ケモ耳娘拾いました 完結済み   作:ソアさぁん!

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凛之介さんとのコラボでございます


ケモ耳娘コラボしました
八咫烏拾いました


「風、強すぎ」

 

深くかぶったフードを抑えながらクロネがボヤく。

 

「家で待っていても良かったんですよ? 」

 

「1人は寂しいからヤダ」

 

私とクロネは今買い物から帰ってきている途中である。今朝、春斗さんが「卵がねぇ」と呟いてたから褒めてもらいたい一心でいつもお世話になっているショッピングモールに出かけたのだ。

しかし、さっきクロネが言った通り今日は風が異常な程に強い。何度も何度も帽子が飛ばされそうになり、その度慌てて抑えている。

 

「とりあえず、早く帰りましょうか……? 」

 

今、何か……

 

「どうしたの? 」

 

尋ねるクロネに、私は首を傾げる事しかできなかった。何故なら、私が不思議に感じた事は一瞬だけ鼻腔をくすぐった匂いだったのだから。

なんというか、鳥類臭いというか、人間くさいと言うか。クロネの匂いを嗅いだ時と感覚は一緒だが、少し違う。それに、何度も言うが今日は風が強い。匂いなど風に流され今はもう消えてしまった。

 

「気のせい……でしょうか? 」

 

もう一度首を傾げてから、買い物袋を握り直し、歩きだそうとした。

 

「待って」

 

しかし、今度はクロネに止められる。

 

「なんだか、おかしな気配……」

 

それだけ言うと、クロネは塀の上に飛び乗り、走っていってしまった。因みに塀の高さはゆうに2mはあるだろう。それを助走もつけずに1跳びとは……。流石は猫だと言うしかないだろう。

とりあえず、私も追いかけるとしよう。身軽さでは負けるが、単純な足の速さなら負けない。

今にも見えなくなってしまいそうな背中を追いかけ、風に逆らって走る。もうすぐ追いつきそうなところで、クロネは急に止まった。

 

「いったい何が」

 

「静かに」

 

クロネの一言に、私の背筋は凍りついた。いつもの彼女とは違う。瞳孔が開き、フードから見える髪の毛は少しだけだが逆だっている。

……警戒、してる?

もちろん、私だって偶には警戒したりもする。しかし、毛を逆立ててまで警戒するとは、まるでそれは天敵と出会った獣のようだ。それに、クロネはある一点を睨みつけている。

その視線を追うと、そこには2人の女の子が道の真ん中で座っていた。

 

「どうしたんでしょうか? 」

 

「……行こう」

 

塀から飛び降り、パーカーのポケットに手を突っ込んで歩き出した姿は、とても男前で、私はその背を追いかける事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、もう1回やって来る! 」

 

「こら、誰かに見られたらどうする!」

 

近づくにつれて声が鮮明に聞こえてくる。声の主はやはり道で座っていた女の子。今は黒髪でポニーテールの女の子が立ち上がり、その腕を赤い、いや、紅い髪を腰まで伸ばした女の子が掴んでいる。そして紅い髪の女の子の膝の上で金髪の女の子が気絶している状況だ。

3人いたのか。

不意に、また強風が吹く。

女の子達に気を取られていたせいか、私の頭から帽子が飛ばされてしまった。ここで小さく悲鳴をあげてしまったのがいけなかったのだろう。女の子達に気づかれ、おそらく耳を見られてしまったのか目を見開いている。咄嗟に隠しはしたが、もう遅いだろう。

クロネが塀や屋根を飛び移り帽子を捕まえようとするが、既に高く飛び上がってしまっている。こんなの、もう諦めるしかない

 

「私、取ってくる」

 

「あ、待て八重! 」

 

諦めかけたその時、ポニーテールの少女が叫び、飛び上がった。そう。これは比喩でもなんでもない。少女の姿は烏に変化し、強い風に乗るように羽を広げ飛び上がったのだ。

もちろん、姿が変わったことにも驚いたのだが、もう1つおかしな点が。足が3本生えている。

そんなことを考えているうちに烏は私の帽子を咥えて風に逆らいながら戻ってきていた。そして塀の上でその姿を見ていたクロネの横を通り、ついに私の所に……

 

「シャーッ! 」

 

たどり着く前にクロネの爪の餌食となった。

剥き出しになった爪は腹を掠め、僅かだが肉を裂いていた。

強い向かい風に吹かれていた中、そんな事をされたのだ。烏はバランスを崩し、地面に墜落した。

 

「八重! 」

 

すぐに紅い髪の女の子が駆けつけてくる。もちろん、私もだ。

 

「クロネ、いったいどうして! 」

 

「……烏は、猫の縄張り争い相手。 本能には逆らえなかった」

 

俯いたまま答えた。後悔しているのか、反省しているのかは分からないが、まずは少女の安否確認が先だ!

