月の魔物の伝説   作:愛崩兎

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第三話 冒険者登録と初仕事について

 馬車で移動しながら、ヒッテリカさんからこの辺りの常識を大方聞いた。

 

 得られた情報はかなり有用だった。

 

 まずは周辺地理。向かおうとしていた西の国がリ・エステーゼ王国。東の国がバハルス帝国。南の国がスレイン法国というらしい。特にスレイン法国は人間至上主義を掲げる宗教国家であるらしい。僕は一応スキルで人間にはなっているが、念のため行くのはやめておいたほうがいいだろう。

 そして、他には西の端にローブル聖王国。西北にアーグランド評議国。南東に竜王国があるという。

 特徴的なのは、スレイン法国以外のほとんどの国が、百年以下の歴史しか持たないらしい。百年前に魔神とやらが暴れたせいで、ほとんどの国が滅びたとか。今ある国のほとんどが新興国である。

 

 現在位置は、リ・エステーゼ王国の東端。国境付近である。

 現在位置的に、一番近いのは例のエ・ランテル都市であるらしい。

 この都市は城塞都市だ。ミ=ゴたちに観察させた際も、その防壁が目立っていた。国境の要らしく、それ故だろう。

 

 さらに、基本的な法や常識、金銭の価値や物価の相場など。抽象的な価値観であるためか、細かい齟齬はあったが、前の世界とかけ離れたような常識があったりはしなかった。

 しかし興味深いのが、どうやらこちらの世界には、少なくとも表立っては強者がいないらしいということ。魔法などは、第三位階が使えれば超一流らしい。ただ、百年近く前に活躍したと言われる十三英雄とやらは第七位階以上の魔法を使用したとも言われている。これは真偽が不明らしいが、一応警戒には値するだろう。他にも、帝国のフールーダ・パラダインという魔法使いは、第五位階魔法を使うらしい。これは第五位階程度なので、一応警戒はするがある程度無視しても良いだろう。

 他にも、武技とタレントについて。武技というのは、この世界独特の概念で、スキルとも魔法とも違う何からしい。戦士の使う技であり、身体能力をあげたり、技の威力をあげたり、一度に複数回攻撃したりなんてことを可能とするらしい。

 タレントも、この世界独自の概念。これは武技とは違い、完全にランダムなものらしい。生まれた時から持っている人は持っているし、持っていない人は持っていない。タレントには様々な能力があり、水に浮きやすい、嘘を見破る、魔法の習得が早くなる、など多岐にわたる。

 これらは確実に警戒するべきだろう。

 

 それと、特筆すべき職業として冒険者について。僕がその存在を聞かされた瞬間に脳裏をよぎったような冒険者、つまり遺跡探索や未知の冒険を生業とするものではなく、モンスター退治専門の傭兵のようなものらしい。

 しかし僕が職に就くとすれば、この冒険者が手っ取り早いだろう。

 冒険者ギルドに登録すれば、身分証明にもなるそうだ。

 

 そしてポーション。こっちの世界では色は青で、劣化するのが普通らしい。僕の持っている赤いポーションはおいそれと使わないように気をつけるべきだろう。

 

 また、宗教と伝説について。まずは六大神。王国や帝国では四大神らしいが、法国では六大神らしく、とりあえず多い方で考える。

 彼らは火水土風生死をそれぞれ司る神で、五百年前に滅亡の危機にあった人類を救った偉大な神らしい。だが、強大な力を持っていたというからには、ユグドラシルプレイヤーである可能性もある。もちろん本物のこの世界特有の神だったという可能性も高いが。

 この世界の主要宗教らしく、先ほども言ったように王国帝国は四大神を、法国は六大神を信仰しているようだ。

 そして次に先ほども出てきた十三英雄。百年近く前の出来事である彼らは、未だ一部が存命で、伝説と歴史の中間といったところか。

 六大神の配下だった魔神を何体も倒し、神竜と呼ばれる存在に戦いを挑んで負けたとも相打ちになったとも言われている。

 

