ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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 久々の、半分くらい日記形式風。
 転生異世界から帰還したタイプ、ある種の逆トリップもの → からの現代異能は定番。
 あとなんか自己愛(ナルシスト)じみてるお話なので嫌いだったら読まなくても。

 一部分お姉ちゃんぶる話の焼き直し。チート内容とか。
 オーバーロードとマギアレコードの影響を多大に受けています。



異世界帰還(失敗)からの魔法少女っぽいもの(構成失敗)
001


>地球の暦で20XX年5月初め

 何故地球には魔法が存在しないにも関わらず、魔法という存在が伝わっているのだろうと疑問に思ったことはある。

 空想上のものや、伝承がねじ曲がって伝わったものだと自分なりに納得していたが、今にして思えば納得が行く。

 地球は魔法を捨てることによって、世界を怪異たちから保護していたのだ。

 

 私は地球から突然魂を攫われた先で偉大なる魔法を身に着け、壮絶な戦いを繰り広げた後に異世界から地球へと帰還した。詳しく書けば書籍数冊にも渡る長い旅を経たが、この余白はそれを記すには足りない。しかし一つ言えるのは、それとは関係なく私が再び安穏の現代生活へ返り咲くには支障があった。肉体の転生(生まれ変わり)、記憶との齟齬、平行宇宙(パラレルユニバース)の問題が私を現代から突き放している。もはや私は異世界のものなのだろう、故郷への旅まで共に付き従ってくれた仲間たちも様々な手段で私を帰らせようと説得している。

 しかし肉体や社会は完全に異世界のもので構築されてようが、私の記憶と精神、そして魂は未だ地球への繋がりを断ち切れずに残したまま。そうでなければここまで来たりしやしないし、些細な問題で止まるほどの決意ではなかった。

 

 そうして地球に降り立った私は懐かしすぎて、焼き付いた光景以外は薄っすらとだけ記憶に残る我が家を訪れた。敷地外からその一軒家を見て、あそこが私の部屋で、お父さんとお母さんとあの窓の向こうのリビングで過ごした幼少期を途切れ途切れに思い起こし、僅かに涙ぐむ。そんなことをしていると、私に声をかける女の子が一人。

 彼女は適当に前髪と毛先を整えただけのぱっつん長髪に色気のない太縁の眼鏡をかけ、改造の欠片もない無個性学生服を着込んだ身だしなみを気にしていない日本人女子にしか見えない。一方の私はそよ風に揺れて煌めく美しい銀髪に、辛うじて現代でも通用するからと着けた上品すぎる純白のワンピースを着込み、見た目はどこからどう見ても東洋に紛れ込んだ外国人のご令嬢である。誰もこの二人に血の繋がりがあるとはまさか信じないだろう。

 

「あー、ハロー。ワット……ワイ、ドゥユーアスクマイホーム?」

「ふふ。日本語でお話しくださって結構ですよ」

「わ、日本語分かるんですね……恥ずかしい。じゃぁあの、うちに何か御用ですか?」

「つい今まで日本の町並みを楽しみながらお散歩しておりまして。

 特にこのお家を見ているうちに、似たようなお家を思い出して懐かしんでいたのです。

 そちらのお家の方々をお騒がせしたようであれば、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いいえ、そんな仰々しく謝られるようなこと、ありませんけど。

 好きなだけ……って、なんか変ですけど、別に構いません、です」

 

 彼女は私に、お客人をもてなすようたどたどしい言葉で話しかける。私は異世界で染み付いた普段の態度で女の子に気楽に話しかける。お互い、面識を持ったことのある相手ではないが、他ならぬ私は事前の調べでこの女の子が私と縁深い相手だと知っていた。

 なんせ血の繋がりのあるどころか、全く同じ血を持つものなのだから。彼女は、この平行世界上における私の同一人物である。

 元の世界において一人息子だった「私」は、この並行世界では一人娘と化していた。宇宙の秘密を知った今、その程度の違いに驚くことはないが彼女はかつての私と違う素性を持つようだ。乗っ取るのは難しいだろう――――たとえチートを強引に使っても、それは乗っ取りではなく上塗りになる。それは私の望む元の生活を取り戻したことにはならない。

