綺羅ツバサの弟   作:しろねぎ

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難産過ぎた。お待たせしました!


しがらみと気持ち。

μ'sを辞める。そう言ってすぐに私は屋上を後にした。逃げたんだ。私は。

 

そして逃げた先は家の近くの小さな公園だった。そう言えば先輩に初めて会ったのもこの公園だった。

 

「あの時もパパと喧嘩して家を飛び出して、ここに来たんだっけ……」

 

ベンチに腰を下ろして先輩との出会いを思い出した。

 

「このベンチに先輩が先に座ってて、私が先輩の隣に座ったのよね」

 

あの時は確か中学3年生になったばかりの頃だったわね。パパが勝手に進学先を音ノ木坂に決めて、私が怒ったのが喧嘩した原因。今は音ノ木坂に入った事を後悔はしてないけど、その頃は話題のUTXに入りたかったし……そんな事を考えていたら、不意に声をかけられた。パパの次に聞き慣れた男の人の声。

 

「やっぱりここに居たか。お前と初めて会ったのもここだったな」

「先輩……」

「どうせ父親にμ'sを辞めるように言われたんだろ?」

 

私は先輩の言葉に小さく頷いた。それを見ると先輩が私の隣に腰を下ろした。

 

「さて、先に言っておくが、お前の父親に対して直談判とかには行かないからな?高坂達は知らんが俺は行かないと断言する」

「べ、別にそんなの期待してないわよ!」

 

いきなり何を言い出すのよ!?この鈍感男は!?

 

「μ'sに強引に誘った手前アレなんだが、俺は今回の件はお前にとってはチャンスかもしれないと思っている」

「チャンス?何でよ?」

「μ'sを辞めて勉強に集中出来るだろ?」

「ッ!?」

 

何それ!私が辞めても先輩は何にも思わない訳!?

 

「そう怖い顔をするな。別にお前にμ'sを辞めて欲しい訳じゃない。ただ、高校1年生は勉強の基礎を築く上では疎かには出来ない時期なのは事実、況してやお前が目指すのは医学部だ」

「それは……」

 

言い返せなかった。実際パパにもそうやって言われて喧嘩になった。やっぱりパパや先輩の言っている事は正しいと理解してしまう。

 

「でもな、そう頭では理解できてるんだが……辞めるチャンスだと思ってるんだが、お前にμ'sを辞めろとは言えない」

「何で?」

「お前の歌声とピアノが好きだからだ。限り無く自分勝手な考えではあるんだが、μ'sで歌っている、μ'sでピアノを弾いているお前を気に入ったんだよ。ファンになったと言った方が良いかもな」

「そ、そんな素振り一切見せなかったじゃない!」

 

突然の先輩の告白に顔が熱くなるのが分かる。

 

「そりゃ気付いたのつい最近だしな。μ'sで推すなら誰だろうなって考えたら西木野か絵里さんだった」

「……何で生徒会長が出てくるのよ」

 

熱かった顔がすぐに涼しくなったわ。コイツ本当に鈍感と言うか、ムカツクわね。

 

「歌で言ったら圧倒的に西木野なんだが、ダンスで行くと絵里さんに軍配が上がる訳だしな。ただ、贔屓目で見ると若干西木野の方が俺の中でポイント高いんだよ」

「ふーん。若干ね」

「やぶ蛇っぽいから話を戻すが結局の所、お前自身が決めないといけないんだよ。お前が父親大好きな奴なのは知ってるが、父親の為だけに生きてる訳じゃないだろう?」

「当たり前よ!私をファザコンか何かと思ってる訳!?」

 

医者になるのだってパパに言われたってだけで決めた訳じゃないんだから!私自身も医者に憧れが有ったんだもの!

 

「ファザコンだろ?父親の姿に憧れて、それが夢になった。更には今回の喧嘩の原因、自分の為に言ってくれたって事は分かってるんだろ?喧嘩しても父親の事を考えている証拠だ。何よりお前の話を聞くと父親の話ばかりするし、反抗期すら無さそうだしな。父親大好きオーラ丸出しじゃねぇか」

「五月蝿いわね正論シスコン!」

「正直に言って周りと感性がズレてるせいでツバサに対して上手く会話出来てるかすら怪しいんだが。弟の俺から見てもたまに底が見えんからな」

 

考えてみたら先輩と綺羅ツバサの家での会話って想像できないわね。

 

「普段どんな会話してるの?」

「飯をどうするかとか、A-RISEのメンバーが今日どうだったかとかだな」

「先輩から話題は振らないの?」

「振る話題が無い。μ'sの事を話すと目の色を変えるから話さないようにしてるしな」

 

綺羅ツバサがμ'sにライバル意識でも持っていると言うのかしら?いや、自分の弟の関わってるスクールアイドルなら気になって当然かも知れないわね。……もしかしたら先輩じゃなくて綺羅ツバサがブラコンかもしれない。

 

「話がまた逸れたから戻すが、まぁアレだ、どっちかって言うと俺はお前にμ'sを辞めて欲しくは無いな。でも人生も左右する事でもあるから、良く考えて答えを出せ。お前が決めた事ならどちらでも俺は応援する。あと、お前の答えが親の意に添うかたちであっても、どうしてその答えに行き着いたのかは親に話せ。それが大事だと思う。親の意に添わなかった場合は言わずもがな。さて、俺はそろそろ帰るかな。結局お前を追い掛けて練習サボる形になっちまったが」

 

先輩はそう言うとベンチから腰を上げて私を見た。

 

「たまには素直になれよ、お姫様」

「あら、素直じゃないのは貴方じゃないの?召し使い?」

「うわっ、召し使いかよ。そこは王子様だろ?」

「王子様になりたかったら、もう少し女心を理解しなさい」

 

最大限の皮肉、理解できるかしら?多分無理よね。この鈍感男は。

 

「頑張って精進しますよ」

「宜しい!……ありがとね、先輩」

「どういたしまして」

 

そう言って私達は公園を出た。頑張ってパパを説得しなきゃ!

 

☆☆☆☆

 

西木野と別れてからさっき言われた事を思い返す。

 

「女心……分かってるつもりなんだがな。西木野の気持ちも、絵里さんの気持ちも」

 

まぁ気付いてないフリをしているのは俺なんだけどな。

 

「性格悪いな俺って。まぁコレが俺の勘違いで2人とも俺の事を何とも思ってなかったら恥ずかしくて俺が死ねるが」

 

そんな現実逃避の呟きは誰の耳にも届かなかった。




ここから重い話しにはなりません(断言)

重い話しは読むのは好きですが、作者の技量では中途半端になるので書きません。かといって軽い話を上手く書けているかと言うと書けてない気がする。アレ?私は一体何を書いているんだ?(混乱)

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