東方妄想譚 ~ドタバタ☆私立幻想学園~   作:さとゴン

22 / 29
今回は叶也君の視点がありません
最初は文ちゃんの視点からです


第21話 進撃の新聞部

 

 

 「第二回新聞部定例会を始めるわ」

 

 どうも、清く正しい射命丸です!…って、私は誰に言ってるんだろ?

 

 今日は月に一度の定例会。月初めに行われるこの会議では主に先月の反省や今後の活動予定の見直しなどが行われる。

 

 「みんな席に着いたわね」

 

 「みんなと言っても部員は三人しかいないけどね」

 

 「うるさい。少ないの気にしてるんだからいちいち言わないでよ」

 

 言葉を返してきたのは姫海棠はたて。私と同じ烏天狗だ。いつも携帯をいじってばかりで、友達も少ない陰険な―――

 

 「あんた今失礼なこと考えてない?」

 

 「別に。事実を確認してただけよ」

 

 「ふーん」

 

 少し不穏な空気が流れる。流してる張本人の私が言うのもなんだけど。

 

 「お二人ともその辺でやめてください。会議の時間を押してしまいます」

 

 仲裁に入ってきたのは白狼天狗の犬走椛。真面目な堅物で暴走しがちな私たちのストッパー役だ。

 

 「わかってるなら自重してくださいよ…」

 

 おっと、声に出てたかしら?まあ直す気はないしいっか。

 

 「そうね、本題に入るわ。今回の議題は決まってるのよ」

 

 「議題が決まってる………何か特ダネになりそうなことでもあったの?」

 

 はたての目の色が変わる。普段だらけていてもネタの話になれば雰囲気が変わる。彼女が一流の記者である証拠だ。でも今回は残念ながら特ダネの話ではない。

 

 「違うわ、その逆よ。先月はあんまり大きなネタが無かったの!このままじゃあ新聞部として立派な記事が書けないわ!」

 

 「お言葉ですが文様、大きな事件や出来事は我々の行動でどうこうできるものではありません。話し合ったところで何か手が打てるわけでは…」

 

 「その考えは甘いわ。普通の場所ならつゆ知らず、ここは天下の幻想学園よ?全国からさまざまな魑魅魍魎が集まっているというのに何も起こらないなんてありえないわ!」

 

 「つまり文はあたしたちがネタを見逃してしまっていると言いたいわけ?」

 

 「まあ簡単に言えばそうなるわね」

 

 「それにしたって私たちの耳に届かないような小さな事件じゃ大した記事はかけないんじゃないの?」

 

 「それはどうかしら?要は小さくても事件自体が起これば記事にすることはできるわ。その事件に出くわせないことが問題なのよ」

 

 「それだと結局私たちにはどうすることもできないのでは?」

 

 「大丈夫よ。私だって先月の間、無為に過ごしていたわけじゃない。ちゃんと対策を用意してきたから!」

 

 「へえ、ずいぶんと自信満々じゃない。いったい何を用意したの?」

 

 「それは………これよ!!」

 

 そう言って私は後ろにあったホワイトボードをくるりと一回転させた。

 

 「……写真?」

 

 そこには大きく引き伸ばされた男子の写真が一枚。これこそが私の秘密兵器。

 

 「彼の名は八雲叶也。学園長をはじめこの学園の中でも特に力の強い妖怪との親交が深く、更にトラブルに巻き込まれる頻度が異常に高い。これほどまでに記事にしやすい存在なんてそうそういないわ」

 

 「ああ、そういえばあんたが書く記事にはよく出てたわね。確かこの前は紫色の触手の化け物との壮絶な戦いを記事にしてたっけ」

 

 「そうなのよ!他にも女性の知り合いが多いからスキャンダルにしやすいし、聞いた話によると八意先生の薬の実験台とかもやってるみたいだから面白い話が聞けるかも!」

 

 「それで、結局私たちは叶也殿を今後どうするのですか?」

 

 「そうね、とりあえずこれから毎日誰か一人は彼に付くことにしましょう」

 

 「え゛っ!?」

 

 「それはストーキングなのでは………」

 

 「記者が記事を書くのに多少のストーキングをするのは当然のことよ!あなたたちも記者の端くれなら腹をくくりなさい!」

 

 そう、これは仕方がないことなんだ。なにせ彼はホントにさまざまな出来事に巻き込まれる。一歩歩けば吹き飛ばされ、二歩進めば女性に抱き着かれ、三歩目には人知の及ばない面白い目にあう。

 

 そんな歩く面白イベント製造機を放っておけるわけがない。少し目を離せばきっとなにかイベントを呼び寄せているはず。これは新聞部総出で当たらなければいけないことなのよ!

