ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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 姉様たちの驚きで迎えられた私は、モンスターの増援が来る前に場所を変えながら初対面のおふた方と挨拶を交わしました。

 人間の野伏(レンジャー)の彼は武市 雄二(たけち ゆうじ)と名乗り、義兄様の友人だと仰りました。特にピンと来る姓ではありませんから、義兄様と違ってどこかの名家出身ということは無いでしょう。比較的近代に作られた銃よりも弓の方が魔術的、戦闘技術的に洗練されていることもあり、銃使いに専念する射手は珍しく幾らか興味を抱きちょいちょい質問を重ねましたが、向こうは私が女性と見るや鼻の下を伸ばしていることからあまり気を許す素振りを見せるべきでない相手だな、とその後はこちらの態度を改めました。

 もう一人の魔法使い(ソーサラー)はタルマ・モトノフというノームの女性です。年齢の幼い私よりも少し背丈が低く、まるで小学生かと見間違えそうになりますが、これは元から小人種族なだけで、人間より長寿種族なこともあり私より十歳は年上です。ノームという種族は東洋に広く分布する種族で、肉体的には人間に劣るものの口先の技術が巧み、また幻術が得意な生来のトリックスターであるなど高い秘術の才能を持ちます。知性は良くも悪くもないため、魔術師(ウィザード)よりも詩人(バード)や魔法使いになるノームの方が多く、大昔には東洋をその優れた呪術で護り、神風の国として名を馳せる立役者にもなりました。今では魔法の研究者や技術者として馳せるノームが多く、特に今日出回る日用品の殆どは実はノームが開発したものだ……なんてことも珍しくありません。さておき、冒険者とはいえノーム、魔法使いであるタルマさんは私が姉様の装備品を手がけた人物だと知っていたらしく、魔法のアイテムの作成技術について目を輝かせて問いただす彼女を落ち着かせるのには一苦労しました。

 そんなこんなで私の方も名を名乗り、姉様こと千歳月華の妹であると自己紹介が終えたところで、姉様にこの場に居合わせた理由について問いただされました。偶然と言い張るのは無理があると思い、正直に姉様が心配でついていったと喋りましたが、その際に姉様への家族愛だなんだを語り、そもそもここへどうやって来たか等、問題点をずらすことは怠りません。狙い通り、姉様たちは私が後をつけていた動機を気にして、やってきた手段は聞きませんでした。

 ありがたいが過剰な心配であると姉様に怒られ、シュンと悲しんだ(演技をするだけで、内心さほど応えてない)私を見て姉様は、これからは家でのことやアイテムだけで助けることを私に約束させて、話を終わりました。約束したからには私嘘ツカナイアルヨ。

 早速約束を遂行するために姉様から離れ(そしてこっそり監視を続行し)ようとすると、一人でどこかに行こうとする私を心配して……というより私が約束をきっちり守るかを心配して、一緒に帰るよう言いつけました。次元門(ポータル)を不法侵入してきた私の顔を次元門を守る学園の方たちに見られるのは御免被りたいのですが、普段から過剰に心配する態度が仇になりました。仕方なく、次元門の近くで誤魔化して離脱する心づもりで同行を了承しますが、その前に姉様のお仲間たちに折角の初の冒険に対して、部外者である私が同行してもいいのかと確認を取りました。エルフ曰く、「脅威に立ち向かう人数が多いほど得られる経験は分配される」というように、敵との遭遇など困難を乗り越えて得られる経験値は参加人数で分配されます。(しかも一人だけレベルの高い私がいると、同行者の平均レベルが上がり結果的に全く経験値を得られくなる可能性すらあるのですが……)龍洞学園に入学した学生の、多くの目的である経験を積み、レベルを上げることを考えると私が積極的に参加するのは邪魔ではないか?と遠回しに三人へ尋ねましたが、答えは否定はせず、しかし積極的ではない曖昧な肯定が返ってきました。認可は得られましたが、今後の関係を考えるとここでズイと押すのは良くありませんから、控えめに微笑みつつ喜んで姉様たちへ同行しました。事前に姉様からこのパーティの改善すべき点を聞いていることから、万が一戦闘があるなら同行中は回復役に努めることにします……というと神官(クレリック)なのかと思われましたが、魔法棒(ワンド)を介したむしろ技能役に近いのでそこまで頼らないよう、念は押しています。

 

 さて、ゆっくりと話を終えたところでこれから私たち一同は次元門への帰路につきます。帰るまでが遠足というように、一度元素霊(エレメンタル)を刺激してしまった私たちは、いつ襲われてもおかしくはありません。大いなる樹が四方に張り巡らす巨幹の道を野伏さんの案内で戻りますが、どうも私の記憶とは違った道を歩いているように思います。慣れない惑星の地理を把握しきれなかったのでしょう、やがて見覚えのない種の樹木が生い茂る場に踏み込んだことで野伏の方が道に迷ったことを認めました。

 えぇ、と不安を口にする魔法使いの方。しかし道に迷う不安よりも、遠くからこちらを伺う者たちにこそ気をつけるべきではないかと思いますがね。誰も気づいていないその存在に対して私は、牽制の意味も込めて視線を向けますがその敵意は揺るぐことなく、むしろゆっくりとこちらに歩を進めてきました。隠密が得意な奴なのか、並の者には気づかれぬほど静かに歩を進めるそいつらが近づく前に姉様たちへ警戒を呼びかけ、万が一強力なモンスターだった場合に備えて矢面に立つ意味で、臨時の交渉役としてパーティの先頭に立ちました。

