ドラコリッチは滅ぼされたと言ったな、すまんありゃ嘘だ。
ドラコリッチはリッチの名に違わず、
一度ドラコリッチと出会ったことで、念視を確実にするのに十分な面識を得た。切りつけたことで剣についた奴の汚れた血が更に縁となって念視の成功を高める。
『契約は果たした。しかし死竜は未だ滅びきっておらぬ。これより後の役目は、汝らに委ねられた』
「はい、アヴェクス様。力を貸してくださり、ありがとうございました。これからは私たちが決着をつけます。安心してお任せください」
『大いなる邪悪との対決は、元より英雄が倒すべき相手。
誇るがいい、英雄とは才覚によってのみ決められず、汝はその善き心によって英雄となる。
今後もその心を忘れるな』
着陸時、アヴェクスの威光に恐れて近づけない他のクルーたちが駆け寄る前にマーミアから奴の肉体を斬った二本のサンブレードを受け取った。死体とはいえ、恐らく元は奴のオリジナルの肉体だったろう死体の血がべっとりと付着しており、念視成功率を高める触媒には十分使用可能だろう。
(“
重ねて“
俺はクルーたちが気を取り直す前に姿を隠し、船倉でこっそりと念視を始めた。思っていた通り、ドラコリッチは既にねぐらと思しき沢山の骨、金貨が転がる中で一体のやや小さめのドラゴンの死体――それでも人間よりは大きいが――に憑依することで、再生していた。その場所は北方大陸南東、竜の島寄りにある荒野の地下洞窟だ。光景・場所を記憶したことで“
「お嬢、いいや竜を駆る
「よもや闇の神殿が紹介なされた戦士様が、青銅竜と盟約を結んだ英雄とは……お恐れしました」
「いえ、私はまだそれほど囃される身ではありません……ドラコリッチは、その死なずの竜の伝承通り、肉体を倒しただけでは滅びません。ここまで船旅を共にした皆さんには申し訳ありませんが、私たちはこれからドラコリッチを倒す旅に出なければなりません。私たちはここでお別れですが、どうか皆さんもこの航海を無事果たしてください」
さて、うちの可愛いメイドは戦乙女と呼ばれるほどクルーたちに囲われ、今にも胴上げされかねないほどに喝采を浴びていた。そんな中に割り込むのは少々難しく、彼女に目配せすると向こうからやってきてくれた。
「“お嬢様”、準備が整いました。ドラコリッチのねぐらはしかと見つけましたぞ。
奴が完全に復活を遂げる前にすぐにでも向かわねばなりません、皆には別れを告げてください」
「……ご主人様ったら、んもう。
ごほん。皆さん、それでは私たちは行きます。次に会う時はお互い、無事に中央大陸へ戻った時になるでしょう。
では、さようなら!」
別れを惜しむ声を背に受けながら、俺たちはいざドラコリッチに挑むべくテレポートで飛んだ。
我が家に。
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閉店した飯屋を買い取った一階フロアにテレポートしたことに気づいたマーミアは、ポカンと口を開けて俺に問た。
「はれ?
……なんでですかご主人様、皆の期待を受けてやる気満タンでしたのに。
ドラコリッチ退治にいきましょうよ!」
「勿論行くが、なにも船の上から直接行く必要はないだろう。ドラコリッチはやがて完全体になるといっても、それは一時間や二時間そこらではなく、数日かかる。しかしドラコリッチは肉体を失って弱っていても、巣の守りはいまだ万全だ。
そこへオルクスがドラコリッチの巣にデーモンやアンデッド、その他悪の種族を貸し出していてもおかしくはない」
ドラコリッチは周囲の竜に連なる種族の肉体を無差別に乗っ取ろうとする。意思の強い竜ならば弾き返せるとはいえ、身体を乗っ取られかねないのに好んで棲むドラゴンは滅多にいないだろう。
仮の肉体の間、ドラコリッチは呪文能力、ドラゴンブレス、その他多くの肉体能力は失われて仮の姿そのままになる。その間もはやドラコリッチは強敵とはならないが、それ以外の敵が待ち受けている可能性を考えれば追加の準備無しで挑むのは危険すぎる。
何より沢山の宝物が眠るだろう古竜級の主を倒しておいて、そのねぐらを探索しない冒険者はいない!
