海へ遊びに行ってからさらに数日が立ち、夏休みも終盤を迎えていた。
「あと2日で終わり…はぁ…2ヶ月足りない〜…いって!」
そして、俺の願いも虚しく夏休みも終わり、二学期がやって来た。
「さて諸君!二学期になった訳だが二学期と言えば文化祭!文化祭と言えば劇!うちのクラスはロミオとジュリエットをやることになった訳だが…ロミオとジュリエット役に俺は楽と桐崎を推薦したい!」
文化祭実行委員である集がそんなことを言い出す。まぁこいつらがカップルなのはクラスの奴らも知ってるし妥当かもな。まぁ偽恋人だけど。
「…私やらない」
「ありゃ?ぴったりだと思ったんだけどな〜」
「なら楽様!わたくしとぜひ!桐崎さんも構いませんわよね?」
「…好きにすれば」
この桐崎の態度。あの海の1件からこいつら2人の空気がおかしい。
何かあったのは確かだろう。
「彼女さんの許可も出たことですし、楽様!」
「それなら俺も!」
「おい一条!俺にロミオ役やらせろ!」
「だぁ!もううるせぇな!」
結局くじ引きになり、ロミオとジュリエットに決まったのは…
「くっ、また一条なのか…」
「小野寺さんとなんて羨ましい!」
そう、楽と小野寺。
「よろしくね、一条くん」
「あ、あぁ!」
嬉しそうですね〜楽さん。
「お、小野寺さん!私と役を交代してください!」
「橘ちゃん、くじ引きで決まったんだから仕方ないよ」
「あぁ!楽様〜!」
あいつは楽の事になるといつも騒がしいな…
「八幡くんは何やるの?」
「兵士役」
「…そ、そっか」
地味な役で悪かったな。
そして練習開始。楽も照れながらではあるがちゃんと練習し、順調に文化祭に向けて進んでいた。しかし、事件は突然起こった。
休憩中、廊下で楽が桐崎にビンタをされたのだ。いや、まぁ吹っ飛ばされることは多々あったが、それではない。明らかに険悪な雰囲気だった。
「…悪ぃ、ちょっと頭冷やしてくるわ」
「一条くん達、やっぱり何かあったんだ…」
「いつもの感じではなさそうだな」
「大丈夫かな…?」
「俺達は事情知らないしな。あいつらで何とかするしかない。当日に何も起こらなければいいが…」
そしてついに文化祭当日。あれからは大きなことは無かったがまだ楽達は喧嘩してるようだ。喧嘩か知らんけど。
「寺ちゃん!大丈夫!?」
「う、うん。これくらい…っ!」
「捻挫してるな…これじゃ劇には…」
「そんな…」
ちっ、ここで問題発生か。ほんとに何か起こるとは…
「橘は代役できないのか?」
「橘さんは昨日熱が出ちゃったみたいで…」
あいつ何のために代役いると思ってるんだ…まぁ熱が出てしまったものは仕方ない。
「どうしたんだ!?」
そこに楽が駆けつける。
「小野寺が捻挫しちまったんだ。代役の橘も休みで万事休す」
「そんな…」
「…桐崎」
「え?」
「あいつなら出来るんじゃないか?あいつなら台本くらい一瞬で覚えられるだろ?」
「そうか!」
「楽、頼んだ」
「お、俺?でも俺じゃ…」
「お前達の状況はわかってる。だから尚更だ。おそらくここしかないぞ、お前らが仲直りするには」
「八幡…あぁ。わかった!」
ったく世話かけさせやがって…
「どうしよう…私のせいで…」
「小野寺、お前のせいじゃない。事故なんだ、仕方ない」
「でも…」
「…なら責任をとってもらう」
「…え?」
「小野寺のせいで劇が出来るか分からなくなったんだ。その本人も責任を感じてるなら責任をとってもらう」
「ちょっと比企谷くん!寺ちゃんのせいじゃ」
「楽と桐崎を信じろ」
「八幡くん…」
「それが責任の取り方だ。楽と桐崎を信じろ。楽は普段憎たらしいがやる時はやる奴だ。多分」
「最後の余計だよ…」
「桐崎だって普段はツンツンしてるが素直じゃないだけだ。ちゃんと話し合えばいいだけなんだよ、あいつらは。だから信じて待て」
「…うん。待つよ。一条くん達はきっと来てくれる」
「あぁ」
「おーい!待たせた!」
「来たか」
楽は無事桐崎と仲直りしたようだ。
「行くぞ!」
「おう!」
そして、ついに舞台開演。劇は順調に進んだかと思われた…
「屋敷から抜け出そうとするロミオ。召使いの制止も聞かずジュリエットの元へ行こうとします」
「本当に行ってしまうのですか」
鶫のやつ棒読みだな…
「キャピュレット家の者があなたの命を狙っています」
「私はどうしても行かなければいけないのだ。彼女は今もバルコニーで待っている」
「止まらないロミオ。そして召使いはある決意をするのです!」
…こんなシーンあったか?
