その先の向こうには   作:峰白麻耶

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入学式5

昼休み後。今は魔法実技の時間である。今日の課題はレールの中央まで加速させそこから減速して停止。また逆にを三往復する課題である。そのために据え置型のCADに並んでいる。教員は居ないため皆自由に話している。が俺はその和から外れていた。無論、はぶられているわけではない。単純に

 

「お腹が空いて力がでない……」

 

昼ご飯を喰い損ねてしゃべる気力もない。

 

「雪路。昼休みあれだけ食べていたのにか」

 

そう言うが俺にとってはあれだけでは足らないのだ。本当は一日中食べては寝てを繰り返す生活が理想なのだがそれではだめ人間だ。ついでに今は学生の身だ。授業に支障が出るほど食べるわけにはいかない。

 

「あれは妥協した量なんだよ。俺の食事の速さでちょうど昼休み終わる頃に食べ終わる量なんだよ。本当はもっと食べたいんだけどな」

「雪路くん何時もお菓子持ってるじゃん。今持ってないの?」

 

エリカにとって俺のイメージはお菓子らしい。まあごもっとも。昼休みのたびにお菓子を食べてるからな。けど

 

「生徒会室からここに来たから補充する暇がなかった……」

 

前に並んでいた美月が振り返り

 

「生徒会室ですか?呼ばれたのは達也さんだけですよね?」

 

と疑問を投げかける

 

「昼休み中に電話が掛かってきてな。生徒会に呼ばれて厄介なことになったんだよ。俺と達也で風紀委員になれってさ」

 

俺はため息を尽きながら言葉を吐き出す。

 

「本当に。何なんだ?あれは。」

 

達也も同じように考えていたようだ。

 

「達也が風紀委員になるのは分かるんだが……。何で俺が巻き添えを食らってるっんだ?」

「おい。俺は妹のおまけだぞ?」

「おまけじゃなくて豪華特典だろ。何が起動式を読みとれるだよ。風紀委員にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だろ。俺の昼の説明聞いたら分かるだろ?」

「そうだが」

「まあ、あの生徒会長と風紀委員長が関わってるんだからチェックメイトだろ。反対する奴がいても綺麗に論破か力押しだろうし」

 

はあ。と二人でため息を吐く。風紀委員なりたくねえー。

 

「でも生徒会にスカウトされるのはすごいですよ」

 

と実技を終えて戻って来る美月がそう言うが

 

「面倒事のオンパレードだろ。どうせ」

「と言うか結局風紀委員は何やるの?」

 

という素朴な疑問に達也が懇切丁寧に答える。それを聞くと益々俺の利用価値は無いんじゃないかと思う。力仕事はこりごりです。エリカがそれを聞いてボソッと何かを言ったがそれは聞かなかったことにした。明らかきに男前のあの風紀委員長だろう。

 

「おもしろそうじゃねーか。受けろよ、達也、雪路。応援するぜ」

「でも。喧嘩の仲裁に入るって事は攻撃魔法のとばっちりを受けるかもしれないんですよ?」

「それに逆恨みをする奴だって居るだろうし」

 

確かにそこを聞けば風紀委員は割に合わない仕事じゃないか?内申が上がるかは知らないがどちらにせよリスクの方が高い

 

「でもよぉ、威張り散らしている一科生の連中よりは達也と雪路の方が良いと思わねぇか?」

 

確かにそうだ。レオの言うとうりだと思う。

 

ここで俺は話に入らなくたった。お腹が空き喋る気力がなくった。列について並びながら寝ることで何とか持たそうと頑張っていた。

 

美月、エリカ、達也、レオと続いて俺の番となった。ペダルで足の高さを調節し、半透明のパネルに手を乗せてサイオンを流す。返ってきた起動式のノイズに吐き気を催しながらも魔法を発動した。台車が動き出すのは他のクラスメイトに比べて早かった方だ。しかしその速度はクラスメイトより劣っている。三往復させ課題を終わらせると俺は後ろに戻り授業が終わるまで眠った。

 

 

 

 

放課後。見送られて生徒会室に向かう。達也と司波さんの間に入るのもはばかられるので俺は遠慮して二人の後ろについていった。早く帰りたいのに帰れない。その苦痛を紛らわすために甘い飴を舐めている。チョコの味を堪能している間に生徒会室に着いてしまった。達也がドアを開け中に入る。俺も達也もIDカードの認証システムに登録済みだ。さっきチェックメイトと言ったのもこれが原因だ。入ると同時に明確な敵意が含まれた視線が達也の方に向く。その発生源は昼には空席だった場所だった。そしてその視線は俺にも向いてくる。

 

………え?会ったことも。ましてやすれ違ったこともないだけど………。

 

まあ。この視線は慣れてる。むしろ落ち着くとまで言えるかもしれない。言い過ぎだな。取りあえずこれぐらいなら可愛いもんだ。達也に続き黙礼するとその視線は司波さんの方に移った。

 

「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会へようこそ」

 

神経質な声。服部先輩はそのまま席に戻った。その態度にイラっときたのか司波さんが表情を少し変えるがすぐに戻った。完璧な仮面である。

 

