ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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やっと現代にファンタジー導入まで書けたけど時間かかりすぎ
明らかに書きたいものじゃない感が強いので、最初から書き直します

→書き直し中が思ったより捗らなかったこと、そのまま書いても結局意味が通じそうだったのでが没撤回して追筆中


002

>留学二、三日目

 カグラを本格調査に繰り出してから数日、今の私に調査に関わる時間など存在せず、仕方なく留学に専念する。本来希望していた平穏な時間が、モンスターやら魔法少女やらきな臭い存在を知った途端に疎ましく思えてくるのは異世界で身についた私たちの性分だろう。油断して隙を作ると、そこを容赦なく敵に突かれるのだ。透明なアサシン集団他暗殺者に何度仲間たちを殺され(そして蘇生を重ね)たものか。おかげで私など呪文特化の術者(スペルキャスター)だったところを再訓練(リビルド)し、生存能力を高めている。

 

 そんな苦い経験からなる気持ちもあって、同位体の“私”に粉をかける暇はなかった。なんせ隣のクラスに例の魔法少女がいるのだ、ただでさえ私の装いは不自然で目立つのに更に怪しげな行動を取っては、彼女らに魔法のこもった疑いの目を向けられかねない。私自身のことならハッタリで隠し通す自信はあっても、魔法は使いようで非魔法技術を容易に看破する。魔力隠蔽の呪文をかけてはいるが、彼女らの力量次第で十数回に一度くらいは気づかれかねない……その万が一を防ぐために警戒していると、“私”と接触することは取れなかった。

 しかしそんな私の事情を汲んでか、愛理嬢が代わりに役立った。最近色っぽい流し目を私にくれる彼女はその気を引こうと隣クラスの魔法少女―――“稲荷(いなり) 井波(いなみ)”について情報を集めてきてくれた。感謝しているが、その借りで私にマッサージ(スキンシップ)を要求されるのは愛する腹心たちの立場を奪ってしまうのでやめていただきたい。

 さて、愛理嬢が得た稲荷 井波の情報だが、彼女自身は割りと普通の女学生である。部活動は元・陸上部、好きなものは猫とデコレート。彼氏なし。唯一特徴的なのは神社の神主の娘なこと。しかし神社の写真を見た限り、構造・配置に魔術的な要素は一切見られず、オカルトや先天的な魔術師の家系という線はやはり薄い。

 これ以上の情報は、一般人でしかない愛理嬢には知識が足りず掴めない。かと言ってカグラは現代や魔法少女に対する知識が浅く、そもそも現在別任務中で手が離せない。現状先を急ぐことでないとはいえ、限られた留学期間を“私”と進展なく無為に費やすのは望まない。

 私は犬が尻尾を振るようにそわそわしてお礼を待つ愛理嬢を見て、彼女にスパイ能力を仕込むべきか懸案する。私の仲間・腹心たちと違い、超常体験の経験浅い彼女にレベルを与えるのは、言ってみれば分別つかぬ子どもに爆弾を与えるようなもの。無論そこまで愚かでないといえど、彼女がそれで何をするかは考えつかない。私は現地調達を諦めて、遠く故郷に残してきた従者たちを連れてくるかをその管理職である第二の腹心に相談することを決めた。

 

 

>留学から一週間弱、相棒エルフがやってくれました

 戸籍を調達させた海外893とは、こちらは魔法のアイテムや技術を、向こうは地球における色々を双方Win-Winで取引するために他の仲間三人をアメリカ国に残してきている。

 尤も対等である聖女様と相棒には強制力のないお願いで駐留してもらってるので、実際には色々不味いことをやっているかもしれない。“潔癖”症患者に目立ちたがり屋の二人だ、きっと海外893の薄汚い手口を少しでも悟ったなら健全化するべく暴れているだろう……と諦観を持ちながら空いた時間で渡米すると、案の定アジトへ踏み込んだ時点で空気が以前よりも目に見えて澄んでいた。物理的な意味での清掃も行き届いているが、何より目にする893の構成員たちの腐っていた性根は叩き直され、目につく全員の姿勢から心構えまで固いものに代わっていた。

