ツンデレ成分が薄いな
「悪いわね。手伝わせちゃって」
「いえいえ、ちょうど暇でしたし」
僕は放課後の廊下を鈴仙さんと歩く。ちょうど帰ろうとしたときに鈴仙さんが腕いっぱいに荷物を抱えているのを見かけたので手伝っているのだ。
「それにしても、こうして二人で話すのは久しぶりね」
「そうですね。花見の時も鈴仙さんは忙しそうでしたし」
「そうなのよ。まったく師匠もてゐも私をこき使ってばっかりで、なんにもやらないんだから」
「ははは、お疲れ様です」
他愛もない話をしながら保健室に向かう。正直、永琳さんには会いたくないけど今更引き返すわけにもいかないし。
「ところでこれは何なんですかね?」
「私も詳しくは聞いてないけど………新しい薬の材料らしいわ」
またなんか作るのか…。願わくば被害が僕の方に来ませんように。
そうこうしているうちに保健室に着いた。中には案の定永琳さんが待っていたんだけど、なんだか様子がおかしいな?
「はぁ………あら?叶也も手伝ってくれたのね、ありがとう」
「ため息なんて珍しいですね。悩み事ですか?」
「まあそんなところかしらね」
永琳さんほどの人を悩ませる自体が存在するなんて。きっとよほどのことに違いない。
うん、ここは僕に飛び火する前に逃げるべきだな。
「叶也、ちょっと待って」
「は、はい!」
何も言わずに保健室から出ようとしたところ、永琳さんに呼び止められた。
「ちょっと聞いてもらいたいことがあるのよ」
「なんでしょうか…」
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。とりあえずここに座りなさい。はい、お茶」
そう言って自分の前の椅子を指差した。静かに放たれるプレッシャーに耐えきれずとりあえず座ることにする。ん、このお茶美味しい。
「あなたに頼みたいことがあるのよ」
「は、はあ。それはさっきの悩み事と関係があるんですかね」
「ええ、そうよ」
やっぱりか。永琳さんでさえ悩ませるほどの事態を僕が解決できるとは思えないんだけどなぁ…。
「実は悩みの種はうちの姫様なのよ」
「姫様?というと輝夜さんのことですか?」
蓬莱山輝夜。幻想郷にある永遠亭という場所の主で、あの有名な『なよ竹のかぐや姫』だ。
輝夜さんが元の悩み事か……男に言い寄られすぎて困ってるとか、悪質なストーカーに付け回られてるとかかな?
「恥ずかしい話なんだけど、輝夜ったらまた学校に来ないでゲームばっかりやってるのよ」
「えっ?」
想像の斜め上、どころではない悩み事だった。ここで言うゲームってあれだよな、外の世界ではポピュラーな玩具のあれだよな。
「私は何度も学校に行くように言ってるんだけどなかなか聞いてくれなくて…」
「な、なるほど。それで、頼みたいことって?」
「あら、意外と察しが悪いわね。あなたには輝夜を学校に登校させてほしいのよ。優曇華を付けるから早速輝夜のところに行ってくれないかしら?」
「わ、私もですか!?」
鈴仙さんが驚きの声を上げる。因みに僕は急展開過ぎて驚くことすらできなかったです。
「あの、僕がどうこうできる問題だとは思えないんですが…」
「あら、私はあなたなら何とかできると思うわ。それにもし断ると、うどんげの予定が叶也の同行から新薬の実験に変わることになっちゃうけど?」
「きょ、叶也!お願いだから師匠のお願いを聞いてあげて!!」
うわぁ、なんてえげつない方法を使うんだこの人。流石にこんな必死に鈴仙さんに頼まれたら断れないよ…。
「わかりましたよ。とりあえずやるだけやってみます」
「ふふ、頼んだわよ」
やれやれ、どうなることやら。
「ここが女子寮か…」
やってきました、女子寮前。今まで目の前を通ったことはあるけど、まじまじと見るのはこれが初めてだな。
しかし、永琳さんの推薦状だけで簡単に入れるのかな?
「ここで待ってて。管理人さんに「あら、叶ちゃんじゃないのー」……会いに行く必要はないみたい」
タイミングいいなぁ。もしかしてわざわざ出てきてくれたのかな?