「よっ。来たな」

「いらっしゃい深雪さん。達也くんと鬼頭くんもご苦労様」

 

完全に身内の挨拶だ。

 

「さっそくだけど、あーちゃん、お願いね」

「………ハイ」

 

そう言えばこの先輩は何と言うのだろうか。あーちゃんというニックネームは可哀想だ。

 

「じゃあ。わたしらも移動しようか」

 

だんだん口調が変わっている。何ともフレンドリーな先輩である。

 

「どこへ?」

「風紀委員会の本部だよ。色々見て貰った方が分かりやすいだろうからね。この真下の部屋だ。といっても中でつながっているんだけど」

「変わった造りですね」

「あたしもそう思うよ」

 

達也と渡辺先輩の会話をボーと聞く。まあ、ついて行けばいいやと考え速く終わるよう無駄口はたたかない方向でいた。がやはりそのもくろみは速くも崩れ去る。

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

あっ。始まった。そう考えた瞬間俺は無心になり寝始めた。体感時間で三分ぐらいだろうか?そのぐらいたって

 

「それでは彼はどうなんですか?」

 

矛先が俺に向いた。

 

「彼にも同じような実力があるのですか?」

「いや、ないぞ」

「は?」

「すまん。達也くんと同じく起動式を読み取るなんて力はない。だが真由美と同じくサイオン弾による起動式の破壊を得意とする魔法師だ。初めて見たときは驚いたよ。二科生にも関わらずここまでできるのかってね。ちょっと入学試験の実技を見てみたがお世辞にも良いとは言えなかった。だが彼の実力は確かなものだ。達也くんのような異能ではなく純粋な努力だ。努力に対して結果が出るのは当然だろ?それに二科生が風紀委員に続けてなればその流れは続いていくと言うわけだ。まあ。こんな生きのいいのがまた出るかは分からんがな」

 

渡辺先輩がそう言うと

 

「摩利ったら達也くんだけかと思ったら鬼頭くんの事も考えてたのね。鬼頭くんを気に入ったのかともったわ」

「会長お静かに」

 

この会話で空気が奇妙なものとなる。早くも帰りたい。もう帰って良いですか?と聞こうとしたがその前に

 

「会長。私は副会長として、司波達也と鬼頭雪路の風紀委員就任に反対します。渡辺先輩の言葉には一理ありますが風紀委員の本分は違反者の摘発。魔法力に乏しい二科生にそれが出来るとは思えません」

 

この人。頑固ってレベルじゃないな。そう思ってると司波さんが達也を貶されプッチンした。魔法実技は悪いが実践は強いと。それに対して服部先輩は目を曇らせるな。冷静を心がけ見定めることというがそれは火に油を注ぎヒートアップして達也が言葉の途中で止めた。

 

俺は完全に蚊帳の外だった。達也が止めた言葉の先が気になったが詮索のつもりはなかった。すると達也が驚くべきことを言った。

 

「服部副会長。俺と模擬戦しませんか?」

 

この言葉を聞き今度は服部先輩がプッチンした。補欠の分際でとか。この人はさっき自分の言ったことを忘れたのか。そしてついでに言えば生徒会の副会長が補欠の分際でというのは問題があるんじゃないかとかどうでも良いことが浮かんだ。達也と服部先輩の応酬が続いて達也が勝利。そして生徒会と風紀委員会が認めたことにより正式な試合が決まった。

 

 

「渡辺先輩、七草先輩。俺のこと忘れてませんか?」

 

二人の視線がこちらに来る。渡辺先輩はあっとでもいいたげに表情を変え、七草先輩はそんなこと無いわよ?とでも言いたげだが表情が引きつっている。

 

「帰ります」

 

そう言うと

 

「待って!ね?忘れてなんかないから!落ち着こう?雪ちゃん!」

 

七草先輩が言ったことに一瞬え?となった雪ちゃん?

 

「真由美。雪ちゃんてなんだ」

「え?鬼頭くんのニックネームよ。鬼頭くんって呼ぶのも他人行儀じゃない」

「あの……。わざわざニックネーム付けなくてもいいんですよ?」

「私のインスピレーションがこう呼べって言うのよ。良いじゃない。可愛いんだし」

「俺は男ですよ?百歩譲って雪くんにしてくれません?」

「だめよ?雪ちゃん」

 

あーちゃんと呼ばれていた人を見た。その人は同情と仲間意識が芽生えていた。

 

さっき会長を咎めていた人を見た。助ける気はなさそうだ。

 

またもや起こった微妙な空気を渡辺先輩がコホンとせき払いをして切り替える

 

「それでは雪ちゃんには達也くんの模擬戦に加わって貰う。三人のバトルロワイヤルだ」

 

ジロッと渡辺先輩を見る。何やってんだと言う意味を込めて。すると真面目な顔を笑みに変え

 

「すまんすまん雪路くん。だが真由美のは諦めろ。あいつに抗議しても無駄だぞ?」

 

そう言うとあーちゃんと言われていた先輩を見た。言わんとしたことが分かったので諦めた。

 

 

 

そして三十分後に正式な試合が始まる。


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