月の魔物の伝説   作:愛崩兎

5 / 11
第四話 スキルの検証と初仕事の終了について

 しばし森をさまよっていると、再びゴブリンの集団が現れる。今度は先ほどの集団よりも数が多い。

 先ほどと同じように飛びかかってくるゴブリンたちに、今度は優しく、撫でるように獣肉断ちを数回振るう。

 

 それでもなお獣肉断ちの威力は凄まじく、ゴブリンたちは全員がずたずたの肉片となり、ぼとぼとと地面に落ちた。

 

 しかし先ほどとは違いゴブリンの死体は原型をとどめていた。

 死体に近づいて確認すると、耳もしっかりと原型をとどめている。

 

 僕はなんだか複雑な気分だった。これでは狩りというよりは作業。それも繊細な作業に近い。神経を使う割に、面白さも何もあったものではない。

 獣肉断ちはどちらかといえば、重さで叩き潰す力に任せた武器だ。この作業には向いてないかもしれない。

 しかし今更武器を変えるのもなんだか負けた気がするので、このままでいこうと思う。

 

 僕はゴブリンの耳を武装血刀で作り出したナイフで切り取り、次々と袋に詰めていく。鮮血のナイフの切れ味は目を見張るものがあり、耳をまるで熱したナイフでバターを切るように切り取ることができた。

 

 耳を集め終え、再び歩いていると、今度は数体の巨大な生物を遠くに発見する。

 それは3メートルほどの大きさのモンスターであり、筋肉の隆起した体を持つ。巨木のような腕は猫背なせいか地面に着く寸前であり、その手の先には生木からむしり取ってきたかのような棍棒が握られている。焦げ茶色の肌を隠すのは腰に巻かれたなめしていない毛皮のみであり、その姿は控えめに言って汚らしい。

 

 そのモンスターの名はオーガ。それなりに強いモンスターで昇格の手助けになるかもしれない大物だ。狩っていくことにしよう。

 

 僕は神速の踏み込みでもって一足でオーガに近づき、獣肉断ちを数回振るう。

 それはいたわるように優しい速度で振るわれ、オーガを肉塊に変えた。

 ゴブリンよりも頑丈なオーガだったが、僕からすれば誤差だ。

 切り裂かれ、叩き潰されたオーガだった肉塊が、地面に無様に散らばる。

 

 オーガもゴブリンも、結局のところ作業にしかならない。僕は早々に飽き始めていた。

 

 僕は散らばった肉片の中から、討伐証明部位を探す。確か亜人系は基本的に討伐証明部位は耳であると習った覚えがある。

 僕は無事にオーガの頭から耳を切り取り、袋に入れた。

 

***

 

 しばらくゴブリン、オーガ、時折ウルフなどを見つけては肉片に変えるだけの簡単なお仕事を続けていると、やはり飽きがきた。

 見つけたらただ殺すだけの狩りでもなんでもない作業は、いくら人外となった僕にも苦痛だ。肉体的な疲労は無効でも精神的な疲労は溜まる。

 

 仕方なく僕はスキルの検証も同時にすることにした。

 効率だけを追い求めた作業はもうたくさんだ。移動はやろうと思えば転移で一瞬なわけであるし、時間は潤沢に使える。それに、耳の入った袋はずっしりと十分な重さを持っていた。耳一つが銀貨一枚だとしても、結構な稼ぎになるだろう。

 

 それはともかくスキルの検証である。例えば、眷属招来のスキルは試したが、眷属創造のスキルは試していない。

 

 眷属創造のスキルは元の姿でしか発動できないため、僕はスキルを発動し、元の、月の魔物としての姿に戻った。

 

 そして僕はたった今殺し、耳を切り取ったオーガの死体に、〈中位眷属創造/クトゥルフの落とし子〉のスキルをかけてみる。

 

 するとどうしたことか、虚空よりにじみ出るように虹色の、いや、虹色とも違う、あらゆる色を混ぜたかのような、しかしこの世に存在しない色、あえて言うならば宇宙色のシャボン玉のようなものが出現する。それはオーガの死体に向かって行き、すうっと吸収された。

