ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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02/06 会場離脱後の文章追加


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 姉様の初めての冒険から数日、姉様とパーティを組んでいるノームの魔法使い(ソーサラー)の方が我が家を訪れました。予想通り、彼女に知識面で協力を請われましたが、いかに姉様の助けになるとしてもこればかりは断ります。レベル差がありすぎて私の助力は過剰な援護に繋がることもあり、また知識を与えるにしても、付け焼き刃の知識で外惑星を冒険するのは予想外の来訪者(アウトサイダー)と遭遇した時に彼らが持つ危険な能力に気づけないことから、姉様らの今後を思えば頷くことは出来ないのです。次元門(ポータル)の多いこの世界では比較的簡単に外惑星の地を踏むことが出来ますが、低い敷居と裏腹に確とした知識を身につけねば危険を克服できない、難度の高い冒険がそこに待ち受けているため、そういった知識を学んでいる職業(クラス)のメンバーを加入させるべきだと推奨しました。彼女らに不足する回復力を補う点でも、知識系の神官(クレリック)か、あるいは回復力は落ちますが詩人(バード)の加入が妥当でしょうと最低限のアドバイスを与えて、もっと具体的な知恵を伺いたいならば学園部外者である私より先に教師に聞くのが当然だと指摘してこの話を終えようとします。

 しかし話は終わりではないと、もう一つの用件として魔法のアイテムの調達……もとい製作を頼まれました。魔法が工業化したこの世界では、よほどの高級品でない限り市販のアイテムで十分のはずですが、どうも学園と提携しているメーカーが他の学生の注文で埋まっており、1レベルの呪文が記された巻物(スクロール)1本であろうとも数週間遅れを余儀なくされているそうです。彼女は来訪者相手に通じる呪文のレパートリーを得るため、私に巻物製作を依頼したのですが、非常に残念ながら私の製作する巻物は普通の術者には扱えない、特殊な用途専用のアイテムなのです。魔法棒(ワンド)(スタッフ)なら心配ないのですが、こと巻物だけはどうしようもないと断り、代わりに私のお得意様であるバイヤーを紹介しました。

 顔合わせは早い方がいいだろうと早速連絡を取りますが、紹介料の代わりに私へある外惑星関係者の出席するパーティに顔を出してほしいと頼まれました。目立つ場所に姿を見せたくないのですが、私の事情を知る彼曰く私が心配するような相手はいないと言うのでしぶしぶながらその条件を飲みました。

 お互い条件に納得がいったところで、ノームの方との顔合わせや時間の話をお尋ねしたところ、そのパーティにノームの方を連れてった方が早いということで、三日後の夕方は空いてるかとノームさんに確認しました。突然パーティに出席する話になって彼女は狼狽えますが、天性の魅力で呪文を操る魔法使い(ソーサラー)はお目が高い方々にも美しく映りますし、外惑星の参加者はそもそも衣服を身に着けられない来訪者(身体が燃えてる、棘棘してる、むしろ全裸)であることも珍しくないため、ドレスコードなんてものはまずありません。最悪の事態が起こっても私が執り成すので心配はいらないと伝え、責任感から解放し彼女を安心させます。

 パーティは三日後、服装は先にも言ったようにドレスコードはありませんから、失礼にならない程度に冒険に必要な最低限の武器防具をアクセサリー気分で身につけるのがふさわしいでしょうと彼女に伝え、私はそれなりの身支度を整えねばなりませんので今日のところは帰らせます。彼女から今回の紹介に際して紹介料はあるのか尋ねられましたが、それは後日無理のない内容で手伝っていただく旨を要求しました。

 

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 三日後の晩。自宅に届いた招待状の案内を手に、ノームの方を連れて都内の高層ホテル最上階にある展望レストランを訪れます。最高級ではないにせよ、高級に変わりないレストランは身の丈に合わないと怖気づくノームの方の尻を叩くため、手を引いて逃げられないようにします。

 私の服装は、魔法効果を重視した見栄えの悪い魔法のローブに、これまた魔法効果を重視したため似合わないちぐはぐな複数の指輪、それに魔法を発動するために必要な物質が詰まったポーチと、有事に用いる飛び道具呪文が詰まった魔法棒です。何かと物々しい外惑星から訪れた来訪者と違い、常識を知る人でありながら物騒な装備に身を包む私たちをレストランの給仕(ウェイター)たちは入り口で引き留めようとしますが、彼らに紹介状を見せて、またこの数日で用意した呪文により増強された、我が金竜(ゴールド・ドラゴン)を超える魅力(カリスマ)の暴力を振るえば、あまりの美麗さに言葉を失い、立ち尽くしてしまいました。

