何だか体が重い……
風邪でも引いたか?折角の休みに。
いや、それにしては俺の体調は別に悪くはない。
なら、金縛り……?
試しに、腕をあげてみる。
あがった。
いったい何だってんだ?
俺はおそるおそる特に重さを感じる腹部に手を伸ばす。
指が何かに触れた!
何かがのっかってやがる!
俺は目を開き首を上げ、その正体にため息をはいた。
「……おい。なに人の腹の上で寝てんだよ。起きろアズキ」
「むにゅ……」
俺の腹の上にいたのは昨日から居候しているケモ耳少女、アズキだった。
どういう状況かというと、俺とアズキでエックスを描いていると言えば分かりやすいだろうか。
「起きろ。おい起きろって」
肩を揺すってやり、起こそうとすると、彼女は目を開けた。
その目はまだ眠そうで、体を起こすとともに欠伸をしていた。
「おはようアズキ」
しかし、アズキからの返事はない。ただ細めた目で俺のことを凝視するだけで……
「わふぅ」
既に一度聞いた鳴き声をあげ、顔をにやけさせた。
次の瞬間俺に飛びかかり、押し倒してきた!
「わん!」
「ちょ!落ち着けアズキ!」
尻尾を激しく振りながら、アズキは頬に数度唇を!
「あ、アズキ!待て!それ以上は!!」
「わんわん!」
もう一度吠え、今度は俺の唇に……
到達する前にビンタを食らわせてしまいましたはい。
アズキは床に倒れ込み、数秒後に体を起こした。
「あ、あの……春斗さん……今の、どうか忘れてください……」
アズキは顔を真っ赤に染め上げ、涙を浮かべて消えてしまいそうな声量で呟いた。
「飯できたから運ぶの手伝えキス魔」
「……はい。わかりました。それと、私の名前はアズキです」
俺はキス魔に皿とお碗を渡す。
ちなみに、アズキの言い分によると、寝ぼけていると甘える犬になってしまうらしい。意味が分からないよ。
「いただきまーす!」
本当にこいつは切り替えが早いな。配膳が終わると、朝食にがっついた。
ちなみに朝食はベーコンエッグ。
米は少量が良いとのことなので少な目に入れてやった。
「おいしかったです~。ごちそうさまでした」
「落ち着いて食えよな」
太るぞ?と付け加えるとアズキは笑顔のまま固まった。
「春斗さん!お散歩に行きましょう」
朝食を食い終え、食器を洗っていると笑顔で言ってきた。
「お前ジャージだぞ?」
「わ、わんちゃんの散歩は基本全裸です///」
「却下」
「ごめんなさい冗談ですぅ!!」
服を引っ張るアズキを無視して食器を洗った。
食器の次は洗濯物だ。
アズキの散歩は昨日の服が乾いてから、つまり午後に行くことになった。
自分の下着やシャツをハンガーにかけている中で、一つ見覚えのないパンツを見つけた。
黒地の布に金色の龍がデカデカと刺繍されている。
「あ、あの……。私のパンツまじまじ見ないでください……」
「何でお前はこんな漢らしい下着履いてんだ!?」
知りたくもなかった情報だった。
「春斗さん!私は何をすればいいですか?」
「んー……。掃除するから、窓を拭いてくれ」
スポンジと窓用の洗剤を渡し、俺は床の掃除を始めた。といっても、掃除機をかけるだけなのだが。
「春斗さん春斗さん!!」
「ん?」
「見てくださいこの窓の輝き!」
アズキが指さした窓を見ると、確かにキラキラと輝いていた。
「おお、スゲェ……」
初めて良い意味で驚かされた。
「春斗さん!ん!」
「ん?」
アズキは頭を突き出してくる。
頭突きかと思ったが、その場で止まっているのでおそらく違うだろう。
尻尾は左右に大きく振られていた。
「……撫でろと?」
「言わなきゃわかんないんですか?」
「俺犬飼った事ないし」
「じゃあ撫でてください!」
上目遣いで、頬を膨らませている。
俺は髪に手を滑り込ませ、ゆっくり、優しく撫でてやった。
「わふぅ……。気持ち良いですぅ……」
膨らませた頬はかなり緩み、アズキは笑顔を浮かべていた。
「さあ!お散歩ですよ!」
「いや、服まだ乾ききってないぞ?」
午後一時位になっただろうか。掃除の後からだんだんアズキは落ち着きがなくなり、部屋をうろうろしたり俺の名前を呼んだりとしていたが、限界が来たようだ。一刻も早く動きたいらしい。
「もう別に濡れてようが全裸だろうが構いませんよ!現に今、ジャージの下はすっぽんぽんですからね!」
「おいお前今なんて言った?」
「どうでも良いです!早く洗濯物を取り込んでください!」
何故かペットにこき使われながら、俺は渋々と洗濯物を取り込んだ。
やはり、乾いているのは一部で生乾きの物がほとんどだ。
ま、どうせ俺の服なんて盗まんだろ。
俺はアズキの下着、上着、スカート、靴下のみを取り込んだ。
「ちょっ!パンツとブラを普通に持ってきますか!?」
「じゃあどうすればいいんだよ!?」
「そりゃあ、……ぐへへ、ケモ耳美少女の下着……クンカクンカとか」
「馬鹿なこと言ってないで着替えてろ。俺はシャワー浴びてくる」
頭のおかしい事を喚くエロ犬をスルーし、風呂にはいった。
たく。俺は高校生の、童貞じゃねえんだぞ。……いや、俺童貞だったわ。
「……童貞があんな可愛い子襲わないでいるんだから、たいしたもんだな」
自虐的に微笑み、俺は出かける予定を立てながらシャワーを浴びた。