ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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 完成した魔法を携えて、姉様と呪剣士(ヘクスブレード)の彼の後を追いかけます。機械外骨格(メカ)の派手な戦闘音は現在途絶えていますが、1分にも満たない間で強靭な機械外骨格を倒しれるとは思いません……撤退したか、もしくはやられたかのどちらかでしょう。姉様の荒い息遣いが聞こえるので死んだことはないでしょうが、急ぎすぎてうっかりマフィアたちに姿を晒して的になったりしないよう、周りには注意を払いながら部屋へ駆けつけます。

 

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 姉様は、機械外骨格との戦闘で劣勢なところを呪剣士の彼に助けられ、撤退していたようです。傷は自身の治癒の手により治したようですが、全ては癒やしきれず傷が残っていたところを私が魔法棒(ワンド)を振り完璧に回復させました。魔法がかけられたことで、忍び寄っていた私にようやく気づいた呪剣士の彼も、姉様を助けた貸しを返すついでに傷ついていた分を回復しておきます。階段を上がってくる時からダメージがあった様子から、彼もマフィア――恐らく私たちが戦い始めてから、外に逃げ出した連中――と戦いを交えていたのではないかと思います。しかし何故ここで偶然出くわしたのか相手方の詳しい事情は分かりませんが、私が御用を頂いたバイヤーの方と同じく、おおよそマフィアに迷惑を被っている筋からの仕事だと予測しています。

 ま、現状分析はさておき戦況は著しくありませんね。マフィアを狩りに来たつもりが、逆に姉様が狩られそうになってるのは笑えません。例え魔法の剣や鎧を身に着けていても、機械外骨格とは装備の差が大きいです。呪剣士の彼もそこそこの武装ですが、機械外骨格を相手取れるレベルでは無いでしょう。私は姉様たちに、現在勝算は薄いがマフィアたちへ再戦を挑む気はあるかと確認を取りました。

 姉様は、最近二度の敗北に以前より増して戦意をかなり失った様子。気付けのつもりが症状を悪化させることになるとは……更なる荒療治が必要かと悩みましたが、次に顔を向けて、私が確認を取ろうと聞く前に立ち上がり再戦すると意志を告げた呪剣士の彼に、姉様は声をあげました。機械外骨格は鉄の塊だぞ、鎧よりもずっと分厚く刃が絶対に通らない相手をどうやって打ち倒す気だ、と。彼は答えました。絶対なんて物ではない、刃が当たるなら例えなんだろうと切ってみせるさ……。なんてかっこつけた台詞を言う呪剣士の彼を私は冷ややかな目で見ますが、姉様はなんでかそれに感慨を受けたようで、戦意を取り戻しました。いえ、やる気になるのは良いんですがね、姉様の瞳に妹としては心配になるエロティックなものが映ったのが今後心配になります。

 その心配は後にするとして。とりあえず無準備で行こうとする姉様たちを引き止め、背負った魔法の携帯背負袋(ハンディ・ハヴァサック)からいずれ渡そうと思っていた聖剣(ホーリー・アベンジャー)を少し早めに渡します。実力相応を超えた聖騎士(パラディン)専用の強力な剣ですが、ここ最近装備負けしてばかりの姉様なら与えても問題はないでしょう。さらっと強力な魔法の武器を与えたことに呪剣士の彼が私へ訝しげな視線を送りますが、気にすることなく姉様へ先ほど準備した石の皮膚(ストーン・スキン)、それから再度朗唱(リサイテイション)の魔法をかけて、二人を送り出します。

 

 二人とも攻防揃って強化されましたし、相手は生物と違って回復魔法が効かない機械外骨格を主体にしてますから、消耗の差もあって負ける心配は無いと思いますが、それでも二人の邪魔をする周辺のマフィアの掃討くらいは、こっそりと手助けしても目立ちはしないでしょうと隠れて動きます。

 案の定、二人が機械外骨格と戦っている大部屋の外から援護する隙を伺うバグベアたちが数人、残っておりました。私はそいつらの背後へ音を立てず忍び寄り、そのまま手刀で気づかせることなく意識を落とします。反対側にも同様にバグベアが潜んでおりましたから、大部屋を通らぬよう大回りしてそちらのバグベアも地に伏せさせました。