 しかしこうして見ると、平穏な生活を送れている「私」のことが妬ましいのは事実。だから私はそのすぐ側で香りだけでもいたくと決めた。腹心たちには退屈させるだろうが、私が飽きるまで長いバカンスと思って過ごしてもらう。

 

「お気遣いなさらなくとも、これ以上のご迷惑はおかけしません。

 私は今日、ここから帰ります。ごきげんよう、また今度」

「ご、ごきげんよう。今度?」

 

 私は「私」に別れを告げて、今日のところは滞在先に帰った。その道中、ずっとついてきていた私のスパイに声をかけて、今後の布石を打っておく。

 

『カグラ、あの子の生活を調べて。これから私は、最重要である彼女と接近しなければならない。

 彼女と会える場所を探すのは重要な役目よ』

『わらわは反対ですぞ。この世に疎いわらわにも分かるほど、あの娘は平凡に過ぎて、主様には合いませぬ。

 どのようになっても必ず一方に不幸が訪れましょう』

『そうでもないわ。幸せとは心が満たされて生まれるものだけど、金や権力、力では私の望みは叶わない。

 市井に身を落として、それで幸福が生まれるためならなんだってするわ。

 ……例え彼女が死んでもね。だから殺してはダメよ?』

『お見通しですかの。しからば、今は言うとおりにいたしましょう』

 

 すぐ側で姿を見せぬまま、念話(テレパシー)でやり取りする彼女、カグラ―――私を主と慕う妖狐の忍はご不満の様子。魅力も実力も遥かに優れる自分より、「私」が主のお気に入りとなることに納得していないのだ。敬意から恨みは向けずとも、嫉妬は別……悪人寄りのこの子は私の目を向けてもらうために「私」を闇討ちしかねず、こうして暴走せぬよう念を押さないといけない。

 そんな性格の悪いこの()だけど、可愛いし優秀だし何より私へ強い敬愛からお願いを聞いてくれる大事な()。手放すなんて考えられない。

 

 

>地球の暦で20XX年5月上旬

 海外で戸籍を確保した。偽造……もとい乗っ取ったものだ。海外の893屋さん(マフィアとも言う)に頼めば一発である。

 この手の悪巧み、交渉事に強い第二の腹心に相棒をつけて任せていたが、思ったより早く済んだのは嬉しい誤算。急いで現地に飛び、私と仲間たち人数分の戸籍を獲得する。今日から私の名はジェーンだ。仲間たちにも戸籍を配ったが、こういう偽造や詐称を好まない二名は消極的にのみ利用すると述べた。まあ相棒はそもそも見た目人間ですらなく変装無しに人前に出せないし、親友は異世界の太陽神に祝福された天然のアイドル・聖女だから、その魅力で簡単に国も味方につけるのではなかろうか。

 まだ地球に不慣れな感覚派の彼女らを放っておくのは心配だが、下手すると私以上に目立つ彼女ら二人を今の時点で日本へ連れていくわけにもいかない。第二の腹心に彼女らの面倒見を頼んで私はカグラを引き連れて留学を準備する。893屋に魔法のアイテムと呪文のサービスを積んで吸い上げた金とコネで強引に手続きを済ませ、カグラを先に日本へ飛ばして小細工を弄し、5月中旬にようやく私自身も日本へ飛べた。

 

 

>地球の暦で20XX年5月中旬

 ホームステイの滞在先を「私」の家庭にねじ込むことは流石に出来なかった。だから縁戚であるという留学の建前確保に用いた「私」のクラスメイトをそのままホームステイ先に頼み込んだ。カグラが調査中、そのクラスメイトの親が輸入業を営んでいることを知って、ちょうどその親の取引先に893屋さんの傘下企業が混じっていることが分かったので、重役の娘という紹介で潜り込ませていただいた。勿論、本当の娘ではないのだけど、金と利益のためなら大人は怪しいことも黙って呑んでくれるのだ。