 そして幹部も数人首が挿げ変わって、見るからに確固とした精神を抱いている強い人物が揃っていた。実際レベルもオーガ並からトロール並に成長しているし、何よりその幹部の一席を我が相棒たるエルフの女戦士レアスが占領し、自らがやり遂げた功績を私に誇ってきた。

 

「この短期間で彼らを改善させたのは流石です。

 しかし元より薄暗いところのある彼らの根元は断てないと思いますが、そちらはどのように?」

 

「無論、心と体を鍛えることは出来ても、そちらの不得手だ。

 だが聖女様が彼らを明るみに出しても恥じることがないよう、同じように手はずを整えている。

 知っての通り、この次元界に来てから暇は持て余していたから」

 

「なるほど、善なるお二人が共に手を組んでたなら、これだけの手並みも理解出来ます。

 でもやってくれたもう一人の当人はどちらに?」

 

「聖女様はこの次元界でも聖女となる準備を始めている。

 確か偶像(アイドル)活動と言う職業だ」

 

「なんと。……いえ、聖女とアイドル、やってることは意外と近いかもしれませんね」

 

 アイドルは聖職者でない。だが元の世界で彼女がやっていたことは宗教の広報活動であり、印象操作であり、招き猫である。世俗じみてはいるけれど、金のためではなく、人の心に善意を訴える彼女の目的は故郷世界でやっていたことと差異はない。

 

「私もエルフという偏見がなければ表に立ちたかったな。生憎この世界では人間以外の人型生物(ヒューマノイド)は表におらず、また武力ではなくまとめた人の数で上に立つ社会と知って考えを改めたが。

 しかしそれでも、エルフというだけでしきりに奇異の目で見られるこの世界は、エイト……いや今はジェーンか。

 お前の故郷は実に閉鎖的で、異世界に疎い田舎なのだな」

 

「そういうわけではありません。単に異世界、というより魔法が明るみに出ない世界だったでしょう。

 その件については先日お伝えした通り、どうも私が知っていた知識と異なり、全く存在しないわけではなかったようで、私のいる地域でもゴブリンと、それを討伐する英雄のような存在を発見したとカグラから報告がありました。

 今、カグラにはゴブリンどもの裏を探らせている最中ですが、そちらでも何かモンスターか、あるいはそれに対抗する現地の英雄(ヒーロー)などと遭遇していませんか?」

 

「私もジェーンから連絡を受ける前、少数の人間ゾンビを目撃していた。連絡が遅れてすまないが、この組織の戦士たちを鍛えるのに丁度良いと利用して、始末も済ませた後だったのだ。見つけたゾンビは片端から埋葬したが、被害を受けた話はとんと出ていない。パトロールもしているが、そもそもこの地には英雄が必要なほどモンスターが発生していないようだ。

 ジェーンの話を聞いて、私ももう少しゾンビたちの創造主について気を配るべきだったと反省したよ」

 

「なるほど、そちらではゾンビが現れましたか。しかしそのゾンビは至って普通のものでしたか?

 こう、噛まれて病気を受けたりした人はいませんか」

 

「いや?打撃を受けて手当したものもいるが、噛まれたり、その後特別治療が必要な人物はいなかった。

 私たちが知る通りのゾンビだったと言える」

 

 ゾンビはゾンビでもバイオハザードな方でも無かったようだ。私と同じ異世界のゾンビならば、死霊術師や負のエネルギーによって死体が起き上がり、生者を打撃するだけの能しか持たない比較的容易く相手出来るアンデッドだ。尤もゾンビに銃弾のように貫通してダメージを与える攻撃は効きづらいので、白兵武器を使い慣れない現代人では苦労するかもしれない。

 

「ふむ……」

 

 しかしここの構成員たちがモンスターたちとの経験を積み、レベルが上がったならば、故郷に残した従者の代わりに、魔法少女やモンスターたちの調査に使えるかもしれない。そういう考えが頭をよぎるが、しかし従者たちと違い彼らは己に惹きつけられた存在ではない。訓練官たるレアスを慕い、私に畏敬を抱いていても、必ず命令に従う者たちではない。金や利益に転んで情報を渡しかねないと判断して、考えは取り下げる。

 

