ケモ耳娘と休暇を謳歌しました(前編)
「さて、昼飯でも作るか」
俺がそう宣言した瞬間、アズキの尻尾が揺れ始めた。クロネの尻尾も、真っ直ぐに立っている。
……ああ、今日は俺もアズキも朝飯食わずに張り込んでたからな。腹減ってたのか。で、クロネは盗もうとしたところで捕まったから同じく何も食べてないと。そりゃあ喜ぶわな。
「クロネは何か食べられない物とかあるか? 」
「いや、特に無いよ」
「そうなのか? 猫って、食べたら死ぬ系の食べ物ないんだっけか」
あれ?でもネギとかホウレンソウとか、食べちゃいけなかった気がする……
ん?あれ?
「アズキ、なんでそっぽ向いてんだ? 」
「ん!? いえいえ!何でもありませんよ!? 」
?おかしな奴だな
「私は猫の半獣だけど、同時に半分は人間なの。半獣の唯一の良いところは両方の長所を受け継ぐところにある。だから、食べ物に関しては春斗と同じで大丈夫」
……クロネの話を聞いて、何故アズキが焦っているのかが理解出来た。
以前、アズキは言った。「私一応犬の身でもあるのでそれ食べたら死にますよ?」と玉葱を残しながら。
そして今、クロネは言った。「半獣の唯一の良いところは両方の長所を受け継ぐところにある」と。
「……アズキ」
「ひゃ、ひゃい! 」
「今日の飯、玉葱たっぷりの肉じゃがな? 」
アズキの顔が一気に引き攣った。好き嫌いダメ絶対。
という訳で、昼食は肉じゃがに決まった。アズキの尻尾はさっきと比べて垂れ下がっている。
調理を終え、食器を並べる。
「クロネには悪いけど、今は紙皿で構わないか? 」
「大丈夫」
食べ終わったら、クロネの服とか身の回りのもの1式買いに行くか。金は……まぁ、ぎりぎり何とかなる。
「さあ、食べようか」
「いただきます」
クロネは手を合わせた瞬間に肉じゃがに箸を伸ばした。
1口食べてから目を輝かせ、更にペースをあげて箸を進めていく。
「おいおい、食べ物は逃げないから、ゆっくり食べろよ」
頭を撫でながら言うと、クロネは小さく頷いた。
……さて、と。とりあえずクロネは普通に食べている。問題はもう1匹だ。
「アズキ、いつまで睨んでるつもりだ? 」
「ですが、春斗さぁん……」
やばい、半泣きだ……!
そんなに、玉葱が嫌いだったのか……。何だか、罪悪感が……
「じゃあ、玉ねぎ以外食べちゃってくれ。玉葱は俺が片づけるから」
好き嫌いは良くない。でも、それをいきなり克服しろなんて、無理な話だった。
俺は、アズキに酷いことをしてしまった……
「……ずるいですよ、春斗さん」
「は? 」
俺がアズキを見つめ直すと、アズキは涙を拭い、肉じゃがをかき込んだ。
しかし、すぐにむせ返してしまう。
それでもアズキは、嫌いなはずの玉葱を食べ続けた。
「どうして……」
「春斗さんの悲しそうな顔が見たくないんですよ」
いつの間にか空になった食器を置き、「それに」と続ける。
「せっかく春斗さんが作ってくれたのに、食べないなんて有り得ないですから」
笑顔で言い切ったアズキを、俺は思いっきり抱きしめた。
急だったのでアズキは焦っていたが、それでも俺は離さない。離してやらない。
「でも、もう玉葱は当分遠慮したいです……」
「分かってる。ゆっくり、克服していこうな」
いつの間にか苦笑いに変わっていたアズキの頭を、少し強めに撫でてやった。
「春斗、おかわり」
「お、おう。もう食べたのか? 」
すっかり空気になってしまったクロネに追加の肉じゃがと米を運び、俺は出かける準備を始める。
「あれ?春斗さん、どこか出かけるんですか? 」
「ああ。クロネの服とか、身の回りのものを揃えるのと、お前に褒美をやろうと思ってな。ほら、準備しろ」
促すと、アズキは尻尾を揺らしながら食器を洗いに行き、クロネは食事のペースをあげた。
あぁ、ゆっくり食べろって言った後なのに、急がせちまったな……
「まだ急がなくていいぞ? アズキはまだ洗い物が残ってるから急がせただけで、時間はあるからな」
「あの、服買ってもらえるのが嬉しくって、つい急いじゃった……」
クロネは頬を赤く染めながら言う。
もしかして、今までお下がりばっかりだったのか……?
もしそうなら、気に入るものを買ってやらなきゃいけないな。
「アズキ〜? お前も新しい服欲しいか? 」
「そりゃあ新しい服は欲しいですよ。乙女ですよ? 」
そうか。なら、貯金を下ろさなきゃな。
金に余裕はないが、いつでも無職になっても生き延びれるように貯金はある。
ふふふ、さあ、行こうじゃないか。こいつら2人を喜ばせるための買い物に!