 そんなことを聞きながら、休み休み馬車は走り、朝になる頃にエ・ランテルへたどり着いた。

 

***

 

 エ・ランテルは城塞都市であり、三重の防壁に囲まれている堅牢な都市だった。さすがは隣国との境目にある防衛の要となる都市であると言ったところか。

 

 外周部、一番目の防壁の内は、軍事設備。そのさらに内、二番目の防壁の内が市街。三番目の防壁の内が行政区。といった区分になっている。

 

 僕は市街まで来てから、ヒッテリカさんと別れた。

 その別れ際に、ヒッテリカさんから紹介状を渡された。もし自分の店に来た時は、これを渡してくれればすぐに会うとのことだった。

 それと一緒に、断りきれずに金銭も受け取ってしまった。中身を確かめてみたが、結構な額だった。

 

 そして、僕は冒険者として活動することにした。

 ヒッテリカさんから謝礼だと言ってある程度まとまった金銭を渡されたので、しばらく働かなくても十分生きていけそうだったが、しかし収入がないというのはなんだか落ち着かないのため、冒険者になるつもりだった。

 

 そんなわけで僕はエ・ランテルの冒険者組合で登録を済ませた。

 

 組合においては、一つ困ったのが文字が読めないことだ。言葉が自動翻訳されていたため、文字も当然そうなるだろうと思っていたが、文字に自動翻訳はかからないらしい。

 翻訳のモノクルを持っていて助かった。あれがなければ文盲として多大なハンデを負わざるをえなかっただろう。

 

 そして僕は晴れて銅のプレートの冒険者となった。が、しかしこのプレートは一番下の階級であることを表すプレートだ。

 早く上位のプレートを得たいものだ。

 そんな風に考えながら、僕はエ・ランテルの街を歩く。

 目的地の場所は頭に入っているが、何となくいろいろなものが見たくて街を見て回る。

 

 料理の屋台や、マジックアイテムの販売施設など、いろいろな場所を見て回る。

 特にマジックアイテムの類は込められた魔法は大したことはないが、大したことがないなりに工夫がしてあり面白い。

 

 書店に寄ったところ、十三英雄に関しての本が売っていたのでそれを買ってみたり、露店でちょっとした軽食をつまんだり。

 

 そんな風にあっちへふらふらこっちへふらふらしながら多大な時間をかけて目的地に着いた。

 

 目的地は宿。今夜の宿泊地である。

 古びた雰囲気のウェスタンドアを開け、僕は中に入った。

 

***

 

 ドアを開けて宿屋に入ってきたのは若い女だった。いや、女なのだろうか? 体格は華奢ではあるが、女性らしい起伏はない。長い髪をバッサリと切れば、中性的な男と言えそうだ。そんな性別不詳な彼女(?)ではあるが、しかし宿屋の中にいた人間は全員が女と思い込んでいたため、ここでは女と記す。

 彼女の顔は口布に覆われてなお美しく、この世のものならざる超常の美を感じさせた。

 

 ふわりと、何かの香りが漂う。それが何かはわからない。ただ、そう。強いて言うならば、月の香りがした。

 

 宿の中にいた全員が、その女に目を向ける。彼女は気にした風もなく、無愛想にカウンターの奥にいた宿屋の主人へと声をかける。

 

「部屋を借りたい。一泊だ。いくらだ?」

 

 惚けたように女に魅入っていた宿の主人が、はっと気を取り戻す。

 

「……相部屋で、一泊銅貨五枚。飯はパンと野菜。肉が欲しけりゃ追加で銅貨一枚だ」

「相部屋? ……一人部屋はないのか?」

 

 その言葉に宿の主人はわずかに不機嫌になる。

 

「個室なら一泊銅貨七枚。……だが、一つ教えてやろう。組合が今御用達にしている宿は四軒ある。その中でここは一番下だ。そしてここにいるのはお前のような駆け出しばかり。この意味がわかるな?」