 ステイ先、藍染(あいぞめ)さん家の和服が似合う大和撫子、愛理(あいり)嬢はそんな裏事情も知らず、日本にやってきた私に良くしてくれた。異世界で新鮮な食材や斬新な味覚に食べ慣れた私の舌も唸らせる料亭やスイーツショップに連れてってくれ、私を喜ばせる案内上手である。そんな良い子だが、ステイ初日に腹心たるカグラに注意をかけることを忘れてしまい、危うく人に言えぬ状態にしてしまうところだったのは非常に申し訳ない。幸い彼女の身が汚される寸前で止めることは出来たものの、そのせいで愛理嬢にはカグラの存在がバレ、私の素性に裏があることを知られてしまう。明らかに得体の知れない腹心を引き連れている私の弱みを握られて、彼女が何を言い出してくるかとハラハラしたものの……彼女はカグラについて親戚か何かか、と簡単に問うだけで、詳しい素性について追求しようとしなかった。彼女は善人であった。

 この恩はいつかきちっとした礼で返さねばなるまいと私は心に留め、とりあえずまずは欲求不満のあまり彼女へ度々色仕掛けするカグラを止めた。

 

 留学生が日本に慣れるための研修期間が終わり、ようやく高校へ入り込む時が来た。事前に派遣したカグラの工作の介あって私は愛理嬢、そして異世界同位体の「私」と同じクラスに編入されることが決まっていた。担任教師に仕切ってもらい、教室で自己紹介を行う。あからさまに外国人の私が流暢な日本語で喋ったことにクラスメイトたちが驚きの表情を浮かべる中、事前に数日ともに暮らしていた愛理嬢は平然とにこやかに笑みを浮かべ、そして同位体の「私」は知った顔と再び会ったことに一瞬だけ驚きを、そして複雑な顔をする。何気なく伝えた「また今度」という再会の言葉を覚えていたようだ。

 

「こんにちは、日本の皆さん。私はジェーン。北米からやって来たジェーン・スミスです。

 日本のシステムに憧れて、暫くこの伊勢高校に留学しました。どうか、よろしくお願いします」

 

 彼・彼女らが圧倒されぬ程度に魅力のオーラを振りまくと、熱狂的な歓声・拍手と共に歓迎の言葉が次々にクラスメイトから語られた。担任ですら仕切りの言葉を紡げずにいる。初対面でない愛理嬢、「私」は彼らほど強く当てられてはないが、それでも周りの様子に釣られて気が高揚し、顔を赤らめている。主様のお言葉を聞いただけで歓喜するとは有象無象の馬鹿共じゃの、と影の中に潜むカグラが念話で嘲る。

 流れを担任が硬直して仕方ないので私がさっと腕を大振りに上げ、彼らを注目させると途端に次に放たれる言葉を待とうと静粛になる。

 

「皆さん、私の来訪を喜んでくれて非常に嬉しいです。ですが、本当の喜びはこれからの学園生活で皆さんと共に築かれていきます。なのでその喜びはこれからの思い出の一つとして、今は皆さんの心の中に秘めていてください」

 

 そう言って気を動転させる皆を落ち着け、事務的な話は担任に任せると告げて私は用意された空席に座った。座席は「私」とも愛理嬢とも離れているが、いずれ何かの授業をきっかけに接近することもあるだろう。

 私が着席したタイミングで、先生が空気を引き継いで私の表向きの理由、留学事情について語る。書類上では本当にあった「私の日本への思いが込もった」カバーストーリーだ。あたかも読書感想文のように整然とした内容は、聞くものが聞けばあまりの綺麗話に疑う話だが、存在そのものが美しい私の容姿は内容に合いすぎて逆に疑われない。そうして私は「私」のクラスメイトたちに受け入れられた。

