山も谷もない、そんなお話
「はあ、困ったな」
放課後、机の上にぐったりと突っ伏す。
「どうかしたんですか?」
僕の独り言が聞こえたのか、流、啓、淵の三人が僕の周りに集まってきた。
「いや、大したことじゃないんだけどね」
「………気になる」
「別に面白い話じゃなよ。実は僕の部屋のテレビが調子悪くてさ」
「テレビですか?だったら管理人さんに事情を話せば何とかしてくれますよ」
「僕もそうしようとしたんだけどね。萃香さんは昨日の夜から帰ってないんだってさ」
なんでも昨日は幽々子さんと飲みに行ったっきり帰ってこなかったらしい。飲むなとは言わない、仕事をしろとも言わない、でもせめて寮にはいてくほしいんだけどな。
「テレビなら共同スペースで見れるだろ!」
「そうだけどさ、やっぱり早めに直したいよ」
できれば週末までには直したいな。こっちに来てからは大河ドラマを見るのが僕の楽しみの一つだし、あれは一人で静かに見たい。
「………いい考えがある」
「ん?いったい何?」
「………河城にとりに頼めばいい」
「なるほど。河童なら技術関係に強いですし、適役ですね」
にとりか…
「そういう淵には直せないの?確かにとりほどじゃないにしろ得意だったよね」
「……………テレビは専門外」
「そっか、じゃあ仕方ないか。にとりに頼むことにするよ」
「………それがいい。河城は部室等にある技術部の部室にいると思う」
「わかった、ありがと」
僕は三人と別れ、教室を出た。
それにしても、にとりか…。別に嫌いではないし、結構長い付き合いだから僕としてはむしろ好きな方だ。
でも問題はにとりの方なんだよなあ。にとりは人間に対して極度の恥ずかしがり屋で、付き合いの長い僕と話すときでも物陰に隠れるほどだ。
いつも顔を真っ赤に染めながら話をしているのを見てると、こっちの方が申し訳なくなってしまう。
「っと、危ない危ない。通り過ぎるところだったよ」
扉には技術部と書かれたプレート。中からは機械の軌道音のようなものが聞こえてくる。
何かの作業中かな?邪魔するのも悪いけど、ここで突っ立てるの何だしな………とりあえずノックするか。
僕がノックをするために扉へ近づこうとしたとき、突然扉が吹き飛んだ。
「っ!!?」
突然のことに驚きながらも、飛んできた扉をしゃがんで避ける。
「あ、あぶねー!?いったい何があったんだ?」
この異常事態の原因を確かめるべく、僕は部室の中に入っていった。
「こ、これは!」
中に入ってすぐ目に入ったのは、今まで見たことがないものだった。
銀色のメタリックなボディにところどころが黒い装甲で覆われている。形は人に近いが大きさは二メートルを超えるほどだ。
なんだこれ?見たことも、聞いたことも………いや、待てよ。もしかしてあれか?本とか知り合いの風祝から聞いた話に出てきた、ロボットってやつ。
なるほど、聞いてた通り格好良いな。
しかしこの時僕は少し浮かれて失念していた。この部屋には先ほど扉を吹き飛ばした存在がいることを。そして気づけなかった。その存在が僕の目の前にいることに。
「避けて!」
「え…うおっ!?」
いきなり正面から突き出された無機質な拳。間違いなく僕がまじまじと見ていたロボットのものだ。
「こいつ動くのかよ。外の世界でもこういうタイプのロボットは開発されてないって聞いてたんだけどな」
「そいつは今暴走してるの!危ないから逃げて!」
先ほど危険を呼びかけてくれた声が再度僕に危険を知らせる。声の主は河城にとり。ちょうど僕が捜していた河童の女の子だ。
しかし逃げてか…さすがににとりを一人置いて逃げれるほど太い神経はしてないしな。
「ねえ、よっと、これって、ほいっと、どうやったら、おっと、止まるの?」
拳を避けながらにとりに聞く。さっきは不意を突かれたけど、この程度のスピードなら避けるのは簡単だ。
「えっと、電力を供給しているプラグを抜けば止まるけど……ってそんなことより早く逃げないと!?」
プラグプラグっとあれか!丁度ロボットの真後ろにあるコンセントに刺さっているやつ。
うーん、しかし厄介だな。相手はリーチが長いから回り込むのは難しいか………なら!