「……僕に仲間を探せ、と?」

 

 その言葉に満足げに頷く宿の主人。

 

「そうだ、わかってるじゃねえか。相部屋だな。銅貨五枚だ」

 

 だが女はカウンターに銅貨を七枚おいて、冷たく返した。

 

「いや、個室で頼む。仲間は必要ない」

「お前、人の親切をなんだと……。まあいい。お前が早死にするのに俺は関係ない。好きにしろ。部屋は二階だ。上がってすぐの左手。しまうものがあるなら部屋に備え付けの宝箱を使え」

 

 そう言って店主は店の奥の左側を指した。そこには粗雑な階段があり、二階へと続いていた。

 

 女が階段に向かって歩を進めようとすると、それを邪魔するように一本の足が突き出された。

 その足の持ち主は、いかにも小物そうな、しかし体格はいい男だった。彼は黒い革の防具に身を包み、頭をスキンヘッドにしている。

 女は周囲を見渡すが、誰も、それこそ宿の主人すらも止めようとしない。その代わりに、何かを楽しむような、これから起こることへの期待がこもった視線が向けられる。

 

 女は一つため息をついて、その足を軽く蹴り払った。

 

 それを待っていたかのように、男が立ち上がる。その首には、鉄のプレートが揺れていた。

 スキンヘッドの男は、女の行く手を阻むように立った。

 

「おいおい、いてえじゃねぇかよ。人様の足に何してくれてるんだ?」

 

 男は威圧するように女を睨みながら、ドスをきかせた声を上げる。

 

 女は再び、今度は深くため息をついて、口を開いた。

 

「一つ忠告しよう。怖い目にあいたくなければそこをどけ」

 

 男はその言葉を無視して、女に下卑た目を向ける。

 

「はっ! 怖い目にあいたくなけりゃ? どんな怖い目にあわせてくれるのか楽しみだな!」

 

 肩をすくめる男。

 周囲から笑い声が沸き立つ。酔っ払いたち特有の下品な笑い声だった。

 男は続けて口を開く。

 

「こっちも一つ忠告だ。怖い目にあいたくなけりゃ今すぐ地面に這いつくばって「ごめんなさい」をするんだな。今ならあんたが一晩俺の相手をするだけで許してやるぜ?」

 

 ひひっ、と小さく笑い声をあげながら、地面を指す男。それに呼応するように、周囲から再び笑い声が響く。

 これからどうなるのかという期待に満ちた目が、二人に集中する。

 

 女はそれらを完全に無視して言った。

 

「忠告は、したぞ」

 

 女はそう言うと男の胸倉を掴み、ぐいと引き寄せた。額が触れそうになるほどに顔を近づけた女は、大きく口を開ける。

 

「なんだ、怖い目ってのはそれか? 威嚇のつもりならもうちょっと上手く——」

 

 男は最後まで言葉を続けることができなかった。

 その理由は——

 

 轟音。

 

 それは雷鳴のごとき爆音。深淵より響く、恐怖を呼び覚ます音色。

 女の喉の奥から、おぞましき獣の咆哮が放たれる。それは黒き獣の悲鳴。狂おしき背教者イジーに連なる業。

 

 つんざくような恐怖そのものである叫びが、人々を貫く。

 圧を持った爆音があたり一面に叩きつけられて、机や椅子が倒れ、人間が吹き飛ばされる。

 それは小規模な災害、現実に人間が起こしたとは疑わしい超常の現象。

 

 カウンターの中にいた主人のみが風圧から逃れて吹き飛ばず、だがその音波は耳に響いたのか、耳を押さえて脂汗をかきうずくまっている。

 

 小規模な爆発が起こったかのような爆心地で、しかしスキンヘッドの男は胸ぐらを掴まれていたため吹き飛ぶことができず、爆音をもろに浴びた。

 当然のように泡を吹いて気絶し、手足がだらりと垂れていた。

 