 その余波でボッとするノームの方を気付け、既に来訪者たちがひしめき合うレストラン内に踏み入ります。数は多いですが、見たところ惑星ごとに3、4グループの団体が参加していると感じました。その中で最も人数が多いグループが、一見エルフのような長耳でありながら、ドワーフのようにがっしりとした力強い体格、現世離れして幻想的すぎる輝く白髪のその持ち主は、己の情熱に従い善行(グッド)を為すエルフの祖たる混沌(カオティック)の勇者たち、「エラドリン」のブララニ種族です。彼ら一人ひとりが今の姉様を少し上回る力量を持つ戦士で、その武功を示す勲章を皆その胸につけております。最も少ないものでも銀の勲章を2つ、多いものは金銀併せて5つの勲章を飾り、強力なオーラを放つ魔法の剣をその腰にぶら下げてました。

 一方でエラドリンたちより数は少なかれど、質においては引けを取らない見た目水面のように煌めく光沢を放つ青肌半裸の一団は、エネルギーそのものが蠢く惑星に住む現住生物の中で、最も文明的な都市を築く来訪者たち「ジンニー」のうち、水星出身のマリードと呼ばれる水系の来訪者です。我が国は水星のポータルが広く点在する太平洋に隣接することもあり、彼らとは良くも悪くも様々な関係の下にありますが、何ら気落ちする様子がないことからこの場の彼らは普段から我が国と友好関係にあるマリードの一族であると伺えます。住む惑星が全然異なることから、エラドリンたちとは矛を交える機会がないため互いににこにこしながら相手の底を知ろうと交流している様子が見られました。

 最後に、前者二種族よりも圧倒的に数は少ないものの、明らかに場違い……というか別の意味で異風を放っているグループがおりました。見るからに死者の冷気を放つ吸血鬼――ヴァンパイアの一団です。青白い肌を隠しもせずにパーティ会場内の一角を占める彼らに、アンデッド、というか悪の種族を敵視するブララニたちは敵意を露わにしますが、正式に招待された人物であると招待状をちらつかせる彼らへは、主催者への義理からか手出しできずにいるようでした。たった今、私たちの入場に気づいた一人のヴァンパイアが私へ声をかけると共に、ヴァンパイア由来の支配(ドミネイト)の魔眼で我が物にしようとしましたが彼らごときの力量で効くわけもなく。悪戯混じりのちょっかいに警告を発し、これ以上影響を及ぼすようなら敵対行為とみなし、戦闘も辞さないと前もって告げました。

 パーティ会場内にはその他、グループと言うほどではありませんが点々と人間の客、外惑星出身者、地球由来の異形に人怪、挙句は竜の血混じりの半竜(ハーフ・ドラゴン)など、小規模な異種族知性体の展覧会のような参加者でひしめいており、多少服装が失礼でも変にならない模様です。先ほどのやり取りをきっかけに、私たちへ声をかける方々がぼちぼち現れました。3つの銀勲章を肩に飾ったブララニが、ヴァンパイアとのやり取りを見咎めて高圧的に接触してきたのを、手先と口先を駆使して態度を緩和させ、ノームの方を引き合いに出して互いの身の上話で盛り上がります。突然引き合いに出されて驚くノームの方ですが、元より詩人(バード)が多く混沌の気があるノームと、混沌属性(アライメント)の体現者であるエラドリンの相性は良い方です。緊張していたノームの方も気が合う相手と知るや、すぐに打ち解けて仲良くなりました。

 良い具合にパーティの空気へ馴染んだところでエラドリンの方と別れ、パーティの主催者へ挨拶に向かいます。この数々の来訪者、異種族を集めた主催企業と私に直接の関係はありませんが、そこに所属し、主催者側に回った一人の人物が私と縁深いバイヤーなのです。彼も来訪者で、人間より一回り大きな身長で異種族の集うこの会場でも目につきやすく、探すのに苦労しませんでした。すらりと背が高いわりに肩幅は狭く、腕の長さは普通ですが指が常人の2、3倍は長い。全体的に骨ばった青色の肌で尖った目つきをしており、不健康そうな見た目から(イーヴル)の性向を持つ生物(クリーチャー)の印象を受けますが実際は善でも悪でもない、法を重んじる秩序(ロウフル)にして中立(ニュートラル)の来訪者なのです。特にマーケインは数々の惑星間にてアイテムや武器、財宝を商う商人として有名であり、彼個人とはその魔法のアイテム売買で知り合い、アイテムを卸ろす代わりに情報、時折り仕事や用事を頼み頼まれる関係を構築しています。

