本編とはほとんど関係ない番外編となります
12月24日午後4時30分。俗に言うクリスマスの前日、クリスマスイブという日だ。おそらく全国の子供たちはサンタからのクリスマスプレゼントを楽しみに待っているのであろう。
しかし、サンタがどうとか、プレゼントがどうとか言ってるのは幼少年少女もしくは若いカップルのみ。つまり、中学生くらいの女の子と高校生くらいの女の子しかいない俺の家には無関係だ。
……と、思っていた。
「アズキ、何かいい物は見つかったか? 」
「すみません……。 あの子が欲しがる物が見当つかなくて」
俺とアズキがいる場所はいつもお世話になってるショッピングモール。その中を手分けして、雑貨店、服屋、アクセサリーショップ等の店を回っている。
世の中の家庭は既にプレゼントを用意してあるのか、家族連れの客は少なく、カップルが互いのプレゼントを選んでいるのを多く見行ける。俺は大人なので爆発しろとか言わない。
「くそ……。 何が欲しいんだ……。 教えてくれ、クロネぇ…… 」
絶叫しそうになったが、流石に店内では迷惑になるので小声で呟いた。
あぁ、どうしてこんな事になったんだ……
12月24日午前8時
朝目を覚まし、時計を覗く。表示された時間を見て驚くが、今日は日曜日だと思い出し、安堵の息を吐いた。
台所から料理をする音が聞こえる。アズキが作ってくれているのだろう。いつもは俺が作っているのに、今日は少し寝坊してしまったからか……悪い事したな……。
料理の音の他にも音は聞こえる。おそらくクロネがニュースでも見てるのだろう。
「今日はクリスマスイブという事で、朝早くから若いカップルで賑わっています」
あぁ、そうか。今日はクリスマスイブだったのか。
クリスマスの思い出なんて、小学生の頃に親……いや、サンタからプレゼントを貰ったくらいしか思い出がない。つまり、彼女いない歴=年齢の俺には全く関係の無いイベントだ。
「ねぇ、春斗」
不意にクロネに服の裾を引かれる。
「サンタさん、来るかな? 」
え?なんて?
真っ直ぐな目で言われ、一瞬だけ困惑する。
落ち着け?落ち着け俺。そうだ。きっと、からかってるんだ。それか俺に何か買ってほしいものがあるから……
などとは思い浮かぶものの、クロネの純粋な瞳を見ると……
「……ああ。 来るさ」
俺はクロネの頭を撫でて、部屋から出た。
「アズキ」
「あ、春斗さん! おはようございます。 ご飯ならもうすぐ出来ますよ」
アズキは慣れた手つきで料理をしている。朝ごはんは鮭と味噌汁らしい。
いや、確かに朝食も大切だが、今はそれどころじゃない
アズキを強制的に俺の方に向かせて、肩を掴んだ。
「ちょ、春斗さん!? 朝から大胆過ぎますぅ!」
何を朝からアホな事言っているのか……。
って、いかんいかん。そうじゃない
「アズキ」
「は、はひ! 」
「サンタって、信じてるか? 」
「……はい? 」
アズキから素っ頓狂な声が出るとは珍しい。
時は戻って午後4時30分
今度は2人で歩きながらプレゼントを探す。
因みにクロネに何が欲しいのか聞いてみたら笑顔で内緒と返された。いつもなら「そうか」と返して撫でるのだが、今回はそんな事言ってられない。
早急にプレゼントを見つけなければ!
「春斗さん! あれなんてどうですか! 」
アズキが指さすのは装飾品の店。高そうなピアスやらネックレスやらがたくさん並んでいる。
まぁ、見るだけならいいか……
「うわぁ、綺麗……」
店内はよりいっそう輝いて見えた。アズキも目を奪われている。
しかし、俺はどちらかと言うと値段に目を奪われてるよ。どんなに安くても諭吉が数枚無くなる。
……女の子って、こういうの貰って喜ぶのかな?俺にはよくわからないが、アズキがこんなに夢中になってるってことはおそらくそうなのだろう。だが、二十歳の非正規社員としては流石に辛いというかなんと言うか……
しばらく葛藤が続く。その間も、ずっとアズキは目を輝かせていた。
アズキが、喜んでくれるなら……
そんな考えが浮かんで、俺は決断した。例えそれが間違えだとしても構わない。
俺はアズキの手を握り、店を出た。
アズキの喜ぶ顔が見たいから?ふざけるな。確かに、アズキとクロネには喜んでほしい。笑顔でいてほしい。
でも、それとこれとは話が別だ。一時の笑顔の為に、今までの生活を崩す訳にはいかない。宝石ごときに、俺の大切な日常は壊させはしたくない。
「……ごめんな? 買ってやれなくて」
「い、いえ! もともと、私のものを買うために入ったわけじゃ無いですし、値段とか色々ありますから、お気になさらないでください! 」
気を使うような笑顔が逆に痛い。
「あ、このお店なんてどうでしょうか? 」
次にアズキが指さしたのはたくさんのぬいぐるみを販売してる店だった。
動物のぬいぐるみが多く置いてある。中には少々値が張る物もあるが、それでもさっきの店に比べると安い。
店内を歩きながらクロネが喜びそうな物を探す。そう言えば、クロネは何が好きなんだ?
