何故か課題とか宿題とかある時の方が筆が進む………
梅雨。それは春の終わりから夏の初めにかけて訪れる雨季の一種。そして―――
『……が大量発生中。何故この地域でだけこのような事態が起きているのか。今日は専門家の先生に………』
「どうしたのよ。テレビ見たまま固まっちゃって」
「………霊夢、ボクキョウガッコウヤスム」
「はあ?」
―――あいつらが元気に跳ね回る季節だ。
「ほらさっさと行くわよ」
「お願い!今日だけは見逃して!いや、出来れば一か月くらい見逃して!!!」
「なに馬鹿言ってんのよ。あんまりおかしなこと言ってると学校まで引きずっていくわよ」
「現在進行形で引きずられてるよ!?」
僕の意向を全く意に反さず、通学路を行く霊夢。抵抗はしてみたけど何故か男の僕よりも強い腕力に逆らえず、今も駄々をこねる僕を引きずっている。
くっ、こうなったら霊夢は後回しだ。今僕は外にいる、ということはいつあいつらが現れてもおかしくないということだだ!
周辺チェックは怠れない。右よーし、左よーし、正面よー、ん?
「おっ、通学中に会うのは久しぶりだな」
「おはようございます………ところで、なぜ叶也は引きずられているんですか?」
現れたのは魔理沙と妖夢。なんだか珍しい組み合わせな気がする。
「なんでかわからないけど急に学校に行きたくないって言いだしだのよ、こいつ」
「へえ、珍しいこともあるもんだ。もしかして異変の前触れか?」
「いや僕は学校に行きたくないわけではなくて、外に出たくないだけであってですね」
「同じじゃない」
「同じだな」
「同じですね」
「くそっ、味方がいない!」
こうなったら一秒でも早く学校に辿り着くしかない。室内に入ればこっちのものだ!
僕は三人を置いて早足で進み始めた。
「引きずられたり、急に急いだりわけがわからないわね」
引きずった本人には言われたくないよ。
「全くだな。…ん?おい叶也踏んづけるぞ」
「何『ブニッ』…を?」
魔理沙に確認する前に踏んづけてしまったようだ。なんだこの感触?気色が悪いな。
心の中で軽く悪態を吐きながら、僕は足をどかして謎の感触の正体を確かめる。
瞬間、頭の中が真っ白になった。
三角形の頭。そこから飛び出している目玉。丸々とした緑色のボディ。こ、こいつは…もももももしかして………
「何って―――カエルだよ」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
「と、飛んだ!?」
「しかも空中で三回転半捻りをしています!?」
「…そして私たちの後ろに着地したわね」
や、やばい。マジやばい。もう無理。もう動きたくない。
「大丈夫か、叶也?なんかひどく怯えてるみたいなんだが…」
「こいつがこんなに恐怖を露わにするなんて珍しいわね」
「何が原因でしょう?」
「まあ、状況から考えてあのカエルが原因でしょうね」
「なんだ?もしかしてカエルが苦手なのか?」
はやっ!?考え始めて十秒もしないうちに答えに到達しちゃったよ。
「じ、実は…」
「「「実は?」」」
「僕、カエルが大の苦手なんだ…」
あれはまだ幻想郷に来たばかりの頃。紫さんと妖怪の山に訪れていた時の話だ。
どういう流れでそうなったのか覚えていないけど、僕は紫さんのそばを離れ一人で山を散策していた。
目につくものが全部珍しくて触ったり、匂いを嗅いだり、口に含んだりしていた。………今思えば目につく木の実を迷わず食べてたのは危なかったな。
そんな風に歩き回ってたら………なんて言ったらいいのかな、白くて大きな物が僕の目に入ったんだ。
触ってみたら柔らかくてさ、面白がってペタペタ触ったり思いっきり体当たりしてみたり、色々といじくりまわしてたんだよ。
そしたらなんとそれがカエルの妖怪のお腹でさ。眠ってたところを叩き起こされて気分を悪くさせちゃったみたいでさ、その妖怪さんに丸呑みにされちゃったんだよ。
幸い僕がいないことに気が付いた紫さんが助けてくれたんだけど、それでも5分くらいはカエルの胃袋の中にいることになってね。………あの暗くて粘々した空間はいまだに夢に出てくるくらいに強烈だったよ。
「それ以来僕はカエルが苦手になったんだよ」
「へぇ、初めって知ったぜ」
「そりゃ、今まで隠してたから」
「なんでわざわざ隠してたんですか?」
「いや、まあ、なんとなく?」
「なんで疑問形なのよ」
本当は格好悪いからなんだけどね。男の僕がチルノですら凍らせて遊んでるようなカエルにビビってるなんて恥ずかしいじゃん。なんかそんな理由で黙ってたっていうのも恥ずかしいから言わないけど。
「それで朝から様子がおかしかったのね。確かにテレビでカエルが大量発生中って言ってたわ」
「なるほど。叶也にとっちゃ最悪の事態だな」
全くだ。さっきから聞こえてくるカエルの鳴き声を聞いてるだけでも嫌な汗が止まらないって言うのに。
「と、と言うわけで僕は一刻も早く学校に行きたいんだ!」
「だったらまず私の背中から離れなさいよ」
情けないことに、現在は霊夢を盾にするようにして後ろに隠れながら学校を目指している。いや、ほんとに勘弁してくださいよ。いきなり飛び出してきたりしたら心臓止まっちゃうかもしれないよ。
「仕方がないですよ。さっきみたいにスペルカードを発動しようとされても困りますから」
「うっ、面目ない…」
だって、昔話している最中にいきなり飛び出してくるもんだからさ。仕方がないよね?