 その瞬間、変貌が始まる。

 それはありえざる冒涜の儀式。外宇宙の芸術。混沌の宴。月光の散乱。

 ずるり、ずるり。オーガの死体の頭部から、いくつもの触手が伸びる。ブクブクと体が膨らみ、一回り大きく、肥えた人間のような、あるいは水死体のような体へと変貌する。皮膚がぬらぬらと薄気味悪い粘液に覆われ、怪しく光りだす。手足には水かきがつき、まるで水中で生きる両生類のように。宇宙色の光がどこからか煌めくと、それはやがてフードの付いた衣服と巨大な斧へと変わる。白色のローブが特徴的な衣装は、巨体にしっかりとフィットしており、巨大な斧は目立った装飾こそないが頑強な作りであり、その破壊力を感じさせた。

 

 僕はその光景に目が離せない。それはこの世のどんな芸術よりも美しかった。

 ユグドラシルの時とはまるで違うリアルがそこにある。

 オーガの醜い死体が、狂おしき変貌を遂げるその光景は、僕の心を掻き立てる名状しがたい衝動を呼び起こした。

 神話的生物への変貌を生で見ている! それは僕の心をいかなるものよりも興奮させた。否応なく心が躍り、口の端から感嘆の声が漏れる。

 

 僕の目を釘付けにするその変貌はやがて終わり、外宇宙の異形が完成する。

 

 それは蛸のような烏賊のような、あるいは外宇宙に御座すおぞましき神性のような、いくつもの触手が口元に生えた頭をフードに隠し、醜く肥え太った丸い腹が特徴的な体と太い手足を衣服に包み、水かきのある吐き気を催すような手で身の丈ほどもある大斧を持っていた。

 

 それは偉大なる神の落とし子。ありえざる神性の種。狂いきった赤子。上位者の卵。真実への恐怖。

 名を〈クトゥルフの落とし子〉。

 37レベルの、肉体的なタフさに定評のあるモンスターだ。

 

 それは王に忠誠を捧げる騎士のように恭しく僕に傅いた。

 

 相変わらずこの世界でのクトゥルフ系モンスターは素晴らしい。僕の心に常に新しい感動を運んでくれる。

 

 僕がクトゥルフの落とし子を存分に鑑賞しようとしたところに、ちょうど巨大な熊が遠くに通りかかった。立派な体格を持つ、ヒグマをさらに巨大化させたかのような熊だ。

 

 ちょうどいい、実戦のテストだ。

 

 僕はクトゥルフの落とし子に指示を出す。あそこにいる熊を狩り殺せ、と。

 

 クトゥルフの落とし子は名状しがたい叫びをあげて熊へと突進していく。その速度は、愚鈍そうな見た目に反して早い。それはもちろん僕と比べてではないが。

 鈍色の斧を、突進の勢いそのままに熊の首をめがけて振り下ろすクトゥルフの落とし子。

 豪腕によって振り下ろされる斧の速度は僕からすればあまりにも遅いが、しかし熊にしてみれば認識できないほどの超速だった。暴風のごとく振るわれる斧が、熊の首に食い込み、そして熊の首を切り落とした。

 ごとり、と熊の首が地面に落ちる。

 首が地面に触れた瞬間、思い出したかのように体も崩れ落ちる。首の切断面からは、勢いよく鮮血が噴き出していた。

 

 これならば実戦でも問題なく使えるだろう。

 僕は満足して、次のスキルの検証に移る。

 

 次に使うスキルは時間操作系スキル。

 僕は〈シャドウ・オブ・ヨグ=ソトース/門にして鍵の影〉というクラスについている。このクラスは転移及び時間操作系のスキルのみを習得でき、それ以外のスキルは一切習得できないピーキーなクラスだ。

 僕はこのクラスを最大の10レベルまでとっているため、多様な転移、時間操作スキルを持っている。

 今回使うのはその中でも特異なスキル。〈アフォーゴモンの夢〉と言うスキル。

 このスキルの効果は、使用者を通常の時間軸とは異なるありえざる時間へと導く。その時間軸に身を置く間は、周囲の時間は経過しない。

 擬似的な時間停止ではあるが、時間停止とは違い、対象が自分のみであるので通常の時間対策では対策できない。僕の切り札に近いスキルであり、非常に強力なスキルだ。

 