 

 

 >留学生の初日

 朝のホームルームが終わり、僅かな休み時間を挟んで授業が始まるものの、皆まともに授業を受けられる空気などではなく、本日の授業一時間目の教師が入ってきても時間を押して質問攻めを受けた。半ば真面目に、勿論経歴にははったりと嘘を織り交ぜて答え流し、間が空いたタイミングをみて視線を誘導し、教師が来たことに気づかせると彼らは惜しみながら席を離れた。「私」はこちらを気にしつつもボッチ気性なのか私を取り巻く集団に近寄らずにいて、愛理嬢は遠巻きに私のことを見ながら親しい少人数グループに身内事情を打ち明けて、きゃあきゃあとこっそり騒いでいた。

 二時間目との間の休み時間には、相変わらず私を集団が取り巻き質問攻めにしようとする中、愛理嬢がやや優越感をさらけ出しながら、私のことをさん付けせず、そのままジェーンと呼んだ。正気を訝しむような目で取り巻きが彼女に目を向ける中、私はその態度に答えて愛理さんと言葉を返すと、名乗られてもないのに私が彼女の名を呼んだことで驚愕して目を剥いた。

「次は移動教室よ」との愛理の軽い口調に「ありがとう、一緒に行きましょう」と長年の友人のように即応じたことで、周りは目の色を変えて、愛理嬢へ近づく。愛理の親しい友人たちが集団を止め、彼女に代わって事情を説明する中で私は愛理に連れ出されて次の教室へ向かう。

 その途中、見慣れた、しかしこの世界では見られぬはずの魔法のオーラを感知して足を止める。カグラも同時に気づいて念話を寄越し、共に反応があった方を確認すると、隣のクラスの一人の少女が幾つかのオーラを発していた。詳細は分からぬがアーティファクトらしきとても強力な魔法のアイテムの反応と、彼女自身にかかっている幾つかの防御術のオーラの反応だ。詳しい情報を集めたいところだが、愛理嬢がこちらの動きを気にしたので悟られる前に何でもない風を装って、一方でカグラに調査するよう念話する。特にそもそも魔法が存在しないはずの現代で、魔法の反応があることはおかしい。既に海外の893屋には幾つかの魔法のアイテムを与えたが、明らかに私が与えたそれらではない、全く異なる強力な魔力反応だ。アイテムの確保より、泳がせて素性と裏取りを優先して調査するように指示した。

 

 >初日、放課後

 どうやら一筋縄ではいかないらしいこの並行世界において、私はその後、(私以外にとって)驚愕の学校生活の始まりをさくさくと放課後まで流れ作業で過ごしていった。同位体の「私」といえば、気にしてはいたものの漏れ聞こえてくる噂だけで満足したのか直接接触してくる様子はない。困ったので、少し人が離れたタイミングで愛理嬢に気になる人物がいることを話し、「私」と会話したいことを伝える。接点が少ないのか、あまり知らないけどと前置きして「私」のことを語る。どうやらクラスメイトと直接の仲は良くないが、代わりに文芸部の部活動に熱心な趣味一直線のタイプである情報を貰う。

 放課後、相変わらず私の外面に釣られる男女クラスメイトたちが今度は部活動に顔出してもらおう(あるいは勧誘しよう)としたのを利用して、文化部を見て回りながら「私」と接触することにした。さして興味もない軽音楽部やお腹いっぱいの演劇部などを流して回り、この場に部員がいない文芸部を残して次は運動部へ、と誘導される流れに「まだ文芸部があるのですよね」と逆らって最後の部室を訪問する。

 軽音楽部や演劇部と違って、やや根暗な人も多い文芸部では私のような人をあまり喜んで歓迎するような人はいない。しかし私の押しを断れるほど強い我を持つ人もおらず、入室権をもぎ取って中に入り、同位体の「私」を見つける。向こうも入り口で押し引きしていた私に気づいてはいたが、関わることもないだろうと顔を伏せて目を背けていた……そんな彼女のことを私は、まるで今気づいたようにニッコリとした笑みを浮かべてゆったりと、本に熱中する彼女の手を取る。私と「私」に視線が集まる。

