その先の向こうには   作:峰白麻耶

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


入学式11

達也と別れた俺は、人気のない道を歩きながらガラケーを取り出して電話に出る。

「もしもし」

「五分後に迎えを送るからそれまで待機」

 

そんな簡素な命令をしてぶちっと切られる。電話の主は花蓮である。普段は緩いがこんな時はこんな感じで別人に変わる。待機といいても俺のガラケーはGPS付き。俺の居場所なんてすぐに分かる。必要なのは、目立たないところに行くぐらいだ。俺は、学校を出て少し人の少ないところに行く。そして、ピッタリ五分後、俺の目の前に森のクリーニング屋という会社名が入ったワゴン車が来る。これが花蓮が言っていた迎えというやつである。俺は、その車に乗り込むと車は、今日の現場に向かって進み始める。俺は、その間にいつものように仮眠を取ることにした。

 

 

 

●●●

男は歩いていた。むせかえるように濃い血の匂いと声変わりのしていない男とも女とも区別の付かない、幼い子供の叫び声がする、この廃病院の中をまるでここが天国であるかのように悠々と歩いていた。本来は真っ白であったはずの壁は、見る影もなく、灰色となり、ところどころが赤黒く染まっている。元々病院であったここで、医療行為ではない事が行われているのは明白であり、今ここで行われているのは人体実験だった。そのことを知りながらこの廃病院を歩く男は、普通ではない。この男は、この人体実験を初期の頃からいたメンバーだ。今更世間一般の常識なんて、ゴミ箱にでも捨てているだろう。

 

男が曲がり角を曲がると突如として、三、四メートル先のコンクリートの壁が轟音を立てて壊れる。普通なら有り得ない事態でもこの場所では、日常茶飯事。男は、気にすることなく、突貫工事によって出来上がったがれきの山の廊下を歩く。無論、何かが壊れたのなら壊した犯人がいる。その犯人は突貫工事で空いた風穴から姿を現した。その犯人は、少女だった。年端もいかない、世間で言えば、小学校四年生ぐらいだろう。その年ならば、小学校でもお姉さん。年上の自覚が出て、お姉さんのようにふるまったり、気になる男の子が出てきて、初恋の味をかみしめていてもおかしくはない。この世には、沢山の楽しい事があって、好奇心に目を輝かせてもおかしくない年頃だろう。しかし、その少女は、ボロボロの大きいtシャツをワンピースのように着て、目は、虚ろで焦点が合ってない。足は、はだしのせいか、がれきの破片を踏んで血だらけだ。少女は、そんなことを一切気にせず、ゆっくりと男の方に足を進める。

 

「ねえ、お兄さん。ここの人?」

 

男は、何も話さない。まるで少女がそこにいないようにふるまっている。足を止め、振り返ることもなく、男は、どんどん先に進む。足の長さのせいか、男と少女との距離はどんどん離れる。

 

「おなかすいたよ。あの人たちぜんぜんおいしいごはんくれないの」

 

ごはんのりょうも少ないのと少女は、文句を言うが男は、気にせず歩く。少女は、動きを止め、こう言った。

 

「だからね。食べちゃった。その人たち」

 

少女の目が徐々に男に焦点を合わせる。その目は、男を、人なんて生易しい表現ではもう見ていなかった。餌だ。少女は男を餌としか見ていなく、食事を何日も食べていない獰猛な獣のような雰囲気を纏っていた。こんな一般人でも命の危険を感じそうな場面でも男は、気にせず歩いている。それは、男が優秀な魔法師だからというわけではない。

 

「お兄さん、私がさっき食べた人よりもおいしそう」

 

そもそも男は、研究職で戦闘は専門外だ。それにもかかわらず、男が平然としているのは、やはり理由がある。

 

「いただきます」

 

その瞬間に少女の姿は消えた。一瞬にして人間が近くできない速度までスピードを上げて男に接近する。五メートル離れた距離が一瞬でつまりあと二メートルになったところだった。

 

「っっ!?」

 

 

と言う言葉にならない断末魔を残して少女は、ゴキという骨が折れる音と、首が潰れるグシャと言う音とともに絶命した。廊下に残ったのは驚愕の表情のままの少女の首と、噴水のように首から血を噴き出す首なしの少女の体。一瞥もせず歩き続ける男。そして、いつの間にか現れた少女の首を蹴り、頭を吹き飛ばした少女よりも年下に見える少年だった。

 

人間が消えると思う速さで突進してきた少女を蹴り飛ばしたのにもかかわらず、少年は平然としていた。少女を蹴るには、それを捉える目と力が必要だ。目で追うことができなければ、蹴りは少女をとらえない。力なければ、逆に少女に立ちふさがった少年が吹き飛ばされる。結果としては、ご覧のとうり少年はその二つを持っている。

