

 リュカはお金の入っている袋をぐっと握りしめ、感謝の気持ちを伝える。

 ヨシュアとはマリアの兄で、リュカたちの脱走に手を貸してくれた人物である。しかし彼は一緒に脱出せずに、今もあの教団のもとにいる。

 パパスは無論その人については知らないが、誰だと尋ねるのは無粋な気がしたので控えておいた。

 

「はぁ、はぁ、待たせたな! 準備できたぜ!」

 

 話し終えたところでヘンリーが急ぎ足で戻ってくる。といっても彼は攫われた時にはほとんど荷物を持っていなかったので、教会からもらったたびびとの服とブロンズナイフ、それと着替えくらいしかない。対してリュカは攫われた時は荷物はたくさん持っていたので、ヨシュアの計らいによりそのまま持つことが出来る。当分は装備をリュカのお古にすることになるだろう。

 

「よし、ではいくとしよう!」

 

 パパスはリュカとヘンリーに呼び掛け、教会のドアを開けた。外の空気が吹き込んできて心地いい。パパスは大きく吸い込み、気合を入れる。

 

「本当にいろいろありがとうございました。私はここに残り、多くの奴隷の皆さんのために毎日祈ることにしました。そして、リュカさんとパパスさんがお母様に会えるようにも……。北に行くと大きな町があります。どうかお気を付けて!」

 

 見送るマリアの声を聞いた一行はありがとうと感謝を告げて、外へと踏み出した。

 そして、この大河のように長いリュカ、そしてパパスの旅路は、始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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