「何だ、ジェーン。物欲しそうな目をして、こいつらは私が面倒を見た、この地の私の部隊兵だ。

 まだまだ彼らは発展途上だ、いくらお前でも道半ばの彼らをやれないぞ」

 

「別に取り上げたりはしませんよ。少し貸してもらおうかなーと思ってただけです……それに未熟な彼らにモンスター相手の仕事を任せるのは、その通り時期尚早に過ぎる」

 

「出来れば対術者の経験も積ませてからにしたい。

 今度カグラやアイシャに頼んでみたいと思っている、お前の方から口聞きを頼めないか?」

 

「……その二人なら、カグラのほうが適任ですね。アイシャは術者視点のノウハウしか教えられません。

 しかし彼女にはとても忙しい仕事を与えたので、教える暇はないでしょう。

 一応、アイシャには声掛けますけど思っているより期待しないでください」

 

 そうか、とレアスは残念そうに顔を振る。

 

「私の方から話は以上だ。組織の奴らがジェーンと話をしたいと言っているが、もし時間があれば応えてやってくれ」

 

「それはまた今度、暇が出来た時に考えます。ところでアイシャはどこにいますか?

 調査の手が足りなくて、故郷に残した従者たちを連れてくるべきかを相談しなければいけません」

 

「アイシャは3階の書斎にこもって書類仕事中。

 しかし元々従者たちを連れてこないと決めたのはジェーンの判断で、不甲斐なさを晒すぞ。いいのか?」

 

「見た目ほど完璧でない私のことを、レアスは見損ないますか?」

 

「いいや全く。私はジェーンをこと戦いにおいてよく知っている。

 隙を見せることは多いが、不意を突かれようとそのポテンシャルで跳ね返す姿に私は憧れ、信頼を託す相棒だ。

 邪神ほどに恐れられた古の赤龍をねじ伏せる姿、決して忘れることはない。

 その力に陰りが訪れるまで、私はジェーンに背中を預けると決めている」

 

「どうも。だから私も、そんなレアスに安心して背中を託せますよ。

 しかしこの地球では当分、二人で戦う必要もないのが残念です」

 

「そうだな、いっそ征服してしまえば私がモンスターたちからこの地の人々を守れるのかもしれない。

 この世界は魔法もなく、強い武器に頼りすぎていてあまりに弱すぎる」

 

「いいえ、私はこの魔法が無い、見通しの効く世界が好きなのです。

 モンスターさえいなければ、目に見えるものでしか傷つけられる心配もない世界は気楽に過ごせます」

 

 魔法がなければ“念視(スクライイング)”で監視され、“瞬間移動(テレポート)”で前兆もなく奇襲を受けることもない地球は、異世界におけるハードな冒険の後では実に快適だ。異世界の戦術は極まりすぎて、魔法の対策に魔法を使い続けるくらい常に気を張りつめる冒険は苦しかった。

 私がそう言うと、レアスは苦笑しながら同意した。戦士で矢面に立つことの多かった彼女は“火球(ファイアーボール)”で燃やされ、精神支配で味方に切りかかり、時には呪文で即死するなど、私たちの中で最も死亡し、蘇生を受けた経験が多い。実際、水浴び以外はずっと身に付けていた対呪文用装備を外すなどして、魔法が放たれることのない世界で一番気を抜いているのは彼女だ。

 

「では、アイシャと話をしてきます。レアスは引き続きこの組織と、それから聖女様をよろしくお願いします」

 

「良い。だから、そろそろお前の料理を味わせてくれ。

 もう前に食べてから一ヶ月が経つ、異世界のごたごたはあっても、あれだけは忘れられない」

 

「……うん、ホントごめんなさい。また来た時に用意するね」

 

 レアスは、転生した私が唯一手料理を振るい、そしてその虜にしてしまう過ちを犯した相手でもある。

 高レベル、高能力値によって作った料理はほぼ例外なく人を喜ばせて幸福にする……素材から何まで合法、非魔法的ながら人の感情を捻じ曲げるお手製ドラッグとなることに気づき、二度の過ちを犯さぬよう自ら〈製作〉を禁じたが、その初犯の相手であるレアスは中毒症状を受けている。非魔法かつ毒物ではない技術だからこそ治療することが出来ないのだった。

 

 