 僕はそのスキルを発動させ、ありえざる時間へと身を滑らせる。周囲の時間が擬似的に止まり、舞い落ちる葉や、降る露が停止する。

 通常の時間軸とは違う発狂する外宇宙の神秘的な時間軸へ潜行した僕は、驚きに満ちていた。

 ユグドラシル時代では考えられぬ、超常の時間軸の奇怪さに圧倒される。僕がもし月の魔物でなければ、認識に気が狂い発狂していたかもしれない。それほどに奇妙な時間だった。

 

 しばらく、その奇妙な時間軸の感覚に浸っていると、スキルの効果時間が切れ、葉が舞い落ち、露が地面に弾ける。

 

 まさに超常の感覚だった。筆舌に尽くしがたい感動が僕の心を埋め尽くした。

 

 この調子でいろいろなスキルを検証していこう。

 

 僕は当初の目的を忘れ、スキルの検証に熱中した。

 

***

 

 しばらくスキルを検証していて、時刻はすっかり夜も遅い。

 収穫はそれなりであり、わかったことがいくつか。

 クトゥルフ系職業のスキルについてなのだが、全体的に感覚が変異しているようだ。血が抜けるような感覚や、えも言われる奇妙な感覚、名状しがたい第六の感覚などが感じられ、しかしそれは不快ではなく、戦闘中にも問題なく使えそうだった。

 他にわかったこととしては、創造したモンスターについて。どうやら召喚とは違い、死体を触媒にしたモンスターは、召喚時間が過ぎても消滅せず、現世に残ったままなようだ。

 現に、今も召喚時間は過ぎたにもかかわらず、クトゥルフの落とし子が僕の横に佇んでいる。

 ちらりとその顔を見やるが、触手だらけの蛸のようなその顔が何を考えているかはわからない。

 

 そして森を破壊するような派手なスキル類は試せなかったが、大まかに使う頻度が高いスキルは試した。どのスキルも全て問題なく発動し、自由自在に使いこなせるだろうことが確認できた。

 最初に平原に転移した時に、幾つかスキルを確認し、どれも問題なく使えることはわかっていたが、しかしだからと言って全てのスキルが自由に問題なく使えるとは限らなかった。今回色々と確認できたのは僥倖だ。おそらくこの調子なら、今使わなかった派手なスキルも問題なく使えるだろう。

 

 そして逆に、持っていないスキルについて。例えば、ユグドラシルでは料理を作るためには料理スキルが必要だった。

 僕は料理スキルを持っていない。が、肉を焼く程度なら現実世界と化した今ならできそうな気がする。

 そう思って、倒した大猪の肉を焼いて見たのだが、見事に失敗した。それも単なる失敗ではなく、肉を焼いている間の記憶が一切なく、気がつけば目の前に黒焦げの炭が出来上がっていた。おそらく現実世界になった今でも、ユグドラシル時代のシステム的に、スキルにある行動はそのスキルを持っていないとできないのだろう。

 

 スキルの検証が終わり、〈千の貌〉で人間へと擬態してしばらく休憩していたところ、不意に、後ろから粘つくようないやらしい視線を感じる。それにはわずかな殺気が混じり、ゆえに不快だった。

 

 気づかれぬようにちらりと後ろを見やると、そこにいたのは一匹のナーガ。

 

 枯れた老人のような上半身と、それにつながる巨大な蛇のような下半身を持つ、醜悪なモンスターだ。

 

 ナーガは不可視化を行えるようで、僕の看破技能が作動していた。看破技能がある故か気づかれぬと信じるように、ナーガは堂々とそこに佇み、こちらを見定めるような目で見つめていた。

 

 目的は不明だが、奴もモンスター。狩れば昇格の助けにはなるだろうが、すぐに襲いかかってはこなかったし、何をしにきたのかを聞いてからでもいいだろう。

 

 僕はスキルを発動させ、相手のレベルを確認する。結果はレベル30前後。多少強いが、雑魚だ。僕にとっては取るに足らない相手。

 

 僕は神速の踏み込みでもって反転し、背後にいるナーガめがけて高速で接近。間合いに入った瞬間に腕を振り上げ首を掴み上げた。

 