「対ドラコリッチから、探索装備に切り替えたら出発する。
ところで大丈夫とは思うが、怪我はないな?」
「分かりました……傷はありません。
気力は十分です、すぐにでも行きましょう!」
「元気がいいのはよろしい。でも、まずはその
「女の子に脱げなんて、えっちです」
「鎧裏に下着しか着けてないわけでもないだろう。留め具を外すのは手伝うから、はよ脱いでしまえ」
騎乗戦用の
「服といえば、ゴテゴテした鎧なのに軽くて、こすれても肌を傷めないこのミスラルというのは素敵ですね。
美味しいものばかり食べて、ご主人様にいじくられるのもヤですから今度アクセサリとか買ってみましょう」
「ミスラルは金の10倍価値で、しかも硬いおかげで加工が難しいから並大抵の工房では取り扱っていないぞ。
そうだな……安くて
「ひええ、ワイヴァーン100体分でも買えないんですか。
……でも先日の緑竜さんたちから頂いたお宝で買えちゃうのは、ホント変な気分です」
※1000銅貨(Copper Piece)=100銀貨(Silver Piece)=10金貨(Gold Piece)=1白金貨(Platinum Piece)
海岸地帯に出没するワイヴァーン1体にかけられた懸賞金は金貨30枚。彼女の言う通り100体狩っても買えない可能性はあるが、既に彼女は竜の島でワイヴァーンのねぐら、緑竜のねぐらから戴いた財宝を換金し、その4割、金貨1万枚を渡している。何百何千もの貨幣を持ち歩けるわけはなく、冒険者の嗜みとしてダイアモンドに換金したり幾らかを家に溜め込んでいはするが、その気になればポケットマネーからホイと出して買えるのが今の俺たちだ。(数ある宝石の中でダイヤモンドを選ぶ理由は、蘇生や回復魔法の触媒としてダイヤモンド粉末が頻繁に用いられるため、有事にはすり潰して消費出来ること、また高価ながら冒険者間でも手軽に売買出来るため)
「しかし装飾には詳しくないが、高価なアクセサリで飾ればいいものではないだろう」
「女は美しくなるために見てもらうのでなく、男に声をかけてほしいから着飾るんです」
「それなら、気に入ったものがあれば俺が金を出そう」
「……その答えがほしかったわけではないのですが」
彼女には悪いが、ドラコリッチのねぐらに何が待ち受けているかを考えるのに忙しく、真面目なやり取りをする暇はなかった。予想される脅威はデーモンにアンデッド、その他悪の種族に罠。
アンデッドは毒、病気、麻痺および精神作用をかけてくるものが多いが、それらは普段から対策に使用しているものが多く、ドラコリッチと同様に対処して良いだろう。
デーモンはドラゴンほどではないが高めの肉体性能と、疑似呪文(生来の魔法発動能力)などの技術的能力を持ち、多芸である。防御力はそれほどでもないが、しかし彼らデーモン(悪鬼)、デヴィル(悪魔)、そしてエンジェル(天使)たちは揃って特殊な武器を用いないと完全なダメージを与えられない性質を持つ。ゴリ押しも可能だが彼らは魔法や元素への高い抵抗力を有するため、有効にダメージを与えるなら対応した武器を用いるのが手っ取り早い。確かデーモンに有効なのは
その他の種族は……異形、人怪、魔獣、様々にいるがどれもこれも一癖二癖あるものだ。アンデッドのように状態異常、あるいは即死効果、石化効果を持つものもいるが対策はついでに出来ている。大半は体力・防御力が低いのでやられる前にやる方針が通用するだろう。
