その先の向こうには   作:峰白麻耶

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入学式4

鬼頭雪路は睡欲と食欲が強い。本人曰く寝ても寝ても眠い。食べても食べてお腹はすく。朝は睡眠と食事の二つが両立するような時間にするため寝るのも小学生とまではいかなくても中学生位には早く寝る。具体的には九時から十一時だが入学式の前日のように仕事が入ると徹夜もありその当日は完全に屍のごとくだ。昨日は精神的に疲れたのか九時には布団に入り七時起ていた。

 

 

 

朝は料理が面倒なので冷凍食品を次々と使いご飯と味噌汁の他七品を作り、黙々と食べる。腹ごしらえを終えると使った皿をキッチンに入れ水に浸す。作っておいた弁当とお菓子を鞄に次々と入れ鞄の半分が埋まると教科書を入れ閉める。ここまでを五十分で終わらせて、着替え自分のCADとその他小物を制服のポケットに入れ準備は完了。家の主らしく火の元、電気、窓の鍵を確認し家の鍵を閉める。

 

 

この家は運がよく第一高校の近所でありその点はこの家の持ち主に感謝しないといけない。強制的にぶち込んだのもそいつだが……と学校までの道のりを早歩きで行く。遅刻すれすれの時間に教室に入って席に近づくとレオ、千葉さんに続いたれ司波に柴田さんに挨拶される。なお、千葉さんと読んだらエリカでいい。代わりに雪路ってよぶからとなり柴田さんと司波もその流れにのり全員名前呼びになった。俺の周りをビフォーアフターするとその差は明らか。ぼっちから四人。しかも名前呼び。何と素晴らしい。彼が普通の?高校生活かは知らんが多分合ってるだろう。だが気がかりなのは……

 

「達也。何か疲れてるか?」

 

表情と雰囲気で何となくそんな気がした。

 

「よく分かったな……」

 

その顔は驚きに変わった。余程ポーカーフェイスに自信があったのかもしれない。朝に何かあったかはエリカが面白そうに語ってくれた。内容はもはやお疲れ様としか言えなかった。生徒会長が通学路で大声で声をかけてしかも妹の付き添いで昼休みに生徒会室に連行確定。確かに朝からそんな面倒な事に巻き込まれればそんな顔になるのは分かる。他の人から見れば、例え妹の付き添いでも生徒会長と昼を一緒に食べると言うのが死ぬほど羨ましい人も居るだろう。ある意味贅沢な奴だ。

 

 

休み時間の度に友人と話す。そんな普通の時間を今日初めて過ごした。

 

 

達也は生徒会室に行き、俺は屋上で昼ご飯を食べるために教室を出て階段を上る。扉を開けると春の暖かな日差しと風が迎えてくれる。備え付けのベンチに座りバックの中から二段のB5サイズの弁当を出す。それと菓子パンを出し、手を合わせる

 

「いただきます」

 

ボソッと呟き箸を持ち、蓋を開ける。唐揚げ、玉子焼、ウィンナー、エビフライにエビのグラタンその他弁当の定番からちょっと違った変化球まで色々詰まっている。美味しいに越したことはないが量がないとお腹がすいてしまう。お菓子を休み時間の度に食べてもだ。完全に自分のお腹はブラックホール。大食い番組にもでれるかもしれない。

 

ところて弁当の醍醐味は何が入っているかと食べる場所。場所は屋上という人が居なく静かな最高の場所であるが自分で作ってるので開ける前のドキドキ感はゼロだ。楽しみがない。まあ、自分で作ってるからこそ自分の好物を沢山入れるという利点もあるからな…。

パンとかおにぎりとかを買うとすごい量になるしコンビニ弁当も三つ四つは買わないといけない。流石にそれを何度もやると店員に覚えられるのでやりたくない。まあ、スーパーの人には覚えられてるけどな。一度に大量の食品を買う人ってな。

 

 

黙々と箸を進め、半分近くが胃に収まった時だった。

 

 

プルルル。プルルル。

 

 

その音が聞こえた瞬間に制服の内ポケットに入れている黒いガラケーを出すが………

 

「あれ?」

 

