ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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作品自体の書き直し予定


11(ダメポ)

 この世界において、最も強力な種族は「(ドラゴン)」、もしくは天使(エンジェル)悪鬼(デーモン)悪魔(デヴィル)を含む「来訪者(アウトサイダー)」でしょう。しかしながら彼らはそれでも生物なために急所を持ち、[即死]効果で死んでしまうこともあって完全な耐性を持ちません。また、それだけ強い種族ほど決まって個体数は少ないです。

 一方で彼らより個体数が多く、そして多くの攻撃に対する耐性を持つ「アンデッド」こそが厄介だと言われることは多いです。アンデッドは肉体、あるいは魂を持つ殆どの生物から発生し、または死霊術師によって作成され、生前の技術はおおよそ失われますが元の肉体が大きければ大きいほど、当然アンデッド化したクリーチャーは驚異になります。その中でも、爪や牙に含まれる体液が生物を麻痺をさせるグール、その接触が生物の精気を奪うゴーストに同じく接触が生物を衰弱させるシャドー。そして“支配(ドミネイト)”の魔眼に吸血、生命力吸収(レベル・ドレイン)といった豊富な状態異常(バッド・ステータス)攻撃を有し、更に生前の技術がそのまま残るヴァンパイアといったアンデッド・クリーチャーたちは対策を取れなければそれだけで一瞬にして全滅する可能性まであります。冒険者には、アンデッドに比べれば高火力の吐息(ブレス)とヒット・アンド・アウェイ戦術を用いる竜や、全体的な基礎スペックが非常に高いだけ(・・)の来訪者は力押しが通じるだけまだマシと語るものも少なくありません。かくいう私も、その一人です。如何に私が化け物じみた【筋力】や【知力】を持っていても、レベルを抑えている限りはヴァンパイアやレイスが持つレベル・ドレインで死にかねないものです。ただ、魔法による対策さえしていれば竜や来訪者に比べて低めの肉体スペックしか持たないアンデッドは「逆レベル詐欺」(得られる経験値の割に弱い)となることもあり、パーティに神官(クレリック)がいるかいないかでアンデッドの脅威は全く変わるでしょう。

 ちなみにヴァンパイアを相手するのに必要な呪文は、クレリック4呪文レベルの“死への守り(デス・ウォード)”、3呪文レベルの“魔法円(マジック・サークル)”あるいは1呪文レベルの“保護《プロテクション・フロム・~~》”呪文、万全を期すならば4呪文レベルの“身体保護(シェルタード・ヴァイタリティ)”または“自由移動(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)”呪文の全てをかけなければなりません。これらには駆け出しの神官には使えない呪文すら含まれていることが、それだけヴァンパイアという種族の凶悪さを知らしめております。

 

 さて、当然ですが姉様たちは駆け出しでこそありませんが、熟練の冒険者とも言えないまだまだ未熟な力量しか持ちません。しかも信仰術者は僅かな呪文を行使出来る聖騎士(パラディン)野伏(レンジャー)のみ、当然その程度の呪文ではヴァンパイアへ対策することも出来ません。いずれは自分たちだけでも対処法を見つけて頂きますが、今回は私が対ヴァンパイアに必要な全ての呪文を手持ちの魔法のアイテムよりかけました。“死への守り”は、同様の効果を防具に魔法で付与することで対処し、“魔法円”は手持ちの巻物(スクロール)から。ヴァンパイアにとっても、試みることにリスクを伴うため本来なら対策の必要性が一段落ちる吸血攻撃ですが、念のため“身体保護”と“自由移動”呪文の双方を魔法棒よりかけました。これら呪文の中には、アンデッド以外にも効果的な呪文ばかりなので、普段からストックを有しておりました。金銭面の問題は、魔法棒のチャージや巻物の個数をチート能力で弄るだけで済むため心配もありません。姉様たちには普段から魔法のアイテム売買で稼いでいるため、金銭的な心配は不要だと誤魔化しております。(金を心配するくらいなら、さっさと神官の仲間を見つけて安心させてくださいと言ってやりました)