「今、着けました。言われたものも持ちました、準備はバッチシです」
「よし、なら今度こそ行くぞ。倒してもまた新たな仮の身体を得て復活するドラコリッチより、可能なら取り巻きを優先して倒す。ドラコリッチは何度か倒して、復活を確認したらその地点から奴の要、
増援や周囲の危険は俺が処理する、その間の前衛はお前と……こいつに任せた」
「全部任せてください、私のお役目ですから!」
数々の
「では行くぞ」
俺は様々なパワーを宿した一本の魔法の杖を掲げ、彼女らに触れながら発動した。
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ドラコリッチは眠らないし、疲れない。しかしだから奴が常に周囲に対して気を張り詰めているわけもなく、直接ドラコリッチの居場所にテレポートした時に奴は現れたこちらへ全く反応していなかった。
しかし落下地点は様々な骨――獣らしき頭蓋骨から人型をしたもの、角の生えたものまで――が転がるところに、ゴーレムともども二人と一体がドスンと降り立ったため即座にバキボキとけたたましい音が鳴り響く。テレポート発動直後で硬直している最中から、真っ先に動き出したのはマーミアだった。
彼女は周囲にドラコリッチ背中の
マーミアがドラコリッチを再び滅ぼしたのを見届けつつ、俺は杖に込められた“
「“我は望む”――この地を
“願い”の魔法により、本来発動にかかる時間過程を省略して起動されたハロウにより、ドラコリッチのねぐらに漂う不浄な気配が現れる。しかし広範囲化しても、一度の“聖域化”魔法では一部屋を満たすのがせいぜいで、ドラコリッチの復活を妨げるようなものではない。しかし“魔力視覚”を妨げる強い死霊術の気配を消し去り、経箱の位置を探し当てやすくする効果はあった。
「骨に埋もれる、死霊術の気配が4、5点……オーラの強さから、候補は3つに絞れるな」
ドラコリッチの経箱は、強い死霊術の気配を発する。オーラは壁などで囲むことで遮蔽出来るが、骨に埋めただけで隠し通せるものではない。複数あるが恐らく、やつがかき集めたその他の魔法のアイテムと混じっているのだろう。どれが本物かは分からないが、推測はつけられる。
「ご主人様!」
「……ああ、そっちか!」
ドラコリッチは倒されて約10秒後にまたも大型ドラゴンの死体を用いて復活した。だが奴も経箱に近づかれたことに焦ったのだろう、奴は数ある強い死霊術反応のうち、ある一つのすぐ近くで復活してしまった。その近辺に経箱らしきオーラは存在しない。あれが間違いなく本物だ。
しかし同時に、音を聞きつけたのか空間の端にある空洞の先――恐らく出入り口の通路――から、何かが駆けつける騒音がする。早くも増援がやってきたようだ。
「マーミア、あそこだ!今度こそ奴を蹴散らして経箱を掘り当てるぞ!
アイアン・ゴーレム、お前はあの入り口から来る奴を全て蹴散らせ!」
俺の指示に従い、ゴーレムが骨の海をかき分けながら通路へ向かう。一方でマーミアは再び飛び上がり、ドラコリッチへ突進する。今度はドラコリッチも彼女に気づいているため、迎撃せんと牙を剥くが鎧と魔法で固く守られた彼女の肌に突き立てることは叶わない。奴の攻撃はただ表面を滑るだけで、懐に潜り込んだマーミアが二振りのサンブレードで再び灰を撒き散らすことになった。すぐさま俺も彼女のいる地点へ飛行し、死霊術のある地点の少し上空で浮遊する。
「流石に戦闘中では時間がない、面倒だ……マーミア、そこから離れろ!