 

 そのあと何故か反発する二人を説得するためにおよそ一時間ほど使った。

 

 結局付きっ切りは叶わなかったけど、週に何回か彼の動向を見張ることに決まった。

 

 ~Side 椛~

 

 私は今ある男を追いかけている。その名は八雲叶也。最初は会議で決まったことなので仕方なくやっていたのだが………なるほど、文様がああ言っていただけのことはある。確かに彼のまわりはハプニングだらけだ。

 

 今は昼休み。どうやら友人と屋上で昼食をとるらしい。叶也殿と数人の女子が階段を上っている。

 

 「私も追いかけなければ………ッ!?」

 

 ふいに誰かに肩をつかまれる。思わず声をあげそうになるのを必死に抑えた。

 

 「あんた、新聞部の白狼天狗じゃない。何をこそこそしてるのよ」

 

 そこにいたのは叶也殿のご友人の一人パチュリー・ノーレッジだった。

 

 「あ、いえ、別にこそこそなどはですね」

 

 「………もしかしてあんたも叶也を狙ってるの」

 

 「は?」

 

 「何でもないわ。それよりちょうどいいわ。少し付き合いなさい」

 

 「え、ちょっ………!?」

 

 パチュリー殿に引きずられ、私は誰もいない教室の一つに入れられた。

 

 「あの、いったい何を?」

 

 「まあ座りなさい。あんたにちょっと頼みたいことがあるのよ」

 

 「頼みたいこと、ですか」

 

 いうまでもなく私と彼女はあまり面識がない。そんな彼女がいったい私に何を頼むというのか?

 

 とりあえず促されるままに椅子に座り、彼女の話を聞くことにする。

 

 この時私は楽観的に考えていた。ほぼ係りのない私に無理難題を言うことはあるまい。もしかしたらこれをきっかけに叶也殿の面白い話が聞けるかもしれない、と。

 

 だが私のそんな浅はかな希望はパチュリー殿の一言で砕かれることになった。

 

 「あんたには私の料理の試食を頼みたいのよ」

 

 ………料理の試食?彼女の?

 

 私は文様が先週書いた記事の一つを思い返す。確か見出しは『桜の下に沈む男子生徒!?襲いかかる紫色の恐怖!!』だったはず。

 

 それには一つのお弁当が引き起こした大惨事が長々と書かれていたのだが、いま大事なことはたった一つだ。

 

       彼女の弁当は人を殺せる

 

 「わ、私に頼むよりもご友人の誰かに頼んだほうがよろしいのでは?」

 

 「別に誰でもいいのよ。だからあんたでも構わないわ」

 

 彼女がバッグから弁当箱を取り出した。その弁当箱を見た瞬間、体が震えだした。

 

 何故かはわからないが全力で逃げ出したくなってくる。

 

 「そもそもあんた達がおかしな記事を書いたせいで誰も試食してくれないのよ。だからあんたが責任取りなさい。」

 

 パチュリー殿がこちらに近づいてくる。思わず後ずさりしてしまう。嫌な汗が止まらない。

 

 「わわわ、私はあまり味に詳しくないですよ。そ、それに昼食も済ませたし、用事もありますから時間もありません!それに、えっと…!?」

 

 私は思いつく限りの言い訳を考えた。逃げたほうが確実なのかもしれない。しかしそれでは今後彼女に取材を取り付けようとした際、支障をきたしてしまうかもしれない。

 

 そうならないためにも何とか綺麗に断りたい。

 

 「別に時間も取らせないし、味の評価もいらないわ。ただ…」

 

 「ただ?」

 

 「……死なないかどうかだけ試させて」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は逃げ出していた。

 

 「逃がさないわよ!」

 

 彼女がそう叫けぶと同時に、体に何かがまとわりついた。

 

 「これは……植物!?」

 

 「私の魔法よ。さて、それじゃあ食べてもらおうかしら」

 

 そういうとパチュリー殿は私の目の前に来て弁当箱を開けた。

 

 目に入ったのは緑と赤のツートンカラー。こぽっ、と音を立てながら泡を湧き立たせている。

 

 「前回はいきなり最後のページに挑戦したから失敗したのよ。だから今回は比較的簡単なものに挑戦しみたわ」

 

 何か声が聞こえるが頭には入ってこなかった。私の脳内の警鐘がけたたましく鳴り響く。

 

 「その恰好じゃ食べられないわね。じゃあ、はい。あーん」

 