 えっ、と動揺する「私」に構わず、私は再会の言葉を語る。

 

「絵都さん、ですね。お久しぶりです。

 あの時、あなたに話しかけられた時、私は日本との繋がりの一つにあなたという縁が出来たことを感じたのです。だからきっとまた会えると思っておりました。教室では言えませんでしたが、これから同じクラスメイトとしてよろしくお願いします」

「え、あの私はそんな……や、やめてください。恥ずかしいです」

「恥じることはありません。前に会ったあなたが、留学した同じ学校にいて、同じクラスメイトにいる。

 これ以上の運命はそうそうありえません。間違いなく、私とあなたに運命が紡いだ縁です。

 私は縁というものを大切に思っています。ですから、この縁をあなたも大切に思って、私と仲良くしてください」

「う……はい。あ、違」

「ありがとうございます!」

 

 恥ずかしさに「私」はとにかく断りを口に出すが、そこに私は彼女へ魅力のオーラをぶつけて圧倒し、強引に了承の言葉を引き出した。それを周りに知らしめるように声を張り上げて既成事実とする。これで私は「私」と接触する口実が出来た。あとはいつでも教室で機会を重ねれば良い。

 

「ごめんなさい、部の皆様には突然ご迷惑をかけてしまいましたね。

 申し訳ないので、今日はここで失礼します。また来ることがあれば、次こそは部の皆様と仲良くなりたいです」

 

 その後、引き続き私は周りのクラスメイトに囲まれて、運動部巡りに付き合った。もっとハードな運動を経験してきた私には陸上競技はもはや児戯、今でも世界レベルすら狙える肉体を持つが、異世界でも捨ててきた名声を今また手に入れようなど思うわけもない。表面上は多少センスは良くても動きが鈍く可愛らしい女の子を演じて、残りの時間を流し過ごした。当然、3レベルもない学生ごときに見抜かれることは無い。

 

 

 >初日その夜。リリカルナイトクラブ

 部活動を回っているうちに下校時刻になり、夜のいけない遊びへのお誘いを断ってステイ先の藍染家へ帰宅する。一足先に帰っていた愛理嬢はそれはもう愉快な顔をして私にお帰りなさい、ご苦労様と仰った。苦労を知っているのなら、少しは助けてくれてもいいでしょうと私は彼女の否をつつき、軽い、しかし的確に身体のツボをつく厭らしいスキンシップで仕返しする。

 カグラから手ほどきされ、後に我流で鍛えた房中術はくすぐったさ以上に快楽をもたらし、愛理の顔が心地よさと恥じらいで赤く染まる。我が腹心の色仕掛けによって、彼女は女性ながらにしてすっかり女色家の悪い癖がついてしまった。カグラのいたずらは止めたものの、カグラとひいてはその主たるたびたび私に色目を向ける彼女を非行に走らせぬため、二日に一回こうして満足させる必要があった。何故私自らが手ほどきせねばならんのか、とは思うもののこの情事にて私が「私」に向ける僅かな色欲を解消出来るメリットもあったので、まんざらでもないのだ。

 

 私の手練で愛理嬢を満足させたところにカグラが戻ってくる。羨ましい目つきをする彼女の調査報告を聞くと、驚きの事実が飛び出してきた。

 

「主様が感知しました女生徒について調べましたのじゃが、どうやら現地の魔術師であるようで。

 いや、当人らは魔法少女と名乗っており、また別の魔術師と合流して会話するなどしておりました」

「魔法少女、まさか実在したとは。比較的近代に生まれた創作物ジャンルだけど、そのものなのか、名前だけ借りた別ものか。

 その仮称・魔法少女たちは複数人集結したの?具体的な魔法行使のほどは確かめたかしら」

「はい。あやつは学舎より住居へ帰還し、その後身につけた宝石らしき魔法のアイテムにより一瞬で戦装束に身を整えておりましたわ。

 その直後からあやつより第三位階ほどの魔力量を感じるようになり申した。恐らくあのアイテムにより得ているか、あるいはこの地に伝わる独特の、魔法の(キー)となる構成要素ではないかと。しかし……」