 ノームの方を連れて、丁度マリードと会話していた彼に近づくと、向こうもこちらに気づきました。話を適度に切り上げた彼は改めて私と挨拶を交わし、社交辞令の後にノームの方を彼に紹介します。打算を考える彼は、私からの紹介とはいえノームの方にさほど興味を持ったようには見えませんでしたが、龍洞学園で私の姉様とパーティを組んでいる人だと伝えると、利用価値は無くもないかといった様子に変わりました。龍洞学園の生徒は、学園が独占する次元門(ポータル)を通じて木星に簡単にアクセス出来ることから、木星固有の産出品――特に果物のような保存が利かない物を調達する伝手として使えますからね。宇宙旅行の費用は科学的・魔術的どちらの手段にせよ相当なコストがかかりますから、人件費だけのローコストで済む次元門は常に重用されています。次元門を巡って紛争地帯が発生するくらいには。

 

 最初は彼との会話にノームの方を巻き込むと、次第に私の助けがいらないくらい二人の間で話が進んだので、安心して周囲に気を回すことが出来るようになりました。このパーティの本主催者はまた別の所で来訪者たちと会話を進めていて、いかにも身分(またはレベル)の高そうな格好をしており近づきがたい一角となっておりますが、私の気になるところはそこから少し離れた、関係者専用(スタッフオンリー)の通路の向こうから会場に注がれる視線。殺意でも敵意でもなく、かといって友好的でもない熱視線を飛ばす黒髪黒目らしき小学生くらいの女の子がおりました。通路の角から身を半分だけ乗り出して、隠れながら会場を覗いている彼女はどこかで見た顔ではありません。しかしその髪と目は人にはありえない、金属のように光に煌めいております。善なる来訪者との混血、アアシマールなのでしょう。私のように見た目以上の実力を持っている様子もなく、見た目そのままの子どもで怪しげな目論見を抱いているようには見えません。彼女と一瞬目が合いましたが、その時には気になる相手ではないと興味を失っていました。

 それよりも私は、ビルの上下階から、天井と床ごしに聞こえる物騒な物音が気にかかりました。金属がかすれるような音が複数発しており、聞き慣れた銃器や刃物を抜く連中が会場を包囲しつつあるのは間違いありません。腕に自信ある来訪者たちのいる場へ襲撃かけるとは大した度胸だとある意味で感心する気持ちですが、しかし知ってて見過ごす必要はないでしょう。親愛なる彼に危急を知らせ、スタッフへ警戒を呼びかけます。既に襲撃者は準備を終えたのか、物音が静かになりつつあり未然に防ぐことは叶わないかもしれませんが……。

 顔色を変えて、彼は戦闘員へ連絡しますが、ここで初めて連絡に異常が起きていることに気づきます。どうやらホテルの内線だけが切られているようで、残り限られた時間を無駄に費やしたもの外線経由でホテル各出入り口を警護させていた戦闘員をこの階へ集中させます。連絡を終えた後、苦笑いを浮かべながら彼は私に礼を言いましたが、礼を言うにはまだ早いと返します。先ほど、静かに時を待っていた襲撃者たちが再び動きはじめました。間もなく攻撃が始まるでしょう。ノームの方にも注意を呼びかけますが、恐らく襲撃者は彼女の手に余る相手ですから何をしたところで無駄でしょう。少なくとも私から離れて、攻撃の的になることがないよう言いつけます。

 やがて上階の窓ガラスが割れる音がしました。高層ビルだというのに外を経由して攻め込むとは大胆な戦術を取りますね。会場の外は分厚い窓ガラスに遮らているとはいえ、流石に甲高い音が響けば気づく人も現れるようで、何名かが異変に気づいた声をあげますが、数秒後、上階から勢い良くワイヤーにぶら下がって窓ガラスを叩き割り、多数の大きな人型の異形が飛び込んできます。