「まあいいじゃないか。叶也の意外な一面も知れたことだし。と、ところで霊夢。叶也が鬱陶しいんだったら、私が変わってやってもいいぜ?」
「別にいいわよ。校門まですぐそこだし」
「そ、そうか…」
おっ、ついに学校が見えたか!もうこんな状況には耐えられない!
僕は霊夢の背中から飛び出して校門まで一気に走った。余計なものが見えないように目はほとんど閉じている。
「おい、叶也!危ないぞ!」
大丈夫だ、ちゃんと走る前に周りは見た。校門までは一本道、目の前には偶然にも登校中の生徒はいない。
疾走。きっと今の僕は誰よりも速いだろう。風を切る、という言葉を体現しているような気分だ。
「おはよう、叶也。今日も元気がいいな」
校門の前に立って挨拶している慧音先生の声がゴールテープの代わりだった。やった、遂に辿り着いたんだ。
僕は湧き上がる歓喜を感じながら目を開けた。
「そういえば、今校内に大量のカエルが入り込んでるから気をつけろよ」
目を開けた瞬間、僕の目の前にいたのは―――――カエルだった。
「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
咄嗟だった。僕は無意識にスペルカードを取り出していた。僕の手持ちの中で一番強力な札を。
―――四符「精霊達の「やめなさい」ろ、ぶあっ!?」
「全く、少しは平和的な解決を図りなさいよ」
「いきなりぶん殴ってきた霊夢には言われたくないよ!?」
せめて平手で勘弁して欲しかった。
「これはだいぶ重症ですね。あっ、頬がじゃなくて叶也のカエル嫌いがですよ?」
「わかってるよ。でもこればっかりはどうにもならなくてさ」
本当に困ったものだ。いったいどうすれば………。
「だったら、どうにかできそうなやつに頼めばいいんじゃないか?」
「へ?」
「いいわよ。この町からカエルを根絶やしにしてあげるわ」
「いや、そこまでしなくてもいいです」
現在校長室にて紫さんに直談判中。いやお願い自体は通りそうなんだけど、このままでは僕の我儘で罪のないカエルたちが被害を被ることになってしまう。確かに嫌いだけど、恨みがあるわけではないし。
「まあ冗談は置いといて。もともと蛙の大量発生はどうにかするつもりだったのよ」
「あっ、そうなんですか?」
「ええ。流石にこんなに多いと、鳴き声が鬱陶しくて眠れないのよ」
そんな理由なのか。町のためとか、人々のためとか、そういう理由が出てくるとは思ってなかったけどさ。
「その上、あなたにまで不快な思いを与えているんだから………滅ぼしましょうか」
「できれば穏便に解決してください…」
結局、紫さんの隙間を使って適当な山や川にカエルを放逐することで事態は解決した。
このとき僕は心底安堵していた。これで明日からまたいつもの学園生活に戻れると。
しかし、人生はそう優しくはないようだ。既に次の脅威がすぐそこまで迫っていたことを、この時の僕はまだ知らない。
僕にとって、カエル以上に厄介な存在が迫っていることを………
「待っていてください。今会いに行きますよ、叶也さん!」
次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
叶也ったら蛙に弱いなんて情けないよね
因みに私の苦手なものは海なんだ
ちょっと昔にいろいろあって、若干トラウマがあるの
気になる人は因幡の白兎で検索してみてね
さーて気になる次回は!
突如現れた転校生、その常識に囚われない振る舞いは二年一組を翻弄する
第25話「緑色の新風」
次回は謎の美少女転校生に、ピックアップ!
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください
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