綺羅ツバサの弟   作:しろねぎ

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グループ名は…そして作曲のお願いっ!

家でのパジャマパーティーが開催された翌日の放課後、高坂が嬉しそうにはしゃいでいた。昼間は静かだったのに情緒不安定か。

 

「グループ名募集の紙が1枚入ってたよツカサ君!」

 

どうやら誰かがグループ名を考えてくれたらしい。余程嬉しかったのか高坂は跳ね回っている。小動物か。

 

「それは良かったな。情緒不安定系小動物の高坂」

 

「なにそれ可愛いけど怖いよツカサ君!?」

 

「今の呼び方で可愛いと感じる部分があるのか…」

 

正直そんな返しを予想してなかった。もしやと思い園田と南を見てみると苦笑いしているだけだった。薄々思っていたが高坂の感性はどうやら独創的な様だ。それは確かに作詞も衣装も任せられないな。

 

「と、兎に角見てみよう!」

 

誤魔化す様に紙を開く高坂。紙に書かれていたグループ名は…

 

“μ's”

 

「ユーズ?」

 

高坂が小首を傾げて読み上げるが、直ぐに園田が読み間違いを訂正する。

 

「この場合はミューズではないでしょうか?」

 

予想が出来た。よし。

 

「次に高坂は『ミューズ?ああ!石鹸の?』と言う」

 

「ミューズ?ああ!石鹸の?……ハッ!?」

 

俺の予想が見事に当たり驚く高坂。

 

「一言一句違わずに…ツカサ君はもしかしてエスパー!?」

 

「何故お前は予想外な行動ばかりする癖にこう言う思考は単調なんだよ…」

 

「アハハ…それが穂乃果ちゃんの良い所だよ。自分に正直だから」

 

「良くも悪くも、ですけどね」

 

園田と南がフォローに入るが当の本人は『えへへ』と笑っているだけだった。

 

「で、ミューズって?石鹸じゃなきゃ何なの?」

 

「恐らく神話に登場する女神から取ったかと」

 

園田が高坂に説明する。しかしμ'sとなると女神の人数は9人の筈だが…

 

「μ's!私は良いと思うな!」

 

「うん!私もそう思う!よーしっ!今日から私達は“μ's”だ!」

 

どうやらグループ名は決定した様だ。まぁ、人数なんて神話から取った訳だしあやふやでも大丈夫だよな。

 

「よし!この勢いでもう一度作曲も頼んでみる!」

 

そう言って高坂は教室を飛び出して行った。

 

「ツカサ…ついて行きましょう。穂乃果だけでは心配です」

 

「そうだな。少し様子を見るか」

 

「多分1年生の教室だよね?行こう!」

 

「いや、多分西木野は音楽室だ」

 

1年の教室に行こうとした南と園田を引き留めて音楽室へと向かう。

 

「どうしてツカサが西木野さんの居場所を知っているのですか?」

 

「本人から聞いた。休み時間は図書室で放課後の少しの間は音楽室で過ごすらしい。ノートとか貸す時に居場所とかが分からないと二度手間だからな」

 

「ツカサくんは成績良いもんね。西木野さんは勉強熱心なんだ」

 

「西木野は医学部を目指してるからな」

 

そんな話をしていると音楽室に到着した。中を覗いて見ると西木野が腕立て伏せをしながら歪な笑みを浮かべていた。何をやってるんだ?

 

そんな西木野は俺に気が付いたのか顔を真っ赤にしている。

 

「お前達は何をやってるんだ?」

 

「アイドルが如何に大変で、どれだけ楽しい物かを教えてたんだよ!」

 

「穂乃果…駄目ですよ、いきなり腕立てしながらの笑顔をやらせるなんて」

 

「成る程、そう言う訓練な訳だ。確かに腕立て伏せしながら笑顔が作れるくらいじゃないとアイドルは無理だな」

 

確かにアイドルは体力が必要だ。踊って歌って笑顔を作る。

 

「兎に角!西木野さん!読んでくれるだけでも良いからお願い!」

 

「何で今の流れでそうなるのよ!?意味わかんない!」

 

「えー!?そこは分かろうよ!通じ合おうよ!」

 

「……私が行くね」

 

高坂と西木野が騒いでいると南が西木野に近付く。果たして南の“アレ”は西木野に通じるのだろうか?いや、園田には効果が高いし似た様なタイプの西木野にも効果は多分あるだろう。南は準備の為に呼吸を整えている。

 

「ちょっと…何をするつもり?」

 

南の尋常ではない気配を感じて音楽室の隅へと逃げる西木野。何故隅へと行くのか。逃げ場が無くなるだけなのに。そして完全に準備が整った南が西木野に最大の威力で奥義を放つ!

 

「西木野……お願いっ!作曲してっ!」

 

南の潤んだ瞳、親にすがる様な透き通った声、この通称“懇願の雛鳥”を食らった西木野はどうなるのか。

 

「グハッ…」

 

懇願の雛鳥の余波で園田が倒れた。駄目だコイツ。そして肝心の西木野は固まっている。余波で園田が倒れるレベルなら真正面に受けた西木野は無事では無いだろう。

 

「あ、う、ああ、よ、読むだけなら……ハッ!?だ、ダメよ!?」

 

「意外と持ちこたえたな。いや、思考が追い付いて無いだけか。断った後に冷静になって後悔するヤツだな」

 

「ことりちゃんのお願いでも駄目だなんて…ツカサ君は何か秘策は無いの?」

 

「南の行動は西木野にかなりのダメージを与えたのは確かだな。そうだな…物は試しでやってみるか。今なら冷静に判断も出来ないだろうから出来るゴリ押しになるが」

 

未だに軽いパニック状態になっている西木野に近付く俺。既に西木野は涙目で罪悪感があるが仕方無い。

 

「西木野…頼むよ、今回だけで構わない。お前が欲しい」

 

「なっ!ななっ!?」

 

「おーっ!あれは所謂“壁ドン”だね!そのまま押しきれるかツカサ選手!?」

 

「穂乃果ちゃん真面目にやろうよ…」

 

少しの間、時が止まったかの様に静かになる音楽室。頼むから誰かリアクションを取ってくれ。超恥ずかしいから。そんな俺の願いが通じたのか静寂を破ったのは西木野だった。

 

「よ、読むだけだからね!っ~!」

 

「わっ!?」

 

高坂から詞をひったくり音楽室から逃げる様に出ていく西木野。暫く俺達は呆気にとられていた。

 

「か、勝ったよ!第3部完!ってやつだよ!」

 

「良かったね穂乃果ちゃん!」

 

「俺は何か大切な物を失った気がする」

 

とりあえず作曲もどうにかなりそうだ。グループ名も決まったし、後は…

 

「初ライブをどうするか、だな。絢瀬会長をどうにか説得しないとな」

 

高坂と南は練習の為に屋上へ。俺は生徒会へと向かった。園田?園田は…

 

「 」

 

未だに音楽室で倒れている。


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