「ぐはっ!?」

 

 ナーガは苦しげなうめき声を上げる。勢いを殺したとはいえ、首を掴み上げられたのだ。当然と言える。

 

「何が目的だ?」

「ぐっ、馬鹿な人間め。このまま絞め殺してくれる!」

 

 ナーガは質問には答えず、蛇の下半身でもって僕に巻きつき、そのまま絞めようとしてくる。が、僕には全くもって効果がない。僕は拘束に対して完全耐性を持っているし、物理攻撃に対しても一定以下の攻撃を無効にするスキルを持っている。

 僕は巻きついてくる蛇の感触がただ不快であるのみで、苦痛は一切感じない。しかしこのままでは埒があかないのもたしかなので、暴力に訴えることにする。

 ぷにっと萌えさんも言っていた。『言うことを聞かせるために一発殴るのは悪くない』。

 

 僕はナーガの首を掴む手の力を強める。うめき声が上がり、拘束の力が一瞬緩む。その瞬間を見逃さず蛇のような下半身を振りほどき、そのままナーガの体を地面に叩きつけた。

 

「がはぁっ!?」

 

 苦悶の声が上がる。当然だ。首をつかんだまま地面に叩き伏せたゆえに、衝撃を逃がそうにも逃がせない。加減しているとはいえ80レベル相当の筋力で叩きつけたのだ。その衝撃は推して知るべし。

 

「もう一度言おう、何が目的だ?」

「言う! 言うからわしを殺すのは止めろ! おぬしは人間じゃろう! 森のバランスが壊れたら困ると思わないのか!」

「森のバランス? ふむ、それにも興味があるな。が、まずは最初の質問だ。目的はなんだ?」

「森を荒らし回っている何かがいるらしいというのがわかったゆえ、それの調査だ! おぬしがその原因かもしれんと思って観察しようとしていただけだ! お前に対する害意はない!」

「嘘だな。お前の視線にはわずかな殺気があった。残念だが、お前には死んでもらう」

 

 僕は首を持つ手に力を入れ、ギリギリとナーガの首を絞めた。

 ナーガは苦痛に喘ぎながら、必死に言葉を紡ぐ。

 

「まて、やめろ! 確かにわしはお前を殺そうとした! じゃがわしを殺すのは悪手じゃ! 今この森は三つの勢力によって維持されている。一つはこのわし、リュラリュース・スペニア・アイ・インダルンの勢力。もう一つは東の巨人、グの勢力。三つめは南の大魔獣の勢力じゃ! このバランスが崩れれば森は荒れる! 人間にも悪影響が出るぞ! じゃからわしを殺すな!」

 

 ナーガの命乞いは確かに理にかなっているが、しかし僕を殺そうとした罪は重い。

 たとえ結果的に僕を殺せなかったとはいえ、僕を殺そうとしたのだ。

 僕は死にたくない。一度死んだのだから、当然だ。あんなに辛く苦しい思いは二度としたくない。意識が闇へと消え、ボロボロと生命が剥離していくような感覚。

 死。

 何事よりも恐ろしい、死。

 この世界に僕を殺せるものはおそらくいないのだろう。だがそれでも、僕は死への恐怖を忘れられないのだ。

 

 故に、僕を殺そうとしたこいつは殺す。絶対に殺す。

 

 それに——

 僕はちらりとクトゥルフの落とし子を見る。

 森のバランスなら、クトゥルフの落とし子に維持させればいい。

 強さもナーガと近いし、ちょうどいいだろう。

 

 僕はナーガの首をへし折った。

 

***

 

 冒険者組合の大きな扉を開けて入ってきたのは一人の女だ。闇夜に紛れるような装束に包まれた体は女性らしい起伏に乏しいため、あるいは男なのかもしれなかったが。

 

 女のことを見つめる目は多い。多くの人間が彼女に釘付けだった。いや、正確には彼女の背負うものに、だが。

 それは老人のような上半身と、蛇のごとき下半身を持つ、異形の怪異だった。死してなおその姿は恐ろしく、いまにも動き出して自分たちを咬み殺すのではないかと錯覚させるほどだった。

