DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~ 作:トンヌラ
スイッチ版HEROESで忙しくて…すいません!
結婚編再開です!
リュカとビアンカと、その仲間たちは早速滝の洞窟に足を踏み入れた。肌にひんやりとした空気が触れ、リュカは目付きを鋭くさせる。いかなる危険にも察知できるようにするためだ。ビアンカを後ろに下げ、自分が先頭にたって歩くことを伝えて進んでいった。
だが、しばらく歩くにつれ、そんな警戒は無駄だったとわかった。
「グギャッ!!」
リュカたちに立ちふさがった、オークと槍をもった突撃兵ランスアーミーの群れを、ビアンカが慣れた鞭捌きで動きを牽制し、リュカとピエール、そしてゲレゲレがそれぞれ牙や剣でとどめを刺していった。
ビアンカがふうと息を吐くと剣を納めたリュカに声をかける。
「リュカすごいじゃない! ずいぶん強くなったわね!」
「ビアンカこそ強いじゃないか! 普段魔物と戦っているのかい?」
「まあね。たまにサラボナの方に買い物にいくときに護身のために魔物と戦ったりはするわ。この辺の魔物は大したことないからなんとかやれたりするのよ」
「そうなのか……とりあえずよかったよ。そこまでここはキツそうなところじゃなさそうだ。中は明るいしね」
「そうねー、レヌール城と違ってカビ臭くないし薄暗くもないし楽チンね!」
この滝の洞窟は、壁の割れ目から光が差し込んでいるため非常に視界が良い。そのため魔物の奇襲にも対応でき、道にも迷わない。ビアンカも気が楽になったようで武器の鞭を腰に仕舞ってにこにこ笑っている。いつしかリュカとビアンカは談笑しながら洞窟を歩いていた。いつもなら、常に警戒を怠らず、父と共に厳しい表情で進むのに、今回はとても気が楽だ。
「ねぇリュカ。聞こえるかしら?」
「え? 何が?」
ビアンカがふと身を屈めて耳を傍立てる。リュカも集中して音を掻き集める。すると、わずかにだが、ザザーという音が聞こえてきた。
少々駆け足気味になりつつも音のする方へ向かうと、そこにあったのはーー。
「わー! きれーい!!」
ゴオオオオと大きく音を立てながら流れる滝をみて、ビアンカは歓声を上げた。一滴一滴の水がまとまってひとつとなって、激しく、そして勢いよく流れ落ちていくのはまさに圧巻だった。まるでドラゴンが咆哮を挙げながらまっすぐ天から地へと降りていく、そんな逞しさと力強さを感じ取ったリュカも思わず感嘆の声を漏らす。
「こんな風に景色に見とれるのは何年ぶりかしら……母さんが死んでからそんな余裕なかったしね」
「そっか……僕も、久しぶりだな。父さんと小さい頃一緒に旅をしてたときに一度だけ滝を見せてもらったことがあってそれ以来かな。でも、これは一番すごいよ……」
「そうよね……ねぇ、リュカ」
「ん? どうしたんだい?」
「あっ……いえ、呼んだだけよ、何でもないわ。ほら、いつまでも見てちゃリングが見つからないわよ?」
ビアンカは笑顔を浮かべ、後ろで両手を組みながらてくてくと滝の側を横切っていった。リュカは慌てて彼女を追いかけつつも、ゲレゲレの方をみて首をかしげた。
滝を過ぎるとまたしばらくは湿った道を進んでいく。隅々まで水のリングを探索していると、ピエールがリュカの服の裾を引いた。
「どうしたんだ、ピエール?」
「あちらの方に人の気配がします。私たちは隠れた方がいいですか?」
ピエールの件の先が示す方向には確かに筋肉の張った男が突っ立っていた。ピエールたちが攻撃される可能性も無きにしもあらずだから、リュカはそっと頷く。
ピエールがゲレゲレとホイミンを連れていくとリュカとビアンカは男に近づいた。
「ここで何してるんですか?」
「ん? おう、ここにはすげえ指輪が隠されてるらしいと聞いてな。まあもっともこの俺ですら探せないのに女連れの色男に探せるとは思えないけどな! ガッハッハ!」
それだけいって男はすたすたといってしまい、リュカは呆気に取られてビアンカを見た。だが、ビアンカはプルプルと肩を震わせ、表情を険しくさせていた。
「び、ビアンカ……?」
リュカが声をかけるも、ビアンカはすたすたと洞窟の先へと進んでいってしまう。リュカと、男がいなくなって動けるようになったモンスターたちは慌てて追いかけた。
そしてしばらくしてビアンカはピタリと歩みを止める。リュカは背後から機嫌を窺うように、顔を覗き込もうとした。
その時だった。
「あーもう、ほんっと失礼しちゃうわ!!!!」
大地が震えるほどの怒号が耳音で放たれた。軽く倒れそうな衝撃を堪えつつ、リュカはどうしたんだいと恐る恐る尋ねる。
