模擬戦
正直、服部先輩と達也の私闘になっている気もす正直、それに混ざるのは気が引ける。が今更どうこう言ったて無駄なのは分かってる。自分のボロが出る可能性は極力避けたかったが致し方なしだろう。まあ、この体質とは長い付き合いだから今更ミスはない。
事務室でCADを受け取り模擬戦の会場となる第三演習場についた。俺は事務室に行く前に昼に残っていた弁当を食べていたので遅れ、達也の方が先に来ていた。渡辺先輩と達也が向き合い渡辺先輩が上目遣いに達也を見ている。会話の内容を聞くと真面目な話をしているようだが何分距離が近い。からかっているとすぐに分かった。どうやらここら辺にはSっけの多い人が多いのだろう。
達也と楽しい会話を終えた渡辺先輩は俺の方に向かってくる。
「雪路くん。きみはどうだい?何か勝算はあるのか?」
そう聞いてくる。しかし毎度思うのだがこの先輩は色気より男っ気と言う感じだ。もしかしたら俺よりも男らしいかもしれない。影で女性のファンもたくさんいらっしゃるだろう。そんなどうでも良いことを考えててる。勝算?うーん?
「完全に巻き込まれた私闘ですけどやるだけやりますよ」
「はあ。達也くんにも言ったがこれは正式な試合だ。私闘ではない」
なるほど、物は言い様だ。恐らくこの人が原因で正式な試合と言う名の私闘は増えてるだろう。
渡辺先輩の視線が俺が開けているケースに向かう。そこにあるのは黒い拳銃型の特化型CAD。
「ほう。雪路君も特化型か」
「まあ、実戦レベルで使える魔法が少ないんで」
俺がそう言うと服部先輩が冷笑した。それを気は気にしない。俺が実戦レベルで使えるのは自分もしくは自分の触れている物を魔法の対象とする魔法。例えば自己加速だったり自分の着ている服を硬化したりなどなど。例外として無系統魔法と射撃系の魔法。これは俺の得意魔法だ。しかし改めて得意不得意がひっちゃかめっちゃかだ。基本的に俺の戦闘のスタイルは無系統、射撃系に偏るのだが今回はどうしようか?達也の力量は分からないが司波さんの言葉も有る。身内の目というのを差し引いても強いのは変わらない。油断していると言うより実技と実戦の勘違いをしている服部先輩が邪魔だ。もうさっさと服部先輩を倒す。達也に集中する。これで良いかな………。別に人の命が関わっている分けではないし。
俺はCADをケースから出したホルスターに入れ服部先輩、達也が居るところに歩く。ちょうど二等辺三角形になる。底辺は俺と服部先輩。頂点は達也だ。そして渡辺先輩によるルール説明が行われる。要約すれば捻挫以下の怪我で武器を使わなければ何やってもいい。武器を使えないのが正直痛いがまあ、仕方ない。CADをホルスターに入れたまま待機する。
「……雪路くん。それでいいのか?」
「え?あっはい。どうぞどうぞ」
全員が疑問を感じている中試合の合図が始まった。
「始め!」
その言葉の瞬間に体術的に限界の速度まで上げる。俺と同様に近づいて来た達也よりも速くまた、魔法の準備をしている服部先輩よりも速く服部先輩に手の届く範囲まで来た。それと同時に走りながら俺と服部先輩に無系統の振動魔法を達也が放とうとしているのが分かった。俺はそれを無視して服部先輩をポンと叩く。それと同時に服部先輩は吹き飛ばされる。マーシャルマジックアーツ。魔法の発動座標を相手と触れた座標に固定し魔法の発動速度を速める技術。今回は移動魔法を発動し服部先輩を倒す。そして達也の魔法が発動する。が俺には効かない。俺は仕事である無系統魔法を使う都合上大量のサイオンに触れている。それのおかげで並みの無系統魔法は俺には効かない。達也が次を準備している隙に俺は達也に接近し格闘戦に持ち込む。
もう、模擬戦をやる意味はほとんどない。これは勝ち負けが決まるまでやるのか?そう考えるとやる気が失せながら接近し打ち、捻り、時に達也が魔法を使おうとするがそれをサイオン弾で壊す。膠着状態に持ち込めば模擬戦も終わるだろう。そう考えてそのまま五分。格闘戦が続いてそのまま渡辺先輩の合図で終わった。
渡辺先輩の方に戻る。そうすると開口一番
「始めの動き、自己加速術式を予め用意していたのか?」
俺と達也を見てそう言う。
「そんな訳がないのは先輩が一番良くお分かりだと思いますが」
達也が反論する。まあ、そもそもルール説明の中にフライングは止めると言ったのだ。それがない時点で何を今更と言う話だ。
