私の宝物   作:御都合主義の狂信者

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今、毛布一枚で冬の寒さに耐えている今日このごろです。
最近、ハーメルンの他作者の小説を読んでいるのですが、夢中になりすぎて句読点が見えてない自分がいた。
これはいかんと思い文章の研究の為に、しばらく投稿を中断します。
次は何時になるか分かりませんが、必ず帰って来るつもりです。
それではまた。



第4話 ボッチと幼馴染み

「何時もすまないな」

 

「いえ、こういった経験が後に役立つ事も有りますから。むしろ勉強になります」

 

 朝のSHRが終わった後、私は平塚先生の雑用を手伝っていた。

 本来なら生徒である自分がするような仕事ではないのだが、奉仕部の部長という立場もあってか度々こういった教師の仕事を押し付けられたりするのだ。

 隣でタバコを吹かす平塚先生のいつも通りの言葉に返事をしながら、手元にある資料を先生の指示通り一つにまとめている。

 平塚先生は、何時も自身の仕事を手伝う私に多少の罪悪感を感じながらも、私の負担を減らすために作業に集中する。

 きちんと仕事の出来る女性はモテると言ってからか、最近は以前より私に仕事を振る頻度は大幅に減ってはいる。とは言え、教員から頼まれる仕事で平塚先生からの割合は意外と多かったりするのだが。

 

「なぁ折本…。比企谷をどう思う」

 

 奉仕部に入部したばかりの比企谷が心配なのか、平塚先生は椅子を動かして私に向き合うと彼の近況を問いかけてきた。

 

「ハッキリ言うなら自愛が欠落した極度の自己否定者。・・・良い意味では、頼まれた事を自身の出来る限りでベストを尽くすお人好しと言った所ですね」

 

 彼は自分を愛す事が出来ない。それ故に自己を肯定出来ないまま、本能的な意思を頑なに伏せる。言ってしまえば、理性と言う自身の殻に閉じ隠っている怪物、それが私が感じた比企谷八幡という人物である。

 

「ですが、彼は人間不信ではあってもボッチでは半人前ですね」

 

「ほう。何でそう思うのかね?」

 

 私はひとまず作業を片付けた所で、平塚先生に向き合いながらその問いに答える。平塚先生は私の回答を不審に思ったのか、眉を潜め怪訝な顔をする。

 

「簡単な事ですよ。彼はこの前由比ヶ浜さんの依頼の時に、自分のトラウマを語ると言う悪手の行動に出ています。これは本人には自覚は無いでしょうが、相手に同情を求め注目を求める結果でしかありません。つまり彼は無意識にも自身の肯定、すなわち救いを他者に求め、また救ってくれる者が現れる事を望んでいる。よって私から言わせればボッチとして半人前です」

 

 つまりこの作文は、言ってしまえば教員側に注目を集める結果しか産まない。ボッチでいようと思うなら、生徒だろうが教師だろうが何事も相手に目立つような行動はせず無難にこなすべき。波風立てず一人で過ごしたいというのなら、この作文の書き方は悪手でしかないのだ。その答えを聞いた平塚先生は私から視線を逸らし、何かを思案しながら新たにタバコを口にくわえ火をつける。

 

「あと、平塚先生。・・・・・・本当の狙いは雪乃さんでしょう」

 

 私は平塚先生に以前から抱いていた疑問を投げかける。平塚先生は図星を付かれたのか、そんな私に吃驚し、そのまま硬直してしまった。ある程度の予想をしていたが、先生のいかにもという態度で私の予想が確信に変る。

 

「・・・・・・本当に君の洞察力には驚かざるおえないな」

 

 平塚先生はため息を吐きながら椅子に深く腰掛けた。先生はそう言うが、私はこの、人の思考を無駄に見抜いてしまう洞察力のせいで、周りの人を信じる事が出来なくなっている。そう思うとこの洞察力は、私にとってはただ忌々しいだけの欠点でしか無い。

 そもそも人は否定から入る生き物だ。お互いの自己満足を嫌悪した挙句否定する。だから私は、自身の思っている事を真剣にぶつけながらも、あるがままを肯定し受け入れる存在が欲しかったのだ。たとえそれが、相手の自己満足だろうとなんだろうと。

 だが反対に、人は他人の意見を肯定する事は難しい。自分の価値観と違うものを否定し、排除する。自分に降りかかる火の粉という名の恐怖を取り除こうとするためだ。己を守ろうとする意志は、人間だけではなくどんな野生動物でも持つ生存本能であり、生物全ての基礎ともいえる自然の摂理でもある。故にあるがままを肯定し受け入れるなど、夢物語でしかない。