「どうしたもこうしたもないわよ! あの男、私のお尻を触ったのよ!! リュカのことを色男だとかなんとか言ってたけどあの男の方がよっぽど色男だしスケベよ!!」
「そ、そうなんだ……」
リュカは苦笑いを浮かべることしかできなかった。ビアンカに痴漢をした男に怒りどころか、もしかしたらビアンカに殺されるんじゃないかという危惧と恐怖を抱いていた。
「あんな男に指輪をとられてたまるもんですか! ほら、行くわよ!!」
なおもご立腹なビアンカはずんずんと前を歩いて先にいってしまった。とりあえずビアンカが鞭を握ってあの男をシバキに行く展開にならずにすんだことにそっと胸を撫で下ろしつつ、慌ててビアンカの背中を追った。
滝が作る幻想的な光景に何度も目を奪われつつも、一行は洞窟内を歩き回った。時に、指輪が隠されてるであろう宝箱を開けたりしたが、それはすべて別のものであった。
さていったい水のリングはどこにやらと求めているうちに足が疲れてきたリュカは休憩しようとビアンカに言おうと口を開いた。しかしーー
「あっ、ねぇ見てリュカ!!」
「え?」
ビアンカは滝へと指を指した。流れ落ちる水に反射した光が作る景色にまたも目を奪われるも、リュカは違和感を感じた。流れ落ちる水のヴェールに隠されている、半円状の横穴が見えたからだ。
「あれは……まだいってないね」
「早速いってみましょ!」
滝の裏側を通り、その横穴に入り込む。広間のような形状になっており、上からは光が差し込まれている。そして中央には、岩で出来た台座、そしてーーひとつのリングが飾られていた。
「もしかしてあれが……」
「間違いない。あれが水のリングさ」
まるで海のように深い青の色を讃えながら輝く宝石が備え付けられたリングを見てリュカは確信する。同時に、警戒心を強めて中央の台座へと歩み寄った。炎のリングの時のように突然魔物が現れないとも限らない。
リュカは剣を握っている手に力を込めて、恐る恐るもう片方の手を伸ばす。そして、二本の指でリングをつまんだ。
リュカはとっさに周囲を見回し、異変がないかを確かめる。しかしーー、なにも変わったことはなかった。
「……?」
魔物の姿は全く見当たらず、地形の変化もない。魔物の気配に敏感なピエールやゲレゲレも無反応だ。
「どうやら、なんにもなかったようねっ」
「そのようだな……ふぅ」
力んでいた体を緩めるように息を吐き出し、剣をしまったリュカはリングをビアンカに見せた。
「これが水のリングか……とってもきれいだな」
「ほんとねー! やったわね、リュカ。これで フローラさんと結婚できるはずよっ!!」
ビアンカは満面の笑みを浮かべながらリュカの腕を叩く。ビアンカにも同じようにド突きながらも、リュカは思い起こす。このリングをもって帰れば、フローラと結婚できることを。
どうすべきなんだろうか。フローラと結婚すべきなんだろうか。フローラが、妻になってよいのだろうか。仕組まれた結婚で、彼女は幸せなのだろうか……。
「ねぇ……リュカ……あなたは本当にフローラさんとーー」
リュカが思案に更けていると、ビアンカの声が小さく鼓膜に響いた。呼ばれたのかと思い、慌ててリュカは顔をあげてビアンカを見た。
「な、なんだいビアンカ? ごめん、良く聞こえなかった」
リュカがいうと、ビアンカははっと、まるで叩き起こされたときのようにびくりと体を跳ねさせ、こちらを見る。そして、あははと乾いた笑いを浮かべながら首を横に何度も振った。
「ううん、何でもないの。そうよね、リュカはフローラさんと結婚した方がいいわよね。盾も手にはいるんだし! さっ、もういきましょう!」
「……そうだね。じゃあリレミト唱えるからこっちきて」
「うん……わかった」
ビアンカはリュカの側に寄ったが、リュカに背を向けた。リュカは呪文を唱えるのに集中していたため、気づいていない。彼女が後ろを向いたことも理由も、そして、彼女が密かに雫を落としていたことも。
***
「おおリュカよ! なんと水のリングを手に入れたと申すかっ!」
「はい、ルドマンさん。手に入れてきました」
水のリングを手に入れたリュカとビアンカはサラボナの町に戻った。なぜ関係もないビアンカがついてくるかというと、リュカの結婚相手であるフローラをこの目で見たいと言い張ったからだ。断るに断りきれずに同行を許したリュカは、さっそくルドマン邸に向かって、報告した。ルドマンは嬉しそうに頬をあげてリングを受けとると、リュカの肩をばんばんと叩いた。
「よくやった! リュカこそフローラの夫にふさわしい男じゃ! 約束通り、フローラとの結婚をみとめよう! じつはもう結婚式の準備を始めとったのだよ。わっはっはっ。そうそう。水のリングもあずかっておかなくては」