 女が胸ぐらを掴んでいた手を離すと、白目をむいている男は重力に引かれて床にどさりと落ちた。

 女はそれを一瞥すると、宿の主人のほうを向く。

 

「店主、これは迷惑料だ」

 

 数枚の金貨が、宿の主人に投げ渡される。それを慌てて受け取った主人は、しかし信じられないものを見るような目で女を見た。

 

 奴は本当に人間なのか? それこそは、その場にいた人間全員の偽らざる本音である。彼らには今や、女が人の形をした恐ろしき獣に見えていた。

 

 女はぐるりと周囲を見渡し、誰も何も言わないのを確認すると、足取り軽く階段を上っていった。

 

 女の体が見えなくなったその瞬間、吹き飛ばされた幾人かの股間から湯気がたった。

 彼らは恐怖からか、失禁していた。

 

***

 

 やってしまった。

 少し脅かしてやるだけのつもりが大惨事になった。

 

 宿の主人に教えてもらった部屋に入った僕は、頭を抱えていた。

 

 ユグドラシルにおいて、スキル〈獣の咆哮〉は、敵対者のみを吹き飛ばす、オブジェクトには判定のないスキルだった。

 

 相手にノックバックを与え、よほどレベル差があれば朦朧化も付与するスキルだったのだが、この世界では色々と法則が変わったらしく、オブジェクトにまで効果が及んでいた。その上、絡んできた男に至っては朦朧化どころか気絶していた。

 

 それだけでなく、効果範囲も広がっていたように思う。本来なら範囲外にいた宿の主人まで、耳を押さえてうずくまっていた。

 おそらく現実化したために、ノックバックの効果はなくとも轟音だけは響いてしまったのだろう。あれほどの音だ、多少離れていたとはいえ、耳が痛んだだろう。宿屋の主人には申し訳ないことをしてしまった。

 

 ああ、資金を大判振る舞いする羽目になった。というか迷惑料は金貨数枚でたりただろうか? 後で謝りに行くべきか? いや、それをすれば舐められるかもしれない。請求しに来られたら素直に支払うことにしよう。

 

 はあ、とにかく疲れた。肉体的な疲労は一切ないが、精神的にだ。

 

 僕は粗雑なベッドに倒れこんで眠ろうとして、しばらくして眠れないことに気づいた。

 僕のビルドはガチガチの攻撃型である故、属性に対する耐性は目覆うものだ。しかし、状態異常への耐性は強い。僕はほとんどの状態異常に完全耐性を持っていた。そのほとんどの中には、もちろん睡眠や疲労の耐性も含まれている。それゆえだろう、寝ようとしても眠気は一切襲ってこず、しかし肉体的疲労はない。自分が人外になったことを意識させられる。

 

 仕方なく僕は身を起こして、アイテムボックスから今日買った本を取り出した。

 

***

 

 翌日。

 

 僕は再び冒険者組合へとやってきた。

 昨日の散財があってなおしばらくは暮らしていける程度の金はあるが、しかし何もしないというのも落ち着かない。

 昨日のようなトラブルを減らすためにも、さっさと上位のプレートが欲しいところであるし、色々と仕事をこなしていこうと思う。

 

 僕はモノクルをかけ、張り出された羊皮紙に書かれている依頼を見ていく。

 

 銅のプレートが受けられるものは少ない。というかろくなものがない。仕方なく僕はトブの大森林にいき、モンスターを討伐することにした。

 

 トブの大森林というのは、転移早々の探索で見つけた、山脈の端から始まる大森林のことだ。

 ちなみにあの山脈の名前はアゼルリシア山脈。王国と帝国の自然国境である。

 

 そして、冒険者組合には、モンスターを討伐すると、その強さに応じて報奨金が入るというシステムがある。

 今回はそれを利用するつもりだ。基本は初心者らしくゴブリンを狙うが、見つけることができれば大物も倒したい。そちらの方が昇格もはやまるだろう。

 

 それから僕は一応ギルドの受付嬢に注意事項を聞いておこうと思い、受付に向かった。

 