>第二の腹心もやってくれてました

 私は相棒エルフと別れ、この古い屋敷の書斎に向かった。

 そこは、3つ並んだテーブルの一つを多数の紙束が詰め込まれた山積みのフォルダで埋め、残り二つをアイテムや醜い人造人形(ホムンクルス)でオートメーション化した魔法のアイテム製作工程を行うなど派手な作業風景が広がっていた。そんな中、山積みのフォルダの向こう側に紛れてカタカタとプラスチックを叩きながら文字を書くペンの音に私は気づき、テーブルを一周りしてその正体を捉える。

 ホムンクルスたちの主で、この書斎を占領して893たちの情報をかき集め、更にはインターネットや文献より情報収集と集積を繰り返すことで、今や私よりも地球に精通しているのではないかと思うほど知的活動を行っている目の前の黒髪ツインドリルの褐色美女は、私の第二の腹心たる元・貴族、現・私の従者とされているアイシャだ。

 アイシャは当然書斎に入ってきた私に気づいているが、途中半ばだった活動を放り出すつもりはなく、キリ良いとこまで終えたことでようやくこちらを向いた。レアスやカグラと同じ異世界から地球に来て一ヶ月も経ってないのに、まるで今や身近なもののごとくコンピュータを操作しているが、これは私の仲間で随一の知力が為す学習能力によるものだ。

 

「マスター、ご用件は何でしょうか」

 

「アイシャがしっかり仕事しているか、心配になって。と言ったらどう思う?」

 

「まさか、マスターの信頼を裏切っても一利を得るだけで、あとは百の害と損失になります。

 例え故郷を捨てようと異世界に渡ろうと、私はマスターについて忠実に務めを果たすことを選ぶでしょう」

 

「嬉しいけど、悲しいわ。私はアイシャに、私の故郷をもっと見て楽しんでほしかった」

 

 カグラからは主人の敬愛を受け、レアスとは相棒の信頼を交わし、そしてアイシャはかつて私に二度救われたことで忠誠を誓う人間だ。また彼女と聖女様は非常に社会慣れしており、身近な相談相手としてお世話になっている相手である。正直言えばもっと気安く相談したくアイシャとは友人になりたいのだが、情けをかけられても屈服された元貴族の誇りがまた辱められるだけと拒否されている。

 

「個人として言うなら、非魔法的な社会が珍しいだけでパワーレベルが低い世界に価値はなく、興味ありません。

 植民地として支配し、労働力を得るには中々理想の世界ですが、その行為は真っ先にマスターに禁じられましたから」

 

「それは当然、私は私の知る地球を失うことは望まない。

 尤もそれは私の思い込みで、つい先日から怪しい気配がちらついているけれど」

 

「今のところゴブリンにアンデッドですか。アンデッドならともかく、かつての世界の敵対勢力がマスターの“故郷”を滅ぼし、支配するために世界を超えて送り出すには、ゴブリンはあまりにも平凡すぎますね」

 

「むしろ地球の地下深くの闇(アンダーダーク)に隠れていたのが地上に現れた方が納得行くわ。

 そちらは今カグラに探らせているけど、そのせいで私本来の目的のために手が足りないの。

 私は故郷から従者たちを呼んででも手を増やすべきかしら?」

 

「私個人としては賛成ですが、彼ら従者たちはマスターを尊重するより、マスターへの貢献する気持ちが強く、暴走する恐れがあります。

 地球では彼らを止めるストッパーたる要因が見えず、勝手に余計な敵を産みかねない理由からマスターの目的を考慮するとそれは反対します」

 

「管理出来るようごく少数を連れてくるとしても?」

 

「それは従者の中で大きく差がつき、嫉妬から地球のマスターまで接触しようとする従者が現れかねません。あくまで特別親しい腹心以外全員を突き放したからこそ彼らは故郷に残ることを承諾していますから」

 

「むう。ではどうやって手を増やすか、案はある?」

 

「発想を変えて、真っ当に魔法少女たちと交渉してはいかがですか?」

 

「それはダメね。実力者と知られれば、恐らく彼女たちはモンスターを倒すために協力を求めてくる。でも私は自己防衛以外で地球の争いに関わるつもりはないわ。

 私は表向き普通の留学生として、“私”とお付き合いするのが目的なの。周囲を裏の顔に引き込むことだけは出来ない」

 