周辺の財宝は惜しいがまとめて一気に蹴散らす!」
俺の指示を受けて飛び退ったマーミア。その同じ地点では既に再三、ドラコリッチが蘇生しようとしているのか竜らしき骨がカタカタと震え出している。このように経箱を壊さぬ限り、延々と竜の死体を滅ぼし続ける結末になろう。増援も来るし、待っている暇はない。
俺は魔法の杖を持ち替えて、“
ゴオオンと、それだけで山崩れを起こしそうなくらい凄まじい爆音がドラコリッチのねぐらを揺らす。物体破壊に効果的で強力な音波の爆発を受けた、俺直下の地点にあった骨は欠片という欠片まで粉砕され、そこにある死霊術の反応は音の爆発によって霧散したかのように消失した。今まさに蘇生しようとしていたドラコリッチの死体は復活前にその音波の爆発に巻き込まれ、当然ひとたまりもなかった。
そんな攻撃を放った俺自身、爆音の反動に少々耳をやられる。
マーミアが何か言っているようだが聞こえない。手振りで耳を指差し、バッテンを切る。彼女が近づいてくるが、その間に周辺の様子を伺う。
経箱と思わしき死霊術のオーラを放つものはぶち壊しにした後、ドラコリッチが現れなかった。もはや経箱らしきものは欠片も残らず骨粉に埋まっている状態だ。もはや目視で確認する術はない。
あとで占術を用い、女神様に神託を問うのがベターだろう。神の視点ならば、ドラコリッチがどうなったかを突き止めることが可能だ。
「(ドラコリッチの復活の気配はない。恐らく、倒したと見ていいだろう。
喜べマーミア、俺たちの勝ちだ)」
お互い最後の一撃でまだ耳がやられているため多分届いてはいないが、親指を立てた手を上げてひらひらと喜ぶモーションを取る。マーミアもその意味をなんとなく分かってか、片方のサンブレードを仕舞って同じようなモーションを取る。
「(やりましたね、ご主人様!これで英雄になれますよ!)」
「(ははは、英雄になるのはお前だよ。俺はお前を支える裏方だよ、裏方)」
「(ドラコリッチに真の意味でトドメを刺したのはご主人様ですよ?
だからご主人様が英雄を名乗るべきじゃないですか!)」
「(俺が臆病なのを知ってるだろう、きさま)
……いや待て。何かおかしいぞ」
ようやく耳が治ってきたところでふとおかしな気配を捉える。正体を探そうとねぐらの入り口である通路の方を振り向けば、増援をせき止めていたはずのアイアンゴーレムの姿が見当たらない。ドラコリッチと戦っている間にもうやられた?馬鹿な、搦め手がろくに効かないゴーレム相手に瞬殺なんて、ドラコリッチ並の手練れじゃなければ通らないぞ。
まさか二体目がいるのでは、と俺は不安に駆られながら通路先の様子を伺う。
「不味いっ!」
「えっ?あの、ご主人様、何も見えなくなりました」
「鈴木土下座……じゃない、ビホルダーだ!」
そいつが完全に通路からこちらに身を乗り出し、その姿を現した。そいつはまさに大きな口を持ち 浮遊する異形の肉塊で、先に目玉のついた数本の触手を生やしており、中央には巨大な眼球がついていて、そいつが俺たちを見た瞬間、暗視があるにも関わらず暗闇に包まれた。
暗視で見通せない闇を作る能力?いいや違う、俺たちが暗視能力を失ったのだ!その証拠に、今まで身体を充足していた強化魔法の効果が消え去ったのを感じる。
ビホルダーは魔法使い殺しとして有名な、中央の一つ目が
「密集は不味い、俺と反対側に散らばれ!弓矢をつがえろ!」
転びそうになりながらも、骨を散らかしてマーミアがいたのとは逆に進む。少し遅れてマーミアも骨をかき分ける音が鳴り響くと、暗闇だった視界が白黒を取り戻した。見れば、ビホルダーは通路の入り口からマーミア(とアイアンゴーレムがいる所)をずっと凝視しており、俺のことは重視していない。恐らく、招来中のアイアンゴーレムを消し続けるために入り口を離れることが出来ないのだろう。これはチャンスだ。
「……“
魔法の杖を取り替えて、本来唱えるのに
しかし俺が魔力消失の視線を外れたことで、ビホルダーは魔法の光線で攻撃出来るようになり、触手の目玉から様々な効果を持つ光線が次々と飛んでくる。生命を傷つける負のエネルギー、睡眠、鈍足、魅了、分解、即死……幸いにして威力は低く、厄介な状態異常も耐えきることが出来たが、防ぎきれないダメージが蓄積する。体力は大したことのない俺たちにはこの防げないダメージが致命的だ。
「こいつが敵ですね!覚悟しなさい、私のこの光る剣で……あれ?」
「そいつのでかい目に見られてると、魔法が機能しない!
