ケモ耳娘拾いました 完結済み   作:ソアさぁん!

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凛之介さんとのコラボ2話目になります。

https://syosetu.org/novel/127371/


八咫烏ってMだったのか

八重が目覚めてから数分がたった。

その頃には八重の発言によりフリーズしていた私の頭も復活を果たし、今はお昼ご飯を作っている。人数が多いので作るのは大変だが、料理自体は嫌いではないので苦にならない。

因みに、2人にはお風呂に入ってもらっている。春斗さんのお家はけして広いアパートではないため、台所の近くに玄関、トイレ、お風呂があるため2人の楽しそうな声がより一層私の料理をするモチベーションを高めてくれていた。

 

お米を炒め始めるのとほぼ同時に八重たちがお風呂からあがった。横目にその姿を見ると、八重はまだ髪が濡れたままだった。これでは風邪を引いてもおかしくはない。

 

「こら、八重。 しっかりと拭かないとダメだろ」

 

「はーい」

 

私がタオルを渡そうとした時にはもう紅葉が注意しながら八重の髪を拭いていた。

 

「く、紅葉お母さん……」

 

口に出ていたのか、紅葉は困ったように微笑んだ。

 

「ねぇ、アズキも、お風呂入ったら? 」

 

急に袖を引いてきたのはクロネだ。

 

「でも、私まだ料理の途中ですし」

 

「大丈夫」

 

するとクロネは烏沙義の手を握り、自信満々に、胸を張りながら高々と宣言した。

 

「私達で作る」

 

「え、え〜と……」

 

明らかに烏沙義は乗り気ではなかった。

 

「ダメですよ、無理矢理は」

 

「じゃあ、私が手伝う! 」

 

次に元気よく手を挙げたのは八重だった。その隣で紅葉の表情が強ばった気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「八重ちゃんは、料理の経験あるんですか? 」

 

「うん、前に榊に教えてもらったんだ! 」

 

榊、この3人の家族の男性か。紅葉の話の中に何度か聞いた名前だ。確か、料理が上手だと紅葉が言ってたな。そんな人が教えたんだったら問題はないか。クロネも、私や春斗さんの料理を見てるはずだから、炒めるくらいは出来るだろう。

 

「ま、待て! 八重は向こうで座っていろ。私が手伝うから! 」

 

焦ったように手を挙げたのは紅葉。いったい何をそんなに……

 

「やりたい! 」

 

「ダメだ! 」

 

「2人とも落ち着いてください〜! 」

 

今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気になってしまった。さっきのお風呂での楽しそうな会話は何だったのか。

 

「とにかく、八重ちゃんも料理したそうですし、やらせてみてはどうですか? 」

 

「……その言葉、後悔するからね」

 

声のトーンを低めながらそう言い残し、烏沙義の手を引き居間に入っていった。

しかし、作るものは炒飯。しかも、あとは炒めるだけ。失敗なんてする事はないだろう。それに、クロネも八重もやる気十分だし、何かあったら紅葉が動いてくれる、はずだ……きっと……。

とりあえず、お風呂に入るとしよう。私も、砂埃で汚れてしまっているから。

 

 

 

 

「ねぇ、これ入れたら美味しくなりそうじゃない? 」

 

「……え? 」

 

 

 

 

 

「く、クロネちゃん? ちょっとやりすぎじゃ……」

 

「火は、しっかり通ってた方がいいと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

まさか、電車が止まるとは思ってもなかった。それだけ今日は風が強かったのだ。それにもっと驚いたのは、会社から電話があり、今日は休んでいいと連絡があったこと。クビじゃないぞ?

が、喜んでもいられない。なぜなら、俺が駅に来る時に乗ったバス以降のバスも止まっていたから。

 

「仕方無い、歩いて帰るか」

 

体が風に煽られながら俺は帰路についた。

 

 

 

 

と、ここまでが回想だ。やっとの思いで家の前までついた頃には砂埃でスーツがかなり汚れてしまっていた。クリーニングに出そうにも、明日は普通に仕事だからそんな事できないしなぁ。

気を落としながら鍵穴に鍵を差し込む。

 

「あれ?空いてる」

 

アズキのやつ、開けっ放しにしたな。後で叱っておかなければ。

……あれ?何故だろう。複数人の女の子の悲鳴が聞こえる。

って、悲鳴!?