ステップで相手の攻撃をかわしながらタイミングを見図る。
「よし、いまだ!」
相手が突きだしてきた拳に合わせるように体を前に出した。
「ぶ、ぶつかるよ!」
衝突の瞬間、僕は体を反らして拳を避けそのままロボット目掛けて走る。
「こういう時は自分が小柄でよかったと思うよ!」
少し自嘲気味にそう叫びながら、僕はロボットの股の下を潜り抜け一気にコンセントまで駆け寄った。
ロボットは僕の動きに反応できずいまだに背を向けている。
「これで終わりだ」
プラグを引き抜き、ミッションコンプリート。いやー、久しぶりに体を思いっきり動かしたな。こっち来てからは弾幕ごっこもやらなくなったし、少し鈍ったかも。
「危ない!」
とっさに振り返る。しかし既にそこには眼前まで迫った拳が。
あっ、これは当た………
―――水符「河童のポロロッカ」
………らなかった。間一髪、にとりがスペルカードでロボットを弾き飛ばしてくれたみたいだ。
でもプラグは抜いたのに何で動いたんだろ?
「ご、ごめんね。プラグを抜いても少しの間貯めてある電気で動くんだ、こいつは」
にとりが部屋にある機材に隠れながら、僕の疑問に答えてくれた。
「いや、問題ないよ。こっちこそ助けてくれてありがとう」
「でも、もともとは私のせいだし。ほんとにごめん…」
うーん、僕は気にしてないんだけどな。怪我したわけでもないし、何か壊されたわけでもないし………あ、そうだ。
「じゃあ、こういうのはどう?」
「このテレビを直せばいいの?」
「うん、よろしくね」
あの後、お詫びのしるしとして僕の部屋のテレビを修理してもらうことを提案したところ、にとりは快く引き受けてくれた。
これで僕は当初の目的を果たせるし、にとりも今回の一件に対する謝罪ができるとまさに一石二鳥。
不安だったのは女の子が男子寮に入れるのかってことだったけど、これはすんなりオーケーがもらえた。今思えば霊夢だってホイホイと入ってきてるんだから、あんまり心配することはなかったかな。
にとりが僕にはわからない器具を使ってテレビを調べ始めた。さてと、こうなると僕もやることがない。どうしよっかなー……そうだ、お菓子でも作ろうか。一応無料でテレビを直してもらってるからお礼もしたいしね。
「おーい、聞いたぞ叶也ぁ。部屋に女連れ込んでるんだってぇ!」
突然背中に重みがかかる。更にあたりに酒のにおいが広がる。うん、顔を確認するまでもないな。
「もとはと言えば萃香さんのせいでこうなってるんですよ」
「んん?あたしのせい??なんかしたっけなぁ…」
口と同時に身体を動かしながら僕の体をよじ登っていく。
「萃香さんがいないせいでテレビの修理を頼めなかったんですよ」
「なるほどぉ、それで河童か。でもお前の友達には男の河童もいたよなぁ。それなのにわざわざ女を連れ込むなんて………色男め!」
肩車の形に落ち着いた萃香さんが僕の頭をぐりぐりしてくる。
「別にそういうんじゃないですって。たまたま利害が一致したって感じですよ」
「あの河童もなかなか可愛い顔してるし、おっぱいも大きいし。ああいうの巷ではロリ巨乳っていうんだろ?ああいうのが男受けするんだろ?ん?どうなんだこのエロガキ!」
ダメだ、人の話を聞いちゃいない。もうどうあっても僕の浮いた話を聞く気満々だ。はあ、とりあえず無視してお菓子作ろうかな。
「なんだよぉ、もっとあたしに構えよぉ、お前の色恋沙汰を聞かせろよぉ」
「お菓子作るんでそろそろどいてくれませんかね?」
「冷たい!いつになく叶也が冷たい!こうなったら意地でもここをどかないからなぁ!」
「はあ…」
結局萃香さんを肩に乗せたまま僕はお菓子作りを始めた。
「「できた!!」」
ちょうどタイミングよく僕とにとりの声が重なった。向こうも片が付いたようなのでキッチンを離れにとりのところへ行く。
「どうだった?」
「うん、もう大丈夫だよ。むしろ今までより、ひゅい!?」
セリフの途中でおかしな悲鳴を上げてにとりが近くにあった椅子の後ろに隠れる。今回は僕を見て隠れたわけじゃないっぽいな。
にとりの視線は僕の頭の上に見ている、ってそういえば萃香さん乗せたままだった。河童は鬼を恐れてるからな。それで驚いたんだろう。
「萃香さん、一旦降りてください」
「しょうがないねぇ」
萃香さんを降ろしにとりに近づく。
「はい、これ」
「えっ、これは?」
「テレビのお礼にクッキー焼いたんだ。ありがとね」
「お、お礼なんて。もとはと言えばお詫びのためにやったんだし」
「遠慮しなくていいよ。僕はにとりに食べてもらいたくて作ったんだから」
「わ、わかった。ならありがたくいただくよ」
これで一段落ついたかな。クッキーの入った袋をにとりに渡しながらテレビの方を見る。
心なしか前よりも立派に見えるな。
「そ、それじゃあね。また何かあったら言ってよ」
「え、いいの?」
「も、もちろんだよ。だって叶也は私の、た、大切な盟友、だから」
「じゃあまた何かあったらよろしく頼むよ」
「う、うん。またね」
そういってにとりは僕の部屋を出て行った。それにしても盟友か。てっきりにとりには苦手に思われてると思ってたけど、案外好かれてるみたいでよかった。さてと、後片付けでもしようかな!