「続けて」

「はい。見たところ当人たちのレベルはせいぜい3レベルに過ぎませぬ。

 通常のウィザードが第三位階を使うには、早くても5レベルであることを考えるとかなり早熟での。観察を続けたところ同じ魔術師仲間と合流し、現地のモンスターたちと交戦を開始し、その戦い様を一時見届けましたわ。その最中で第三位階の呪文行使を確認しております。

 詳細は後に述べるが、敵に関する基本的な知識はあっても、経験やノウハウ、戦場における機転はそれほどでもないようで、そのあたりは見た目通りの幼さですな。

 そこから考えるに、あやつはこの地独特の技術を自力で身につけたと言われるよりも、神格級の存在から力を授けられたか、あの魔法のアイテムによって身についた後天的な能力であるという説のほうが納得行きますの」

「へえ、モンスターなんていたのね。私はまだ見てないけど……」

「説得するのですか?こればかりはわらわが断固反対です、ゴブリンごときに主様のお姿を晒せば、まず間違いなく奴らは主様を自分らのものにしようと襲いかかるでしょう。見るべき実力者もいない連中で、雑魚に主様のお手間をかける必要などありません」

「そういうのじゃないの。そもそも、私の知る『地球』には、魔法は当然、超常的な生物すら存在しない、動植物と人間だけの世界のはずだったから。

 ……やはり私のいた元の世界とはまるで別物ね。口惜しいけど、逆に言えば私たち超常能力の持ち主の存在が許されたってことでもあるわ。

 考える、少し待ちなさい」

 

 カグラの調査、および私が昼間に一瞬見た限りではあの彼女に魔法使いの魔力は感じられなかった。そしてアイテムを用いて戦闘用装備に一瞬で変身した直後から魔力を感じられるようになったという情報から、恐らく創作物通りの“魔法少女”であると考察される。すなわち、何らかの原因によって外部的な能力供給装置ある魔法のアイテムを手に入れ、それにより魔法を行使する能力を獲得し、またモンスターのような敵対勢力がいる善の存在の要素が考えられる。

 ……3つ目に関しては魔法少女の典型的なパターンの例に過ぎず、敵対モンスターたち、および魔法少女に変身するアイテムを与えた何らかの存在に関して追加調査が必要だ。

 1つ目に関しては、他者から与えられたものでなく魔法少女自らに眠っていた才能であるという線は考えがたい……もし自身の能力だったなら、その魔法的才能そのものが感知出来たはずだ。そもそも彼女のレベルを考えるに、彼女にそこまで卓越した術者の技量があるはずがなく、そんな低レベルの術者の技量で、私たち高レベル者の目から魔力を隠し通せるわけがない。つまり彼女の魔力は見たままが真実ということ。

 そして最大の問題は、魔法少女は私たちにとって敵であるかどうかということだ。カグラの話を聞くに、モンスターたちには私たちがやってきた異世界にもいたゴブリンが含まれている……地球の闇や地下に紛れた現住生物という話もあるが、それより私たちと同じく外部世界からの侵略者の手先という考えをあげたい。魔法少女もの(あるいはヒーローもの)において、宇宙の果てや別世界から地球を侵略しに現れた悪の組織は珍しくない話だ。そして表面上は同様に別世界からやってきた私たちは、彼女たちにとって侵略者の同胞とみなされる可能性が高い。ねじ伏せることは簡単でも自爆覚悟で社会的な手を取られれば地に足のついてないこちらが不利で、それまでは魔法少女たちから身を隠しつつ手を出さずにいよう。