 人型の異様に引き締まった細身は短い羽毛に覆われており、ハゲワシの頭と大きな翼を持つそいつらは、混沌にして悪の来訪者、残虐と暴力と堕落の化身“魔鬼(デーモン)”の一種、ヴロックです。ここに奴らが現れたのは他の来訪者との敵対関係、あるいは何らかのテロ行為などそれなりの目的があるのでしょうが、恐怖を振りまき、殺戮を好む連中がここに来て殺しを厭う事はありません。自分たちよりも多くの来訪者たちがいるにも関わらず、躊躇わずに戦闘を開始します。会場にいたエラドリンの戦士たちは、乱入に怖気づくことなく人外の身に宿す超常能力によって迎撃を開始しますが、本来優秀な戦士である彼らの武器はスタッフに預けたか呪文的に封じられており、片手を失ったのに等しいでしょう。そのあたりの椅子や物を得物に戦っておりますが、魔鬼……というより多くの来訪者は魔法や特別な素材を用いた武器以外に対する高い防御力を持っています。加えて大型な奴らヴロックと、人間とさほど変わらないサイズなエラドリンのブララニたちとでは、見ての通りの体格差からなる間合いの差、そして種族自体のレベル差が大きく、数の利はあって無いに等しいでしょう。その他、マリードたちは戦いに参加せず基本的に逃げる方針で、そしてヴァンパイアたちは他人事だとばかりに離れた場所で笑って観ております。その他の来場者の中には、迎撃するエラドリンたちに混じって戦う者もおりますが、いかんせん少数なだけに大した助力にならないと言い切れます。

 さて、こんなことを考える暇があれば私たちも逃げるべきだと思ってはいるのですが、生憎ながらヴロックたちが窓から突撃したのと同時に、どうやら最上階入り口のエレベータや階段側からも同時に襲撃され、出入りを抑えられているようです。ヴロックやエラドリンたちの攻撃には他人を巻き込む広範囲への攻撃も混じっており、どちらに逃げても巻き添えが避けられないのであれば、どちらかの状況が変わるのを待つ方がマシなのではないか、と思います。無論、私一人なら楽に逃げられるのですが、あいにく今夜はノームの方が同行している状態。彼女を放って逃げ出せば、どこかで魔法の雷に撃たれるか、ヴロックの撒き散らす胞子に体を犯されて突然の死を迎える光景が目に浮かびます。テレポートなんて便利な脱出手段があれば話は違ったのですが、そこまで高レベルの魔法は用意しておらず、そもそも来訪者の逃走手段に瞬間移動の魔法が用いられることは珍しくも無いので、悪鬼たちが何の対策もしてないとは思えません。最悪、トラップルームや連中の用意した檻のまっただ中にご招待される危険性を考えると、試したいとも思いません。

 とりあえず、優勢なヴロックたちが会場を“片付け”終え、私たちに矛先が向くまでに少しでも時間をかせぐため、先ほど目にした関係者専用通路の先へ逃げることにしました。しかしその先では何故か破廉恥な光景が広がってました。けしからんロリコンがロリに詰め寄り、あまつさえ粘膜接触を行ってすらいたのです。

 ……などと冗談を織り交ぜてみやしましたが、実際先ほど通路から身を乗り出して会場を覗いていたアアシマールの少女が一人の吸血鬼(ヴァンパイア)に襲われている最中だったのです。半分は来訪者の血を引くアアシマールに吸血鬼の対人支配(ドミネイト・パースン)の魔眼は効かないので、物理的に拘束して吸血を行い性的嗜好を満たしていたようですが。流石に目の前でか弱い少女に暴行を加えるのを見逃すとノームの方経由で姉様に伝わって叱られる未来が想像出来るために、少女から吸血鬼を力づくで引き剥がし、押さえつけました。見た目はそこのアアシマール少女とさほど変わらないのに余裕でいなす私に吸血鬼が驚き、もがいているうちにノームの方、マーケインの方に少女を連れて距離を取らせます。彼女らが十分離れたら、未だにもがく吸血鬼を手近な窓ガラスへそぉいと叩きつけ、ビル風吹き荒ぶお外に突き落としました。屋内へ外からの強風が吹き荒れますが、後ろの方々は距離を取らせたので吸い込まれる心配はなく、私は地に足さえついていれば平気です。後はまあ、この世界の吸血鬼は普通の飛行能力を得ませんが、身体が限界を迎えた時、あるいは任意で霧化することで飛行出来ますから滅ぶことはないでしょう。霧化した体ではビル風に吹き飛ばされるから、戻ってくる可能性もありません。

 さて、吸血の後影響で衰弱中の少女へ呪文による応急手当を施し、意識がはっきりとしたら現在の状況を教え、保護者と合流するように伝えますが、どうも様子が不審。……表層意識を読む限り、保護者不在?もしくは既に悪鬼(デーモン)たちにやられたか、どちらにせよ今の彼女に頼れる人物がいないようです。薄々感じていましたが、やっぱり厄介事でした。しかし今更逃げる道連れが一人増えたところで、手間は大きく変わりません。ついでですから、彼女も一緒に逃げることにしました。

