ようやく叶也君の長い一日も終わりです
ふー、ようやく寮までたどり着いた。
それにしても運が良かったなぁ。みんなのスペカがぶつかり合って威力が軽減されてなかったら、あのまま保健室で夜を過ごしてたかもしれない。
…まあ、軽減されたといってもかなりのダメージを喰らったんですがね。
でもこれで今日も終わりだな。なんか疲れすぎて食欲もないし、とてつもなく眠い。部屋に入ったらすぐに布団にダイブしよう。
ベッドに体を沈める幸福感を思い浮かべながら部屋に向かって歩いていく。
「ただいま」
って、誰もいないのに言ってしまった。まだ慣れな…
「おかえりぃ」
「おかえりなさーい」
…おかしいな、幻聴が聞こえたぞ?そんなに疲れてるのか、僕は。そうだよ疲れてるんだよ。じゃなきゃ僕の部屋に誰かがいるわけがない。鍵は僕と霊夢と管理人の萃香さんしか持ってないんだから。そうだそうだいるわけ―――
「もうー、無視しないでよー」
「そうだぞぉ、早くこっち来て酌をしろぉ!」
現実から目を逸らすのも限界だった。いる、いるんだよ。何故か僕の部屋に、酔っ払いが二人。
「なんで萃香さんと幽々子さんがここにいるんですか…」
そこにいたのはこの寮の管理人を務める萃香さんと白玉楼の主で妖夢のご主人様である西行寺幽々子さんだった。
百歩譲って萃香さんは分かる。いやなんでいるのかは分からないけど、ここは彼女の職場だしふらっと立ち寄ってもおかしくはない。なんたって萃香さんだし。
でもどうして幽々子さんがいるんだ?まったく繋がりが見えないぞ?
「今日はね、叶ちゃんに会いに来たのよー」
「僕に?何か用ですか?」
「用は特にないわー」
じゃあ何で来たんだろう。お酒を飲む場所が無かったのか?
「だって叶ちゃんったら、最近全然会いに来てくれないからー。私さびしくてー」
そういうと両手を目元にやって泣いているジェスチャーをする幽々子さん。
思ってたよりどうでもいい理由だった。第一、今の僕は幽々子さんがどこに住んでるかなんて分からないし、会いに行きようがない。
「まあ会いに行く理由もありませんでしたし」
「ひどいわー。こんなに近くに住んでるんだし、たまには会いに来てよー」
「近く?」
「そうよー。私はお隣の女子寮で管理人やってるんだから、学校帰りにちょっと寄ってくれたっていいじゃないのー」
うぇ!?幽々子さんが管理人!?あの日がな一日食べてばっかりで、家事炊事は全部妖夢に押し付けてる幽々子さんが管理人!?………まったく想像できないな。
「まあまあいいから座れよぉ。お前の分の酒もあるぞぉ!」
萃香さんが僕の袖をぐいぐい引っ張るのでとりあえず座った。幻想郷ならともかくこっちで未成年に酒を飲ませようとするのはどうなんだろうか?