 しかし、相手と真剣に向き合う自身を肯定してくれる存在が居たとしたら、それこそが本物の関係と言えなくはないだろうか。だからこそかつて私は、ありもしない本物と言う幻想を何度も求めたのだ。だが、そんな私の願いは空しく、幾度となく裏切られ、今となっては人を信じる事を辞めてしまった。

 そんな八幡の行動は、まだ僅かにでも人を信じてた頃の自分を見るようだった。今では本物というモノが存在するのか甚だ疑問に思っているくらいだし、むしろ諦めてると言ってもいい。それに一応それなりに余裕があるとは言え、私には残りの時間が無い。だからだろう、私は・・・・・・

 

「本物になりたい・・・・・・」

 

「ん…。何か言ったか」

 

 私の誰にも理解されない心の苦しみが、かすれるような声として意図せず漏れてしまう。私が何か呟いていたのに気付き平塚先生が訪ねてくるが、この呟きは出来れば聞いて欲しくない。私はなんでもありませんと伝え、いつものように平静を装う。

 何故ならこれは私の我儘であり願望なのだ。だって私が本物になれたら、この世に本物が存在すると言う立証となる。

 そしたら私はあえなく本物を手に出来る訳である。まあその為には、私が本物となりたいと思える人物に遭遇しなければならない訳だが。

 ふとそんな事を考えていると私はある事に気付いた。

 

「いえ…。そういえばこの前の依頼の際に、彼と自然に握手を交わしたなと思いまして」

 

 私がそう口にすると、平塚先生は信じられない事を聞いたかのように驚き、そのまま立ち上がって私の肩を掴んだ。

 

「それは本当か!?折本!!」

 

 まあ先生がこうなるのは仕方がない事だろう。何故なら私は、とある事情で男性にトラウマが出来てしまい、触れる事が出来なくなっているのだから。幸い、総武高校の国際教養科の女子の比率が女子高レベルに高かい事を入学する前に知っていた事もあり、リハビリも兼ねて最低限でも近付いて会話する程度には回復している。それでも、触れようとすると未だに反射的に拒絶してしまうが。

 だがあの時、私は彼と自然に握手を交わしていた。私が黙ったまま平塚先生に頷くと、平塚先生は椅子に座り直しブツブツと一人でに呟きだし、私に顔を向ける。

 

「その話が確かなら、彼は君にとっての問題も解決出来るかもしれない……。やはり彼を入れたのは正解だったようだな」

 

 彼女はそう言うと、もう行って良いと私に告げた。

 それにしても比企谷八幡か……。私と同じ目をした同胞。確か二年F組だったかな。あぁ、そう言えばあのクラスには彼女がいたな。最近は話もしていないし、一度挨拶位はしとくべきだろう。

 それから昼休み、私は二年F組の教室に足を運ぶ。そして入口の辺りで話し声が聞こえたので、一旦その場に立ち止まった。

 

「あのさぁ結衣、最近付き合い悪くない? この前も放課後バックれたじゃん」

 

「え、えっと。それはやむにやまれない事情があるといいますか」

 

 はぁ…。あの馬鹿は、短気な所が本当に悪い癖だと思わざるをえないな。私は、幼馴染みと結衣の一方的な会話とも言えない言葉を聞いて頭を抱える。

 

「それじゃわかんないから、ハッキリ言いたいことあったらいいなよ。隠し事とかよくなくない?」

 

 幼馴染みの馬鹿がそう言った後、誰かが席を立ったがすぐに着席したであろう音が聞こえた。私はその勇者に賞賛を送りながらも、あの馬鹿に今度説教する必要があると確信する。そして私はそのまま教室の中に入った。教室に入ると周囲からの注目の視線が私に突き刺さる。相変わらずこういった好奇な視線は慣れないものだ。

 

「よっ優美子、久しぶり」

 

 私の幼馴染みである三浦(ミウラ) 優美子(ユミコ)に目一杯の笑顔で挨拶する。言っておくがこれは友好的な笑顔じゃ無い。むしろ敵対的な笑顔だ。

 

「えっ、あぁ…。トメッチも久しぶりじゃん」

 

 ふっふっふ、優美子の事は幼馴染みだけあってそれなりには把握してるのだよ。どうしたの、私から視線を逸らすなんて。本当に可愛いんだから。

 

「優美子…。私前にも威圧的な態度はイケナイって言ったよね……」

 

「うっ…。あっ、あのさぁ」

 