 呪文蓄積(スペル・ストアリング)により、手近な装飾を擬似魔法棒(ワンド)化して風制御(コントロール・ウィンズ)の呪文を発動します。更に人数分の幻馬(ファントム・スティード)を召喚しました。この実体はないが人を乗せることが出来る幻の馬は攻撃に弱く、戦闘のお供には向きませんが強い術者が用いると足場に囚われず水上を走り空を駆ける、複数人を飛行させる手段として優れた呪文になります。尤も人間のサイズに合わせた馬なので、サイズ的に一回り大きいマーケインの方は載せられないので、また別の飛行(フライ)呪文で飛んでいただくことになりましたが。3つの呪文を準備するのに3分ほどかかりましたが、会場のエラドリンたちは少なくともそれだけの時間を稼いでくれたらしく、悪鬼たちがこの通路へやってくることはありませんでした。

 3つの呪文をかけ終わり、皆が飛行する手段を整えたら先ほど吸血鬼を叩きだした窓から同時に飛び出します。外の暴風は風制御呪文により私の周囲だけ無風となり、吹き飛ばされることなく無事にホテルを脱出することが出来ました。空から舞い降りてホテルの入り口へ着地する私たちに警備員たちが駆けつけますが、顔見知りのマーケインの方が誤解がないよう事情を説明します。上の状況が悪化していると知った彼らが、更なる応援を呼ぶべく外線へ連絡し始めたのを横目に、私たちは一足先により安全な場所へ避難します。

 

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 ホテルから2駅ほど離れた市内のテナントビル3階、マーケインの方が保有するセーフハウスまで避難して、ようやくホッと一息つけました。しかし途中で話を挟む暇がなかったため、結局アアシマールの少女はここまで連れて来てしまいましたがそろそろお尋ねしようと思います。彼女も気持ちに余裕が現れたのか、毅然とした物腰で私の声掛けに答えました。なので遠慮無く、過程をすっ飛ばしてどこに連れて帰せばいいのでしょうか?と問いかけました。

 少女はてっきり身分を聞かれるとでも思ってたからか、意表を突かれた表情を浮かべましたがすぐに落ち着いた様子を取り戻して、地球で滞在している場所を答えます。マーケインの方の補足によれば、エラドリンたちが滞在している宿と同じそうですから、彼女はあのエラドリンたちの縁者、勇敢な戦士たちのお姫様なのでしょう。長居する必要もないと、すぐに帰す手続きをしようとしますが、マーケインの方から待ったがかかります。

 悪鬼を正面から迎撃したエラドリンたちが今どうなっているかは不明で、最悪全滅したり少女を受け入れる余裕のない可能性もある、そのため一日待って連絡を確かめてからが良いだろうと彼はおっしゃいました。しかし付き合いのある彼ならともかく、この私がエラドリンらの事情に付き合う義理はないと、少女の身柄を押し付けて先に帰ろうとします。正論に返す言葉もないと答えたのはマーケインの方、ですが当事者の少女は素直にうなずきませんでした。先の吸血鬼と交えた力押しの一戦を見て、保護されるなら私の元がいいとわがままを抜かしたのです。少女改めわがまま姫はマーケインの方を向いてお前に匿われるくらいなら一人で出奔すると述べ、彼を困らせた結果、貸し一つと引き換えに彼女の身柄を預かる話になってしまいました。本当に預かるだけで済むならまだ良いのですが、わがまま姫は何やら悪いことを考えた顔をしており、私の力を見込んだなどと声をかける気なのは間違いないでしょう。こういう押しの強い連中がいるから、外惑星の来訪者とは積極的に関わり合いたくになりたいのです。

 仕方なくこの姫のことを預かる代わりに、本来私がすべきノームの方の見送りその他諸々を先の時間で良好な関係になったマーケインの方にぶん投げ、タクシーをチャーターして家まで連れて帰りました。彼の頼みだから預かりますが、別にあなたに含むところはありません、私にはもっと大事な人がいますから、と暗に姉様を引き合いに出してわがまま姫の意識をそちらに誘導し、将を射るため馬を射るかのごとく姉様をヘッドハントさせて目論見を崩す狙いです。姉様に迷惑をかけるのには気後れしますが、こうなった以上私生活に干渉してくるのは間違いないので、知らぬ所で手間をかけさせられるよりマシでしょう。後日、この姫を送り返した後にその分の詫びを返そうと思います。

 

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 あの姫と姉様の気があうとは予想外でした。いえ、姉様は規律上エラドリンたちの勧誘には乗りませんが、妹に対する態度で意気投合されると困ります。私の将来を案じてとは言いますが、私は姉様を支える将来を送りたいのですよ。両思いは光栄ですが、私が望むのは無償の奉仕、貸し借りとか無縁な関係で片思いを望むのです。

 

 

 

 

 


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