「ではマスター以外で、腹心の誰かを動かしますか。しかし私はここで忙しく、レアスは地球ではその見た目でモンスターと判定されかねない。残るのは聖女様ですが、彼女も今地盤を固めるために手が離せないはずです。カグラは現在任務中ですか。どうにも……いえ少々当てがありますね。

 マスター、魔法少女と名乗るそちらの調査は私に一任してくれませんか。そうすれば、お望み通りの情報を持って帰れることでしょう」

 

「先ほど伝えた通りに、地球のパワーバランスと私のことをバラさないなどの条件に反さない限りは許します」

 

「はい、お許しありがとうございます。では後は私にお任せして、マスターは日本にお戻りください」

 

「………」

 

 私はアイシャのことを信用している。しかし信頼出来るかといえば、半分くらいは任せきりにしたくないところがある。いかんせん、彼女の性質は腐敗貴族からなる、悪人だ。善人であれと言うわけではないし、私に心の底から忠誠を誓っているので私の利益を損ねることはしないとわかっているが、私以外に対してはそうではない。

 

「何か?」

 

「いえ、任せたわ。情報が入り次第、連絡はよろしくね」

 

 恐らく、アイシャは何かを企んでいる。それは私に影響を及ぼさないが、後々手遅れになって私に伝わると不機嫌をもたらすような悪巧みだ。私はそれを見抜き、今ここで暴くことは出来るが、彼女は私がやろうと思わない汚い手段を使うのだろう。私のために自分を汚すのが彼女の忠誠の形だ。私は主として、彼女の献身を受け入れる。

 私は後のことを彼女に任せて、来た時同様に“瞬間移動(テレポート)”で日本に戻った。

 

 

>忍び寄る魔法少女の気配

 放課後すぐに渡米して、早急に話を済ませ次第すぐに帰ってきたが、時刻は既に7時を過ぎている。

 愛理嬢には特に何も言わぬまま向かったので心配しているかもしれない。そう思いつつステイ中の藍染家の玄関ドアに手をかけようとしたところで……私の魔力視界が、うっすらと魔力の残留オーラを感知した。

 久々に臨戦態勢を整える私。しかし周囲は現代基準の静寂に包まれているし、また騒ぎのあった痕跡も見られない。中からも複数人の気配は感じられない。私を騙すには盗賊神ほどの技量か強力な隠密呪文がいる、それくらいの手練が潜んでいるのでもなければ、単に誰かがこの近辺で魔法を行使しただけなのだろう。しかし私は魔法少女の前でボロを出した記憶はないし、魔法で調査された感覚もない。では目的は私ではなく、藍染家?

 もしや私の代わりに調査したが、その途中で魔法少女に目をつけられる行いをしたのだろうか。嫌な予感をさせつつ家内に踏み入るも、やはり敵の気配はしない。その代わり、扉を開けた音で気づいた愛理嬢が私を出迎えに玄関までやってきた。

 

「お帰りなさい、ジェーン!随分遅かったけど、何処まで行っていたの?

 私からちょっと話があるんだけど、夕飯を食べた後で時間いいかな!」

 

 ―――彼女は強力な魔力のオーラを纏っていた。

 感知したオーラの系統は召喚術、比較的安全なものに部類されるが、攻撃呪文やモンスター召喚なども含みうるため、全く安全とは言い切れない。

 私は彼女に悟られぬうちにオーラに集中し、その位置を突き止める。魔力のオーラは、彼女の身体から発されているのでなく、彼女が着けている何かが発しているようだ。

 

「それは服の下にあるアクセサリと関係ある話でいいの?」

 

「うっ……流石ジェーン、でもどうして分かるの。魔法使いは魔力ってやつが見えるのかな」

 

「全員がそうではないけど、そう、私たちは見えるわ。だからその胸元のものを見せなさい」

 

 私が催促すると、愛理は胸元のアクセサリを取り出した。白塗りのリボルバー型拳銃の形をした小さな飾りのついたネックレスだ。ところどころの溝に紫色のラインが入っており、シリンダー(回転式弾倉)部分には弾代わりにキラキラした光る桃色の結晶が詰まっている。それにシリンダー部分がぐらぐらしているあたり本当に回転するようで、まるで精巧な模型のように見える。