 「や、やめへふれえええええ!!」

 

 植物に口をこじ開けられ、赤と緑の何かを乗せたスプーンが私の口に突っ込まれた。

 

 「さあ、どうかしら?」

 

 「もぐもぐ、ん?食べられないことは………ゴパッ!?」

 

 何かは分からない。なにかは分からないが、強烈な何かが私の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 ~Side はたて~

 椛が倒れた次の日。私はその原因と思われる男である八雲叶也を見張っていた。

 

 思われる、と曖昧な表現を使っているのは、椛が気を失う前の記憶をなくしているから。

 

 思い出そうとすると震えや汗が止まらなくなるようで、あたしと文はそれ以上追及するのを断念した。

 

 記者としての腕はともかく剣士としてはそれなりに優秀な椛が記憶を失うほどの事件が起きたのだ。あたしも気を引き締めてかからないとね。

 

 というわけで今日一日見ていたのだけど、あまり成果はなかった。

 

 それなりに記事にできそうなことはあったけど少し弱い。椛が遭遇したであろうネタには程遠いと思う。

 

 既に放課後、今は帰り道をつけている。

 

 叶也は紅魔館の主の妹、フランドールと帰宅中。

 

 今日一日見ていて思ったけど、ホントに女子の知り合いが多いのね。

 

 登校の時も、お昼御飯の時も、そして下校の時も必ず女子と一緒にいる。

 

 確かにスキャンダルは書きやすそうだわ。

 

 「やっぱり誰かいるでしょ?出てきなさい」

 

 大きくはないがよく通る、威圧感をにじませた声が響いた。

 

 まさか気づかれた!?くぅ、さすがは吸血鬼。あんな見た目でも力は大妖怪クラスなのね。

 

 私は潔く出て行こうとした。実際悪いことをしているわけでもないし、適当に誤魔化して逃げよう。

 

 そんな目論見は予想外な形で打ち壊されることとなった。

 

 叶也とフランドールの目の前に突然女の子が現れた。

 

 緑の髪と閉じた第三の目。確かあれは地霊殿の主の妹の……古明地こいし、だったかしら。

 

 じゃあフランドールはあたしではなくこいしの方に気がついていたわけね。

 

 ん?何やら言い争いを始めたようだわ。ここからじゃよく聞こえないわね。

 

 気づかれないようにこっそりと近づいて、様子を窺う。

 

 「だからそのポジションはあたしの物なの!さっさとお兄ちゃんから離れてよ!」

 

 「あなたこそフランとお兄様の邪魔をするならどっかに行ってよ!」

 

 「何がお兄様よ!私の方がお兄ちゃんの妹にふさわしいんだから!」

 

 「何言ってるの?お兄様の妹はフラン一人だけだよ!あんまりわがまま言うとあなたを壊しちゃうヨ?」

 

 「そっちがそう来るなら私だって容赦しないわよ!」

 

 「いや二人とも僕の妹では―――」

 

 「「お兄様は(お兄ちゃんは)黙ってて」」

 

 「ハイ」

 

 そして飛び交う弾幕。

 

 おお!これはなかなかに大きなスキャンダルにできそうだ。見出しは『妹たちの禁じられた恋!兄を巡る二人の戦い!』とかいいんじゃ…ってあぶな!?弾幕のこぼれ弾がこっちまでっ!どこかに避難しないとあたしまでピチュっちゃうわ。

 

 ―――禁弾「スターボウブレイク」

 

 ―――本能「イドの解放」

 

 ええっ!?スペルカードまで使うの!?

 

 あたしが慌て始めた時にはすでに手遅れだった。

 

 目の前に迫ってきたのはこぼれ弾では済まない量の弾幕。

 

 一介の天狗であるあたしによける方法なんて………!?

 

     ピチューン

 

 

 

 

 

 ~Side 文~

 どうも、清く正しい射命丸です!

 

 まさか椛に続いてはたてまでやられるとは予想外でした。

 

 ここは部長として私がしっかりと取材を成功させないといけませんね。

 

 えっ?会議の時と口調が違う?ええ、今は取材モードですから。基本的にあのしゃべり方は特に親しい友人といる時だけです。

 

 って誰に言ってるんでしょうか?なんだか前にも似たようなことがあった気が…。

 

 おっと、今は取材に集中しなければなりませんね。

 

 現在私は叶也さんのあとをつけています。いつもより早く目が覚めた今日の朝、偶然外を歩いている叶也さんを目にかけたのは本当に幸運だとしか言いようがないですね。

 