 

「大丈夫ですか!? 」

 

「うん、大丈夫。傷は浅い。 それに……」

 

そう言って、いつの間にか姿が戻っていた少女の頬を、金髪の子を抱えながらペシペシと叩く。頭から落ちてしまったのか、気を失っているようだ。

 

「本当に、申し訳ありません」

 

「ごめんなさい……」

 

「本当に大丈夫だよ。特にこの子はね」

 

まだペシペシと叩き続ける。時には早く目を覚ませと声をかけているが、一向に目を覚ます気配がない。さらに、どう考えても私達に非があるので、この場を離れるわけにはいかない。だが見てるだけっていうのも……

 

「あの、よろしければ家で手当しませんか? 」

 

「え? それはとても嬉しいのだけど、いいのかい? 」

 

「はい。 元々私達に非があるので」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

立ち上がり、少女を背中に載せようとしていたので、代わりに私が背負った。流石に2人にも運ぶのは辛いはずだ。私の荷物は全部クロネが持ってくれたので落とす心配もない。

 

移動中に、彼女と少し話をした。

まず最初にポニーテールの女の子が行った変化について。

どうやら彼女たちは3人とも八咫烏という存在らしく、太陽から地球にやってきたとの事。実際に烏に変わるところを見てもにわかには信じられないことだった。

それを紅葉に伝えると、「私だって、君みたいな耳をつけてる人は初めて見たよ」と言われてしまった。ごもっともです。

 

順番が逆になってしまったが次は自己紹介。私達と話している紅い髪の女の子は紅葉。黒髪の子は八重で金髪の子は烏沙義。

八咫烏は元々名前を持たず、これらの名前はすべて一緒に住んでる人に付けてもらった名前らしい。あれ?なんか親近感湧いてきた。

 

お互いの自己紹介が終わったところでちょうど家についた。

とりあえず、まずは八重の治療だ。

パックリと綺麗に裂けてしまっているお腹に消毒液を垂らし、綺麗なガーゼで拭き取ってから……から?普通の切り傷なら絆創膏を貼るところだが、今は普通の状況じゃない。傷は浅く、今は血も出ていないがお腹が裂けてしまっているのだ。病院に連れて行こうにも、この子達は八咫烏、私達は半獣。病院なんて行けるはずもない。

 

「あぁ、これで大丈夫だよ。 ありがとう」

 

私が治療している間もそばで見守っていた紅葉が、私の肩を叩いて微笑みかけてくれた。それはあまりにも美しく、女である私もついドキッとしてしまった。

 

「お風呂、上がったよ……って、珍しいね、アズキが受けなんて」

 

「ご、誤解です! 」

 

何故こんな微妙なタイミングで現れるのだろうか……。もしかして狙っているのでは?

因みにクロネには目を覚ました烏沙義と一緒にお風呂に入ってもらっていた。2人とも、と言うか今家にいる全員が砂埃を浴びまくったり、地面に墜落したりで中々汚れてしまっていたからだ。

 

「烏沙義ちゃん、お湯の温度どうでした? 」

 

「はい、とても気持ちよかったです! 」

 

まるで周りに音符が出ているのではないかと錯覚してしまうほどの笑顔だった。何この子可愛い……

 

「紅葉さんも、ゆっくり入ってきてください! 」

 

「いや、私は八重が起きたら一緒に入るよ。 それより」

 

紅葉はポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「これの充電器、貸してはくれないだろうか……」

 

少しだけ恥ずかしそうに、電源がつかないのをアピールしながらそう言ってきた。

私としてはもちろんOKだ。充電器くらい、いくらでも貸してあげる。しかし、その肝心な充電器が見当たらない。

 

「充電器なら、春斗が持ってったよ」

 

さんざん探した後、クロネが私たちに言ってきた。なぜ早く教えてくれなかったのか。

私は肩を落とし、紅葉は寂しそうにスマホを眺めていた。

……きっとあの中には、大切な飼い主、いや、家族の連絡先が入っているのだろう。そして連絡もできず、さらによく分からない土地に飛ばされてしまった。こんなの、不安にならない生き物なんているはずがない。

紅葉にかける言葉を探す。が、そんな境遇に陥ったことの無い私に言葉をかける資格なんてあるはずない。

 

「あの、紅葉さん」

 

「あれ?ここって……? 」

 

何も内容を考えず、紅葉に声をかけたのと、その可愛らしい少女の声は同時だった。

私も紅葉もすぐに駆け寄る。

 

「あぁ、私、気絶してたんだね」

 

「ごめんなさい…… 」

 

「君が私のお腹を裂いたんだね」

 

深く頭を下げるクロネに、八重は優しく微笑み、「大丈夫だよ」と声をかけていた。

八重ちゃん、なんていい子なんだ……。やはり、私からもお詫びをしなければ。

私が頭を下げようとしたその時、八重の口からとんでもない言葉が放たれた。

 

「だって、すごく気持ちよかったもん♪」

 

「……え?」

 

困惑する私たちの横で、紅葉と烏沙義は苦笑いを浮かべていた。

 

 


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