ケモ耳娘拾いました 完結済み   作:ソアさぁん!

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ケモ耳娘怒られました

朝食を済ませた後、俺たちは電車とバスを使って先程CMでやっていた水族館にやってきた。なぜ秋のこの時期にと思うかもしれないが、むしろこの時期だからこそ人も好きなく快適に展示された魚を見る事が出来ると思ったからだ。

しかし、そんな思惑は見事外れ。行列こそは無いものの展示物を囲うほどには人混みが出来ていた。

 

「春斗、凄い大きい……」

 

「ここ、入るんですか……? 」

 

やけにデジャブを感じるな……。

俺が苦笑いを浮かべていると、2人は首をかしげながら不思議そうに見つめてくる。この2人の様子からして、多分夢で同じ事になってたんだろうな……。もう今朝の夢は細かくは覚えていない。が、アズキはともかくクロネまで下ネタ枠になってたなんて言ったら、2人とも怒りそうだな。

 

「もう、何ニヤニヤしてるんですか。 早く行きましょうよ! 」

 

アズキに袖を引かれ、やや駆け足でチケット販売所まで連れてかれた。大人2枚と中学生1枚購入し、2人に渡す。

 

「ところで、なんで水族館に来たんですか? 」

 

入場口をくぐると同時にアズキが首を傾げる。ここで俺は気がついてしまった。そう言えば、アズキの意見は何も聞いていなかった。クロネが行きたそうにしていたという理由だけで水族館に決めてしまっていた。

 

「クロネがCMに興味津々だったからだよ。アズキは、違う場所が良かったか? 」

 

「いいえ。クロネが楽しめるのならいいですし、私も魚は好きなのでいいですが」

 

チラリと、入場と同時に円柱形の水槽まで走っていったクロネに視線を向ける。背の小さいクロネを気にかけてくれたのか、人が避けてくれておりガラスに張り付いている。

 

「多分、クロネの興味って」

 

俺はアズキを連れ、ガラスにくっつくなと注意するべくクロネの元に急いだ。

肩を引き、ガラスから遠ざけて顔をこちらに向ける。

 

「食料としてだと思いますよ」

 

アズキが言うのと俺が驚くのは同時だった。クロネの口元はヨダレが垂れており、ジュルジュルと音を出して啜っている。まさかお前の周りに人がいなかったのって避けてくれていたんじゃなくて避けられてのか?よく見るとガラスにも付いてしまっているではないか。

周りの人に謝りつつ持ってきたタオルで拭き取り、クロネを抱いてその場から離れた。

 

「何するの」

 

強制的に魚から離された事に腹が立ったのか、珍しくクロネがムスッとしている。

 

「いや、ヨダレ垂らしてんじゃねぇよ」

 

「あんなに美味しそうで新鮮な魚が泳いでいるのに我慢なんてできない」

 

なるほど、こいつは自分の食欲には正直なんだな。今まで一緒に暮らしてきたが、これは初めて知った。これから魚料理も増やしてやるか。

 

「とにかく、ここの魚は食べられない。 帰りに魚屋よってやるからそれまで我慢しろ」

 

そう言ってやると、クロネは腹に手を当て、切ない音を鳴らしてから「分かった」と答えた。と言うか、朝飯食べたばかりじゃ……

 

「春斗さん春斗さん! あっちにペンギンがいます! あっちには鮫も! 」

 

俺がクロネに注意している時に少し見てきたのか、アズキのテンションはさっきより遥かに上がっていた。力強く袖を引かれ、よろけつつもアズキについて行く。が、ここでこの水族館の構造について思い出した。ここの水族館、鮫がいる場所は現在地からすぐ近くだが、ペンギンがいる場所は入り口右にある階段を降りなくてはならない。そう。鮫とペンギンの場所は真逆なのだ。なのにアズキはそれを指名した。つまり。

 

「……アズキ、お前走ったな? 」

 

ビクッと肩を震わせる。図星だったようだ。真逆ではあるが、決して遠くはない。そして、アズキの足の速さは嫌という程分かっている。

 

「ごめんなさい……」

 

肩を落とし、表情が暗くなる。さっきまでの笑顔はどこに行ったのか、その面影すらもなくなったていた。

全く。なんでこいつらはたかが水族館ごときでここまでテンションが上がっているのだ……

 

「……あ」

 

そうだ。こいつらは2人とも水族館に来たことが無いのではないだろうか。共に暮らしているせいで、ケモ耳と尻尾の生えた2人に慣れてしまったが、普通に考えれば、隠しているとはいえこうして出かけている事の方がおかしいのではないか。それで、アズキもクロネもテンションが上がってしまっていた。

 

「どうしたの? 」

 

覗き込んでくるクロネの顔を見て我に返る。口にべっとりだったヨダレはすべて拭き取られており、いつも通りの無表情な顔が視界に映る。

 

「いや、なんでもないよ」

 

「悪かった」と言いながら頭を撫でてやる。同じ事をアズキにもやろう。そして、この時間を楽しもう。

謝りながら撫でてやるとすぐにアズキの機嫌は良くなり、また元の笑顔に戻った。やはり、笑っていた方が彼女らしい。俺がその笑顔に見とれていると、不意に手を差し出された。

 

「手、繋ぎませんか? 」

 

いきなりの事だったので少し驚き、アズキの顔と手で何度も視線を交互させる。

 

「また私が走り出さないように、しっかりと繋いでてください」

 

焦れったくなったのか、強引に繋ぎ、そっぽを向いてしまう。顔を覗き込もうとするとさらに体を捻り俺に見せないようにする。前にもあったよなこんな事。

 

「アズキ、顔真っ赤」

 

しかし、今は以前とは違う。クロネが回り込み、その表情を見てくれる。恥ずかしさのあまりか、アズキは座り込んでしまうが、腕を引っ張りそれを阻止する。なんだ、耳まで真っ赤にしてるではないか。

 

「ほら、さっさと回ろうぜ。 時間は無限じゃないんだぞ? 」

 

「分かってますよぅ……」

 

右手はしっかりと繋ぎ、左手で顔を隠しながらアズキは答える。それについ口元を緩めつつ、クロネとも手を絡める。迷子になったり、もう離れさせないようにだ。

俺はこの時のクロネの表情、『無表情の中に浮かんだ笑み』を忘れないと心に刻んだ。


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