2014.1.12
レミリア様の口調を改訂
「起きなさい!!」
「ぐへっ!」
いたた、今日も容赦のない起こし方だ。
打ち付けた頭をさすりながら、僕は立ち上がった。
「悪いけど今日は用事があるから先に行くわ。」
「えっ、そうなの?」
「朝御飯は用意しておいたから、それじゃ。」
霊夢は言いたいことだけ言うとすぐに僕の部屋から出て行った。
そんなに忙しいならわざわざ起こしに来なくてもいいのに。
流石の僕だって遅刻しちゃうほど遅くまでは寝てないよ……たぶん。
今日は曇りか、別に嫌いじゃないけどやっぱり晴れてるほうがいいかな、なんてどうでもいいことを考えながら学校に向かう僕。
はあ、やっぱり話し相手がいないと少し退屈だな。誰か知り合いが通ったりしないかなー。
「お兄様!!」
いきなり背中に衝撃が走る。後ろを見ると僕の背中に抱き着いている女の子がいた。
「フランちゃんじゃないか。こんなところでどうしたの?」
彼女の名前はフランドール・スカーレット。吸血鬼の女の子で、なぜか僕をお兄様と呼ぶ。
「えへへ、見て見て!」
そういうと僕の目の前に来てくるっと一回転する。着ている服はいつもの赤い服ではなく、僕の学園のセーラー服。ということは…
「フランも今年からお兄様と同じ学校だよ!」
そういって今度はお腹に抱き着いてくる。それにしてもフランちゃんはスキンシップが激しすぎると思う。紅魔館ではいったいどんな教育をしているのか、甚だ疑問でしょうがないよ。
とりあえず頭を撫でながらよろしくね、と返しておく。
僕が頭を撫でるとフランちゃんは嬉しそうにえへへ、と笑った。
くっ、なんて可愛いんだ。自然と手が頭を撫で続けてしまう!
もっとなでなでしたい衝動を堪えつつ、頭から手を放す。いつまでもここで立ち止まってるわけにはいかないしね。
「じゃあ、学校まで一緒に行こうか。」
「うん!」
元気に返事が返ってきたと思ったら、フランちゃんが僕の右腕に抱き着いてくる。
「あの、フランちゃん?なんで腕を組むのかな?」
「なんとなくだよ。」
「そっか、でもこれだと歩きにくいかな。」
「フランは平気だよ!」
うん、まあ正直僕もそんなに歩きにくくはない。
だけどこの状況は結構恥ずかしいし、何とかしたいとは思ってます。ほら、道行く人の視線が突き刺さるよ。
「もしかして迷惑だったかな……」
「そ、そんなことないよ!さあ、学校に行こうか!」
フランちゃんが見るからに悲しそうな顔になってしまったので、慌てて弁解をする。
僕の羞恥心のせいでフランちゃんを悲しませるわけにはいくまい。
むう、それにしてもこれは恥ずかしいな。
また道行く人がこっちを見てにやにやしてるよ。中には憎悪のまなざしを向けてくる人やカメラを構えている人も…、ってカメラ?
パシャリ
シャッター音が響く。音の発生源に目を向ける。
「あややややや、これはスクープです!見出しは『紅魔館の主の妹と八雲家の秘蔵っ子の禁断の恋』にしましょう!」
し、しまった!?一番見られたくない人に見られてしまった、しかも写真つきで!!
いきなり物凄いことを口走り始めたのは烏天狗の射命丸文さん。彼女は自作の新聞を作っているのだが、捏造、というほどではないが脚色過多な記事が多いことで有名だ。
とりあえずあの写真を何とかしないと大変なことになる。あることないこと書かれて僕は社会的に死んでしまうかもしれない。
とにかくあの写真をなんとかしないと!
「文さん、そのカメラを渡してください。」
「あややや、私がこんな面白いネタを手放すと思いますか?」
いや、思わないです。一応聞いてみたけど答えは概ね予想通り。ならば…
「力ずくで奪わせてもらいますよ!」
文さんのカメラに向かって手を伸ばす。
「そんな遅い動きでは、私を捉えることなんてできませんよ。」
「なっ、後ろ!?」
さっきまで目の前にいたのにいつの間にか僕の後ろに回り込んでいた。
やっぱりスピードじゃ文さんには勝てないか…。
「それでは叶也さん、御機嫌よう。」
そのまま飛び立とうとする文さん。このままでは逃げられてしまう。
慌てて追いかけようとしたが、その時不測の出来事が起こった。
バキンッ、という音を立てて、文さんの持っていたカメラがいきなり壊れた。
「「え?」」
唖然とする僕と文さん。いったい何が起こったんだ?