「昔みたいに私の膝の上に座るー?」
「いえ、結構です」
いい加減子供みたいに扱うのは勘弁してもらいたいな。叶ちゃんって呼ばれるのも結構恥ずかしい。
まあ子供の時はだいぶ世話になったし、あんまり強く言えないんだけど。
「それで、僕に会いに来たのは分かりましたけど、なんでこんな状態になってるんですか」
僕は周りに転がっている酒瓶を見ながら尋ねた。
「話せば長くなるんだけどー」
幽々子さんの話をまとめるとこうだった。
僕を訪ねてここに来た。萃香さんに止められた。萃香さんに持ってきた酒瓶を見せた。そのまま僕の部屋に直行。僕が来るまで飲んで待った、と。…萃香さん、賄賂に負けないで下さいよ。
しかし、この状況どうしようか…。目的を達成させてさっさと帰ってもらうつもりだったけど、僕に会いに来ること自体が目的だとどうにもできないな。
どれくらいここにいれば満足するかもわからないし、まさか追い出すわけにもいかないし。
眠気が結構きつくなってきたな。
「ほんと、どうしよう…」
「なにか、悩み事?私でよかったら相談に乗るわよ」
「はあ、実は………って紫さん!?」
気が付くと僕の隣に紫さんが座っていた。いや、マジでビビった。ホントに心臓に悪いぞ。
「き、来てたなら声かけてくださいよ…」
「てっきり気づいてると思ってたわ。そんなことより悩みごとなら相談に乗るわよ?」
んー、紫さんに言っても結局追い出すみたいでなんかやだな。…あっ、そうだ。
「今まで効かなかった能力が普通に効くようになっちゃったんですけど、なんでだかわかります?」
「ああ、それはエネルギーが空っぽになっているからね」
「えーと、つまりどういうことですか?」
「今まであなたに能力が効かなかったのは、あなたの中にあった膨大なエネルギーが他の能力の干渉を弾いていたからよ。それが今は全くないのだから、能力が効くようになるのも当然ね」
知らなかった。僕のエネルギーにはそんな力もあったのか。
「じゃあもしかして回復力が低下してるのもそれが原因ですか?」
「おそらくそうね。まあエネルギーが戻るにつれてそれも元に戻るでしょうし、心配することはないわ」
ふむふむ、なるほど。結局は時間が解決してくれるのを待つほかないってことか
それにしてもホントにどうしようか。もう眠気が限界だ。
「叶也、眠いなら寝てもいいのよ?」
「そう、ですか。じゃあ失礼させて…」
言い切る前に僕は意識を手放した。もう、ほんとに限界。
~SIDE 紫~
叶也は全てを言い切る前に眠ってしまった。
私は叶也が床にぶつかる前に受け止めて、頭を膝の上に乗せた。
こんなに無防備な叶也を見るのはいつ振りだろうか?この子も年を取るにつれて親離れしていった。私も幻想郷の維持のための仕事があり、彼につっききりというわけにもいかなくなった。藍や幽々子にもだいぶ世話になったものだ。
「あー、紫ずるいー。私も叶ちゃんに膝枕したいー」
「私の膝も貸してやるぞぉ!」
「はいはい、酔っ払いどもは酒でも飲んでなさい」
この二人には叶也が小さい時から面倒を見てもらっていた。私と同じくらい叶也に気をかけてくれている。叶也に対する愛情も
「はあー、叶ちゃんが妖夢と結婚してくれれば毎日会えるのにー」
!?
「そうだなぁ、霊夢のとこに嫁いで来れば毎日酌に付き合ってもらえるなぁ」
!!??
「そ、そんなのダメよ!叶也に結婚なんてまだ早いわ!!」
「また紫の過保護が出たなぁ」
「そうよー、どうするか決めるのは本人たちの意思じゃないのー」
「そ、それでもまだ早いわ!まだ学生の身空で結婚なんて、私は認めないわよ!!」
「ホントに子離れできないのねー」
「そうだそうだぁ!」
「とにかく反対なんだから!!!」
私は勢いよく立ちあがって強く主張した。…でもそれは間違いだった。
ガツン!
「「「あっ」」」
ごめんなさい叶也、あなたを膝枕してたこと忘れてたわ…
~SIDE OUT~
次回予告(仮)
どうもー、幽々子よー
もうすぐ桜も全部散っちゃうし、その前にお花見がしたいわー
春といえばやっぱり、桜を見ながらお団子を食べるのが一番よねー
そういうわけで第17話は「お花見戦線大騒動」
次回は恋する乙女のお弁当に、ピックアップー
※必ずしも次回予告の通りになるとは限りません。ご了承ください。
ご意見ご指摘ご感想お待ちしております
活動報告もよろしくね!