 これらの呪文はせいぜい2時間弱しか持続しませんが、ヴァンパイアたちが潜む日本旅館は事前の調査でそこまで時間のかかる広さでは無いと分かっています。呪文が切れる前に旅館中を調べ尽くすことが可能でしょう。予想外の出来事が起こったならその限りではありませんが、その時はたとえ全てのヴァンパイアたちを仕留めきれておらずとも退かねばならないでしょう。引き際は大事です。

 尤も、そのあたりの判断はあくまで「おまけ」に過ぎない私ではなく、姉様のパーティのいずれかが下すべきですが……このパーティで司令塔になれそうな方はレンジャーの方でしょうか。こういう役割は一番知恵があり後方から戦場を見据えることの出来る秘術役の役回りに当たるのですが、その秘術役であるノームの方こそこのパーティで最も低レベルで、とてもパーティの同行を任せられるほどではありません。仕方なく、レンジャーの方に他の方々を気にかけるようにと目線を送りました。

 

 暫く姉様たちがパーティ間で作戦の相談を行い、狭い屋内を進む隊列を決定したところで、旅館内部に突入開始しました。オーナーが不詳で、所有権すら怪しげな旅館へ踏み込んだ私たちを出迎えたのは旅館の女将でもでもなく、ヴァンパイア・スポーンたち……ヴァンパイアに生命力を吸われた人間のなれの果てでした。

 ヴァンパイア・スポーンは真なるヴァンパイアが生み出す劣悪な同族であり、限られた特殊能力しか持たない上に生前の経験を失っていますが、それでもヴァンパイア同様にレベル・ドレイン、支配の魔眼、吸血能力そして不死性を獲得しています。しかし、つまるところ経験=職業(クラス)・レベルを持たない劣化ヴァンパイアでしかないために、事前の補助魔法全てがそのまま有効に機能します。レベルを持つヴァンパイアのように、生前より強力な肉体とその技術を組み合わせた巧みな戦術家であれば苦戦もしますが、特殊攻撃を封殺されただ殴りかかってくるだけのクリーチャー数体に、幾らかの経験を積み重ね、成長した若き冒険者パーティが苦戦するはずもありません。インスタント銀メッキ(シルヴァー・シーン)を塗布した魔法の武器はヴァンパイアの防御を容易く貫き、あっという間に彼ら死体は破壊され、霧化して自らの棺桶へ逃げていきました。それを道案内代わりに、私たちは霧の後を追いかけて廊下を歩みます。

 その途中、和室の中で息を潜めていたヴァンパイア・スポーン一体が背後から、そして前方からもスポーン三体を従えた魔術師(ウィザード)らしきヴァンパイアが挟撃をしかけてきました。レンジャーの方が背後のスポーンへ応戦し、姉様と義兄様が前方のスポーン三体を止めます。ノームの方は数的不利な姉様たちを助けようと呪文の砲火で支援しますが、遠距離攻撃の二人が前衛に対応しているために敵ヴァンパイアのウィザードがフリーになっていました。

 ヴァンパイアの魔術師は混戦する私達のど真ん中へ、死霊術・召喚術系統の複合したオーラ反応のある怪しげな薄いモヤを生み出しました。そのモヤは生命体から体熱を奪い、体力に自信のある私を疲労した状態に陥らせます。“墓場の霧(グレイヴ・ミスト)”、たった今受けた通り生命力を奪う[冷気]の霧を撒き散らす呪文です。薄いモヤが視界を阻害することはないものの、死霊術特有の生命に害を及ぼす効果は範囲内に存在する彼らの敵――すなわち生命体である私たちのみに害を与えます。身体は既に生命を失った骸であるヴァンパイア・スポーンたちアンデッドは当然、疲労することはありませんし、[冷気]によって生命力を奪われることすらありません。

 が、しかし吸血攻撃やそれに準ずる攻撃対策としてかけておいた“身体保護”呪文が、身体を疲労させる効果からも姉様たちパーティを保護します。彼・彼女らが受けた被害は、僅かな[冷気]ダメージのみ。呪文をケチっていた私だけはまともに被害を被りますが、相手は一手損した形になりました。