「トブの大森林まで行って、モンスターを狩ってこようと思う。何か気をつけることはあるか?」

「そうですね、トブの大森林ですか。あなたは銅のプレートですし、森の中には入らないほうがよろしいかと。主な獲物はゴブリンになるでしょう。討伐証明部位は耳です。亜人系は基本的に耳ですね。報酬は一匹につき銀貨一枚です」

「わかった。ありがとう」

 

 僕は受付嬢に軽く頭を下げてから、組合を出た。

 

 

***

 

 そんなわけでやってきたのはトブの大森林。その西方。最初は転移で移動しようとしたのだが、それでは怪しまれる可能性があったので徒歩で来た。人の気配がなくなってからは80レベルに近い身体能力でちょっと早く走ったため、おそらく常人よりは早くついただろう。

 

 トブの大森林は天高く樹木が生い茂り、広がる枝が日を蝕んでいた。視界は悪く、ともすれば闇に飲み込まれているかのよう。

 

 しかしそれは人間にとっての話。僕の持つパッシブスキルにかかれば、その視界はいかなるものにも遮られず、世界の真実をありのままに受け入れることができる。

 暗闇など僕の視界を遮るには足らない。自慢ではないが、僕の看破技能は前衛職にすればかなり高い方だ。

 

 というわけで、暗闇を見通す目を持ってサクサクと森の奥へ入っていく。受付嬢に森に入るなと言われたが、そんなものは無視だ。とりあえずのところ、このトブの大森林には強者がいないことはわかっている。

 

 しばらく森を進んでいると、わらわらと人の子供くらいの大きさの、醜い人型の生き物の群れが現れた。

 

 それは土色の肌をしており、潰れた顔に平たい鼻を持つ。大きく裂けた口からは二本の牙が上向きに生え、頭からはボサボサの黒い髪が生えている。後げ茶色のぼろきれを服のようにまといなめした革を防具に、両手には棍棒と小盾をそれぞれ持っていた。

 

 その醜い生物の名はゴブリン。今回の狩の主な獲物である。

 

 僕の方を指差し、何事かを叫んだゴブリンたちは、一斉に襲いかかってくる。

 飛びかかってくるゴブリンの姿は一層醜く、僕に不快感を抱かせた。

 僕はそれを見て、獣肉断ちを変形させる。分厚い鉈としての形状から、広範囲を薙ぎはらうに適した重い鞭、あるいは蛇腹剣のような、複数に分かたれた刃を鎖で繋いだ異形の武器へと。

 

 ゴブリンたちが間合いに入ったのを確認した瞬間、轟音を立てて獣肉断ちを振るう。足を踏み込み、腰をひねって、全身を使い振るわれたそれは、音速を超えた超級の速度で獲物に飛びかかる獣のようにゴブリンたちへ食らいついた。

 ゴブリンたちにジャストミートする伸びきった獣肉断ちの刃たちは、与えられたエネルギーを余すところなくゴブリンに伝え——醜い小鬼たちを、さらに醜い肉塊へと変えた。

 

 爆発四散するゴブリンを見て、僕はあっけにとられた。ミンチになって仕舞えば、討伐証明部位も何もあったものではない。

 

 僕は近接火力寄りのビルドなだけあって筋力値などの物理ステータスはそれなりに高い。それが80レベルに弱体化したとはいえ、80レベルでも上位に入るだろう。そんな筋力によって全力で振るわれた獣肉断ちに、レベル10以下の雑魚が耐えろという方が無理だったようだ。念のため死体を探ってみたが、耳すら原型をとどめていない。

 そういえばあの時の盗賊たちも爆散してたな、なんて考えながら、耳を探すために死体に突っ込んでいた手を振って血を軽く落とした。

 

 つまり、今回の殺生は完全に無駄骨である。

 

 何やら申し訳ない気持ちになった僕は、元ゴブリンの肉塊をその場に放置して、とぼとぼと歩き去った。


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