「お兄様を困らせるなんて、悪いカラスね。」
そこには凄惨な笑顔を浮かべたフランちゃんが立っていた。
右手を目の前に突き出して握りしめている。なるほど、能力を使ってカメラを壊したのか。
確かに、彼女の『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』ならカメラを破壊するなんて造作もないことだろう。
それにしてもヤバいな…。あの様子だと少しばかり狂気に呑まれてるかな。
「次はその羽をもぎ取っちゃおうカナ?」
無邪気な口調で恐ろしいことを言うフランちゃん。こ、これは本格的に不味いぞ。
「ふ、フランちゃん!僕はそんなに困ってないから大丈夫だよ!」
「退いてお兄様、そいつ壊せナイ。」
「いや、壊さなくていいから!!と、とにかく落ち着こうよ。」
「むう、お兄様がそこまで言うなら。」
ふう、とりあえず収まったかな?もっと強く狂気に呑まれていたらどうなっていたことやら。
「僕のために怒ってくれるなんて、フランちゃんは優しいね。」
「えへへへ。」
うん、大丈夫みたいだね。頭を撫でながら安全を確認する。あっ、そうだ忘れてた。
「文さんもすいませでした……っていないし。」
あの人いつの間に逃げてたんだ?流石幻想郷最速だ、逃げ足も半端ないなぁ。
それにしても朝から疲れたな、主に精神的に
朝からこんな騒動があるなんて、今日は厄日かなんかか?
あの騒動のあと、僕らはまた学校に向かっていた。フランちゃんは僕の右腕に抱きつきながら楽しそうに鼻歌を歌っている。
なんだかさっきの騒動が嘘みたいに感じるな。
「よう、叶也!」
そんな掛け声と一緒に背中を思いっきり叩かれた。
…言い訳させてもらうと僕は先ほどの出来事で少し疲れていて、更に右腕をフランちゃんに腕を組まれているからいつもより重心が安定していなかった。さらに、あの阿呆(流)は加減も考えずに思いっきり僕の背中を叩いた。
つまり何が言いたいのかというと、僕がフランちゃんの上に倒れこんじゃったのは不可抗力なんだ、ということです。
「ご、ごめんフランちゃん、大丈夫。」
「う、うん。大丈夫だよ。」
よかった。少し顔は赤いけど怪我はないみたいだ、って吸血鬼がこの程度で傷つくわけないか。
「貴方達、何をしているの…。」
強い怒りを含んだ言葉がその場に響いた。
僕は恐る恐る声の主を確認する。
そこにいたのはフランちゃんの実の姉で紅魔館の主、レミリア・スカーレットさんだった。
「こんな朝早くから私の妹に手を出すとはいい度胸ね、八雲叶也。」
手をだす?そこで僕は自分の今の状況を思い出す。
「いや、違うんです!これは「言い訳は聞かん!!」
ヤバい、かなり怒ってるよ。レミリアさんは妹をすごく大事にしているから、フランちゃんのこととなると見境がなくなっちゃうんだよなぁ。
「とはいえ、私は貴方のことを高く買っている。この場で散らすには惜しい命だとも思っている。」
もしかして怒られないの?というか、普通の人だったら命が散らされてたのか…。
「だから、この一撃で帳消しにしてあげるわ。」
レミリアさんって、本気で怒ってる時が一番カリスマに満ち溢れてるなあ。…思わず現実逃避してしまった。はあ、結局お仕置きされるんですね。
「いくわよ」
―――――神槍「スピア・ザ・グングニル」
「ちょっ、レミリアさん!お仕置きでそれはオーバーキル過ぎじゃ――」
ピチューン
やっぱり今日は厄日だな…。
僕は薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。
次回は保健室でのお話
目が覚めた叶也君を待っていたのは…
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