 この空いた一手を用いて、相手ウィザードを止められれば良いのですが、姉様とお義兄様は前方のスポーンに集中しており、動くことは出来ません。前衛を〈軽業〉で通り抜けて、後衛を穿つ役目であるレンジャーの方は後ろから襲いかかるスポーンを食い止めており、もっとも手が空いているノームの方はそのことに気づかず、前方のスポーン掃討に火力を集中させている始末。火力を集中して敵を減らそうとする行いは、極端な間違いではありませんが、敵に術者を含むこの場合、呪文で形勢を逆転されないために妨害をしかけるのが正しい判断でしょう。

 “朗唱(リサイテイション)”呪文で味方を強化していた私ですが、これ以上の行動を許すと一気に壊滅の恐れがあるとして、ヴァンパイアが次に呪文を唱え始めたタイミングで前列の合間を縫ってシュリケンを投擲。痛みを覚えないヴァンパイアですが、呪文の発動に必要な構成要素、動作や発声を攻撃を与えることで妨げる手段は通常通り有効です。“魔法解呪(ディスペル・マジック)”によってこちらの強化を剥がそうとしていましたが、姉様たちの経験値を奪わないよう加減しつつも多大な威力のシュリケンによって呪文の発動は失敗、更なる一手を失わせます。ヴァンパイアウィザードはここでやられて、棺桶で為す術なくとどめを刺されかねないことを心配したのか、スポーンたちを足止めに残し先に離脱しました。

 残ったスポーンたちは、その高速治癒能力によって受けたダメージを修復しながらも粘りますが、ダメージに耐えきれなかった前方の一体が破壊されたのをきっかけに、残りの二体に攻撃が集中し即行で撃破、後方のスポーンも手の空いた前列の増援を受けてあっけなく倒されました。

 皆が受けたダメージを回復し、一息ついたところで敵ウィザードを放置した問題点を指摘しようかと思いましたが、私が言うまでもなくレンジャーの方がノームの方へ、可能であれば前衛の支援より敵後衛を妨害することを優先するように注意を促しました。過度に私がでしゃばる必要がなく済んで安心ですが、レンジャーの方は私に、先ほど挟み撃ちを受けた時などで中衛を務めてほしいともお願いしてきました。しかしよほどの相手が現れた場合を除いて、私は断ります。私が前に立っても、あまりの強さに無理を悟った敵が攻撃を避けて他の人物へターゲットを変えかねないのですもの。不服そうながら、しかし私がかける支援も間違いなく役に立っていることもあってお願いを取り下げました。

 

 ヴァンパイア・ウィザードが逃げた方向を追って旅館を進むパーティですが、私の耳が左前方の大部屋内から呪文の詠唱を捉えます。“狐の狡知(フォクセス・カニング)”、知力を向上させる補助呪文でした。ヴァンパイア種族の特殊能力に恩恵を与えるものではないため、おそらく先ほどのウィザードが呪文の強度を高めるためにかけたのでしょう。身振り手振りで左の部屋へ入る扉を指し示し、注意を促しつつ突入の準備を整えます。当然、正面の扉から乗り込んだ途端に呪文が飛んでくることもあるでしょう、幾ら防御呪文で固めていてもそれを“解呪”された状態でスポーンたちに攻撃されれば、姉様たちは一瞬でレベルドレインされ、スポーンと化しかねません。なので直接、部屋の中に乗り込みます。