「しかし……」
「魔法ではありません。正真正銘、身体的な体術ですよ」
「私も証言します。あれは兄の体術です。兄は忍術使い、九重八雲先生の指導を受けているのです」
司波さんのその一言で渡辺先輩が息をのんだ。いきなり有名人の名前が出てくればそうなるか。
「それでは鬼頭は?」
一応状況的に雪路くんと呼ぶのは場違いと感じたのか。Sっけはあるが常識は守るようだ。
「俺のも身体的な体術です。俺も納得させる根拠が必要ですか?」
「いや、その必要はない」
渡辺先輩が納得すると俺が無視した達也の無系統の振動魔法に話が移る。俺はその間にCADをしまい、ロックをする。放課後ここに寄る前にポケットに詰めたお菓子を頬張る。飲食できることは確認済みだ
「雪路くん」
「ふぁい?」
達也の話が終わったのか話が俺に向く。しかしお菓子食べていたので変な返事になってしまった。
「また食べてるのゆきちゃん……」
「雪路くん……」
七草先輩と渡辺先輩の呆れた視線を受け流し味わってからまた返事をする。
「雪路くんのあれはドゥロウレスか?」
ドゥロウレスとは拳銃型特化型CADの特徴である銃口にある座標補助システムを損なわずに銃口を相手に向けずに魔法を発動する技能である。
「そうですよ」
「よくあんな連続してしかも格闘戦をしながらできるな」
渡辺先輩の発言に
「結局は慣れです」
すると七草先輩も
「それじゃあ鈴ちゃんが言っていた波の合成で作ったサイオン波を受けなかったのも?」
鈴ちゃん。多分さっき達也の魔法を解説した人だな
「最終的には慣れです」
それでしめた。理由は秘密である。このあと起き上がった服部先輩が七草先輩におちょくられ、司波さんに謝罪したことで今回の騒動は一段落した。
「さて二人とも。風紀委員本部にいこうか」
俺達は渡辺先輩に連れられていく。風紀委員本部。その第一印象は…………汚い。
「すまん。男所帯なんでな。毎日整理整頓は口をすっぱく言ってるのだが」
「誰も居ないにしても片づかなすぎですよ。これ放置してません?埃も被ってますし片してもいいですか?」
俺は置いてあるCADを撫でるとやはり埃がついてる。渡辺先輩はポーカーフェイスを保とうとしたが少し表情がぎこちない。
「委員長、俺もここを片づけてもいいですか?魔法技師志望としてはCADが掘ったからかしにされてるのは耐え難いので」
「あれだけの対人戦闘スキルがあるのにか?」
「自分ではどんだけ足掻いてもC級ライセンスしかとれませんから」
渡辺先輩はそのことを言われ返す言葉を失ったが達也の催促で
「ああ、私も手伝おう。手を動かしながら聞いてくれ」
達也は目の前の書類を整理しているので俺は放置されている本を片す。話を聞いてくれと言われたが風紀委員入りが確定した今、入る理由を言われても無駄なだけだ。
俺は気になる場所がまだあったのでそこを整理している。その間BGMは達也と七草先輩の会話だ。類は友を呼ぶとはまさにこのことと納得した。
七草先輩が去ると同時に風紀委員本部に来る足音が聞こえた。少し立つと二人の男子生徒が入ってくる。渡辺先輩とコントのようなやりとりをしたあと話題が今日の模擬戦に変わる。
「へぇ。あの服部にそこのちっこいのが?」
「ああ。正式な試合で。もう一人も同等の実力が有る」
整頓は終わったので速く返してくれ。そう思って話を聞いてると今まで品定めしているような目線が賞賛に変わる。二人の方を見ると真っ直ぐ俺を見ていた
「三ーCの辰巳鋼太郎だ。よろしくな、腕の立つ奴は大歓迎だ鬼頭」
「二ーDの沢木碧だ。君を歓迎するよ、鬼頭君」
二人が握手を求めてくる。ここまでの会話でこの人達は良い人と言うのが分かった。差別意識もない。品定めはあくまで実力が有るか無いか。なるほど案外この雰囲気も悪くない
そう思った。しかしそういえば沢木先輩の手が離れない。何故だ?と思った直後に理由が分かった
「くれぐれも名前で呼ばないでくれたまえよ」
そう言うと万力のような力がかかる。これは忠告だろうか。そもそも先輩を名前呼びすることはまずない。が忠告してくれたのだ。お礼のために俺はその手を握り返した。
「む?」
「おお!沢木の握力は百近いのに握り返すのか、すごいな」
風紀委員はいろんな人が居るらしい。そんなことが分かった。