「今度説教な・・・・・・」

 

 私は優美子に死刑宣告をすると、今まで放っていた殺気を収める。優美子は私の死刑宣告を受けて肩を落とす。立っていたら膝を付いていたのではないだろうか。

 

「あとさ結衣、雪乃と弁当を一緒に食べる約束してんでしょ。早く行きなよ」

 

 私は結依の背中を一押しするためにそう言うと、そのままクールに去る。だが入口を出る前に、一先ず立ち止まり優美子の方に振り向く。

 

「あ、そうそう優美子。ちゃんと大人しく結衣の話し聞いてやらないと、後でどうなるか分かってるよね」

 

 まあ、これくらい言っておけば優美子も流石に大人しくなるだろう。後は由比ヶ浜次第だな。

 

「オリモンありがとう」

 

 最後にそんな声が聞こえたが、私はそのまま教室を出て行く。てかオリモンって私の事なのか。……あまり考えないようにしよう。頭が痛くなりそうだしな。

 だが一応、優美子がちゃんと話しを聞けてるか外で聞き耳を立てながら、確認だけはしてはおくとしよう。そう思い入口を出るとそこには雪乃がいた。

 

「来てたのか」

 

「えぇ。あまりにも遅いものだから気になってね」

 

 相変わらず彼女は素直じゃないな。本当は幼いだけに寂しがり屋の癖して、意地っ張りなんだから。私はそんな雪乃を見て、自然と笑顔になる。

 

「ん。お前らいたの」

 

 そして気まずくなったのか教室内の生徒が一斉に出て行く。どうやら八幡も教室から出てきたようで、私達に話しかけてきた。

 

「しかし…。お前、あの獄炎の女王様を大人しくしちまうなんて。本当になにもんなの?」

 

「あいつとは幼稚園から小学校までの腐れ縁だ。まあ中学は別々だったが……。それに私としては、昔は私の家のハムスターを見てはしゃいだりディスティニーランドのパンさん見て無邪気に笑う、あいつの可愛い過去を本当は語りたかったまでもあるんだがな」

 

 私がそう言うと何故か八幡は顔を引き攣らせ苦笑いを浮かべる。雪乃なんかは眉間を指で摘み顔を顰めている。そうなる理由も分からなくは無いため、気にしない事にする。

 

「お前結構えげつないな」

 

「別に私は何時もあるがままに振舞っているだけだ……」

 

 そう私はあるがままに振る舞う。何故ならそれは私が求め諦めたもの私の理想像だからだ。

 

「……。私は本物になりたいからな………」

 

 そして八幡達から視線を逸らしながら小声で呟いた。小さな声ではあったから聞こえてはいないだろう。いや聞こえてない事を願いたい。

 それにしても、最近の私は何かしらと調子が悪い。なんというかフワフワするようなくすぐったいような感覚だ。恐らく私は今とても楽しいと思っている。それは今まで私が知りえなかった感覚だ。そんな感覚を私が感じるとは思っていなかったが、これも雪乃や八幡、そして由比ヶ浜に出会ったおかげなのだろうか。だとしたら私はこれからも奉仕部の部長として頑張って行こう。未来のある彼等のために………。

 

「そう……。それより折本さん、そのディスティニーランドでの話、詳しく聞きたいのだけれども。あと、そ、そのハムスターの写真とか、あったりするかしら?」

 

 私はすぐに肩を落とし額に片手を当てる。そう言えば童心の心を忘れていない子が、ここに一人いたのを失念していたよ。おっと、話に夢中で優美子と結衣の会話を聞き逃す所だった。

 

「ふーん…、そう……。別にいいんじゃない…」

 

 ふむ、どうやらちゃんと打ち解けたようだな。優美子への説教は取り消さないがな。さて、もう安心のようだし立ち去るとしよう。あぁそうだ、雪乃と八幡には忠告だけはしておこう。

 

「雪乃…八幡よ、そろそろこの場から立ち去った方が良いぞ」

 

「えぇ、そうね」

 

「えっ…、ちょっ!?」

 

 どうやら雪乃は初めから気付いていたようですぐに返事を返し、私と雪乃はそのまま立ち去る。

 そして八幡が由比ヶ浜からの、照れ隠しの罵倒を受けているのを耳にしながら、私はベストプレイスへと向かうのだった。




 良くお前の話し方、主語が抜けてると身内に言われる事があります。
 言葉足らずですみません。小説の1部内容を変更させていただきました。
 後タグに自己解釈を追加させて貰いましたごめんなさい。

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