これじゃない。てことは……。外のポケットに入れてある俺の保護者が入学祝として買ってくれた端末を取り出す。そう言えば昨日、連絡先を交換したと言うことをすっかり忘れていた。普段は殆ど使っていないから存在を忘れていた。画面を見ると電話の主は達也だった。口の中のものを飲み込み、普段は使わないから操作に不安があったが何とか電話に出れた。

 

「もしもし」

「雪路か?今どこにいる?」

「屋上でご飯食べてるけどなに?」

「七草先輩と渡辺先輩がお前にも話があるから生徒会室に来いと言ってな」

 

すごいやっかいごとの匂いがプンプンする。行きたくない。物凄く行きたくない

 

「行かないとどうなる?」

「校内放送するとさ」

 

脅迫だ。完全に権力を傘に脅迫してる。絶対に行かないとさらし者だ。

 

「はあ。行く。行きますよ……」

 

そう言って電話を切る。食べかけの弁当をしまいとぼとぼと生徒会室に向かうのだった

 

 

 

 

 

生徒会室。俺が絶対に関わることがないと思っていた場所。ため息を一つ出しノックをする。するとロックが外れたので中に入る。

 

「よかった。ちゃんと来てくれたみたいね」

 

七草先輩がにっこりと微笑む。半分脅迫だろと言いたいが相手は生徒会長でしかも十師族。無理である。

 

その隣で同じように不敵に微笑む渡辺先輩にも同じことを言いたいが風紀委長で三巨頭と呼ばれてるだ。同じく無理である。

 

「どこに座ればいいですか?」

 

そう言うと達也君の隣にと言われたので座る。正直何で呼ばれたのか分からないのだが取りあえず

 

「昼ご飯食べ終わってないので食べて良いですか?」

 

「ごめんない。もう食べ終わってるかと思って達也君に電話して貰ったんだけどお食事中だった?」

「まだ半分も食べてないです」

「なら食べながらで良いから話を聞いてちょうだい」

 

俺は弁当を出し、広げる。すると達也以外は絶句していた。まあ、達也も少し引いていたけどな。

 

「な、なあ。その量を何時も食べてるのか?」

 

驚きの声で渡辺先輩が聞く。

 

「いつもですよ?」

「それにこいつは休み時間に何時もお菓子を食べてますよ」

「そ、そんな……」

 

七草先輩は自分の体に思うところでもあるのか?体型はすごく良いと思うけど。

 

「あの。鬼頭さん?」

「何ですか?」

「これ全部手作りですか?」

 

司波さんが俺に聞く。

 

「六割は昨日の作った夕飯の余り物で後は夜にちゃっと作っただけですけど……」

 

すると今度は渡辺先輩が

 

「負けた……何か負けてはいけないところに負けた気がする」

 

完全に落ち込んでいた。もう何これ。取りあえずご飯を食べよう。無心に箸を進めているとやっと復活したのか七草先輩がこほんと咳払いをし

 

「鬼頭くんにはお願いがあるの」

 

箸は止めずに顔だけ向ける。

 

「達也くんと一緒に風紀委員に入って欲しいの」

 

は?

 

箸を止める。この人何言ってんの?風紀委員?いやそもそも

 

「二科生は風紀委員になれるんですか?」

「問題はないです。一科生の縛りがあるのは生徒会のみで風紀委員は関係がありません」

 

さっきまで沈黙していた人が言う。

 

これは反論しないと強制的になるのが決まる。

 

「どうして俺が?達也のように相手の使おうとした魔法が分かるという能力が不適正使用の抑止力になります。それを踏まれると達也は充分風紀委員になる資格が有ると思います。しかし俺にはそんな特殊技能は有りませんよ?」

 

ごく普通に誰もが思うことを言う。

 

「理由ならあるさ。だが……」

 

チャイムがなる。

 

「昼休みも終わりだ。三人ともまた放課後に来てくれないか?」

 

 

 

ため息混じりにはいと答えた。

 

 

結局昼ご飯は全部食べられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出るキャラが増える度に口調がおかしくないかと言うのが気になります。

感想や誤字に脱字。こうしたらいいんじゃないかというアドバイスがあればお願いします

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