ケモ耳娘拾いました 完結済み   作:ソアさぁん!

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二幕 犬耳娘日常生活始めました
ケモ耳娘見送りました(春斗話)


「……ん!?」

 

意識が覚醒した俺が目にしたのは、何ともまあ可愛らしい寝顔のアズキだった。

 

「うわ!?」

 

基本的に女の子慣れしていない俺は反射的に跳び退こうとしたが、何故か腕が動かない。

体を起こして良く見てみると、なんと俺の手をアズキがホールドしてるではないか。

手を握られるのは初めてではないが、出待ちは初だ。

俗に言う恋人繋ぎをしている手を外そうとするが、外れない。

振り回してみても結果は同じだった。

弱ったな……。起こすにはまだ早いけど、俺準備しなきゃいけないのに。

時計を見ると五時過ぎを示していた。

俺は会社に九時出勤で余裕をもって八時に家を出るのでまだ時間はあるのだが、自分とアズキの分の昼食用の弁当と朝食を作って風呂入って……。

「アズキ離せぇ~……」

 

しかし、ぐっすりと眠るアズキは反応しない。

畜生、遅刻したらどうしてくれんだ……

 

「てかお前、なんつー握力してんだよ」

 

「女の子になに言ってるんですか!」

 

「起きてんじゃねぇか!」

 

突っ込みとともに反射的に手が出てしまい、アズキの頭にチョップがクリーンヒットした。

 

「ど、動物虐待です!」

 

頭を抱え、涙目で訴えられた。

俺は我に返るやすぐにオロオロしてしまう。

 

「わ、悪かったアズキ!」

 

手を出してしまったことを、両手を合わせて謝罪する。

アズキはしばらくの間涙目でそっぽを向いていたが、三十分ほど謝り倒したら折れてくれたようだ。

 

「……まったく。乙女兼ペットに手を出すとは何事ですか」

 

「悪かったって。だが、悪ふざけしたお前も悪いからな?」

 

珍しく機嫌を直さないアズキと一緒に弁当を作っていた。

三十分もロスしたからには、作業も早くしなければならない。そんな時、アズキが自ら手伝うと言い出したのだ。

料理が出きるのかはわからなかったが、賭に出てみれば大当たりだった。

 

「お前料理できたのか」

 

「誰も出来ないなんて言って無いじゃないですか」

 

ごもっとも。

あれ?じゃあ何でこいつは今の今までその事言わなかったの?

 

「秘密です」

 

こいつさらりと俺の心読んでくるな。そんな表情に出てるか?

っと、朝飯も作らないとな。

 

「朝飯は何が食べたい?」

 

「今日はトーストって気分です」

 

俺は食パンを袋から取り出し、オーブンに並べる。

そのころには、アズキが弁当の蓋を閉めていた。

 

「お、仕事早いな」

 

「ありがとうございます。あ、今日のお弁当は同僚さん達と食べてくださいね」

 

「?あ、ああ」

 

意図の掴めないことを笑顔で言われた。

まあ、普段がそうだから別に構わない。俺が頷くとアズキの口角がさらに上がったような気がした。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃいです」

 

朝食を済ませ、風呂に入っていたらいつの間にか時間になっていたので俺は家を出るべく玄関を開いた。

中では、アズキが手を振ってくれている。俺も振り返してから、玄関の戸を閉めた。

俺の職業はただの会社員だ。ちなみに非正規社員で契約期間を過ぎればニートとなる。

今日もまたいつも通りパソコンに向かい、字列のチェック、報告・修正をする。

 

「おはよう。今日も早いね」

 

と、突然肩を叩かれ、声をかけられた。

「……お前が遅いだけだろ。出勤時刻二分前って。義務教育で習わなかったか?五分前の行動を心掛けろって」

 

ため息を交えながら男に言うと、「まあいいじゃねぇか」と返し、パソコンの電源を起動させた。

こいつは俺の同僚。高校からの縁とかは無い、二ヶ月かそこらの関係だ。

ここから昼間でずっと仕事になる。昼食を取ったら、またすぐに再開する。特にやりがいはないが、嫌だとも思わない。それに……仕事よりアズキの面倒の方が正直疲れるしな。実際、出会ってから三日間はいろんな意味で色々ありすぎた。

ケモ耳少女が捨てられていて、頼まれて家につれてきた。この一日目から既に常識人には鼻で笑われそうな事になっている。

二日目は散歩兼買い物に行き、アズキの服を買ってやった。店ではアズキと俺を見る目が冷たくなってたな。

三日目は、今朝か。チョップ食らわせたのは本当に悪かったと思っている。

本当に、迷惑な奴だが、アズキが居て楽しいと思ってるのも事実だ。

彼女が家に来るまで、俺はあんなに感情を表に出していただろうか?

一人暮らしに不安を抱え、笑顔なんて作れていなかった気がする。

 

「やっぱり、感謝すべきかな」

 

「何か言ったか?」

 

「いや、何も」

 

小さく呟いたが、気づいた同僚が訊ねてきた。

俺は首を横に振り、時計に目を向ける。ちょうど昼時だった。

 

「さ、いったん切り上げて飯食おうぜ」

 

「?まあいいが」

 

未だに首を傾げている同僚に声をかけ、弁当をあける……

 

「ゲッ」

 

「ん?」

 

顔を思い切りしかめた俺だったが、弁当をのぞき込んだ同僚の表情はニヤけていた。

それもそのはず。弁当箱の半分を占領する白米の上には、桜デンプによってデカデカとハートマークが描かれていたのだ!

同僚はもちろん、俺は一人暮らしだと思っているし俺もアズキに関しては口外するきもない。

なので、俺は弁解の余地がないのだ。

畜生、仕返しってこれかよ……

この後、社内の同僚の間では俺がハート大好きという噂が流れたらしい。中学校かこの会社は。

 


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