ルドマンが手を差し出すとリュカは水のリングを置いた。キラリと光る美しい輝きにルドマンはため息を漏らしながらもそれをポケットに仕舞い込んだ。そしてそれは結婚式の時に渡されるとのことをリュカに伝えた。
「さてフローラ! お前もリュカが相手なら文句はないだろう?」
ルドマンの側にいた、蒼い髪の少女フローラはそっと首を降った。ただ、彼女の表情はどこか迷いを帯びていたようにも、見えた。
「えぇ……お父様。ですが、そちらの女性は?」
フローラはビアンカの方を見て言った。ビアンカは一瞬肩が跳ね上がり、フローラを見るが、すぐに愛想良く笑った。
「え?私?私はビアンカ。リュカとはただの幼なじみよ、ねっ?」
「あ、ああっ。紹介が遅れました。彼女と一緒に水のリングを探したんです」
「そうなのか……いやはや、感謝いたしますぞビアンカ殿」
ルドマンがビアンカの手を握り感謝を伝えたが、応じるビアンカの笑顔はどこかぎこちなく見えた。いきなり手を握られたからだろうか。
否、そうではなかった。このビアンカの表情の意味は。フローラはそれを察し、ぎゅっと胸の上で両手を握りしめた。
「さあてと! 用もすんだことだし、私はこのへんでいくわ」
「お、おいっもういくのかい?」
「うん、だって私お邪魔なようだしね。それに父さんが心配だし。それじゃあ……」
ルドマンの手を手解き、ビアンカは背を向けて去っていこうと足を踏み出した。だがーー
「お待ちください! もしやビアンカさんはリュカさんをお好きなのでは……?」
フローラは、いつになく大きな声でビアンカを呼び止めた。ビアンカはピタリと動きを止め、フローラの方を振り向く。
「それにリュカさんも、ビアンカさんのことを……そのことに気づかず私と結婚して、リュカさんが後悔することになっては……」
「えっ……」
リュカは耳を疑った。
ビアンカは僕のことが好きなのか? そして、僕はビアンカが好きなのか?
まっすぐに、青色の少女と結ばれる道を進んでいたというのに、木が突然倒れ込んだ。そんな状況だというのに、不思議と嫌な気持ちじゃない。寧ろ、彼女が倒した木によって、何かがぽっと現れたような気がした。
(……何をいっている。僕が好きなのは、フロー……)
リュカはここで驚く。言い切れない。好きな人は誰なのか。出せるはずの答えが、出せない。フローラと答えようとしても、ちらつく。先ほど冒険した、金髪の女性が。
どうしてだ。どうしてビアンカが思い浮かぶ。僕は彼女に惚れたんだ。ビアンカはただの幼馴染みで、ただの友達で……。
誰なんだ、僕の好きな人はーー
リュカが俯いて考えている時に、ビアンカは息を吐き出して乾いた笑いを浮かべた。
「あのね、フローラさん。そんなことは……」
「見てればわかりますわ。ビアンカさんはきっとリュカさんのことが……」
「だからそんなんじゃ……」
「まあ落ち着きなさい、フローラ。私にいい案がある」
ヒートアップしそうな両者をルドマンが仲裁に入った。フローラは深呼吸して、ビアンカに少し頭を下げた。
「それでお父様、いい案とは?」
「うむ。リュカはフローラもビアンカも、どちらも好いているという状況だ」
「いやそれは……」
ビアンカが口を挟もうとするも、フローラに手で制されてしまう。
「ならば……今夜一晩リュカによく考えてもらってフローラかビアンカさんか選んでもらうというのはどうだろうかと考えたのだ」
「えっ!?」
リュカは驚きのあまり叫んでしまった。どちらか選べというのか? そもそもまだ二人のことが好きかどうかも良くわかっていないというのに、選ぶなんて。そもそも結婚することを一晩だけで考えろなんて無茶だ……。
「うむ、それがいい! 今夜は宿屋に部屋を用意するから リュカはそこに止まりなさい。ビアンカさんは、私の別荘に泊まるといい。いいかね? わかったかねリュカ?」
しまった……頭のなかで理屈をこねくりまわしているうちにタイミングを逃してしまった。
しかしリュカは諦めずにルドマンになんとか取り消してもらおうと口を開く。
「あ、あの……ですが……」
「わかったかね? リュカ」
「ですが……!」
「わかったかね?」
「……はい」
すっかり上機嫌なルドマンは有無を言わさず圧殺した。渋々首を縦に降ったリュカを見てルドマンは高笑いすると二回の自室へと上がっていってしまった。
リュカはため息を吐きながら、とぼとぼと宿に戻っていく。
リュカの人生で一番甘く、切なく、そしてとても長い夜を迎えようとしていた。
次はマージで書くの楽しみです!僕自身も悩みながらかけるので。最初にプレイしたときを思い出しますよ。