 そしてその怪物を見た後に、多くの者は首からかけられている銅のプレートに目が行き、驚愕の声を漏らす。

 

「あいつは何者だ?」

「ほら、数日前の初心者宿での……」

「あの咆哮女か?」

「あの化け物か。とすればなんだか当然な気がしてくる」

「間違いなくオリハルコン、いやアダマンタイトまで上り詰めるかもな」

「しかしあの化け物はなんだ? 蛇人間?」

「とんでもない化け物だってことはわかる」

 

 畏怖と恐怖の入り混じった視線が、女に注がれる。

 ひそひそと話す冒険者たちを無視して、女は受付に向かう。

 彼女は懐から袋を取り出し、カウンターに置いた。

 受付嬢が恐る恐る袋の口を開くと、その中身は耳。パンパンになった袋には、ぎっしりと亜人系モンスターの耳が詰まっていた。

 

「ひぃっ」

 

 あふれんばかりに詰まった耳の量を見て、受付嬢はわずかに悲鳴をあげる。彼女にとって、女の背負う巨大な怪物よりも、大量の耳の方が恐ろしかった。彼女にとって怪物は見慣れぬ、ともすれば現実感のないものだが、普段見慣れている耳がぎっしり詰まった袋は恐怖を呼び起こすに足る現実感を携えていた。

 

「モンスターを殺してきた。清算を頼む。こっちの袋には亜人系の討伐証明部位が入っている。こっちのでかいのについては、どこが証明になるかわからなかったからまるまる持ってきた」

 

 そう言って、彼女は背負っている怪物を指す。

 受付嬢は慌てたように口を開く。そうしなければ殺されてしまうのではないかと思うほどに彼女は焦っていた。

 

「は、はい。ええと。こちらの袋には……うえっ。い、いえ、ええと、そうですね。数えるのに時間がかかりますので少々お待ちください。そちらの、その、大き方は査定にも時間がかかると思いますので、しばらくお時間をいただけますか?」

「構わない」

 

 女がそう言うと、受付嬢は奥に引っ込み、ゴブリンやオーガの耳を数えだす。「うそ、オーガの耳がこんなに!?」などの驚きの声が定期的に聞こえてくる。

 代わりに奥から従業員が数人出てきて、怪物の死体を回収する。ボソボソと、そのモンスターに対する恐怖をつぶやく従業員たち。

 

 しばらくすると、受付嬢が戻ってきて、組合の端で待っていた女に声をかけた。

 

「申し訳ありません。ゴブリンやオーガなどの清算は終わったのですが、大物の方の査定が終わらず……。明日まで待っていただけませんか?」

「査定というのはそんなに時間がかかるものなのか?」

「なにぶんあんな大物が持ち込まれたのは久しぶりのことで、こちらも報酬を決めかねているんです」

 

 困ったようにいう受付嬢。彼女は明らかに女に怯えていた。

 その怯えを無視したのか気づかなかったのか、女はぶっきらぼうに返答する。

 

「そうか、ならば仕方ない。おとなしく明日まで待つとしよう」

 

 女がそう言うと、受付嬢はほっとしたように息を吐いた。

 

 女は再び大きな扉を開けて、組合を出て行った。

 

***

 

 僕が街へ帰還し、ナーガとその他もろもろを組合へと持って行った翌日。ナーガの分の報酬をもらいに行った僕は、帰るときにはなぜか白金のプレートを下げていた。

 

 組合の人間曰く、本来ならあのナーガを狩った実力を鑑みればミスリル、もしかすればそれ以上にも匹敵するが、なにぶん今までの実績と信用がないため、急にそこまでのプレートを渡すことはできないとのことだった。

 

 うまくいけば鉄を飛ばして銀くらいにはなれるかな? くらいに思っていた僕からすれば、はっきり言って白金ですら少しもらいすぎな気がする。しかし、もらえるものはありがたくもらっておくことにした。

 

 都市で生活するにしても、銅のプレートをかけるのと白金のプレートをかけるのでは過ごしやすさが段違いだ。

 というわけで、首元に輝く白金に気分を良くしつつ、街を散策する。

 さて、今日は何をしようか。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。