 

「カグラ、あなたはゴブリンたち……彼らそのものでなく、彼らの後ろに暗躍している存在がいないか、調べて。

 私の知る地球では動植物と人間以外の、ゴブリンなんてものはいなかった。アイテム、技術、住居、なんでもいいわ、それらを追跡して奴らの裏にいる指揮官、支持者、スポンサーを探すこと。期限は一週間、例え成果がなくても期限になったら必ず報告に戻ること。簡単に分からなかったことが分かるだけで十分なのよ。

 そして魔法少女、見かけ上は今の私たちの敵ではなくても、レベルが上がれば飛躍的に強化されかねず、潜在的なライバルの可能性を秘めている。危険ね」

「では潰しますか?」

「いいえ。目先の危険を取り除いても根本の原因が分からなければ、ただの繰り返し。何より、私たちの目の届くところにいないだけで、既に十数レベルに達した強力な魔法少女に不意をつかれれば、私たちの誰かがやられてしまう危険もある。

 カグラ、地球は私が思っていた以上に危険地帯だった……平穏な生活とか、バカンスのつもりでいてなんて言った間違いを謝罪するわ」

「そんなことは思っておりませぬ。むしろ、わらわたちが張り合う相手がいたことで主様に尽くす場が生まれたことを喜んでおります。

 まずは手始めにモンスターたちへの隠密調査、務めさせていただきます」

「任せるわ。知っての通り、私は地球社会に顔も身も晒して下手に動けない。

 今動ける、貴女たちだけが頼りなの。よろしくね」

 

 御意、とカグラは私の令を承って、早速 影に身をやつし私の視界から消えた。

 しかし(私の技で絶頂し、つい先ほどまで気を失っていたが)途中から覚醒し、このやり取りを見ていた愛理嬢が起き上がって私に尋ねる。

 

「あの娘、ジェーンの妹ってことでいいの?」

「いいえ、カグラに血の繋がりは無いわ。ただ、そうね……家政婦とか、使用人に近い関係よ。

 もしくは、私が師匠であの子が弟子」

「弟子って、忍者の弟子?

 魔法少女とかフィクションの話をしても平気でいて、いきなり出たり消えたり、ずっと学校でジェーンのこと見張ってた彼女が忍者っていうなら納得するけど。でもカグラちゃんはともかく、ジェーンちゃん外国人だよね、忍者じゃなくてNINJAなの?」

「あれはカグラが自力で身につけた技よ。私は忍者でも盗賊でもなく……魔術師(ウィザード)

 私がカグラに教えたのは呪文の教えよ。カグラは確かに優れた忍者でもあるけど、呪文の使い手でもあるの」

「ウィザード。それは考えもつかなかった。忍者で魔術師、分かるようでなんか分からない組み合わせ。

 というか今更だけど、魔法ってあるんだね。私を気持ちよくさせたのも魔法ってやつか」

「あれは魔法を介さない、ただの純粋な技術。詳しいことは話せないけど私のいたところでは対魔法戦術も流行っていたから、魔法を使わない技術も伸ばす必要があった。あれはその一つ」

「魔法じゃないんか。どんだけテクニシャンなんだよつって。そんで……ジェーンは日本に、何しに来たのかな。アメリカから日本を秘密裏にスパイしにきた超能力者と予想、当たったらジェーンのこと教えてよ」

「その予想、一部当たらずといえども遠からずね。でも超能力と魔法は根本的に違うものなのでニアピン賞は無し、続きはまだ今度ね」

 

 ガビーン、と口に出す彼女はさておいて、私は今分かったことで急ぎ動かなければならない。

 連絡のため、ホームステイで貸し与えられた藍染家の一室にこもる。今の時点で分かった情報を他の仲間たちに“送信(センディング)”の呪文で伝える。魔法少女の存在はさておき、モンスターがこの世界にもいる情報は真っ先に共有し、対策を練らなければなるまい。

 

 

 

 


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