俺は突き破る勢いでドアを開き、中に飛び込んだ。それがいけなかったのだろう。俺が飛び込んだ瞬間に、脱衣所の扉が開き、中からタオル1枚のアズキが飛び出してきた。もちろん、飛び込んだ俺は勢いを抑えることができず……

アズキの背中に衝突し、転倒した。俺がアズキにのしかかるように倒れ込んでしまったので、まるで犬の交尾みたいな体制になってしまっている。

 

「あ、アズキ、ごめん! 」

 

「春斗さん! いつの間に……っあ」

 

「あ?……あっ」

 

倒れ込み、勢いよく立ち上がるを続けて行ったせいなのか。アズキが巻いていたタオルは取れ、眼前に白い肌と2つの膨らみが広がった。

複数人の悲鳴もいつの間にか止んでいて、最終的にはアズキの高い悲鳴だけが部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、いったいどういう事だ?」

 

羞恥とショックで落ち込んでしまったアズキは部屋の隅で足を抱えている。これはいつもの事だ。いつもと違うことは女の子が3人も増えていること。それと、アズキもクロネも耳と尻尾を隠していないことだ。

 

「それについては、私が説明します」

 

口を開いてくれたのは、紅い髪の女の子だった。

丁寧な説明のお陰で、大体の事は理解した。彼女達が八咫烏って事も、風で飛ばされたところをアズキ達が保護したという事も。しかし、どうも腑に落ちない事もある。何故こんな悪天候の中、飼い主……はちょっと違うか。家族である榊って名の少年は外出を許したのだろうか?

 

「榊はちょうど学校に行ってしまったので」

 

「この風の中か!? 今の高校生どうなってんだ!? 」

 

会社ですら休みになったのに、ちょっと学校厳しすぎやしないか?

と、色々説明を受けている途中で腹の音が切なく部屋に響いた。音のした方向には、ちょうどアズキがいる。本人は顔を手で覆い、さらに小さく丸まってしまった。

 

「どうして私ばっかり……」

 

あれ?いつもとちょっと様子が変だ。アズキが恥ずかしがってしゃがみこむのは今に始まったことではない。主に俺からなにかされるとすぐに今みたいに顔を覆ってしゃがみこむ。だけどいつの間にか立ち直り、普段のテンションに戻るのだ。しかし、今はどうだ。確かにしゃがみこんでるし顔も覆っている。でも、今は、声が震えているじゃないか。理由はすぐに分かった。八重たちがいるから。客、いや、友達の前で何度も何度も恥ずかしい目にあったら、そりゃあ凹むし泣きたくなるよな。

 

「アズキ」

 

声をかけても、反応がない。

……やれやれ。仕方ないか。

俺はアズキに手を伸ばし、その頭を撫でた。いつもより優しく、繊細な物を扱うように。ゆっくりと。何度も、何度も。アズキが落ち着くまでずっとしていてやりたいが、クロネや八重達の目がある。流石に見られていると恥ずかしいものがあるな。

 

「アズキ。腹、減ったよな」

 

静かに頷いた。

 

「俺が作ってる間、紅葉さんと一緒にちびっ子達の相手を頼みたいんだ。できるか? 」

 

「でも、私……はい。できます 」

 

少し弱気になっていたが、それでもアズキは顔を上げてくれた。その目と頬は赤くなっている。

 

「よし。 任せたぞ」

 

俺はアズキの手を掴み、手の甲にキスをして、部屋から出て行った。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

唖然とすることしか出来なかった。春斗さんが優しく慰めてくれたと思ったら、いきなりキスをされてしまった。まだ、手の甲に感触が残っている気がする。

あれ?なんだろう、この感じ。キスは嫌じゃなかった。むしろ嬉しい。いつもなら、名前を叫びながら飛びついているところだ。だが、今はむしろその逆。自分でも驚くほど落ち着いている。そのせいか、やけに心臓の鼓動が大きく……

 

「アズキちゃん! 」

 

八重に肩を揺すられ、ハッとする。心臓の鼓動ももう聞こえない。

 

「す、すみません! ぼーっとしちゃいました! 」

 

「いや、それは大丈夫だけどさ」

 

「凄かったな。 私達、完全に空気だった」

 

「春斗さん、優しい方でした! 」

 

「私も榊にあんな事されたい〜」

 

バッチリ全員に見られてた!

うう、春斗さんめ。いつか絶対に仕返ししてみせます!

