ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

44 / 45
難産。
目標があって、でも他人に急かされず、かつ先行者の情報が適度に入ってくる環境作りが難しい。
やはり神様転生+掲示板形式か。



ボツ稿 ネトゲもの2

 

=1=

 

 D&D。VRであること以外は、よくある基本無料のファンタジーRPG。

 しかしゲーム史上、初めての「寿命の課“命”」を実装したこのゲームは多くの人間の欲を誘い、そして死に至らしめた。タダほど恐ろしいものはないとよく言ったものだが、こんなゲームが世界中の人を殺した理由にはクリア報酬、魔法のアイテムを現実に持ち出すことができる権利の存在があった。オープンβクリア者の一人、死者蘇生の杖を持ち帰り資産家となったマイアリー氏が今や某国の政治に関わる有力者となったことも大きい。

 徐々にクリア者が増え、魔法が普及しつつあるこの世界で、己の運と実力により富を得られるこのゲームは規制を受けぬまま、多くのプレイヤーの命を吸い取っている。

 

---

 

 アジア・サーバーのオリエンタル・アドベンチャー(Oriental Adventure)世界における、若きサムライ。それが俺、タカシ。

“誉れ高き国”を脅かすシャドウランド(影の世界)の魔物たちを退治するため、シャーマンの従者と共に捨てられた僧院を訪れた俺は、僧院の奥に地下空間への階段を発見する。

 ギシギシと軋む木の階段を降り、松明で空間を照らすとホコリ被ったズダ袋と小さな人骨が浮かび上がる。子どもサイズで、破損が見られない綺麗な人骨が土の上に鎮座している。

 

「火を貸せ」

『はい、どうぞ』

 

 口頭で命令を受けて、従者が松明を俺に手渡す。

 俺は渡された松明を片手に、もう片手には腰に刺さる二本のソードのうち、ワキザシを抜いて人骨に近づき……その上にかかる蜘蛛の巣へ向けて松明を近づけた。

 パチパチと松明から弾け飛ぶ火の粉が蜘蛛の巣の糸へ着火し、今より飛びかからんとしていたモンストラス・スパイダー(大蜘蛛)たちへ引火した。猫ほどの蜘蛛は糸を伝わる火に巻かれ、ジタバタと震えながら地に落ちるが、唯一 犬ほどの大きさのある親蜘蛛だけは火より生き延びて、逃げようとする。

 それを俺はエイ、と踏んづけた。くすぶる蜘蛛の甲格が踏み割られ、体液を撒き散らして親蜘蛛は死んだ。

 

「相変わらず気味の悪い」

 

 俺の独り言の呟きに、従者は何も言わない。なんせ、彼はAIが動かすNPC(非プレイヤーキャラクター)だ。意味のある命令に忠実に従い、戦闘になれば事前に決められたとおりに動き、それ以外の言葉には全く反応しない生物。

 一人旅とは寂しいものだ。俺は十を超えるキャラクターを作り、その全てが死に、失われるまで中のあるキャラクターと旅をしたことがなかった。

 だが今日からそれが変わる。先日、俺はこのD&Dを遊ぶ同志を得た。

 

「それにはまず、このチュートリアルを終わらせねば」

 

 彼女とは今日、待ち合わせを約束している。買い物も考えて、早々に支度する必要があろう。

 小さな人骨の横にあるズダ袋を無視し、何回と繰り返し、慣れた地下通路を俺は素早く通り抜ける。やがて地下を流れる川辺に辿り着き、水底に沈む遺骸をまた無視して、洞窟の石壁に溶け込む隠し扉の前で従者にブレス(祝福)の魔法をかけさせて、扉の横に控えさせる。

 そしてえいやっと扉を開くと同時に二歩下がる。待ってましたと奥から現れたグール(食人鬼)の爪を難なく躱す。

 

「かかれ!」

 

 グールは扉の数歩前にいた俺を襲ったため、従者の姿は見えておらず。後ろからクラブ(棍)で殴りかかり、挟撃でグールの意識が逸れたと同時に反撃のカタナを抜き、グールを打ち捨てる。数多くの初見者の命を刈り取った双爪も、それを知るプレイヤーにはたまに起こる不運を除いて恐ろしいものではない。

 

『先へ進みましょう』

「うむ」

 

 戦が終わったことを従者が定型文で告げる。間もなく、隠し扉の奥を明かりで照らし出せば、魔法を知らぬものでも感じ取るほど邪悪な気配が漂う石造りの階段を発見した。

 

『この気配は、影の世界のモンスターが多く潜むシャドウランドのもの……これはただちにウエサマに報告に戻らねばなりません。取り急ぎ、戻りましょう』

「うむ」

 

 従者がクエストが進行したことを報告する。この後 街へ戻り、少しの会話と報酬を受け取ることでチュートリアルは完了する。

 しかし、まずは街へ戻ったら新しい仲間に連絡した方が良いだろう。彼女はチュートリアルをようやくクリアしたばかりで右も左も分からないプレイヤーなのだから。

 

 洞窟を逆に戻り、僧院地下の階段を上がって陽の光を浴びる。これまたチュートリアルにと用意された、貸し馬に跨ってエドへの帰路につく。

 

---

 

 長い道中はゲームの演出により省略され、すぐにショーグンのお膝元、エドと近郊を隔てる関門に辿り着く。

 門番に通行許可札とともに貸し馬を預けて間もなく中に入ることを許される。すると従者NPCは自動的にパーティを抜けて、一足先にウエサマへ通達すると走っていった。

 目の前に表示されたコンソール画面がクエスト進行状況や自動移動(ファストトラベル)可である等と通達するのを読み飛ばし、メールフォームのコンソールを呼び出して、彼女に聞いたアドレスへフレンドIDを送る。

 

 >シイナヒメさんからパーティの申請があります。

 

 さほど時間を置かず、パーティ申請が返ってきた。聞いているキャラクター名で間違いないことを確認し、許可を押す。

 俺より四、五歩離れたところに黄色い光のエフェクトが巻き上がり、そこにうっすらと人の形が現れる。鮮やかな赤いシルクのキモノに、ほのかに輝く青いオビを巻き、腰には魔法の物質要素が入った巾着袋ポーチを吊り下げ、頭にカンザシを刺す冒険者に見えない衣装は、荒事に手を染めることのない術者クラスのものだ。

 

「術者にしたか。初めはサムライが良いとは、キャラ作成の説明にあったろう」

「だって、サムライは魔法が使えないのでしょう?」

「レベルを上げても、魔法使いのクラスは取れる。チュートリアルでは鎧を着、武器を振るえるクラスで始めねばとても苦労する。よく切り抜けたものだ」

「チュートリアル?なんですか、それは」

「ゲームが始まった時、地下に居たろう。まさか、帰ったのか?」

「ええ、帰りました。

 だって街で会う約束をしてましたから、地下に街はないでしょう?」

 

 俺は天を仰いだ。チュートリアルクエストは、その後のメインクエストに繋がる。メインクエストの攻略がゲームクリアに繋がるので、このゲームの目的を考えれば早々にチュートリアルを済ませ、報酬をいただいて始めるのが早いのだ。

 

 




キャラ名に特に意味はない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。