 そうこう時間をかけているうちに、姉様たちが機械外骨格へとどめの一撃(といっても破壊されるだけですが)を加え、機体を動作不能なまでに破壊しました。中から飛び出したバグベア操縦士もすかさず姉様が気絶させて、一安心。

 この廃ビルは全4階建てですが、私の耳が上の階層にはもう誰も残っていないと訴えているので、これで全ての遭遇が終了と言ってよろしいでしょう。落ち着いたところで呪剣士の彼とお互いの用向きを話し合いますが、やはり思ってたとおり互いにマフィアに迷惑を被った勢力・人物からの依頼であることが分かりました。まあ、彼の方はもっと別の思惑があるようでしたがね。そもそもマフィアが渡航してきた目的である人造獣人(モロー)のこととか、言葉に出しませんでしたが私の前では隠し事は不可能ですよ。なんて。

 互いに同じ事情だったと分かったところで、気絶させたバグベアたちの対応ですが、どうやら呪剣士の彼のバックアップが下に転がっていた奴ら、逃げ出した奴らを順次捕縛しているようだったので、鎮圧以外の目的もない私たちは、後のことを彼らに任せて先に帰りました。

 

 

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 後日。姉様は完全に復調しましたが、日をおいたことで彼へ何かしら感情を抱いたと自覚したらしく、連日連夜そわそわしています。それは恋心というよりも、背中を預けられる戦友と頼れる男性の中間の気持ちでしたが、それは恋だよと指摘すれば、恥ずかしがり屋な姉様が感情を爆発し、学校で酷い暴走を起こす姿が目に浮かぶようです。かといって恋心を諦めさせる方向に誘導すると、一旦落ち込むと自力では全然回復しなくなるのでそれはそれで面倒なことに……最悪、高貴な心を失って聖騎士から堕ちる可能性すらありますからね。

 あと、何より聖騎士の義務に追われ、これまで色気の欠片もなかった姉様にとって初めての恋話です。この機会を逃せば、姉様のことですから大人になっても男の話が何一つ起こらない、残念な女性になる未来予想図が浮かぶので、なるべくこの恋を成就するよう手助けした方が良さそうなんですよね……あと、私ではそっち方面で姉様を幸せにしてあげられないってのも大きいですし。力と財産ならともかく、名誉と地位と恋話は今の私は手を貸してあげられませんからね。

 そういうわけで、先日の件の事後報告、それから回復を施してくれた礼を伝えにやってきた呪剣士の彼からの謝礼金を断って、これから姉様のことを気にかけてくれるように頼みました。

 なんだかんだ暫く迷惑をかけると思うので、それならばいっそ冒険のパーティでも組んでやってください。

 ええ妹の私から頼みます。足りないならアイテム作成とか請け負いますよ。未来の義兄様。

 なんて、最後の早すぎる言葉は言ってませんが出来る限り愛想よく、それでいてやりすぎない程度に最大限魅力を振る舞い、相手の態度を軟化させて言質を引き出しました。じゃあ扉に隠れて聞き耳立ててる姉様、後は二人で仲良くよろしくやっといてくださいね。

 何故だか剣戟の音が聞こえてきた我が家の応接間を後に、私は早々に自室に戻りました。未来の義兄様から聞き出した織斑 志波(おりむら しば)という名前から調べられる、曰くありそうな彼の実家について調査しなければなりませんからね。

 

 

 ネット上でハッキングも交えつつ、色々調べて分かりましたが、どうやら義兄様は我が国古来から伝わる由緒正しき(サムライ)の家系……の分家の血が混じった、悪魔に連なる力を以って悪魔を封じる一族の末裔なようですね。しかしながら昨年、その封じた悪魔が何らかの事故で抜け出してしまい、その一族を滅ぼした後、わざと残した彼に一種の呪い(あるいは祝福か?)を無理矢理授けて逃げてしまったとか。それで彼は一族の仇討ちを口にして、力をつけながら一族再興の身を立てるために竜洞学園へ入学したという経歴が得られました。その悪魔の能力とか詳しい情報は流石にネットでは得られませんでしたが、彼の背景を知ることが出来たのは姉様との関係を仕組むのにきっと役に立つのでしょう。

 


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