「魚ですかね? 」
「多分それは食用だろ」
そうだ、帰りに魚屋によって買ってくか。
いや、それよりも今はプレゼントだ。
犬、猫、狐、虎、ライオン、豹……なんかネコ科率高くない?
「春斗さん、これ可愛くないですか? 」
アズキが抱いてきたのは犬のぬいぐるみだった。確かに可愛い。撫でてみると毛がもふもふしていて、顔を埋めたくなってしまう。尻尾も触っていて気持ちがいい。
……だが、明らかにサイズがおかしい。抱き抱えているアズキが犬のぬいぐるみに隠れてしまっている。ざっと、頭から尻尾までで100cmはあるのでは無いだろうか。
買ったとして、どこに置くんだどこに。
「置いてきなさい」
「え〜? 」
「珍しく渋るんじゃないの」
「わかりました……」
アズキは渋々その巨大ぬいぐるみを元の場所に戻した。
……そんなに欲しかったのか?
「ん? これ……」
たまたま俺の目に付いたぬいぐるみがあった。
それは……
「あーあ、結局、私のプレゼントは買ってもらえませんでした」
私は今、ショッピングモール内のイートインスペースで1人座っている。春斗さんはトイレに行くと言って席を立ってしまった。
今日は、せっかく春斗さんとクリスマスイブのデートが出来ると思ってたのに、春斗さんはずっとクロネのプレゼントの事ばっかりだった。
確かに、本題はそれだったが、少しくらい私と一緒にいる時間を楽しんで欲しかった。
……いったい、いつになったら私の気持ちに気づいてくれるのだろうか。
もしかしてウザがられてたりするのかな。
本当は嫌われてたりするのかな……
実は、トイレ行くのも嘘で、置いてかれたのかな……
そんな事を考えていると、段々涙が溢れそうになる。
私はこんなに、春斗さんの事が……
「待たせたな。って、なんで泣いてんだよ!? 」
「な、何でも無いです! 」
は、恥ずかしい!つい被害妄想で泣いてしまった!
ショッピングモールからの帰り道、俺はずっと悩んでいた。
何故アズキはさっき泣いていたのか……
何か気に触ることしたか……?
横目でアズキを見るが、特にいつも通りの表情で、怒っている様子もない。
……あぁ、今だと物で機嫌取った感じになってしまう……
だが、家に帰ってからだと何か恥ずかしいし……
よし決めた。男は思い切りだ。
「アズキ、メリークリスマス」
すっかり日も沈み、月が輝く夜
いつも通りの道
ロマンの欠片もないような場所で俺はアズキに大きな箱を渡した。
これにはアズキも目を丸くしたようだ。
「……開けても、良いですか? 」
「良いけど、家に帰ってからの方が良くないか……って、もう遅いか 」
俺が言い終わる頃には既に包が剥がされ、箱が開けられていた。
アズキの目がもう1度丸くなるのを確認する。
「これって……」
そう。それは、さっきアズキが抱いていた巨大な犬のぬいぐるみ……の縮小版だ。縮小といっても、あれの半分、50cmくらいだが。
「……要らなかったか? 」
少し不安になってしまう。なんせ、こんな風に女の子にプレゼントを渡すのは初めてなんだ。
しかし、アズキは勢いよく首を横に振ってくれた。
「凄く、嬉しいです! 春斗さん、大好き! 」
急に飛びついて来るもんだから、ついよろけてしまった。路上に座ってしまったが、アズキは離してくれない。
俺はその背中を撫でた。何度も何度も、俺たちの気が済むまでずっと。
そして、明日は……