 

言って置くが少年も少女も魔法は一切使用してない。そして、体術と言ってもそれでは出せない速度だ。普通じゃない。お忘れかもしれないがここで行われているのは人体実験。その被験者である二人が普通の可愛い子供であるわけがない。ここでの実験の目的は魔法師でない人間が魔法師を殺すことができること。その目的における手段として、人間が持っている能力を魔法や薬、その他もろもろで強引に上げる手段が問われた。結果的にできたのがこの少年たちだ。

 

少年は念願の成功作…に近い。とは言え欠点は、少年の能力を考えればお釣りがでるほど。色んなものの副作用で食欲の魔人になってしまったがお安いもんだ。少年は片足だけ血の足跡を残しどこかに消えた。

 

 

 

●●●

 

「着きました」

 

俺は、その一言ですぐ覚醒する。寝ていたという感覚がしないのは多分夢を見ていたせいだろう。何の夢だったかはうろ覚えだけど多分施設にいたころだ。あの頃のことはこうして夢に出ることがある。だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。俺は、後部座席からおもちゃ(ライフル)を取り、近くにいた花蓮達に合流する。

 

「今回やる事は、危険物の回収よ。うっかり、失敗するとわたし達、死ぬからね」

 

と花蓮は作戦に加わる人物に言う。動揺するものは一切いない。なんせ、自分たちの生死がかかっているのはここに居れば常に付きまとう。

 

「今回は、運がいいわね。市街地での取引よりはよっぽど善良的だわ」

 

小声でつぶやいていて俺以外には聞こえていないと思うが、善良的だと思っているのは花蓮だけだ。

 

「いつもどうり、ヒット&ゲット後に二船とも制圧。お話できる人は多いに越したことはないけど、無理はしないように。そのせいで、敵じゃなくて味方の死体が増えるから」

 

そう花蓮が言うと全員が頷き、各自持ち場につく。俺は、と言えば花蓮に近づく。

 

「で、その船はどこに出るの」

「中に居る人によるとここらへんね」

 

そう言って花蓮は地図上に赤丸で囲う。ああ、完全に陸上からじゃ届かない。これはたぶん

 

「ヘリコプターからの狙撃お願いね」

 

俺は、言われる前に察して動いていた。ヘリコプターに乗り込み、移動中に準備をする。黒のケースを開ければそこには、スナイパーライフル。俺専用に改良されたもので、四キロ以内なら、射程範囲だ。それを取り出して、いじり、不備がないか確認する。ないことを確認したら狙撃の態勢を作り、目標が来るまでじっと待つ。ヘリコプターの地点は船の取引場所から大体、三キロ離れている。これはヘリコプターがいることを悟られないためだ。銃を構えつつ周りを見渡して船を待つ。

 

幸いにも、待ち時間はそうも長くはなかった。

 

ヘリコプターから二隻の船が見えた。その船は徐々に近づき、二隻の隙間がゼロになる。すると中から二人づつ男が出てくる。恐らく一人が渡し訳もう一人は受け取り役だろう。どっちの船が危険物を持っているか、花蓮から連絡があった。俺は、危険物を持っている方の船の男に狙いを定めた。例え三キロ離れていようが俺の目はしっかりと男を捉える。耳にはヘリコプターの音に混じって男達の会話が聞こえる。

 

そして、

 

「撃て」

 

俺は、引き金を引いて、男の頭を吹っ飛ばした。船内は突然の出来事に動けないでいる。男が即死し、自由になった危険物は、水中に潜んでいた隊員の移動魔法によってこちら側に来る。名前のまんまこれがヒット&ゲットだ。危険物を回収できればあとは制圧。次々と隊員が海から出てきて、抵抗する間もなく取り押さえられていくのが見える。しかしこれ以上乗られてたまるかと一人の男が操縦席に入り込もうとしているのが見える。俺は、リロードをするともう一度引き金を引き、今度はその男の頭を吹き飛ばす。仮に抵抗しようとしても、それを許すほどの間抜けはいないし、成功前に俺が弾丸をプレゼントする今のが実際例だ。

 

結局俺の今日の仕事は、弾丸を一発打っただけで終わった。

 

そのままヘリコプターで帰りたかったがそんなことはできず、車で帰った。家に着いたのは日が変わるころで、そのままベットに直行し、さっさと寝た。

 

 

 

 

 

 

 




これで主人公のお仕事は終わり、次は本編に戻ります。

突然ですが一年はあっという間ですね。気がついたらこれを投稿して一年たってます。なのにまだこれを含めて11。いや、一年で一巻。この調子だと終わるのはいつになることやら。

とにかく!今年も頑張りますのでよろしくお願いします。

誤字脱字、感想があれば気楽にどうぞ

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