「実は召使いはロミオに恋をしていたのです!」
あいつふざけ始めたなこれ…
「召使いはこれが今生の別れになると思い、愛の告白を決意するのであった!」
「そ、そんなの聞いてないぞ!」
「つ、鶫!周り周り!」
「!ぐっ……ろ、ロミオ様、じ、実は私あなたのことが…す…す…って言えるかー!!」
「おぉーと!告白失敗!」
何やってるんだあいつ…
「舞子集はどこだー!」
「す、進むか」
「お待ちくださいロミオ様!」
「おおっと、ここで新たに刺客が現れた!」
「私は…えっと…ジョセフィーヌ!ロミオ様の本当の恋人ですわ!」
「た、橘!?」
あいつ熱じゃなかったのか…
そして橘はそのまま演技を続け、楽を止めようとするが楽の言葉で橘撃沈。そして次に現れたのが…
「私はジュリエットの兄、フリードリヒ!」
…桐崎の所のギャングのクロードさんだった。もはや生徒ですらない。
「なんでいるんだよ!?」
「きさまにジュリエットをやるわけにはいかない!貴様さえいなければ…ジュリエットは我がもとに!」
「おおっと!どうやら重度のシスコンでいらっしゃる模様!」
あいつ楽しんでるなー…
そしてフリードリヒはロミオを追い詰めていく。
ロミオは悪あがきでレンガを投げる。そして…城壁を支えていたレンガも。
「!しまっ!」
「ろ、ロミオー!」
ロミオとフリードリヒは城壁の下敷きに…大丈夫か?
「果たして決闘に勝ったのは…」
「…!ロミオ!」
「…い、今行くぞ、ジュリエット!」
「ロミオだー!」
客陣から歓声が巻き起こる。なんか俺も乱入したくなってきた。
「待て!」
「…は、八幡!?」
「な、なんとまだ乱入者がいたー!」
「俺の名は…リアム!ジュリエット様の兵士!ジュリエット様は俺の物だ!」
「兵士はジュリエットに恋をしていたー!叶わぬ恋…それが認められないリアムはロミオと対峙します!あとなんか名前かっこいい!」
そうだろう。俺がだてに黒歴史だけを作ったと思うなよ…!
「ロミオ!俺はお前を恨んでる男子全員の代表として倒す!」
「それ劇関係なくない!?」
普段橘とか桐崎とかと仲良くしてるお前が悪い。
「勝負だ!爆ぜろリア充!弾けろシナプス!パニッシュメント…」
「こ、この先は問題ありそうなので神の力で兵士撤収!」
「お、おいまだセリフ終わってないぞ!」
「あいつあんなキャラだっけ…」
いやーちょっと浮かれた。
「そしてついにあらゆる刺客を退け、ロミオはジュリエットの元に!」
「…あぁロミオ、あなたはどうしてロミオなの?あなたがモンタギュー家のロミオでなければこの愛を邪魔するものは何も無いというのに……そのロミオという名のかわりに、私の全てを受け取ってください」
「…頂戴しましょう。…愛しのジュリエット」
「…えぇ」
そして、劇は無事?閉演した。
「「「おつかれー!」」」
「いやー!なんとか終わったな!」
「おい舞子集!きさまあれはどういうことだー!」
「ったく騒がしいな…小野寺、もう足は大丈夫か?」
「うん。それにしても千棘ちゃんさすがだね」
「そうだな」
「でも1番驚いたのは八幡くんが劇に乱入したことかな」
「いや、なんか体が勝手にな…」
恥ずかし恥ずかし恥ずかしい!何故あんなことを!黒歴史確定だ…
「……私も出たかったなぁ…」
「…」
小野寺は劇の練習も熱心に取り組み、努力した。それが当日に捻挫して出られなかったんだ。相当悔しいだろう。
「…小野寺、これはただの提案だが…」
「わぁ!綺麗な夕日!」
「ここなら誰もいない。思いっきりできるぞ」
「うん。でも少し照れるな。八幡くんセリフ覚えてるの?」
「楽の練習ずっと見てたからな。嫌でも覚える」
「そっか。…そのロミオの衣装、似合ってるよ」
「お、おう…小野寺もな」
「ありがとう…」
「…じゃあやるか」
「うん」
「…愛しいジュリエット、僕は君と僕とを隔てる全てが憎い…どうして神は僕達にこのような試練を与えるのでしょう」
「…あぁ何故私達の両親は憎み合い、争うのでしょう…本当なら私たちのように手を取り合い、想い合うことも出来るというのに」
「…いけないジュリエット、もう別れの」
「八幡くん!」
「…小野寺?」
「…ありがとう。嬉しい…凄く嬉しい!」
その時の小野寺の顔は、夕日に照らされ、今までで1番輝いて見えた。
続く