「今日はどうしたのー?お茶でも飲みに来たのかしらー?」
「あ、いえ、今日は輝夜さんに用がありまして。それで、幽々子さんに許可をもらいたくてですね…」
「いいわよー」
「えっ、そんなにあっさり?」
まだ推薦状すら見せてないのに。後ろで鈴仙さんもぽかんとしている
「叶ちゃんならいつでもオッケーよ。その代わりに帰りにお菓子作ってくれたらうれしいわー」
「はあ、そんなことでいいなら」
………それでいいのか、管理人さん。
「というか、まず中に入れてもらえるんですかね?」
「えっ、どういうこと?」
輝夜さんの部屋までの道すがら、僕と鈴仙さんは作戦会議のようなものをしていた。
「いや、もし永琳さんの使いだとばれたら部屋に入れてくれないと思うんですよ」
「うーん、そこまで徹底してるかしら?姫様のことだからすんなり入れてくれると思うわよ」
「ふむふむ……あっ、ここですか」
永琳さんから聞いた部屋番号と一致する。
因みに各部屋にはインターホンがついている。こういう細かいところでもうちの学園の便利さを実感させられる。
そんなどうでもいいことを考えていると鈴仙さんが前振りもなくインターホンを鳴らした。うう、まだ心の準備ができてないんだけどなあ。
『だれ?』
インターホンから気怠そうな声が聞こえてきた。間違いない、輝夜さんの声だ。
「鈴仙・優曇華院・イナバです。今日は少しお話があって来たんですけど」
『鍵開いてるから入りなさい』
開けっ放しとは不用心だ。学校のパンフを見た限りだと、この寮は防犯面も一級品みたいだし気にしてないのかもしれない。
「お、お邪魔しまーす」
少し緊張しながら部屋に入る。部屋の中は最低限綺麗にされているが、ところどころにゲーム機やゲームのソフトが散らばっている。
「ん?なんで叶也までいんのよ」
「あっ、えっとこれはですね…」
何て言おうか。素直に永琳さんに頼まれたと言うか、それとも隠しておくべきか。
「まあ、いいわ。で、いったい何のようなの?」
「今日は師匠の使いで来ました」
「ああ、またその話?永琳にも言ったけど私はハンターランクがカンストするまで学校に行く気はないのよ」
はんたーらんく?かんすと?…ダメだ、僕にはさっぱり分からない。
「またそんなこと言ってるんですか!学校が終わってからでもゲームはできますよ!」
「学校に行ってる間も他のプレイヤーはレベル上げに勤しんでるのよ。私だけ置いてけぼりなんて真っ平だわ」
なんの話なのかはいまだに分からないけど、輝夜さんがろくでもないことを言ってる気がする。
その後も鈴仙さんと輝夜さんの言い争いは続いた。いや、これ僕が来る意味あったのかな?今のところお邪魔しますくらいしか言えてないんだけど。
「ぜえ、ぜえ…」
「はあ、はあ…」
たっぷり十分くらいだろうか。二人とも疲れたのか唐突に言い争いが止んだ。
「あんたもなかなか頑固ね。こうなったら仕方がないわ、私もちょっとは譲ってあげる」
「学校に来てくれるんですか?」
「ええ、ただし………私にゲームで勝てたらね!」
「その言葉に、二言はないですね?」
「ええ、私もゲーマーとしてこの言葉を違えることはできないわ」
………なんなんだろうこの展開は。完璧に僕は蚊帳の外だよね?絶対に忘れられてるよね?
「それで、何で勝負しますか?」
「そうね、近々新作も出るみたいだしス○ブラで勝負よ!」
「あのぉ、僕はどうすれば…?」
「「あっ」」
この反応、ホントに僕のこと忘れてたのか。いいんだけどね、僕も気づいてたし。
「そ、そうね。イナバ一人じゃ私には逆立ちしたって勝てないし、叶也とのタッグで挑戦してもいいわ」
「い、一緒にがんばりましょう!」
そんな気を使わなくてもいいですよ、別に気にしてないですから。それより…
「僕、そのす○ぶらっていうのやったことないんですけど」
「「えっ!?」」
うわっ、すっごい驚いてる。そんなに有名なゲームなのかな?
「じゃあ、はいこれ」
「これは?」
「説明書よ、とりあえずこれ読めば操作の方法も分かるでしょ。あっ、コントローラはクラシックPROでいいかしら?」
「あ、はい。大丈夫です」
クラシックなるものがどんなものなのかは分からないけど、どうせどれも初めてだし変わりはない。
「イナバ、ただ待ってるのも暇だし二人で対戦しましょう」
「いいですよ。もし勝ったら学校に来てくれるんですよね?」
「強気じゃないの。まっ、勝てればね。ルールはストックで、アイテムは無しよ」
「わかりました」
二人は既に盛り上がってるなぁ。早く僕もこれを読まないと。
「じゃあ私はプ○ンで」
「私はス○ークで行きます」
ふむふむ、相手を場外に吹き飛ばすと勝ち。それとダメージが蓄積すると吹き飛びやすくなるのか。
『3,2,1 GO!』
「そういえば、あんたの罰ゲームを決めてなかったわね」
「え゛っ、私にもあるんですか」
「私だけリスクを背負うなんて割に合わないじゃない。流石に初心者の叶也にそんなこと言えないし、その分あんたががんばりなさいよ」
「そんな!?姫様めちゃくちゃ強いんだから勘弁してくださいよ!」
「い・や。もう決めちゃったし。そうね、敗けたら今日1日私に勝つまでメイド服を来てもらおうかしら?」
「いやですよ!?というかメイド服なんて簡単に手に入りませんよ!」
「大丈夫、こんなこともあろうかとこの前通販で買っておいたから」
「どんな事態を想定してたんですか!?」
なるほど、このボタンで攻撃か。回避はこのボタン。やってみないと分からないけど、意外と簡単そうでよかった。
「ほら、動揺がプレイに出てるわよ」
「ちょっ、ずるいですよ!」
「こんなことで動揺するあんたが悪いのよ」
『GAME SET!』
「ああぁ……」
「じゃあ、さっそく着てもらいましょうか」
「えっ、今すぐですか!?」
「もちろんよほら脱ぎなさい」
「待ってください!ここには叶也もいるんですよ!?」
「大丈夫よ、あいつは説明書読むのに夢中だし」
「ちょっ、やめ、誰か助けて~~~~!!!」
へぇ、結構いろんなキャラがいるんだな。どれが使いやすいんだろう?………鈴仙さんには悪いけどここは聞こえないふりで。今振り向いたらそれはそれで大変なことになりそうだし。
ふぅ、やっと読み終わった。あとはやってみないと分からない。ゲーム経験皆無の僕では手も足も出ないだろうけど、やるだけやってみよう。それに純粋にゲーム自体も楽しみだし!
