ダンジョンズ&ドラゴンズもの練習   作:tbc

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飽きてきたので途中だけど放流
現在マギレコとオバロ(今更)の影響を受けているので次のネタはそのへん


ぼくのかんがえたちーとはなめぷでもつよい話

 

 やってきた第四試合、あるいはベスト16を決める戦いの当日。

 対戦相手たる風の勇者の入場を認めて、俺は覚悟を決める。この戦いばかりは、これまでのように無傷では済まされない。ある意味彼女は初めて――ルールつきではあるが――俺を正面から負かしうる相手だ。勇者やあるいはドラコリッチ級の相手でもなければ負けることは無いとも言えるが。

 

 お互い、約30mを挟んだ規定位置に立って試合開始の合図を待つ。風の勇者は神器・魔弓の弦に数本の矢を当てており、最初からその神器の力を発揮せずに防御力の確認から入るようだ。弓と矢の付与効果は累積するため魔法を付与された実体ある矢を用いた方がより威力が高まる。決して舐めているのではなく、より決着を早めるためには正しい警戒だ。

 

 試合開始の大銅鑼の轟音が闘技場に響く。先に動いたのは風の勇者だ。

 ハーフエルフの野伏(レンジャー)あるいは斥候(スカウト)たる彼女は早速後ろに距離を離しながら、こなれた弓さばきで2本の矢を同時につがえ、そして俺に向けて同時に放った。

 同時に矢を放ち、複数の狙いを一点に定めたこの射ち方は《束ね射ち(メニィ・ショット)》と呼ばれる技法だ。着地点を集中させることで、瞬間的な火力を得、命中率を安定させる効果がある。先を制した彼女は俺が行動に移る前、開始の合図に硬直した一瞬を狙って先制攻撃を行った。

 しかし、それらの矢は自立浮遊(アニメイテッド)する盾に軌道を逸らされ、ミスラル製鎖帷子(チェイン・シャツ)によって弾かれる。彼女の攻撃は俺の装備の隙間を射抜くほどの鋭さではなかった。

 やはり攻撃が通じないと見るや、二の矢をつがえずに新たに弓を引き始める彼女。“風の魔弓(ボウ・オヴ・エア)”の能力たる、風雷の矢の真髄を見せるつもりなのだろう。しかしそうはさせないと俺は両かかとを当てて、“加速の靴(ブーツ・オヴ・スピード)”を起動、防御を打ち捨てた急接近で次の矢を撃たせる前に長剣(ロングソード)で一撃を与える。

 光り輝く(ブリリアント・エナジー)エルフ特攻(エルフ・ベイン)の長剣は、彼女の軽装鎧をぶち抜いて大きなダメージを与えた。火の神の定めた闘技場の環境により、人を傷つけるダメージは肉体あるいは精神的な疲労たる非致傷ダメージに変換される。そのためどれだけオーバーキルな武器を使っても、人を殺す心配はないのは安心だ。

 逆に先制攻撃を受けたことで風の勇者は苦境に陥る。そして弓を射る間合いを取るために距離を取ろうとし、そこで俺に追撃を今一度受けてだいぶ劣勢になった。様子がふらついてきたが、彼女の足取りはまだしっかりとしているし、何より勇者パーティの最高のダメージディーラーたる彼女には一発逆転の超火力が残されていた。

 彼女は俺の追撃をもろに受けるが、それをあたかもゲームのようにダメージノックバックで加速する。その勢いで俺の背後を裏取りし、更にその速度を矢なき弓による魔法の矢弾に乗せて複数同時に放つ―――スカウトの機動攻撃(スカーミッシュ)、そしてレンジャーの《束ね射ち》、その二つの技法の合わせ技だ。

 距離を引き離した彼女へ再び接近しようとしていた俺に、その勢いを載せた疾風と雷撃、二つの矢が強烈な威力を持って俺に迫る。実体のない矢は浮遊する盾をすり抜けて、かざした赤龍の腕甲をすり抜け、その下にある鎖帷子をも貫通し、体内の臓器にまで衝撃が至る。

 ダメージは非致傷ダメージに変換され、出血は起きないが……その衝撃を受けて足を止めた。だが、風の勇者は想定と違うことに異常を感じていた。事実、魔法の矢は確実に俺に命中していたが、ダメージはその風の矢が持つものだけで、身体を貫くような矢の勢いは消失していたのだ。

 

「レンジャーにしてスカウト、その二つの職業(クラス)を極めて高いレベルで技術を組み合わせた《素早き狩人》たる風の勇者でも……いや人類の味方たる勇者だからこそ、人間が得意な敵な敵ってことはあるわけ無いよな」

 

 レンジャーは弓あるいは双剣の戦闘法を学びながら、特定生物への対処法を学ぶ局所的な戦闘法のエキスパートのクラスだ。そしてそこにスカウト・クラスの技術を組み込んだ《素早き狩人》は、両者を共に高いレベルで伸ばし続けていく。しかし……スカウトの機動攻撃は生物の急所をより深く穿つために活かされる技術であるため、急所を守る魔法によって防がれる欠点があった。

 そう、大会で対戦相手が判明しているのだから、相手に合わせた装備を整えられることを活かし、俺は見た目はいつもと同じながら、その鎧を急所防御(フォーティフィケーション)効果を持つ鎖帷子に取り替えていたのだ。これにより急所を打たれることを防いだら、後に残るのは純粋な風雷の矢の威力と、彼女の弓の力量だけ。鋭さに基づく最大の攻撃力は封じられていた。

