綺羅ツバサの弟   作:しろねぎ

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そんな!僕の両親は生け贄ですか!?


歌と反省文

俺は高坂に呼び出されて学校の屋上へ来た。既に園田と南と高坂はノートパソコンの前に陣取っていた。そしてパソコンの隣にはCDケース。どうやら西木野が作曲してくれたみたいだな。後でお礼でもしておこう。

 

「あっ!ツカサ君!早く早く!朝このCDが郵便受けに入ってたみたいなの!宛名がμ'sだから、もしかするともしかするよ!」

 

「落ち着いて穂乃果ちゃん。逸る気持ちは分かるけど急かしちゃ駄目だよ」

 

「そ、そうですよ穂乃果、お、落ち着かないと」

 

南と園田が高坂を宥める。しかし園田が一番動揺している気がするのは気のせいでは無いだろう。

 

「嬉しい気持ちも分かるがディスクが裏表反対だ。再生出来んぞ」

 

「あっ!本当だ!」

 

慌てて高坂がディスクを入れ直す。

 

「それじゃあ、再生するよ?」

 

俺達は黙って頷く。それを確認して高坂が再生ボタンをクリックした。クリックすると同時にピアノの音と歌声が流れる。西木野の声だ。

 

「この声って…」

 

高坂が呟いた。

 

「ちゃんと歌になってる…!」

 

「これが私達の歌…」

 

南と園田も感動した様に声を出した。確かにこの短期間でここまでの物を作るとは思わなかった。歌を聞いていると、お知らせ音が鳴る。

 

「ランクが上がった!」

 

「票が…入った!」

 

映し出されるのは“ランク999”の文字。下のお祝いコメントの顔文字にイラついたのは内緒だ。

 

「練習しよう!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

高坂が立ち上がり、それに二人が答えた。やる気は充分だな。しかし…

 

「このノートパソコンは高坂の私物か?」

 

「そうだよ!家から持ってきたの!」

 

やはりか。それは残念な事を知らせなければならない。

 

「まだ俺達は部活じゃないからパソコンを持ってくるのは校則違反だ。没収は無いにしろ反省文は書けよ?」

 

「えっ!?そこは見逃してくれないの!?やる気充分のこの空気で!?」

 

「それはそれだ。それに俺に見逃す権限はない」

 

高坂は絶望に染まった表情をした。

 

☆☆☆☆

 

「学校にノートパソコンを…ね?」

 

反省文を生徒会室に持ってきた俺達。担任の山田先生に持っていったら『生徒会長に承認印を貰って来い』と言われた。普段はそんなのを後回しにする癖に、あの先生ニヤニヤ笑ってたから確信犯だろうな。

 

「すみませんでした!」

 

絢瀬会長に頭を下げる高坂。それを見て絢瀬会長は俺に視線を向けた。

 

「てっきり貴方は見逃すと思っていたわ。パソコンを持ってきた理由も反省文を読む限りはスクールアイドルの為みたいだし」

 

「校則は守らせますよ。“学校を守る為”にやっている活動なのに校則を破らせる訳にはいかないでしょう?」

 

睨み付ける絢瀬会長を正面から見据える。“学校を守る為”と言った瞬間に絢瀬会長の視線が鋭くなった。

 

「それは嫌味かしら?随分と言うようになったわね?」

 

「嫌味だなんてとんでもない。ただ事実を述べただけですよ?」

 

睨み合う俺達の空気に耐えかねたのか、高坂が声を出した。

 

「あのぅ…反省文に不備が無いなら帰っても大丈夫ですか?」

 

「………ええ。不備は無いから帰っても良いわよ。誤字は所々あるけれど」

 

「そ、それじゃあ失礼します…ツカサ君、今日も神田明神で練習してるから生徒会が終わって来れたら来てね?」

 

そう言い残して高坂は生徒会室を後にした。

 

「………」

 

沈黙が流れる。とりあえず仕事にかかろう。そう思いファイルに手を伸ばそうとすると、ファイルを絢瀬会長が持って行った。

 

「えぇ…」

 

「エリチ…それは流石に…」

 

「何よ希」

 

明らかに嫌がらせだと分かる行動に俺も副会長も困惑している。しかし絢瀬会長は悪びれる様子は無い。だが前回のやり取りで分かったがこの人は案外間が抜けている。つまり…

 

「一人で持てるファイルの数には限度があるでしょうに…」

 

とりあえず近くのファイルを取ろうとすれば全部絢瀬会長が自分の手元に持っていこうとする。なら手当たり次にファイルを手に取り絢瀬会長の机を一杯にするだけだった。

 

「くっ…姑息な手を…」

 

「今回ばかりは姑息なのはエリチやと思うで」

 

「悔しいでしょうねぇ…と言うよりか一人でそれだけのファイルを処理するつもりですか?」

 

案の定と言うかファイルが山積みになっている絢瀬会長の机。もうファイルで絢瀬会長の姿が隠れている。

 

「一人で出来るわよこれくらい!」

 

「ファイルのせいで姿が見えないからファイルが喋ってるみたいになってますけど」

 

「流石に意地を張るのはやめへん?ファイルの化身になっとるで?」

 

「………」

 

流石に無理だと判断したのか無言で俺にファイルを渡してくる。

 

「……何よ?」

 

「普段から人に頼れば良いのにと思っただけですよ」

 

「ツカサ君はバッサリと言うなぁ」

 

「そうですかね?」

 

「………」

 

結局その後、会話はとくに無く作業は進んだ。しかし作業量が多く夕方までかかった。

 

☆☆☆☆

 

帰る支度をしていると絢瀬会長に声を掛けられた。

 

「……ねぇ?私が人に頼ってないってどういう意味?」

 

「そのままの意味ですけど?質問を質問で返す様で申し訳ないんですが、どうして絢瀬会長は廃校を阻止したいんですか?」

 

「そんなの生徒会長だからに決まってるじゃない。学校の為に動くのは当然の“義務”よ」

 

やっぱり義務感で動いているのか。理事長も認めない訳だ。義務感で動く生徒会は理事長の望む生徒会では無いのだろう。

 

「理事長は義務感で廃校を阻止しようとして欲しくはないんですよ」

 

「じゃあ何でスクールアイドルの活動は認めてるのよ!?」

 

「それは“廃校を阻止したいからやっている”そして尚且つ“自分がやりたいからやっている”事ですからね。まぁ理事長は後者の理由を一番大事にして欲しいみたいですが」

 

絢瀬会長は納得していない表情だった。

 

「そんなの…やりたい事でどうにかなるなら苦労しないわよ!世の中そんなに甘くは無いのよ!?」

 

「世の中そんなに甘くは無い…それは知ってますよ。でもそれを理由に諦める事は高坂達は…“μ's”は絶対にしませんよ。講堂でのライブは恐らく失敗すると思います。でも、それで諦めるとは思いません」

 

「っ…そんな事!」

 

絢瀬会長が何かを言い出す寸前に生徒会室の扉が開いた。入って来たのは山田先生だった。

 

「お前ら青春するのは構わんが下校時刻だ。とっとと帰れよ?」

 

山田先生の言葉を聞いて副会長が絢瀬会長の肩に手を置く。

 

「エリチ帰ろう。ツカサ君も遅くまでありがとうな?」

 

「いえ、会長も副会長も気をつけて帰って下さい」

 

「………」

 

無言で会長は生徒会室を後にした。その後を副会長は追っていき、生徒会室には俺と山田先生だけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?なんだ?先生に告白す「本当に申し訳ない」」

 

とりあえず帰ろう。




本当に申し訳ない

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