「叶也、そろそろ準備できた?」
「はい、準備できッ!?」
「…何よ、似合わないならそう言えばいいじゃない」
輝夜さんの隣にへたり込む鈴仙さんを見て僕は思わず息を詰まらせた。ロングスカートで白と黒を基調にしたシンプルなメイド服。それが鈴仙さんの長い髪とマッチして清楚な雰囲気を醸し出している。いや、これは…
「すごく似合ってますよ。思わず見惚れてしまうくらい」
「ッ!!!?」
おわっ!れ、鈴仙さんが一瞬で真っ赤に!しかも頭から煙まで出てる!
「べ、別にあんたに褒められたって嬉しくなんてないんだからね!」
「…あんたも素直じゃないわね」
ぬう、また怒られた。やっぱり無理矢理着せられたものを褒められてもうれしくなかったのかな?
「と、とにかく!あんたも準備できたんならさっさとやるわよ!」
「は、はいっ!」
僕は慌ててテレビの正面に座った。おおっ、なんだか新鮮だな。テレビを観るのとはまた違った感じがする。
「私はゼ○ダでも使おうかしら、姫つながりで」
「じゃあ、私はル○リオで。波動と波長って似てると思うんで」
「ええっ!?僕だけ繋がりがあるキャラいないんですけど!?」
というか、このキャラたちがどういう人物なのかも全く分からない。
「とりあえず適当に…この緑の髭にしようかな」
「じゃあ、準備はいいわね。ストック3つが先に尽きた方が負けよ。まあそっちには初心者もいるし、手加減してあげるわ」
おお、すごい自信だ。僕も勝てるとは思っちゃいないけど、せめて鈴仙さんの足を引っ張らないようにしよう。
『3,2,1 GO!』
………………………
………………
………
『GAME SET!』
「………」
「あの…輝夜さん?」
「…なんで」
「えっ?」
「なんで一回も勝てないのよ!!」
ゲームを始めてからかれこれ一時間ほどが経っていた。今の輝夜さんの叫び声を聞けば分かると思うけど………何故か僕は無双の強さを発揮していた。
「さてはあんた嘘ついてたわね!!」
「ちょ、落ち着いて!胸ぐらをつかまないで!?」
取り乱した輝夜さんが掴みかかってきた。いや、本当に初心者なんですけど…。
「姫様落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるか!!この私が!素人に!ボコボコにされたのよ!!………あ、自分で言ってて泣けてきた」
もう、輝夜さんのパニック具合がヤバいな。いつもはもっとどんと構えてて、全身からふてぶてしいオーラを振りまいているような感じだったのに。
「こうなったら別のゲームで勝負よ!今日は勝つまで帰さないんだから!!」
結局、この後僕は連戦連勝。無類の強さを見せつけ輝夜さんに登校の約束を取り付けさせた。
まさか僕にこんな特技があるとは…。
~ある日の保健室~
「師匠は知ってたんですか?」
「あら、何の話かしら」
「とぼけないでください。この前の姫様の話ですよ。師匠は叶也がゲームに強いことを知ってて送り出したんですよね?」
「そんなはずないでしょう。でも、ゲーム勝負になるとは思ってたわよ」
「えっ!?じゃあ、なんで叶也に頼んだんですか?」
「あの薬、人間にしか効果が無かったのよ」
「薬?」
「ええ。叶也が飲んだお茶に混ぜておいた、ゲームに強くなる薬」
「そんな薬まで作れるんですか!?」
「一応ね。正確にはゲームに対する集中力の増加とか指先の器用さの強化だけどね」
「…それ、人体に害はないんですよね?」
「当然よ………たぶん」
「………最後の呟きは聞こえなかったことにします」
次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
やっぱり鈴仙が出てもあたしは出れないんだね…
まっ、最近はこのコーナーを独り占めしてるしいいかな
というわけで仕事しますか!
次回から物語の中は六月
なんと叶也が大っ嫌いな○○○が大量発生!
第24話「蛇に睨まれた蛙」
次回は叶也のトラウマに、ピックアップ
※必ずしも次回予告通りになるとは限りません。ご了承ください
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