 壁越しに耳を当ててヴァンパイアたちの数・位置を予測し、発声が不要なワンドを中心に支援呪文を済ませて、“次元扉(ディメンジョン・ドア)”呪文によりパーティ全員を奴らの後方へ瞬間移動。転移と同時に前衛が切り込み、ヴァンパイア・ウィザードが呪文をかける暇は与えません。ウィザードの他にはヴァンパイア・スポーンが2体と、少し離れて扉付近にヴァンパイア(モンク)が2体。固くて素早いモンクは回避力に長けており、また前衛の間合いをすり抜け後衛に接敵する能力があり危険です。ノームの方へいつも以上に距離を取るよう言い含め、私はいかにも危険な術者であるかのように巻物から“黒触手(ブラック・テンタクルズ)”呪文を展開、地より出ずる魔法の触手でウィザードとスポーン2体を封じます。同じく触手の範囲内にいる姉様と義兄様は“自由移動”の影響下にあり、絡まれる心配は一切ありません。無力化したヴァンパイアたちを前衛二人が削っている間に、狙い通り残った2体のヴァンパイア・モンクが私に狙いを定め、レベルドレイン効果を伴った打撃を与えようとしますが、当然能力の差から攻撃は衣服にかすりもしません。失敗を悟ったモンクたちは先に他のメンバーを落とそうと狙いを変えますが、逆に両の手でその2体を捕まえます。霧化されれば掴み続けることは出来ませんが、私の見た目術者らしからぬ振る舞いにモンクたちは対応を間違え、無理矢理暴力で振りほどこうとして時間をロスする結果に陥ります。そうしている間に自主的に霧と化して触手から逃れたものの、防御が手薄になった瞬間を突いて一斉攻撃を仕掛けた姉様たちによってヴァンパイア・ウィザードは破壊され、弱々しい霧の姿となって自らの棺桶へ逃げていきました。

 その間、モンクたちは触手を迂回し、一体は姉様たちに接近し武装解除(ディザーム)を仕掛け、もう一体は触手を出現させた私を警戒してか接近戦を仕掛けてきました。ヴァンパイア・ウィザードから事前に対策されていることを聞いていたからか、レベルドレインを試みなかったことは評価に値しますが、それでも“自由移動”で対策済みの私たちに組みつきを試みたのは減点です。姉様同様に武装解除か、あるいは足払いを行うのがこの場の正解です。

 当たっても心配ありませんが、わざわざこちらの強化呪文を教える必要もないと素で回避し、敵の攻撃をかいくぐりながら悠々と巻物から呪文を発動。アンデッドの耐性の穴である死体(≒物体)に作用する呪文、“分解(ディスインテグレイト)”光線をぶちかまします。鎧を着用しないが対物理・対魔法双方に強いモンクですが、アンデッドである分、肉体の頑強さに依存する呪文への脆弱性が祟り、光線は直撃、ダメージを受け止めきれず彼の死体は霧散しました。分解光線といえど、ただの呪文ではヴァンパイアの不死の性質は上回れません。霧は棺桶へ向かって飛んでいきます。

 一方、姉様は剣をはたき落とされましたが、即座に治癒呪文のワンドを引き抜き、ヴァンパイアへ発動しました。生者を回復する治癒呪文は、死者にはその死体を破壊する正のエネルギーとなって傷をつけます。多少の傷は即座に、ヴァンパイアの高速治癒能力によって補修されますが、触手に絡め取られたスポーンを後回しに駆けつけた義兄様が背後から一閃。また、気を取られている隙にノームの方によって“魔法の武器(マジック・ウェポン)”化した銀の銃弾をレンジャーの方が次々と撃ち込み、着々とそのライフを削ってゆきます。

 ですが、ヴァンパイアの外皮とモンクの回避力から為す高防御力は、姉様たちには手に余るようです。しばらく様子を見ておりましたが、高速治癒を十分にうわまわるダメージを与えきれぬまま、“黒触手”呪文が終了しヴァンパイア・スポーンたちが野放しとなってしまいました。形勢が傾いたことにニヤリ、と微笑を浮かべるヴァンパイア・モンク。ここまでが限界だと察し、その顔面にシュリケンを叩き込み、死体を破壊しました。

 残ったスポーンらは、武器を拾い直した姉様たちによって苦もなく始末されます。やはり、まだヴァンパイアたちは姉様らの手に余るようですね。折角の経験の場ですが、次からは私も遠慮無く攻撃に参加しましょう。

 


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