でもあいつは入り口のゴーレムを消し続ける必要がある、入り口から離れるんだ!
“
便利な“願い”の魔法を何度も使いまわして、今度はビホルダーとの間に石壁を生成する。
さて、ビホルダーは一瞬マーミアから視界を外したようだが、(恐らく石の壁が消せないと確認して)またマーミアに視線を戻したようだ。魔法が復活したことで意気揚々と飛び上がったマーミアがその瞬間に光線多数を撃たれ、そして再び骨の海に墜落したのを確認。マーミアも壁の裏に呼び寄せたいが、そうするとビホルダーは今度は入り口を見ながらねぐらの奥に移動し、俺たちを視界の中に入れようとすると予想される。今の状態から、一気にビホルダーを殲滅するのが最適だ。実のところ、冷静になってしまえば大した敵ではないのだから。
俺はまだマーミアに視界が行っていることを確認の上で、魔法の杖を取り替えて石の壁の隙間から顔を出し、ビホルダーがマーミアを見ている隙に最大級の魔法を放つ。ビホルダーは魔法に対して特に耐性を持たないし、ドラコリッチどころかあのグリーンドラゴンと比べてすら見劣りする体力しか持たない。そのため、こうして分散して大目玉の視界を逃れた人が光線を耐えしのぎ、魔法非魔法に関わらず強力な飛び道具を放ってやれば簡単に倒されるのだ。
四発の
「結局、何だったんですか今のモンスターは。魔法がついたり消えたり、と思えば何か飛んできてすごく痛かったり、大変でした」
「ビホルダーだ。異形の怪物、大きな目玉で見るものの魔力を消し去る俺たちの天敵だよ。
ドラコリッチとは相性が良くも悪くもないのに、まさかあんなのが同棲してるなんてな……」
マーミアはふわりと浮かび上がって俺の方にやってきて、苦情を訴える。ビホルダーは実のところ触手目玉の光線が主体で、魔力消失させた相手に対する攻撃手段が少ないので、ドラゴン同様に飛び道具を調達し、地の不利を克服すればあっけなく倒せる相手でもある。その嫌がらせにうんざりする相手には違いないが。
ドラコリッチ以上に苦労を強いられる相手を退けて、ようやく落ち着いて探索出来る。とマーミアに笑いかけて戦利品の捜索を始めようか、と言い始めた瞬間。
部屋の出入り口から骨を踏み潰してガシャンガシャンとアイアンゴーレムが通路の奥へ進む音が聞こえた。そういえば抑制される前に出した命令は、「入り口を通ろうとする敵を蹴散らせ」のままだった。
俺はゴーレムを呼び戻すため声をかけようとするが、その前に突然ゴーレムの騒音が止まった。足を止めたわけでも、戦っているわけでもない。
音が止まったという、先ほどのデジャヴュを思わせる状況に俺とマーミアは顔を見合わせる。
またかと。
「……一旦帰ろうか」
「私はご主人様に従います」
姿を見ていなくても、どうせビホルダーなんだろうという嫌な思いに駆られ、俺たちはドラコリッチのねぐらをテレポートで後にし、お家に帰った。何にせよ、ドラコリッチを滅ぼすという本来の目的は達成したのだから。
余談、その後ドラコリッチのねぐらの空間を魔法で監視したところ、複数体のビホルダーが財宝を回収しにやってきたのであの時点で帰ったのは正解だったようだ―――ドラコリッチの巣、改めビホルダーたちのハイヴなど悪夢、財宝があると知ってても二度と踏み込みたくもない。ああいうのこそ、各員アーティファクトを取り揃えている勇者たちに任せればいいのだ。
お金には余裕があるなら無理に危険は冒さない、遊興冒険者。ある種 冒険者失格。