 そして姉様たちが態勢を整えた頃に、木々をかき分けて姿を見せたのは、上半身がまるで人のように直立する、等身大の巨大な蟻人間、フォーミアンでした。彼らは太陽系外の星からやってきた拡張主義者で、徹底的に自らの種族の勢力圏を広げることを目的とする、文字通り星々の侵略者です。とはいえその性質は悪ではなく、自分たちの種族が危険とあらば話し合い次第で共存を呑む良くも悪くも機械的な種族です。しかしながら今目の前にいるフォーミアンたちはその中の戦士蟻と呼ばれる、戦う能力だけしか持たず言語を全く発せない種類であるため端から交渉が望めない集団でありました。

 と、いうことを目の前のモンスターが何なのか知らない様子を見せる姉様たちに口頭で伝えます。回復役もそうですが、専門的な知識役の不在も問題ですね。戦士・フォーミアンの数は4体ですが、並の人間戦士を超える力量を持つことから姉様たちには元素霊以上に危険な敵です。私の手助け無しでは全く勝ち目がありませんが、逆にここで倒せたら良い経験になるでしょう。私は姉様に与えてある魔法薬(ポーション)をありったけ呑むように告げながら、周りを張り巡る木の枝に蜘蛛の巣(ウェブ)呪文を引っ掛け、敵を蜘蛛糸に絡めて時間稼ぎを行います。蜘蛛糸に絡められた状態ではこちらの攻撃も阻害され、手出しを行うことが出来ません。それに人間以上の力強さを持つフォーミアンたちは私たちを捕らえるために粘着する蜘蛛糸を強引に突破してきますが、その僅かな時間に姉様と義兄様に信仰の盾(シールド・オヴ・フェイス)朗唱(リサイテイション)呪文を付与し、攻撃力・防御力を上昇させるだけの余裕が出来ました。フォーミアンが現れたタイミングで野伏と魔法使いが正面から遠距離攻撃を浴びせると同時に、左右から前衛二人が仕掛けます。元素霊たちの樹皮より硬い甲殻に守られたフォーミアンの防御力は侮れませんが、義兄様が発現した実際無き黒い豹――“暗黒の相棒”がフォーミアンの動きを鈍らせ、貫くことを可能にします。

 前衛二人が集中攻撃を浴びせたことで蜘蛛の巣を突破した最初のフォーミアンは抵抗する間もなく倒されましたが、その間に第二、第三のフォーミアンが突破して一人一体ずつ相手にする配置になりました。更に残る第四のフォーミアンが前衛を強引に抜けて、後衛に至ろうとしますが、野伏の方が白兵戦装備に切り替えて進路を塞ぎます。優れた魔法の武器防具に身を包むわけでも、重装鎧を身に着けたり盾を構えるわけでもなく薄い防具に身を包む野伏の方は、当然フォーミアンから相当な手傷を負いますが、その攻撃を受けてすぐに魔法棒を振って傷を回復する私に狙いが移りました。しかし練達の(モンク)より高い敏捷性を誇る私にそのようなちゃちい攻撃が当たるはずもなく、むしろこれを好機と見た野伏の方が攻勢に移り、私と挟撃を取って動きの鈍った第四のフォーミアンを倒します。後衛の問題は片付きましたが、その間前衛の状況は著しくありません。姉様は義兄様と背中をかばい合い、なんとしても挟撃を取られぬようにフォーミアン二体を相手取っていましたが、地力で拮抗する相手に守勢に回るのは普通、良い戦法とは言えません。

 尤も今回は私というメンバーが後衛を即座に助けたことで、野伏と魔法使いの方がすぐ援護を再開できました。まあ、魔法使いの方の主砲・火の矢(ファイアー・ボルト)は火エネルギーへの抵抗(レジスタンス・トゥ・エナジー)でダメージを軽減し、また別個に下級呪文を弾く呪文抵抗(スペル・レジスタンス)を持つフォーミアンには通用していませんでしたけど。とにかくそれら援護が再び加わったことで第二のフォーミアンが倒れ、第三のフォーミアンが逃走しました。野伏の方が追い打ちをかけようとしますが、戦闘による周囲への被害で再び植物が騒ぎ出していることから無理は危険と呼び止めました。危険に遭うのが彼だけならともかく、姉様も十中八九助けに向かうでしょうからね。

 ただその理由を説明するために外惑星の性質について語ったため、押しかけてきたパーティメンバーの妹という無関係な人間を見る目が、いつの間にやら有益な知識をもたらす人間を見る目に変わっておりました。姉様を含め、納得させるために必要な説明でしたがお節介がすぎましたかね。これ以上いると、姉様の前で余計な詮索をされかねないと静止を振りきって枝を飛び移り、このパーティから離れました。フォーミアンとの戦闘こそありましたが、もう次元門へだいぶ近づいていることから監視をせずとも安全に帰れるはずですので、監視もせずそのまま次元界転移(プレイン・シフト)呪文で自宅へ直帰。今晩、だいぶくたびれて帰ってくる姉様をもてなす準備を始めました。尤も、料理だけは手をつけられませんけど。

 


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