「…河童よぉ、それじゃあ叶也には伝わらないと思うなぁ、たぶん」
萃香さんの呟きは食器を洗う音にまぎれて聞こえなかった
~とある下校風景~
放課後の帰り道。流、啓、淵の三人はともに帰路についていた。
「ところで淵。どうしてあんな嘘をついたんですか?」
「………何の話」
「とぼけたって無駄だっつーの!お前は嘘が下手だからな!」
「下手ということはないと思いますが、確かに癖がありますからね。叶也は気づいていなかったみたいですが」
「叶也は変なところで鈍いからな!」
「………確かに」
「で、どうしてテレビが直せないなんて嘘を?」
「………頼まれていたから。叶也が困っていたら教えてほしいと」
「一応聞きますが誰にですか?」
「………河城にとり」
「やっぱりか!あいつも叶也にほの字だからな!」
「………ほの字は死語」
「そんなことはいいんだよ!チクショウ、なんで叶也にばっかり女の子が寄ってくんだよ!俺だって女子にモテてみてーぜ!」
「………同感」
「とはいっても叶也の近くにいたら難しいんじゃないですかね。他校の女性なら可能性はあるかもしれませんよ」
「だけどあいつなら他校の女子にもフラグ立ててそうじゃねーか!」
「………否定できない」
「確かにその可能性はありますね。でしたら――――――」
「すいませーん!」
「「「ん?」」」
突然後ろから声を掛けられ三人は同時に振り返った。緑の長髪に見慣れないブレザータイプの制服。そんな女性が駆け寄ってきた。
「あのー、幻想学園の生徒の方ですよね?」
「はい、そうですが。私たちに何か?」
「実は道に迷ってしまいまして。幻想学園までの道を教えてくれませんか?」
「それでしたら、………」
女性へ道のりを説明し始める啓。流と淵はこういうことは彼の方が得意だと知っているので、別のことに集中していた。
「…でかいな」
「………ああ」
「…うちのクラスは慎ましい女子ばっかだからな」
「………ああ」
「…それに学園全体でみてもかなりでかい方だよな」
「………ああ」
もしも当の本人に気づかれたら殴られても文句をいえないであろう会話をしていた。
「………でそこをまっすぐ行けば学園です。これで大丈夫でしょうか?」
「はい、ありがとうございます。おかげで何とかなりそうです」
「それはよかったです。ではお気をつけて」
「あっ、もう一つ聞きたいんですけど」
「なんでしょうか?」
「もしかしてなんですけど………幻想学園に八雲叶也さんって人はいますか?」
「「「………」」」
「あの、どうかしましたか?」
「「「やっぱり他校の女子にもフラグ立ててたのかよ!!!」」」
「え!?ええっ!?」
静かな道路に、三つの叫び声と一つの困惑の声が響いた。
次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
今回にとりが「大切な盟友」て言ってたよね
大切って言葉は「かけがえのないもの」という意味から「心から愛する」という意味としても使われてるんだってさ
もしかしてあのセリフはにとりの精一杯の告白だったのかも!
………ふぅ、こんな感じで尺は稼げたかな
さすがに毎回ここに呼ばれると話すことがなくなってくるのよね
因みに作者は次回については何も考えてないってさ
とりあえずまだ出てないキャラを出演させて五月は終わりみたい
誰が出てくるか楽しみウサー(棒)
というわけで次回23話「未定」
ご意見ご指摘ご感想お待ちしてます
活動報告もよろしくです