 私の調べによると叶也さんはかなり朝に弱いらしいです。そんな彼がこんなにも朝早くに歩いているのだからきっと何か特別なことがあったに違いない。

 

 それに先ほどから私の記者の勘がバリバリと告げています、何か大きなことが絡んでいると。

 

 慎重に、気づかれないようについていく。どうやら学校に向かっているようですね。

 

 更にあとをつけると叶也さんは学校のとある部屋に入っていった。

 

 「学園長室………なるほど、学園長の八雲紫は叶也さんの育ての親。彼女に呼び出されていたというわけですか」

 

  と分析していても記事は書けない。私はさらなる情報を求めて扉に耳を当てた。

 

 「なんですかー、紫さん。僕が朝弱いの知ってますよねぇ」

 

 「ごめんなさいね、どうしてもあなたに伝えておきたいことがあったのよ」

 

 「僕の部屋じゃ駄目だったんですか?」

 

 「あなたの部屋では萃香とかに聞かれる可能性もあったわ。ここだったらその心配もないでしょう」

 

  学園長の数少ない友人である萃香さんにも聞かれたくない話!?これは事件のにおいがしますね!!

 

 「実は昨日この世界に何者かが干渉したみたいなの」

 

 「干渉…えっと、つまりどういうことですか?」

 

 「私もはっきりとしたことは分からないわ。確かなことはこの世界の何かが書き換えられた、ということだけよ」

 

 「先代さんが何かやったんじゃないですかね。あの人なら何しても不思議じゃないですよ」

 

 「それはないわ。だって私にこのことを教えてくれたのは彼女だもの」

 

 「そうだったんですか。じゃあもう解決しちゃったんですか?あの人が手を出したんだったら一瞬でなんでも終わっちゃいますよね」

 

 「それが、彼女は『面白そうだし、害も無いからほっといたわ』って言ってまたどこかへ行ったのよ」

 

 「ハハハ、あの人らしいですね」

 

 「というわけで、心配は無いと思うけど一応頭の片隅にでも止めておいてちょうだい」

 

 「わかりました。…ふわあああぁ」

  

 「ふふ、大きなあくびね。学校が始まるまでまだ時間があるしそこのソファーで寝てもいいわよ?」

 

 「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 は、話の内容は半分も分かりませんでした。ですが話の端々に出てきた言葉、「世界」や「干渉」などかなりスケールの大きい話なのは確かですね。

 

 これは新聞部始まって以来の大大大スクープです!しかしまだ情報が足りませんね…。もっと情報を集めなければ―――

 

 スッ

 

 「あやや?」

 

 一瞬でした。一瞬で周りの景色は変わりました。

 

 さっきまで廊下に立ち扉の前にいたはずなのに、今いるのはどうやら部屋のようです。

 

 綺麗な調度品や来賓を迎えるためにあるであろうテーブルとソファー………そしてその上で眠る叶也さんと私の前に立つ学園長。

 

 「盗み聞きなんていけない天狗ね」

 

 「き、気づいていたんですか」

 

 「当然よ。さてと、叶也も寝たみたいだし…」

 

 学園長が腕を一振りすると私の周りにたくさんのスキマが開かれた。

 

 「いくら能力を制限されていたって他にもやりようはいくらでもあるのよね」

 

 「あやややや、能力を制限されてるんですか!?」

 

 「あら、口が滑っちゃったかしら?まあこれも忘れてもらうから関係ないわね」

 

 何やら不穏当な発言が学園長の口から飛び出した。何故でしょう、震えが止まりません。

 

 「それじゃあ、お仕置きを始めましょうか」

 

 「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 気が付くと私は部室で眠っていました。

 

 あれ、何故こんなところで寝ているんでしょうか?

 

 「おや、まだ朝のホームルームまで時間がありますね。暇ですし叶也さんのところでスクープでも探しますか!」

 

 それにしても大スクープ的な何かを忘れている気がするのですが……気のせいですかね?

 

 

 

 「まったく。懲りない天狗ね」

 

 

 




次回予告(仮)
やっほー、てゐちゃんだよ☆彡
それにしてもいろんなキャラが再登場してるのに、どうしてあたしは出てこないのよ!
どうやら次回も出番はないみたいだし、やんなっちゃうわ
まあ愚痴を言っても仕方がないし、次回予告をこなして作者にごまを擦っておきますか
というわけで次回は………って未定じゃないのよ!?
一応河童を出したいみたい。あの河童は何でも作れるからギャグの幅も広がりそうね
第二十二話「恥ずかしがり屋の発明家」
次回は河童の発明に、ピックアップ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。