 ……尤もこれにも穴がある。特性生物への対処法“得意な敵”を深く学んだ《素早き狩人》たるスカウトにしてレンジャーは、その急所防御さえ貫いて急所を穿つ、いわばクリティカル無効無効能力を身につけている恐れがあった。しかしながらその貫通能力が及ぶのは得意な敵だけ、まさか魔王を倒すべき勇者に選ばれる者が人間を倒すのが得意なんてこともなく、その能力は俺に及ばないだろうと見積もっていた。他に急所を防ぐ手段はなかっただけに、勝ち確でなく勝算があると遠回しに言うしかなかったのはこのへんの理由である。

 ちなみに魔法の矢のうち、雷の矢は完全に無効化されていた。これは純粋に、いつも着ている鎧にかかっている各種エネルギーへの抵抗によるものである。

 

 何にせよ、通常の風雷の矢ごときなら十数発受けても耐えられる。もはや怯えるものはないと確信した俺はダメージを恐れずに一気に突撃する。反対に焦り始めたのが風の勇者。俺の剣の威力は先ほど身をもって知り、これ以上のダメージは耐えられないと理解している。かといってやられる前にやる手段は封じられた。であれば残された手段は一つ……搦め手だ。

 風の勇者はくやしそうな表情をしながら、腰のベルトから革の小袋一つを抜き取り、袋ごとそのまま俺目掛けて投げつける。どこかで見覚えのある形状だっただけに一瞬の判断が回避を遅らせ、命中を許してしまう。

 ……袋は空中で容易く崩壊し、中から白い粉が飛び散る。いや、白い粉は空気に触れるや液体状、粘体となって俺の体にへばりつく。―――“足留め袋”だ!

 このトリモチのような粘つく物資は投げつけた相手の移動を阻害する上に、床に接着して身動きを取れなくする非魔法の錬金術で作成されたアイテムだ。リーチ外から一方的になぶることが出来るこのアイテムは、闘技大会で使うには卑怯な手なために風の勇者にブーイングが飛ぶ。だが俺があまりに一方的に追い詰めたことが、そしりを受けてもその手を使うことを彼女に決意させてしまったのだ。

 俺は粘着物質が完全に固まる前に無理矢理動いて、せめて床と接着されることを防いだ。しかし鎧にべっとりくっついたネバネバは俺を動きにくくしている。モタついている間に急いで距離を引き離した風の勇者は既に、圏外に達していた。……ネバネバが邪魔をして、今の俺の足では彼女を追いきれそうにない。主武装は2つまで、という制限のために弓は置いてきてしまったし、幾つかの投擲ダガーは用意していても、これだけで倒すには全然威力が足りない。

 どうする?今あるアイテムには頼れない。しかし火の神の御前であるこの大会中にチートを使えば、間違いなく不正がバレる。じわじわと体力と精神が削られていく中で、いいように俺のことを一方的に射掛ける風の勇者の姿を見る。彼女が放つ殆ど透明な風の矢を見て……一つ光明が差した。彼女に一瞬の隙を作れれば、ワンチャンスが生まれるだろう。

 俺は長剣(ロングソード)を一旦鞘に収め、次の攻撃を待つ。その行動を不審に思って一度手を休める風の勇者だが、俺の戦意が途切れてないと悟るや攻撃を再開し、次の風の矢をつがえる。

 ほとんど目に見えず、揺らめくだけの空気の矢は魔弓の弦から解き放たれ、俺目掛けて一直線に突き進む。高速で飛来するほぼ透明の物体だが、それは決して見切れない攻撃ではない。

 風の矢は物体をすり抜けて生物にダメージを与えるものではなく、あくまで隙間を滑るように縫って実質的に貫通するものだ。光り輝く(ブリリアント・エナジー)武器と違って、物体と接触するエネルギーの攻撃なのだ。

 見えるし触れるならば、斬ることだって可能だろう。

 

 俺は風の矢が飛来するその二歩前に鞘から第二の武器、燃え盛る(フレイミング)長剣(ロングソード)を引き抜く。

 そして一歩手前まで飛翔した、今目の前にある半透明の風の矢を薙ぐ一閃。

 風の矢は二つに分かれて共に俺の体に突き刺さるが、飛翔する勢いは減衰されて全くダメージを与えられない。

 疾風の矢は剣に斬られたことで、その勢いを失って単なるそよ風と化したのだ。

 これぞ俺が土壇場で見出した、敵を驚かせる秘技――矢切りの居合術なり。

 

 次々と放たれる矢のうち一本を落とした、だからどうした?と侮ることなかれ。巧みな技は、それだけで敵の目を引き、精神に干渉するものだ。

 風の勇者は俺が行った芸に見惚れたあまり、精神に空白を産んだ。そこに一瞬の隙がある。

 僅かな時間だが、粘着物に足を取られながらも彼女に急接近する。数秒の間合いを詰めた後に風の勇者はようやく俺の突進に気がついて、距離を取ろうとするも―――それよりも早く彼女を間合いに捉えた俺が、全力で光り輝く長剣を振り切る。一閃。

 距離を取ろうとした風の勇者はその一撃を受けて転倒。いいや、違う……変換された非致傷ダメージが身体の限界を越えて気を失ったのだ。

 たちまち歓声が沸き起こり、俺の最後の一撃が彼女にとどめを刺したと司会が決着を告げる。風の勇者を打ち倒した俺の勝利だ。

 

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