 しかし私はその飾りが魔法のオーラを放っていること、加えて今まで見覚えのないアクセサリを愛理嬢が私へ自慢げに見せびらかすことに、確信といってもいい疑念を抱いた。

 

「それはどこで手に入れたの。愛理が魔法に親しい気配は、つい先日まで欠片も無かったはず」

 

「それが、私もよく分からないんけど。

 今日、所用で神社のあるあたりを通りがかったところにベンチに怪しげな本を見かけたから、もしやと思ってめくってみると突然光り出して、気づけば本の代わりにこれだけが残ってたの」

 

「本が消えて、代わりに魔法のアイテムが?」

 

 そんな魔法のアイテムは地球オリジナルのアイテムにしても、オーバーパワーに過ぎる。そもそも魔法のアイテムを生成する力とはよっぽど最高位の―――“願い(ウィッシュ)”や“神の奇跡(ミラクル)”のような―――呪文を使用しなければ作成出来ない。あるいは作成法が失われたアーティファクトでもなければありえないが、そのようなものを偶然見つけることがあるだろうか。

 

「うん。その本のタイトルは、アルファベット? で『魔法……なんとかの本』と書かれてたから、もしやジェーンの探してるものがこれなんじゃ!と思ったら読んだ途端にこれを残して消えてしまったの。ごめんね、消えると知ってたら読まずに持ってきたんだけど」

 

「……実害は無かったようだけど、魔法の本の中には読むどころか、手にしただけで一般人を死に致らしめるものがある。

 魔法の多くはまるで炎のように触る人の身を焦がす危険性を持つから、くれぐれも迂闊に首を突っ込まないよう注意して」

 

「分かった。でもねジェーン、その本はとても良いものを私にもたらしたの!

 ジェーンが気づいたこのネックレス、ただの首飾りじゃないのよ。挨拶して、スミス」

 

『ハロー ジェーン。私ハ “スミス”。アイリ ヲ サポート スルタメニ 産マレマシタ。

 アイリ ハ マホー・ショージョ “アイリス” ニナッテ モンスター ヲ 倒シマス。

 是非 テツダッテクダサイ』

 

 私の注意を気にもせず、愛理は高揚してその首飾りに呼びかける。

 するとスピーカーから放たれる合成音のような音声を伴って、その拳銃が挨拶を喋るではないか。

 

「合点が行ったわ。魔法少女はこんな簡単に増えるのね。

 才能とかそっちを最初は疑ったけど、実にお手軽な職業(クラス)なのかしら」

 

『ノー ジェーン。 アイリス ハ マホー・ショージョ ヘ 72%ノ 適正 ヲ 持ッテマス。

 才能ガ ナケレバ マホー・ショージョ ハ ナレマセン。

“ブック・オヴ・マジカライズ” ハ 才能 アンド 適正 持ツモノヲ マホー・ショージョ ニ シマス』

 

「聞き取り辛いわ……でも“これ”は確かに情報を知っているようね。

 愛理、夕飯の後でこのスミスから話を聞く時間をもらえるかしら?」

 

「うん、元からそのつもり!

 私が大好きなジェーンの役に立てるなら是非!」

 

「……それはあなたが得た力だから、自分のためになることを考えなさい。

 犯罪や非合法活動を勧めるわけではないけど、魔法には日常生活や能力を高めるものもあるのだから」

 

 触った文書の内容を一瞬で記憶する“学者の接触(スカラーズ・タッチ)”など、テスト前の一夜漬けには持って来いであり、反応速度(イニシアチブ)を高める呪文、器用さなどを含む【敏捷力】を上げる呪文はスポーツに間違いなく(ドーピングではあるが)役に立つ。

 しかし愛理嬢は、先に魔法の存在を知ってしまったためか、魔法=私という関連付けを脳内で済ませてしまったらしく、それ以外に使うことなど考えもついてないようだ。カグラと同じタイプの好意だけに、後々彼女らで争うことが心配だがこちらにとって都合はいい。無論、使い捨てたり粗雑に扱うつもりはないけど、きっちり情報は抜かせてもらう。

 

 

 

 


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