これは8/25に14話目を更新し、最後へ詰め込んだ部分の訂正前ですん
伯爵様がたとのお話の後。もう寝るだけかと思いきや、別れた直後に来訪者が訪れる。
「夜分に失礼」
「いえ。幾ら家主の伯爵様といえど、突然部屋に立ち入るのはお止めください。
せめて場所を変えてはいただけませんか?」
それも伯爵様だ。騎士団長殿は戻ったようだが、わざわざマーミアのいない場で話をしようとするあたり、腹を割って話すことをお望みだろうか。どのみち、こちらの関係を察知された以上、何処かで話し合うつもりはあった。
しかし私室とはいただけない。せめて場所を選んでほしいという願いを聞いていただき、何故だか話は伯爵家の書斎で行われた。
「竜の巫女様は素晴らしい良心を持つ御方だが、いささか貴族には不慣れと見える。
その点でいえば従者殿は語りも上手、知識も博学で主人より貴族らしさを感じました。
神殿育ちとは聞きましたが、生まれは貴き血の持ち主ですかな?」
「いいえ、父は司書をやっていました。先祖のことは存じませんが、両親は貴族ではありません。
私が生まれて僅か三年後に、両親はオルクスの手先のアンデッドに襲われて亡くなりました。
その後は闇の神殿で拾われて、礼節の殆どはそこで学びました」
「なるほど。他にご家族は?」
「……、何故そのようなことをお聞きになられるのでしょう。
私の素性をお疑いになられますか?であれば、闇の大神殿にお尋ねください。
彼らが私の身の上を記録しています」
家族のことは語れない。妹が勇者であることを、家族関係から利用されうるのはよろしくない。
俺は痛いところを探られたような素振りを隠して、続けざまに疑問をぶつける伯爵に対して何気なく思い浮かんだように逆に質問をかける。
話の途中に遮るのは失礼だが、マーミアの従者である俺を一方的に探ろうとする伯爵も、招いた立場としてそれはよろしくないと言い返せる。
「これは騎士団長の見解だが従者殿の腕前は巫女様と並ぶように感じられた、という。
ならば従者殿が太陽剣を抜き、善竜と共にドラコリッチを倒して名を上げることも出来ただろう。その気はなかったのかね?」
「いいえ、善竜様はドラコリッチを倒す協力の呼びかけに対し、その背を許されるのは善なる者に限ると付け加えました。私は闇の帳で秩序を守りし女神様の信者で、善良な者ではあらず、善良になる勇気もありませんでした。ドラコリッチを倒せたのは我がご主人様だけです。
また、私は死竜を倒し、名乗りを上げて受ける賞賛と敬意より、受ける嫉妬や悪意を恐れました」
「貴族になれれば力で恐れる相手を押さえつけられる。そうは思わないのかね?」
「いいえ、冒険者をしていると、ドラコリッチよりも強力なモンスターとは果てしなく出会うのです。彼らはいかに強い装備を身にまとっていても、盾と鎧の上から人間を踏み潰します。
同じく、貴族をしていても、より強い権力にねじ伏せらると思えば、私はそれが怖くて貴族になろうとは思いません」
「ではそうと知りながら、主が貴族になることを止めないのですかな?」
「……主人は善良です。自分の身が危険に晒されることよりも、人に施しを与えることを望みました。
私はご主人にその危険を伝えましたが、主人は悪い人間になるほうが怖いと笑って返しました。
ドラコリッチに対しても、同じく確実な勝算はありませんが、彼女は戦う道を選びました。
ご主人の思いに私は理解しても、納得出来ませんが、そんな私に出来ない善良な道を進むご主人に私は惚れているのです」
などと俺は供述するが、実際のマーミアは、そんな善の道を進む
とにかく俺は、伯爵に彼女を操る黒幕(実際そのようなものだが)と思われて悪印象を抱かれるのを防ぐために、まずはその矛先を下ろしてもらえるよう、はったりの効いた弁舌をかます。長く社交界に身を浸からせて真贋を見抜く目を鍛え上げた伯爵様であるが、同じく生後からチートを隠し続けてきた俺の偽装はそれでも簡単に見破れるものではない。騎士団長が俺の腕前を見切ったように隠しきれないものもあるが、俺の本心はそのような口先の言葉で見抜かせることを容易に許さない。俺の本心を揺さぶるものは、およそ可愛い女の子の誠意や、ストレスフルな悪意くらいだ。人の本音に弱いとも言える。
「そうか、しかしそれは善良なご主人にふさわしいとは言えん」
しかし、こういう口先戦は神経を削ることもあって、ステータス的には強靭でも精神面の弱い俺はそろそろ音を上げたくなってくるが、伯爵様はまだやる気のようだ。
「貴族になるにあたって、主と意を違える臣下は得てして反逆や収賄を引き起こすものだ」
「必ずしもそうとは言えません。主を止められる従者がいなければ、領全体が間違った道に進むこともありえます。
古くは西方魔法帝国も、力をつけすぎた国の傲慢さに神の怒りが下りました。それは神罰が下る前に、誰かが国を止められなかったことが原因と言えます」
その後も、貴族に歴史を語るか、歴史の深さでは宗教も負けておりませぬ、宗教家が政治に口を出すな、などの論争を続ける俺と伯爵様。熱が入るほどの語り合いにはならなかったが、もう遅い時間だと家令が告げにくるまで俺の神経を削る弁論はずっと続いていた。
結局 勝敗(といっていいものか)はつかず、時間も時間だと伯爵様に半ば追い返される形でその日は終わった。部屋に戻って回復魔法入りのポーションを飲むも、流石に精神の疲労だけは簡単に回復しそうにない。
もう数日滞在するこの伯爵家でこの語り合いが毎晩続くのだろうかと若干嫌気がさすも、ご主人ことマーミアも耐えているのだから俺も耐えねばならないと自分を説得しつつ就寝。
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翌日。伯爵様は聖王国首都へ出発した。詳しい話は述べなかったが、俺たちを招いた最中にも関わらず家を離れるのだから、それは些細な用事では済まないのだ。
二日目からはホライゾン伯爵に代わり、伯爵夫人が続けて歓待してくれる。しかし彼女は伯爵ほど俺たちに興味を持たないからか、
この部分の続きはわっふるしてもありません。