私は心の奥で決意した。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

忘れていた。彼女達が悲鳴をあげていた、ということを。アズキを除く3人が慌てていた理由が台所に残されていた。

フライパンに残った、半分以上焦げている炒飯の残骸。その周りにはタバスコやら七味やらが散乱している。つまり彼女たちはとんでもないダークマターを生み出してしまったらしい。

料理終わったら、食材を無駄にするなと注意しなければ。

 

「だけど、女の子の料理……か。 」

 

興味がないと言えば嘘になる。女の子の手料理だ。ちょっとくらい食べてみたくなるだろ。俺はフライパンに箸を伸ばし、炒飯の残骸を口に運んだ。

 

「辛い! 」

 

とても食えたもんじゃなかった。よく見ると、タバスコほとんど無くなってるし。誰だこんなもん炒飯に入れたの……。

が、捨てるのはもったいなすぎる。焦げている部分は仕方ないとして、食える部分は今から作る炒飯に混ぜよう。

ごく普通の炒飯を作ったあと、俺はそれに激辛炒飯をぶち込んで彼女達に提供した。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

激辛炒飯は、ぶっちゃけ不評だった。普通の炒飯と混ぜたはずなのに何故か辛さが薄まらなかったので、みんなして悶えていたのだ。たった一人を除いて。

 

「いやぁ、美味しかった〜♩︎」

 

何故、八重はこんなに笑顔でいられるのだろう。そんなに辛いものが好きなのか?

 

「あの、皆さんどうしたんですか? 」

 

因みに烏沙義のは激辛炒飯を混ぜる前に分けておいた。流石に良心が傷んだんだ。

しっかし、アズキ、クロネはともかく、かなりお姉さんっぽかった紅葉までダウンさせるとか。どんだけだよこの炒飯。確かに、俺の口の中もヒリヒリしてるが。

 

〜♪

 

いきなり携帯から着信音が流れてきた。しかし、それは俺のでは無い。充電をしたおかげで復活を遂げた、紅葉の携帯だ。

さっきまでダウンしていたはずなのに、元気そうに通話を始めた。

 

『もしもし! 紅葉か!? 』

 

「榊! 良かった! 実は……」

 

電話越しだから、榊と紅葉の会話はよく分からなかったが、紅葉は今状況を説明してるらしい。

 

「という訳で、風が弱くなるまでは帰れそうにない。 迷惑をかけてすまない、榊」

 

『いや、3人とも無事で良かったよ。 そうだ、2人に変わってくれないか? 声を聞きたいんだ 』

 

「ああ。わかったよ 」

 

紅葉が烏沙義に携帯を渡した。……なんで俺は人の行動を説明してるんだ?

 

「榊様! 」

 

様呼びなの!? 確かに金髪だし、メイド服とかも似合うかも……って、俺はいったい何を

俺がなにかに目覚める前にクロネを呼び、膝に乗せて頭をなでる。因みに今アズキは八重にもふもふされている。時々色っぽい声が聞こえるが気にしない。

 

「それじゃあ、お姉ちゃんに変わりますね! 」

 

「もしもし榊! 」

 

烏沙義から携帯を受け取った八重は、俺が見た中で1番の笑顔を浮かべていた。時々飛び上がりそうな勢いで跳ねたりしながら通話しているのを見ると、とても懐いてることが分かる。

 

「でね! アズキちゃん達の飼い主の春斗さんに激辛炒飯作ってもらったの! 」

 

ヒェ!

 

「え? 春斗さんに変われって? え〜、もう少し榊と話してたい! 」

 

仕方ないな〜と少し怒りながら俺に携帯を渡してきた。やめてくれ、絶対俺榊に怒られるじゃん。「うちの可愛い八重に何食わせとんじゃボケェ」とか言われるじゃん。

 

「あ、お電話変わりました春斗というものです……」

 

『うちの八重がご迷惑をお掛けしましたぁ!!』

 

「えぇ!? 」

 

訂正。ものすごくいい人でした。

このあと、少しの間榊と話をしていた。中々ハードそうな毎日を送っているようだが、本人は楽しいと言っていたし。それに、3人の事を話す声はとてもいきいきしてて、本当に八咫烏との生活を楽しんでいるようだった。

俺はどうだろう。いや、考えるまでもないか。楽しくなかったら、半獣との生活なんてやってけないだろ。

 

「なんか、色々聞けてよかったよ。 いつか、直接会う日があるといいな」

 

『こちらこそ、会える日を楽しみにしてます』

 

やはり、人外が家族って共通点があるからか、かなり話が弾んだ。俺が電話を切ったと同時に、パシッと言う乾いた音が鳴り響いた。

音の方向を見ると、そこにはビンタを食らわしたアズキの姿と、ビンタされた八重の姿があった。

 

「おいアズキ! お前何を! 」

 

「ご、誤解です! これは、八重ちゃんがどうしてもってお願いしてきたから……! 」

 

そんな訳ないだろと言おうとした時だった。

 

「あぁ、やっぱりワンちゃんって筋肉すごいんだね! すっごく痛くて気持ちよかったよ! ねぇ、もう1回! もう1回やって!? 」

 

あぁ、どうやら、今回はアズキが正しかったらしい。

 

「……八咫烏ってMなのか?」




バタバタしたコラボでしたが、とても楽しいものでした。ありがとうございました!

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